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第三話  それぞれ1の経験値をかくとく!  前編

こんにちわ、いちのせです。

誤字脱字は最早文化です(違)

ついに、ついに三話です。


紆余曲折を経て二人の出した答えは、オリジンスライムを倒してこの世界を妖精の国にする、だった。

最凶最悪の災害スライム、オリジンスライム。

畑を荒らした彼の結末は、レタスから生まれた犬(仮)の未来は。

とか全然そんなお話じゃありません。


2人で結界の外に出ようねってお話です。

前編後編になるとおもいます。


「さて、ユリナさん」

「はい」


 我が家は就寝が早い。

 というのもこの世界、あたりまえだけど電気なんて無い。

 まあ蝋燭はあるし、初めこそ戸惑ったけど月明かりはそこそこ明るいし、夜遅くまで起きていてもすることも無いので─まあ、ちょっとはそりゃあ、こーんな可愛い嫁さんがいるんだから何か期待しちゃうこともあったりするけども。

 そこは男である俺の頑張りどころというか、ユリナの心が癒えるまでは我慢と言うか。

 ってことではなくて。


 電気のない世界っていうのは日が沈むと風呂やご飯が少しばかり不便になってしまう。

 真っ暗闇で何も見えないってほどではないけど、暗い中ご飯を食うより明るい方がいい。

 だから夕暮れにはすでに全てを済ませて思い思いの事をしているという訳だ。

 ユリナは訪れる野生動物とエルフ語で何か話して過ごすことが多いみたいだ。

 それで、今日。


「実はですね、見つかりました」

「ん」


 ユリナの寝室の床、絨毯の上に魔術書を挟んで向かい合う俺たち。

 お互い正座で、やや緊張した面持ちで。

 蝋燭の明かりがゆらゆらと俺たちを照らし、時折大きく燃えていた。


「結界の解き方が」

「!」

「ここ、ここ読んで」


 午前は筋トレ柔軟基礎トレ、昼間は剣の稽古とユリナの家事の手伝い、晩飯後から日没の短い時間は魔術書を読み漁り。

 割りとハードな日々を送ったせいで筋肉は大分付いた、多分。

 今ならユリナも軽々お姫様抱っこできそうな勢いだ。

 文字も以前より更に読めるようになった。

 流石にパッと見ただけで単語がわかるほどじゃないけど、それでも毎度毎度ユリナに尋ねることは無くなった。

 そうしてそんな頑張りの中、俺はついに見つけてしまったのだ。


「ん、だれでもできる、たのしいけっかい~ときかたへん~…?」


 んー、たどたどしい言葉、キュート。

 若干、娘を暖かく見守るお父さんみたいな表情で頷きそうになったけど気合で抑え、首をかしげるユリナに笑ってみせた。

 表紙には高等魔術の書・Ⅲとかそれらしく真面目に書いてあるくせに、この本の中身は中々どうしてチャラいというか小学生の教科書みたいなノリだ。

 ここがポイント!みたいな星マークもあるし、こんな中身だったとは正直驚きを隠せません。

 これを書いたやつの顔がぜひとも見てみたいもんだ。

 さっきペラペラめくってたら、偶然目に留まった場所がここで。それで慌ててユリナのとこまで来たので、実は内容を知らなかったりする。

 なので教科書みたいなノリの内容を、ユリナに読み上げてもらう。


「次、読んで下さいユリナさん」

「ん」


 ユリナは少し身を乗り出して、心もとない蝋燭の灯でぽつりぽつりと読み上げ始めた。


「oh」


 おっと予想外の谷間です、谷間が俺の目の前に!

 めっちゃ見える素敵な谷間に身体の一部がムキーンと覚醒しそうな感覚、いけないと思いつつガン見してしまう男の悲しいサガよ。

 肌がすっごい白い。肌理が細かくて。あとこの迫力。迫力半端ない。

 控えめに言ってすごいやばい。

 語彙力帰ってきて。


「読んだ、…リンドウ、聞いた?」

「おぁっ?あ、おぉ、うむ!」


 正直谷間に見惚れてて全然聞いてなかった。

 それを察したユリナがちょっとムッとしたけど、谷間を見ていたのはバレてないようで一安心。

 谷間を盗み見るっていうのは何でこんなにも背徳感があるんだろうなあ。

 ホッとしたのもつかの間、再びその頁に視線を落としたユリナがあっ!と声を上げ少し眉をハの字にして、それから文字の羅列を指差した。


「材料、見て。下」


 解き方編の少し下、材料と用意する道具の欄。


「まず大量の魔力を用意します…?」


 普通に考えれば至極当たり前の材料だった。

 魔法を使うにはMPが必要、なんて化石扱いのRPGの頃からそれに則って設定されている常識の中の常識だ。

 だが魔力量の多さならユリナは随一って神サマが言ってたし、他の追随を許さない。多分。

 問題は結界の中ではそれが全部霧散してしまってあのロリ神が持ってきた水晶でもない限り、ユリナが魔法を使うのは不可能ってことで。

 要するにまず大量の魔力を用意することが無理だった。


「ノー!詰んだっ」

「リンドウ、違う。下、見て」


 頭を抱えそうになった俺の手を、ユリナが掴んで本へ誘導する。

 材料の一番下の欄。そこを俺の指でつつく。

 材料は、大量の魔力とスペル(呪文)を大きな声で紡ぐ勇気、結界を張る場所…と本当に必要なのかどうかも怪しいものが諸々書かれた一番最後。


 <自力で解けない時は>みたいな吹き出しのそこに、結界を張った際に作成した媒体、とあった。


「媒体…?」


 媒体自体は知っているが、結界を張るのに媒体がいるとは知らなかった。

 首をひねっている俺に、ユリナが頷いて説明してくれた。

 ついでに机の上から紙と羽ペンを持って。


「魔法、術者、使う。初等、触媒、必要ない…身体、媒体」


 スラスラとペンを走らせ魔術師と思しき丸いものを描くと、それが魔法を放つ様なポージングをして火の玉を描く。

 術者と火の玉の間に媒体と書いてばってんを描いた。

 分かる?と俺に顔を向けたので、頷く。

 その仕草、グッド。

 あの犬(仮)を作り上げたとは思えない、お上手な絵だ。

 と言っても丸に目と口と手足である棒を描いただけなので、幼稚園レベルの犬(仮)が1年生になった位の差だけれども。

 やはりこの絵のよいところは丸いものがかぶっている魔法使い御用達の帽子でしょうか。

 先端がちょっと折れ曲がっていていかにも魔法使いです!という存在をアピールしているのもポイント高いですね。

 この帽子に大きな目でも描かれていれば或いは…とったところでしょう。

 …とグル目で長々語ってしまいそうな自分をぐっと堪える。


 ユリナ先生のお話によると、魔法には大雑把に分けて低中高とランクみたいなのがあって、初等魔術は触媒を使わず術者の身体を媒体として魔力を使う。

 ファイアとかサンダーとかなんかそのあたりの、ラが付かないレベルのやつだな。

 反対に高等魔術ともなると、自分の身体を媒体に発動すると尋常でない負担が掛かり命が危険なので、大抵の術者は触媒となるものを持っていたり作ったりしてそれを媒体として魔法を使うらしい。

 初等は体内で魔力を練って、高等は魔力を触媒に移して練るみたいなイメージか。

 結界みたいな大型防護壁は高等魔術の1つで、少し特殊だけど当然触媒を必要としているものだった。

 

「触媒、色々。魔具、自然物、アーティファクト、生物、様々」

「じゃあその媒体を壊すなりすればいいってことか」

「ん。結界、媒体、隠す、普通。探す」


 媒体となったものは見れば分かるみたいだけど、それを堂々置いておくと壊されてしまうので、普通はどっかに隠したりするみたいだ。

 ゲームとかなら堂々と部屋のど真ん中にあったりするのにな。


「…ん?待って、待ってユリナ。媒体って術者の身体に負担がかかるからってことなのに他の生き物使うのは有りなのか?」

「ある。他人、魔力、入れる。苦しい、痛い…暴走、闇堕ち…ずっと」


 うわ、何だかやるせない。

 要するに意志のない野生動物や弱いモンスター、後は死にかけた人間とかそういうつけ込みやすい生き物に無理やり流し込んで、媒体にすると凶暴化したりするってことらしい。 


「生き物、死ぬまで、媒体…。物、魔力、切れる、終わる」


 生き物の場合、その体内で魔力が生成出来るか出来ないかで多少変わってくるみたいだけど、大量の魔力が体内に入れられてそのせいで元々の自分の魔力が変異起こして、稀な例だと媒体としての魔力を延々生成し続ける永久機関みたいになることもあるそうだ。

 撃ったら終わりの魔法ではないので、魔力が続く限りずっと苦しいのか。

 けれどメリットが永久機関になるかもねっていう程度で、制御はできないし生物を媒体にするのは相当難しい上に、成功率も低くて失敗すると自分にも何かしら跳ね返ってくるそうなので大魔術師レベルでもやりたがらないっていうのは少し救いなのかもしれない。

 

 ずっと痛くて苦しくて、もしかしたら開放されたくて暴れるのかもしれないと思うと切ないな。

 少しどんよりしてしまった空気をかき消すように、俺は努めて明るくユリナに言った。


「じゃあ明日は媒体探しだな!弁当持って歩き回ろうか」


 まあたいして広くない結界内だけど、橋から端までってなるとやっぱり広い。

 1ヶ月半ここに住んでいても行ったことのない場所もあるし、岩場みたいなところもあるし。

 モンスター…は出たこと無いけど一応剣も持っていこう。


「ん、行く」

「よし、そうと決まれば早めに寝て─」

「リンドウ」


 魔術書を閉じて立ち上がりかけた俺の服の裾を、ユリナがクイッと引く。


「ありがと」


 上目遣いで。ちょっと頬を染めて。

 ユリナが言う。

 何に対してのありがとうかな、なんて考える間もなく彼女は距離を詰めてきて。

 初めて、俺に抱きついてきてくれた。


「ありがと、リンドウ」


 思っていたよりもずっとずっと柔らかくて、あったかくて、すっごいいい匂い。

 これが女の子なんだ、と心臓が早鐘を打ち顔が熱くなって来る。

 でもそう言ってくっついてきたユリナが少し震えていたのに気付いて、もたげ始めていた下心は瞬時に霧散した。


「可愛い嫁のためならなんでもするさ」


 少々臭いセリフだな、とは思ったけどユリナが笑ってくれたので不問にしよう。




◆◆◆




 翌日俺たちは朝から媒体捜索作戦を開始した。

 まずは小屋の付近、普段見ないような樽の中や井戸の中(井戸があったことに驚いた)、川底、細かく見てみたがそれらしいものは見つからなかった。

 もちろん小屋の地下は既に捜索済みだ。

 地下にあったものといえば、まあユリナにはとても見せられないような道具の数々だった、とだけ。

 それはまとめて粉々にして箱に入れて埋めておいた。

 何をしていたのかユリナは気にしていたみたいだったけど、あんなの知らない方がいい。

 

「まあそんな簡単に見つかるわけもないかー」


 少し休憩がてら川の傍に座ると、ユリナが差し出してくれたお茶をひと口すすった。

 そもそも媒体の種類がわからないのもいたいよなーなんて考えながら、横でお茶を飲んで一息ついているユリナを見る。

 今までよりもちょっと近い位置に座っていて、ちょっとだけ肩が当たっている。

 多分昨日ので慣れてくれたのかな。そうだったら嬉しい。

 たまにこっちをちらっと見ては、少しはにかんで…あぁぁ!

 呼び起こされる昨日の感触。


「リンドウ、あの」

「……うん?」


 内心萌え死んでいた俺を若干訝しげに見つつ、ユリナが川向うの方角を指差した。

 そっちは確か俺が行ったことのない森の方だ。

 ユリナもこの川より向こうはあまり用がないみたいで近寄らず、そのせいかずっと忘れられているみたいになっているエリア。


「あっち、何か、ある。友達、言った」


 ユリナは動物たちに捜索を頼んでいたらしく、近くの枝に止まっている小さな猛禽類がひと声鳴いた。

 そうして何処かへ飛び去っていく。


「何だか、嫌な、もの、って」

「嫌なもの…」

 

 とりあえず行ってみよう、ってことで俺達は川を超えてずんずん歩く。

 川は浅くて所々に岩が顔を出している程度なので濡れずに渡れた。

 そこからユリナに方向を確認しながら進む。

 たまに野生動物が飛び出して来てユリナと何か言葉をかわして去っていくのは、忠告とかしてるのかな。

 何を話しているかわからないけど、エルフ語でペラペラ喋るユリナはなんとなく新鮮だ。

 普段俺と会話する時は片言で話すし。

 俺もエルフ語学んでみようかなあ。学べるものなのかわからないけど。


「なんか鬱蒼って感じだな」

「ん、じめじめ」


 暫くは木漏れ日があった森も、いつの間にか薄暗くなっていて薄気味悪い。

 昼間なのに三日月背負ってコウモリが飛び交ってる洋館がありそうな雰囲気だ。


「っ、リンドウ、あれ」


 小さく息を呑んだユリナが、俺の袖を引っ張って立ち止まる。

 その目線の先、木々の合間。

 毒々しく禍々しい色の、塊。


「これは、なんとも……」


 もしかしたら、とは思っていた。

 俺の魂が入ったこの男がユリナにしたことや、神サマから聞いた話から考えれば、やりそうな気はしていた。


「媒体、生きてる」


 ユリナが悲しげに、小さく呟いた。

 禍々しく濁った、どす黒くて、まるでヘドロのような身体。

 多分本当はもっと透き通った青とか水色とか、綺麗だったんだろう。

 けれど、他人の魔力を大量に注入されて体内が汚染され混ざり合い、肥大化してしまった身体。


「スライムであってる?ユリナ」

「ん、スライム。苦しそう」


 冒険の序盤、誰しもがお世話になるモンスター界のアイドル、スライム。

 丸かったり女の子だったり姿形は様々なスライムが、俺達の目の前では何の形も形成せず、ただただ大きな水たまりの様に広がり蠢いていた。

 その身体の中心に何か結晶のようなものを抱え、ドロドロと何かが垂れ流れている。

 あれがこの結界を維持する男の魔力なのかと思うと、あの男は余程腐った人間だったのだろうと思ってしまう。


「あの結晶を壊せばいい?」


 神サマから貰った剣の柄に手をかけ、ユリナに尋ねる。


「ん。スライム、意識、ない。でも、危険」


 弱りきって意識はなくても凶暴性は残っているから、とユリナは続けた。

 うん、と頷いて鞘から引き抜いた剣の切っ先が、カタカタと少し震える。

 今まで戦いとは無縁の世界で生きてきた俺にとって、初めての実践。

 初めての、命がけで命をやり取りする戦い。

 ゲーム世界では1撃か2撃で終わる最弱の相手だけど、この禍々しいスライムは果たしてレベル1であってくれるのだろうか。

 わからないし、怖い。

 負けたら待っているのは多分、死なんだろう。

 そう思うと余計に震えが大きくなったような気がした。

 

 でも。


「リンドウ、お願い」


 自分には戦う力がないから、貴方が救ってあげて、と。

 目の前のスライムを救ってほしいと彼女が願っているから。

 ユリナが目にいっぱい涙を溜めて言うから。


「わかった」


 怖いものは怖い。

 でも結界を出てユリナの里を探す約束もした。

 こんな序盤の序盤で逃げる訳にはいかない。

 俺は震える剣を両手で構えて、スライムへと走り出した。




 

 

 


 



 

主人公くんは好きな子が見ていると攻撃力が上がるタイプだといいです。

それが結果に繋がるかはともかく()


最近沢山の方が訪れてくださるので、物凄くうれしいです。

やる気もみなぎります。ごごごご

ブクマしてくださっている方もいらっしゃって、本当に有難うございます。


拙い文章ですが、ここまで読んで下さってありがとうございました!

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