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92話

誤字脱字等ありましたら、よろしくお願いします。

 それから少し経って。

 季節は夏を通り過ぎ、秋に差し掛かろうとしている。


 夏休みに入ってからはほとんど一日中ゲームの中で過ごし、ひたすらゲームの世界を楽しんでいた。

 ゲームの登録者数も順調に増えているらしく、今では数百万人ものプレイヤーいるらしい。

 ダイモンさんを始めとした多くのギルドの活躍もあってゲームのストーリーも着々と進み、現在の最前線はセイレスから北に進み山を越えた更に先にある街【ノアン】という要塞都市だ。

要塞都市の名の通り、巨大な城壁が街を囲み、他の街と比べてかなり物騒な外観をしている城壁の上には大小さまざまな迎撃兵器が並び、いつでも魔王軍に対抗できるようになっていた。

 他の街よりも武器屋防具屋が数多く店を出しているのも特徴的だ。


 というのも、これより北は既に魔王の手に墜ち、モンスター達を率いた魔王軍が待ち構えている。

 この街が人間サイドの最前線の防衛ラインでもあるということもあって、前にメイカーを魔王軍が襲った時のような【魔王クエスト】がたびたび発生していた。


 そのためこの街は多くのプレイヤーの活動拠点となり、大変な賑わいを見せている。ω姐さんと雷さんの店も最近ノアンに引っ越したらしい。まだ行っていなかったから引っ越し祝いを持っていかないと。



 とある休日のお昼頃、俺はメイカーにあるギルドホームの1階、クランキーズのカウンターに座り、のんびりしていた。

 今日はサツキさんがログインできないそうなので、アガサが店番となったので戦闘班の活動もお休みだ。


「それにしても、相変わらず白たんは可愛いなぁ……はいコーヒーね」

「キントウ、この人キモいです」


 だらしなく鼻の下を伸ばしたマスターを汚物を見ているような表情をしながら白がコーヒーを運びに客席に向かう。


 昼になり客足が増えてきたので、今は白に手伝ってもらっている。以前はNPCのウェイトレスを雇っていたのだが、アガサやユリアさん、サツキさんたちに接客してもらいたい、という客側の強い希望が殺到したため、今ではこの店のウェイトレスは白を含めて4人しか居ない。


 はっきり言って人手不足気味だが、一度としてクレーム等が届いたことが無く、むしろ待ち時間が長い方がいいとさえ言う客まで出てくる始末だ。


 回転率が悪いくせに客1人が1回で使う金額が高いおかげで結構儲かっているとか。

 指名料とか完全にアイドル商法やキャバクラみたいなことしてるけど、客も満足してるしウィンウィンの関係なんだろうか……


「そういえば、夏休みにはイベントやりませんでしたね」

「夏休み前にやったしな、流石に連続は無いだろ。それに公式じゃないのならちょくちょく開催されてるぞ」


 そう言うマスターに見せてもらったのは今月の非公式イベントの開催予定の書かれたカレンダーだ。掲示板で出回っているものらしい。

 非公式イベントというのは、運営が開催するのではなくプレイヤーが個人的に開催するイベントの総称らしく、内容は50m走だったり力自慢だったりとさまざまだ。


 他にも指定アイテムを制限時間内にどれくらい集められるか、みたいな内容のイベントもあり俺でも参加できそうなイベントも結構あった。


「これって俺でも開催出来るんですか?」

「出来はするが、賞品とかも開催者のプレイヤー側で準備しないといけないから半端なアイテムじゃ参加してくれないっていうのが面倒なところだよな」


 そりゃそうか、頑張った結果に受け取ったのがどうでもいいアイテムだったりしたらイラっと来るもんな。案外奥が深いんだな……




 

 そうしているうちにも客足が減ることは無く、逆にだんだんと増えてきて俺も席を退かなくてはならなくなって2階のマリオのポーション屋に移動した。

 1階に比べて静かな2階のポーション屋。人の数もまばらでマリオも暇そうにポーションの空き瓶を弄くっていた。


「あれ、今日はフィールドに出ないの?」

「サツキさんがお休みだからね、マリオは最近は暇なのか?」

「まね、私以外にも【調薬】持ちが増えてきてポーション屋も何軒かあるし、今は【軍】と【まほいち】に卸すポーションがメインかな。あとは新ポーションの開発」

「もう変なのは作らないでくれよ……」


 過去に貰った試作品ポーションの中にマシなやつが何個あっただろうか、俺は1つも思いつかない。


 ついさっきマスターに聞いた話をマリオにもしてみた。マリオは掲示板を良く見る方なので非公式イベントのことも詳しく知っているかもしれない。

 

「非公式イベント? 私もたまに参加してるわよ?」

「えっ!? そうなの?」

「というか、景品製作担当みたいな? イベントの景品用にレアなアイテムを大量に使ったポーションとか作らせて貰ってる」


 使う素材によってポーションの出来も変わるらしいから上手くやればイベントの景品になるくらいの一品も作れるのか、調薬スキル恐るべし。


 これからポーションの量産を始めるというマリオと別れ、次に俺が向かったのは地下にあるレイさんの作業部屋だ。あの人、ログインしていても出てこないからあまり会うことも無いんだよな。ずっとコスプレを作ってるのだろうか。

 扉の並ぶ廊下を進み、レイさんの部屋の扉をノックする。遠くから返事が聞こえたし中にはいるんだろう。


「失礼しまーす、ってあれ?」


 中に入ろうと扉を押すが何かに引っかかっているようで開かない。なにこれ、システム的なバグ?

 何度も開けては閉じ開けては閉じを繰り返していると、少しずつだが開いてきた。あと1回くらいで通れるくらいの隙間は開きそうだ。


「せーのっ」ガンッ!

「ぐふっ!」


 扉が何かにぶつかった後に何か声が聞こえたような……気の所為か。

 あと1回で開くと思いきやまだ通れない、ここに何があるんだよ。


「せーのっ……」

「ちょ、ちょっと待つのね!」

「え?」


 どこからかレイさんの声が聞こえてきた。しかし姿が見当たらない、扉の隙間から覗いてみてもそれらしき姿はない。早くこの扉が開けば確認できるんだけどな。


「レイさん? ちょっと待っていてください。なんか扉が開かなくって」

「その原因はすぐに分かるのね」


 今度はレイさんの声が足元から聞こえてきた。

 ちょっと待て、なんでレイさんの声が足元から来るんだ? 

 扉に引っかかっている謎の物体、足元から聞こえてくる声、ここから導き出される答えとは? 名探偵ユリアさんの助手である俺なら解けるはずだ!


 恐る恐るしゃがんで扉の下に目を向ける。


「どうもレイさん」

「やっと気が付いたのね……」


 そこにいたのは俺に何度も扉を叩きつけられた床に横になっているレイさんの姿があった。


△ ▲ △ ▲


「ふぅー、死ぬかと思ったのね」

「そもそもなんであんなところで寝ていたんですか」


 死にかけたレイさんを助け起こし、作業部屋に置いてあった椅子にレイさんを座らせる。


「まさかギルドホームの中で空腹で倒れるとは思ってなかったのね」

「レイさんもですか……」


 なにネコネコさんみたいなことしてるんですか、しかも室内で。


 以前訪れた時よりも物が増え、部屋が狭く感じる。特に多いのが布切れだ。コスプレ服を作った時に出る余りなんだろうけど、これ見たらユリアさんが掃除したがって暴走しそうだな。


 ついさっきまで作業していたのか、壁際には完成した服がいくつか掛けられている。ユリアさん達みたいなメイド服や、巫女さんの袴? など中には他のゲーム作品に登場するキャラクターの衣装などちょっと怪しい物まである。


「これ作って大丈夫なんですかね」

「作れたから大丈夫なのね」


 そういうことなのか? 


 マリオに引き続き、レイさんにもイベントの話を振ってみることにした。たぶん景品としてレイさんも作ってるんじゃないだろうか。


「もちろん作ってるのね、でもほんのたまになのね」


 何かのイベントで『優勝者にはヘムジン商会様より【メイド服一式】が送られます』みたいなアナウンスが流れるんだろうか。それってもはやスポンサー?


 と、ここでレイさんの口から新情報が飛び出した。


「ヘムジンも時々開催してるけど、キントウは知らなかったのね?」

「……初耳です」

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