2章 第3話:騎士の日常
姫騎士と騎士王のキャラを立てるために何度か書き直していたりする。
ただ、物語的には蛇足感が否めない話
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イーストエンドポイント トイナ騎士国
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トイナ城にある屋内の訓練場で金属がぶつかる音が響き渡っている。
壁際には模造品のロングソードやツーハンドソード等を置く台が置かれており、
中央で模擬戦を行ったりするには十分なスペースが確保されている。
金属音が鳴り止むと剣先を突きつけられている側の騎士がうなだれた。
「こ、降参です。流石はレイディアナ様、お強いですね」
姫騎士は降参の合図を聞くと剣を引いて鞘に収める。
「お前達、ここの所少し弛んでいるでいるのではないか。そんな様では明日の獣人要塞への遠征で大怪我をしても知らないぞ」
「はは、面目ございません。この次はレイディアナ様に負けませんよう精進します」
敗北した騎士は苦笑しつつ軽く一礼して下がる。
模擬戦を見学している他の騎士達もばつが悪そうにしている。
皆、模擬戦で姫騎士に敗北した後なのであった。
模擬戦もお開きになろうかというその時、
騎士王がゆっくりと拍手しながら訓練所に踏み入れていた。
その気配に気づくや否や、すぐに騎士達は背筋を伸ばして王に対して向き直る。
「おっと、私は遠征に備えて鈍った体を動かしにきただけだ。皆もそんなに畏まる必要はないので楽にしていてくれ」
騎士達はちょっと体を楽にしたのだった。
「エルンストお父様も訓練をしにきたのですか」
「そうだ、先ほどの模擬戦の一部を見ていたのだが、しばらく見ないうちに大分腕を上げてきているようだな。レイディアナ」
「はい!お父様に追いつけるよう日々訓練しておりますので」
騎士王に褒められて姫騎士は一瞬破顔するが、すぐにまた顔を引き締めた。
彼女は尊敬する父のようになりたいと思い、この道を志したのである。
騎士として頂点に立つ王に褒められるというのは彼女にとっては名誉なのだ。
「ふむ、その様子では模擬戦の相手に困っているのだろう。どれ、一度手合わせでもしてみるか」
「はい、お願いします」
騎士王は台座から模造品のブロードソードを抜き取ると、
中央に移動して姫騎士に向き直る。
構えはとらず、ブロードソードの剣先は地面を向いていた。
「さぁ、レイディアナよ、どこからでもかかってくるがよい」
エルンストから先手は譲られる事になった。
姫騎士は明らかに侮られている事に少々の憤りを覚え、
ロングソードの持ち手を強く握り締め、きっと騎士王を見据える。
「その余裕、後で後悔しないでくださいね。いきます!お父様」
姫騎士は一度深呼吸をすると騎士王に駆け寄り、一見隙だらけの左胴体を切り払う。
しかし、騎士王は体裁きで軸をずらして最小の動きで剣を受けた。
すかさず姫騎士は逆側から切り払ったが、今度は剣に対して打ち込まれる。
「くっ」
強い力で打ち込まれたために、姫騎士は剣を弾かれそうになって少し体勢を崩す。
一瞬隙を晒してしまった姫騎士は焦り、すぐに騎士王から距離をとろうとする。
それを騎士王は追撃せず黙って見送った。
「先ほどの威勢はどうした。敵はこのようには待ってはくれぬぞ」
「ま、まだまだ!」
一時で、自分と騎士王との間に実力差が相当あることを痛感させられた。
訓練ではあるが、全力の攻撃でなければ騎士王には届かないと確信する。
姫騎士は一息呼吸をして覚悟を決めると、また騎士王に対して切りかかる。
「ハァ!」
姫騎士は斜め上段から袈裟切りにしようとするが、
素早い体重移動とスウェイで騎士王に攻撃を躱される。
即座に追撃の突きを繰り出すも軸をずらして躱されると同時に腕を掴まれる。
「甘いぞ」
すっかり伸びきった体勢で騎士王から掌打を受ける。
「カハッ」
姫騎士は衝撃のままよろめきながら後ろに下がる。
その様子を騎士王は追撃を行わず見送る。
「突きは確かに当てやすいが外すと体が伸び切る。今のが実戦ならば間違いなく死んでるぞ」
「は、はい」
姫騎士は間合いを取り直し、再度呼吸を整える。
全く攻撃が当てられる気がしないのだ。
まさか騎士王との間にここまで実力差があるとは思ってもいなかったのだ。
男の騎士相手には対等以上に戦えていたプライドも全く役に立たなかった。
実際、その後に何度か剣撃をみまうがいずれも躱されるか受けられることになる。
その度に野次馬達がおおっと耳障りな歓声を上げていた。
そのうち一人の野次馬の騎士が呟く。
「あれが、騎士王エルンスト…王に即位してからは戦場から離れていたとはいえ、かつてはあのライノスウォーロードとも打ち合って生き延びている実力は老いてからも衰えていませんな」
その呟きにもう一人の無骨そうな野次馬騎士が呼応する。
「あのじゃじゃ馬お姫様がまるで子供のようにあしらわれているとはな… 次元が違うぜ」
「お前、レイディアナ様に不敬だぞ。いや分からんでもないが」
結局、姫騎士が騎士王に対して一度も有効打を与えることはなかった。
模擬戦が終了すると、興奮から覚めた野次馬達もそれぞれの持ち場に戻っていく。
「これで終いにしておくか。本当に腕を上げたようだな。レイディアナ」
「ハァ… ハァ… あ、ありがとうございました。エルンストお父様」
姫騎士は息も絶え絶えになっているが、一方の騎士王の呼吸は全く乱れてはいなかった。
終わる頃には一矢も報いる事も出来ずに負けた事の悔しさよりも、
自分の目指すべき騎士の頂への尊敬の念が一層高まっていった。
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訓練の後、政務を終えた王騎士と姫騎士はサロンでチェスをしていた。
なお、姫騎士側がチェックの状態となっている。
姫騎士は苦し紛れに一手を動かすも、無情の一手が即座に差し込まれる。
「チェックメイト、剣を振るうのは上達しててもこちらはからっきしだな」
「うっ… もう少し手加減してくださってもよろしいじゃないですか」
レイディアナはがっくりとうな垂れ、
その様子を見た騎士王は堂々とした様子で自身の頭を指差した。
「騎士たるもの、ここの戦闘力も鍛えねばな」
レイディアナは顔を上げると騎士王を見つめる。
やや迷いのある趣であった。
「お父様、私はお父様のような騎士になれるでしょうか」
騎士王は思案する。
娘は戦闘能力は優れているし、弱者を思いやる高潔さも備えている。
総合的に見れば国の中ではトップクラスの騎士といえる。
色々ハンデのある女の身でこの立場に付けているのだから相当な努力もしている。
「お前は既に立派な騎士だよ」
「そんなことはありません。私は未だにお父様の足元にも及んでおりません」
ただ、娘にとっての比較対象は毎度騎士王である自分なのだ。
そのことが色々な面で騎士王を不安にさせてくれることがある。
例えば、娘はもう既に妙齢なのだが、未だに婚約者がいない。
それが騎士王を非常に不安にさせてくれるのだ。
「お前は何でもかんでも私の後を継ごうとしなくてもよいのだぞ。本当のことを言うと、お前には騎士として私の後を継ぐよりも姫として国を支えてもらいたかったと思っているよ。例えば結婚とか…… 」
「ふふっご冗談を、私は私より弱い者とは結婚する気はありません。せめてお父様くらい強くて責任感のある御仁じゃありませんと」
娘に模擬戦で勝てる存在がこの国において自身しかいないのだ。
騎士王は困惑を極めた。
「それは…… 参ったな…… 今度の遠征が終わったときにも見合いを用意しているのだが」
「私にはお見合いなんてまだ早いです。お断り頂いて結構です」
騎士王は本当に困ったような顔をする。
そして、これ以上の説得は無意味と判断する。
結婚してしまうと騎士として戦場に出られなくなるために渋っているのだろう。
「そ、そうか…… それでは今日はもうお開きにしておくか、体はしっかり休めておけよ」
「はい、お父様」
実の所、名のある騎士との婚約話を何度か取り付けようとしたこともあったが、
全部娘がご破算にしてしまう事に頭を悩ませていたりする。
なまじ娘が強いおかげで国内に娘の婚約者が現れる事はない。
40台まで処女を貫き通した姫騎士が女王をしていたという逸話を聞いた事がある。
その女王は処女王と呼ばれ、後に悲しみの底に沈んだそうだが、
どうもその流れとダブっているのではないかという疑念がよぎるのだ。
そんな父王の気持ちなどお構いなしに、
姫騎士は憧れの父に近づこうと邁進し続ける。
戦闘描写はちょっとだけ頑張った。
話題の転換とか不自然な気がする。
元々描写がスカスカだからキャラ立てようとするとさらに不自然になっていくという見本
次はいよいよ獣人要塞遠征編に入るので本格的な戦闘に入ります。はい




