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冴えないサラリーマンの、冴える手料理  作者: 九十九ユウキ
第二章 歩み出す調理器具
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三十一食目 お花見弁当は、今日も桜前線真っ最中(後)

「こわれちゃったの?」

「もしかしたら、さっきので曲がったのかもしれない……。参ったな……。これじゃあ、家に帰れないぞ。」


 何度体当たりしても、びくともしない。智里はリビングに戻り、直ぐに携帯で大家に連絡を取った。そして、折り返し大家から連絡が来たが、修理業者側は、この嵐の中では到底行く事が出来ず、明日にならないと来れないとの事だった。


「――こればかりはしょうがないですし、皆さん、私の部屋で一泊していって下さい。狭いですが……。」


 半乾き状態では風邪をひくので、着ていた物を洗濯機に掛け、勝手ながら樹の服一式と大きめのTシャツを司達に渡し、風呂に入ってもらった。その間にやっと元気を取り戻した樹は、智里に現状を聞き、司達が出てきた所で、この部屋で一泊する事を提案した。


「で、ですが、先輩達にご迷惑を……。」

「こうなってしまっては、運命共同体です。毛布は結構ありますし、なんなら、私は立って寝ますので。」

「いやいやっ!! 家主を立って寝かせる訳にはいかないですよっ!!」


 樹と司の攻防戦を智里は、莉乃と一緒に傍観する。すると、隣からクゥー……と、可愛らしい音が鳴った。見遣ると、莉乃が顔を真っ赤に染めながらお腹を押さえている。そう言えばと、時計を見ると、もう十九時になろうとしていた。智里は、樹と司の間に割り込み、二人の言葉を遮った。


「――お二人共。今は言い争っている場合ではありませんよ。ほら、「腹が減っては、戦も出来ぬ」と言いますでしょ?」


 そして、持って行こうとしていた弁当を取り出してテーブルに置き、包んでいる風呂敷の結び目を解いた。風呂敷をランチョンマット代りにし、一つ一つをテーブルに広げていく。すると、皆の目の色が変わった。


「わぁ、すごいっ。」

「コレ、片岡先輩が作ったんですか?」


 色とりどりの食材が並んだ重箱に、司と莉乃は目を輝かせた。二人で作ったと言うと、更に目を輝かせ、尊敬の眼差しで二人を見た。そんな純粋な視線に、思わず照れる。


「え、えっと、作り過ぎてたんですが、正解でしたねっ。」

「そ、そうですねっ。偶然ではありますが、こうやって皆で食べれるのですから。」


 割り箸と取り皿を配り、魔法瓶に入れていたお吸い物を分ける。クーラーボックスからお茶やジュースのボトル缶を取り出し、それぞれ好きな物を取った。そして、円形に並べたお重の中央に、莉乃達から貰った練り切りを乗せた。華やかになったテーブルを囲み、ボトル缶のジュースで乾杯をした。


「ふふっ、プチ花見ですね。」

「司さん達のお陰ですね。ありがとうございます。」

「いえいえっ、そんな滅相もないですっ。」

「んんっ、このから揚げ、おいしいっ。」


 外の雨風の音が気にならない位だが、隣の住民に迷惑にならない様に皆で静かに盛り上がった。本物の桜を見ながら食べれなかったのは残念だったが、甘くて小さくて可愛らしい桜を愛でながら食べれたので満足だった。


「――はぁ、お腹いっぱいです。」


 四段重ねのお重は、すっからかん。食器類を台所へ持って行き、テーブルやその周りを綺麗にした後、食後のデザートにと、練り切りと温かい緑茶を嗜んだ。莉乃は、余程楽しかったのか、疲れ果ててしまい、ハクと一緒に丸くなりながら眠ってしまった。智里は、毛布を掛けてあげた後、片付けをする為、直ぐに台所へと戻った。スヤスヤと眠る一人と一匹に癒されながら、樹と司はお茶を啜った。


「今日は、妹共々本当に助かりました。ありがとうございます。」

「いいえ、大丈夫ですよ。それに、楽しかったですし。」


 司と談笑しながら、また一口とお茶を啜る。チラッと台所の方を見ると、智里が洗い物をしているのが見えた。お茶を淹れている時に、智里が気を利かせて、洗い物をしておくからと言ってくれたのだ。智里の言葉に甘えて司と寛いでいたが、どうしても気になってしまう。何度か台所を横目で見ていると、不意に司が吹き出した。


「どうしたの?」

「い、いえ……。先輩、彼女さんの事、大好きなんだなぁと思いまして……。だって、さっきからチラチラ見てるし……。」


 バレていないと思っていたが、思いっきりバレていた。未だに肩を震わせて笑い声を抑えている司に恥ずかしくなった樹は、顔を真っ赤にさせながら小声で「見ていた事、内緒にしておいて下さいよ。」と言っておいた。だが――。


「俺が言わなくても、たぶん彼女さんには筒抜けだと思いますよ。」


 そう言って、後を指差された。振り向いてみると、司達の洗濯物を持った智里の顔が、可笑しな事になっていた。眉間にシワを寄せながら、下唇を噛み締め、頬を膨らませている。どうしたのかと近付くと、突進するかの様に勢いよく胸に擦り寄られた。


「あ、ち、ちさ、智里さ……っ。」

「……これで、おあいこです……。」


 消えそうな位の小さな声で言い、パッと離れた。そして、いつもの顔に戻り、司の方へ向かった。その後ろ姿を見ながら、未だドクドク言っている胸を押さえた。


「お、おあいこって……何……?」


 頭の中が沸騰し、混乱状態の樹は、皆が静かに眠る中、一晩中胸の鼓動を聞きながら布団の中で悶々と過ごしていた。


―本日のメニュー―

【前日の夕食】

・白米

・新玉ねぎと若鶏の胸肉のポトフ

【当日の夕食】

・花見弁当(・おにぎり(・枝豆、桜の塩漬け・菜の花、桜エビ、塩昆布、天かす・混ぜ込み筍)・唐揚げ・ブリの照り焼き・だし巻き卵・花蓮根の酢漬け・ごぼうの甘酢炒め・エビとブロッコリーのキッシュ・春キャベツと塩昆布、千切りにんじんの和物・果物)

・はまぐりのお吸い物

・ボトル缶(ジュース・お茶)

・練り切り十種






END

 今回も長くなってしまったので、区切りました。これからは、四千字以上になった場合、区切らせて頂こうと思いますので、宜しくお願い致します。


お弁当にも役立つ、飾り切りの仕方を載せさせて頂きます。

―花蓮根―

 蓮根の皮を剥き、穴と穴の間にV字の切込みを入れていく。蓮根のとがっている部分を面取りしていき、花弁の様に丸くしていくと、完成。


―りんご(市松模様)―

 りんごを皮つきのまま八等分に切り、芯を落とす。ナイフで五mm程縦と横に切り込みを入れる。※なるべく一マスが正方形になるような切り込みだと、仕上がりが良い。一マスずつ空けながら、ナイフの角で皮を剥いていったら、完成。※剥いた後は、変色を防ぐ為、レモン水や塩水にさらしておく。


―バナナ―

 バナナの中央にナイフを入れ、貫通させる。ナイフを抜き、ナイフを入れた辺りを側面から斜めに切り、半分で止める。バナナをひっくり返し、同じ方向で斜めにナイフを入れ、半分で止めて外したら、完成。※剥いた後は、変色を防ぐ為、レモン水や塩水にさらしておく。


―キウイ(蓮の花)―

 キウイの側面に、斜めに包丁の切っ先を深めに刺し込む。包丁を抜き、ギザギザになるように隣に刺し込む。これを繰り返して一周すると外れる。外れない場合は刺し込んだ深さが足りないので、もう一度一周深く刺し直す。頭とおしりの部分をカットし、皮を切り落とさないように注意しながら薄く剥いて優しく広げれば、完成。

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