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遥か彼方のパトリア ~西方航海録~  作者: 備後来々
第2章 東南アジア
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ep.30 台頭

「「乾杯(サルー)!」」


 ブルネイの街に向かう海上。操舵室に集まった五人はワインを空ける。ギジェルモ商会を潰す作戦は成功し、結果東南アジアで二番目に大きな商会は解散を余儀なくされた。蜂起の終息を見届けた後、ツァンが見つけた金貨の山の一部は奴隷達に分け与えた。残りはマラッカにある複数の孤児院に寄付をすることにした。全員が全員恩恵を受けることは無理だろうが、一人でも自立するチャンスを掴んでくれれば幸いだ。


「それにしても、これから他の商会はどう動きますかね?」

「正直まだ分からない」


 エルネストの質問にカイリが静かに答える。一番気になるのは、マニラを拠点とするアルボルノス商会の動向だ。マラッカの奴隷蜂起では、数人の犠牲者がでている。ギジェルモ商会は解散したが、規模の大小に関わらず奴隷を扱う商会はまだ存在する。


 カイリ達の起こした行動は、見る者が見れば偽善でしかない。全ての奴隷を解放したわけではないからだ。ただ、行動を起こしたことに意味はあると思う。そんなことを思いながら、カイリは操舵室の窓から海を眺めている。


「アンタはなんでそんなに奴隷にこだわるの?」


 イルが話しかけてきた。彼女にとっては奴隷は当たり前のシステムなのだろう。カイリは少し笑みを浮かべて、イルに返答する。


「お前がある日突然、西洋人に捕まえられて知らない国の知らない人間に売り飛ばされたらどんな気持ちになる?」

「運が悪かったなって思う」


 予想外の返答にカイリは困惑する。そして、理解もした。どうやら奪われ続ける生活が当たり前になると、思考もネガティブになってしまうらしい。イルの言葉はその事を証明していた。


 それと同時に、今回の件がいくらインパクトがあっても、他の商会への影響は少ないかも知れないとも感じた。今回のカイリのように導くものがいないと、意識は変わらないかもしれない。


「まぁ、何はともあれ結果的に沢山の奴隷を解放した事実にかわりはないでしょう。私は、意味があったと思いますよ」


 エルネストの優しい言葉。カイリの表情を見て、気の毒に思ったのかもしれない。クロエがエルネストの言葉に頷く。気を使わせてしまうとは情けない。カイリは右手のグラスに入ったワインを飲み干す。


 後悔は後でもできる。今は前を向かなければならない時だ。


 まずは、マラッカで仕入れた象牙をマニラで売り捌く。経由地のブルネイ、そしてマニラで情報を得た後は、マニラで金を仕入れてマラッカに運ぶ。それが終わったらマラッカに拠点を築くことにした。


お読みいただきましてありがとうございました。

大分間が空いてしまいました。これからも時間を見つけて掲載できるように頑張ります。

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