89話
誤字脱字等ありましたら、よろしくお願いします。
狐面たちは中へ入らないのか、いつの間にやらどこかへ消えてしまい、扉の前には俺と白だけが残される。相手も中で待っているみたいだし、ここに留まっている訳にもいかないのでとりあえず中に入ることにした。
「失礼しまーす……」
そっと内開きの扉を開けて部屋に入る。
まず最初に目に入ったのは、俺の正面にある大きな窓。そこから見える景色はたぶんバックスの街だろう。風景の奥に転移門広場が小さく見えている。
右手には応接室みたいなソファやテーブルが並び、左手には書斎机が置かれ、机の上には書類が山のように積まれている。見たところ、どこかの社長さんの執務室みたいな感じだな。
そして、肝心のこの部屋の主はというと……
「……なにしてるんですか」
「いやちょっとした遊びだよ。普通に待ってちゃつまらないだろう?」
内開きの扉と壁の間に出来た隙間にこの部屋に似合いそうなスーツを着たおっさんが挟まっていた。
扉と壁の間から出てきたおっさんが改めて俺の正面に立つ。おっさんといっても、俺から見ればの話で、見た目だけなら30才手前といったところだろうか。
「はじめまして、僕はパッド、一応この街のリーダーをやっている」
「ど、どうも、キントウです」
「そちらのお嬢さんが……」
「キントウの護衛の白と申します」
パッドと名乗ったおっさんはにこやかに俺と白に握手を求めてくる。がっちりと握られた手からは、見た目よりも若そうな印象を受けた。
「まさか君みたいな少年にあれほど負けてしまうとは、いやー参った参った!」
笑いながらそう言うパッドさんの顔は怒っているようには見えない。最初は「俺の店でイカサマしてるんじゃないだろうな?」みたいな感じで脅されるのかと思ったけど、そうではないらしい。想像よりもかなり友好的な態度だ。
「あの、なんで俺が呼ばれたんですか?」
入って右手のソファに案内され、腰掛ける。白は俺の後ろで待機している。
パッドさんも反対側に座り、軽く手を叩くと扉が開き、お盆を持ったメイドさんが入ってきた。お盆の上にはティーカップが二つ並んでいる。
リアルメイドさんなんて初めてだな。いや、ユリアさんが本物じゃないってわけではないけど、メイドらしいメイドというか、そんな感じの人は始めてだ。NPCだけど。
カップを並べ終わると、メイドさんは一礼して去っていった。
「とりあえず飲んでくつろいでくれ……毒なんて入ってないよ? なんなら僕のと交換するかい?」
「大丈夫です、いただきます」
特に匂いも無く、何の飲み物か判断がつかなかったのが、毒を怪しんでいると見られてしまったのか、苦笑しながら自分のカップを進めてくるパッドさんのお言葉に甘えてソファに腰を沈める。
結構良い物なのか、ちょうどいい反発力で体を支えてくれた。
少しの間、お互いに黙って飲み物を飲んでいたが、両方が飲み終わったところで本題に入る流れになる。因みに中身は普通のストレートの紅茶だった。
「さて、君を呼んだ理由はもちろん分かってるね?」
「さぁ、さっぱり」
ここまで連行される理由なんて1つしかないのだが、ここは敢えてとぼけてみる。
「冗談きついなぁ、わかってるでしょ? 君、ちょっと稼ぎすぎだよ? あんまり言っちゃいけないんだけどあのカジノ、この街の収入源の1つだから結構持ってかれちゃうと街のリーダー的には困るんだよねぇ」
「そうだったんですか」
何で街のトップが裏では違法カジノを経営してるのかと思ったら、そんな理由があったんだ。確かに金は集まりそうだよな、オークションもやってるみたいだし。
「だったらちゃんと合法なカジノを経営すればいいじゃないですか」
「国営だと、こっちにお金が全然来ないんだよ。ほとんどが国に持ってかれちゃうからね」
はぁー、いろいろ大変なんだな、街のリーダーってのは。
それはともかく、あと70億エンほど稼がないといけないんだけど、どうしよう。それが問題なんだけど。王子の事情を言って返してもらおうか、でもそんな簡単に行くかな……
ええい! とりあえず説明すればなんとかなるだろ!
「実は俺がカジノで荒稼ぎをしていたのには理由があってですね……」
△ ▲ △ ▲
「──というわけであと70億ください」
「おっけー」
「ですよね、無理ですよ……って、ええっ!」
あらかた説明したあとになんか聞こえたけど、何て言った? 俺には「おっけー」って聞こえたんだけど。
「あ、あの、いまなんて」
「ん、だからおっけーだよ。現金でいい? それとも小切手?」
「げ、現金で……」
再び手を叩いてメイドさんを呼ぶパッドさんを見て呆然とする。70億だよ、70億、そんな簡単にポンと出せるものなの?
自分の所持金額の欄には0が10個並んでいる。初めて話を聞いたときにはあれほど遠くに感じたのに、あっさりと集まってしまった。
「本当にいいんですか?」
「だって王子さまから巻き上げちゃったんでしょ、もしバレたらカジノもバレちゃうからね」
「ありがとうございます」
「その代わりとはいうのも何だけど、今度からはあまり稼がないでね? 街が潰れちゃうから」
パッドさん、いい人過ぎる! 街の為とはいえ、大金をほぼ無条件でくれるなんて。そのくらいでいいなら喜んで稼がないようにしますよ!
話はそれだけのようで、再びパッドさんが手を叩くと、今度は狐面が現れた。またこいつらに囲まれながら引き返すことになるみたいだ。
「王子がご迷惑おかけしました」
「なんのなんの、自分の為でもあるからね。キントウ君、今度暇な時にでも遊びに来てよ。次からは正面からね」
別れ際、パッドさんは何か気になることがあるみたいで、チラチラと白の方に視線をやっている。最初に握手した時から白のことが気になっていたみたいで、俺と話している間も時折視線が白の方に向かっていた。この人もマスターと同類なんですか……
「白がどうかしたんですか?」
「ん? いや、たぶん気のせいだと思うんだけど、昔にも君みたいに荒稼ぎをしていて、この部屋まで呼び出して注意した人が居たんだけどね。その人もこの娘みたいな可愛い子を連れていたんだよね。まぁ、別人かな」
ジャンゴさん! あなたもですか!?




