86話
誤字脱字等ありましたら、よろしくお願いします。
ガイコツのうつろな眼差しが俺の体を下から射抜く。ゲームとは分かっていても場所が場所なだけにかなりのホラーだ。たぶんアガサなら気絶とかしそう。
足元のガイコツは俺の返事を待っているのか、動く気配は無い。「墓荒らしですか」と聞かれて「はいそうです」と答えるわけにもいかないし、そもそも荒らす気なんて最初からさらさら無かったわけだし。なんて答えたものか……
「えっとですね、別に墓荒らしが目的ではなくてですね、なんというか、そちらさんがかけたっていう呪いを解いてもらいたいだけでして……」
【あいつらはこの墓を荒らした。その報いは受けて当然である】
「荒らしたって、被害は受けたんですか?」
【しばし待たれよ】
そう言うなりガイコツは黙ってしまい、沈黙の時間が流れる。その間に後ろで待つ二人とどうすべきか相談をしておく。
「これやっぱりバトルで倒さないと解けないんですかね」
「思ったよりも会話が成立しているので、交渉を続ければ妥協点が見つかるかもしれません」
「最終手段は発破ですか?」
「それ俺たちも生き埋めになるから」
とりあえず話を続けてみる、ということになった。戦わないに越したことは無いし。可能な限り平和的解決を望むよ俺は。
少しの間待っていると、ガイコツの中身が帰ってきたのがわかった。部屋の温度が下がったような感じがしたのだ。
【待たせたな】
「で、何か盗られたんですか?」
【腕輪が2個と首飾りが1個と指輪が5個、それに剣が何本か無くなっていたぞ】
「ず、随分と細かいんだな」
今の間に個数確認でもしたのかね、ともかく交渉に入るならここら辺を攻めれば良さそうだ。
「じゃあ、その盗られた物を全部元に戻せたら呪いを解いてもらえないですか?」
【……考えてやらなくもない】
一瞬の間があってからそんな答えが返ってきた。これはバトル系のクエストかと思ってたけど、アイテム回収系のクエストだったっぽいな。プレイヤーの会話次第で変わったりするのかもしれない。
「なら今から俺たちが集めてきますよ」
【いいだろう、その代わりもし集められなかったら……】
「俺たちも呪われる、と?」
【そうだ】
△ ▲ △ ▲
ということで、一旦は無傷であの場所から生還し、バックスに戻ってきた俺たち。盗まれた物を集めるのがお母さんの呪いを解く条件なわけだけど、正直のところ勝算はある。
この前に入ったのがビビちゃんのお母さんの一行だというのなら、お母さんにその人たちを紹介してもらえばいいわけだしね。
「てっきり私本当にバトルが始まると思ってたんですけど、まさかこんな展開になるなんて思ってもいませんでしたよ」
「逆に考えればクエストクリアまで時間がかかる方法なわけだけどね」
「でしたら急いでアイテムを集めましょうか。キントウ様もお忙しいようですので」
そうだよ、忘れてた。俺、王子のこと助けなきゃいけないんだった。ガイコツのインパクトが強くて頭の中から抜けてたよ。
バックスから転移門を潜り、グリスの街にやってくる。ほんの数日前までこっちが活動拠点だったというのに、緑の風景がなんだか懐かしく感じられた。
転移門広場からそのままの足でビビちゃん宅へ向かう。家にはビビちゃんとお母さんが居て、俺たちの突然の来訪に驚いているようだった。
「あそこから持ち帰ったもの、でずか?」
「はい、腕輪とか剣とかだと思うんですけど」
墓から持ち帰った物の所在を訪ねると、しばらく記憶の中から思い出そうと目を閉じていたが、やがて思い出したのか、再び俺と目が合う。
「確か、持ち帰ったものは全てカルアさんが管理しているはずです」
「そのカルアさんは今どちらに?」
「セイレスにいると聞いています」
そこまで言い終えると【怨念】の効果が現れたのか、苦しそうな表情を見せるお母さん。
お母さんにお礼を言って家から出る。
「今度はセイレスですかー」
「そこにいるカルアさんにアイテムを返してもらえれば」
「お母様の呪いも解除されるはずです」
まだ時間はあるし、今日のうちにカルアさんに会ってアイテムを回収しちゃおう。
再び転移門からセイレスの街へ飛び、お母さんに教えてもらった住所を訪ねる。入り組んだ路地裏の一角にカルアさんの住まいがあった。
ノックしてから数秒後に、扉が内側にわずかに開き、その隙間から人の目が見えた。
「あなたがカルアさんですか?」
「そうだけど、君たちは?」
「実はカルアさん達が数日前に行った遺跡のことでちょっと」
「っっ! とりあえず入ってくれ」
遺跡のことを話した途端に慌てた様子で扉を全開にして俺たちを中へ招き入れるカルアさん。その時になって初めてカルアさんの姿を見ることができた。
ボサボサの茶髪でひょろっとした細いイメージの人だ。その人が俺たちを中へ入れると入り口を勢いよく閉めた。
部屋の中は何かの標本や何かの図鑑やらがそこら中に散らばっていて、寝るスペース以外に開けた場所が無いくらい物で溢れかえっていて、ユリアさんが今にも掃除し始めそうだったけど、なんとか押し留める。
終始慌てた様子だったカルアさんは俺たちが適当な椅子に座ってようやく落ち着いたのか、お茶みたいなものを淹れてきてくれた。
「悪いね、いきなり押し込んじゃったりして」
「やっぱり、遺跡のことって極秘なんですか」
「そもそも君たちが知ってることに驚いたよ。どこで知った?」
「グリスにいる女性に教えてもらいました。ビビちゃんっていう娘のい
る人です」
「ミルヒさんか……でもなんで彼女が?」
「今、彼女──ミルヒさんですか、呪いにかかっているんです。遺跡で墓からいろいろ持ち帰りましたよね?」
遺跡のことに続いて、その遺跡の墓から装飾品を持ち帰ったことまで知られたことを知らされたカルアさんは、一瞬の躊躇いの後、大きく息を吐いて諦めたような顔をしていた。
「そこまで知っていたのか。墓荒らしみたいだから本当はやっちゃいけ
ないんだけどね。どうしても調べたかったんだ、まさかミルヒさんに被害が出るなんて思ってもみなかったよ」
「そうだったんですか、それで呪いを解くには盗った物を元に戻さないといけないんです。できれば返してもらいたいんですけど」
「えっ!? いや、そのー今すぐは無理というかなんというか……」
返してほしいと言った途端に奥歯に物が挟まったように歯切れが悪くなるカルアさん。この感じ、ちょっと前にも経験した気が……
「まさか、売っちゃった、とか?」
「正確にはまだ売ってない! 質に入れただけだ」
サツキさんがポツンとこぼした言葉に反応してハッと我に返るカルアさん。質に入れたって、調べるはずだったのにどうして?
「カルアさん?」
「その、今月厳しくてつい……」
「ついって言ったって、研究素材なんじゃないんですか」
「遺跡を調査して発表すればいくらか入るからその時に取り戻そうと思ってたんだよ」
ついには拗ねたような態度をとるカルアさんを見てため息を吐く俺たち。これは自分たちで買い戻したほうが早いな。
「じゃあ俺たちで買い戻すんでその質屋の場所を教えてください」
△ ▲ △ ▲
「ここかな」
「おそらくは」
「なんというか、胡散臭いですね」
カルアさんに教えてもらって俺たちがたどり着いた問題の質屋はサツキさんの評価通り、とても胡散臭かった。
全体的にボロくて、入り口のわきにあるショーウィンドウのガラスは割れて中は何もない、看板なんか斜めっているし。
もし何も知らない人が見たらとっくに潰れた店だと思うだろう。
「いろいろな所にコネを持ってる人で、持ち込んだ物についても深く聞かれないし使いやすいんだよね」
教えてもらった時に聞いたカルアさんの言葉を思い出す。要は怪しげな質屋ってことだろ。
壊れかけの扉を開け、店内に入るとカウンターの奥に一人の老人が座っている以外何も無かった。
その老人も寝ているのか、うつらうつらと舟を漕いでいる。
「すいません、ちょっといいですか」
「……」
へんじがない、ただのしかばねのようだ。じゃなくて!
「すいませんっ!」
「うわっと! びっくりした! なんじゃいきなり耳元で」
「この店の人ですか?」
「もう潰れた店じゃよ」
「カルアさんに紹介されて来たんですけど」
「……そうか、そっちの方の客かい」
カルアさんの名前を聞いた途端、眠そうにしていた老人の目つきが険
しくなる。雰囲気も変わって、なんというか少し怖い。
「で、出すのか、買うのかどっちかね?」
「カルアさんがこの前に出した物を全部買い戻したいんですけど」
「あー、あの指輪やら剣やらやけに古めかしいやつかい?」
「そうそうそれです」
「残念だがもう無いよ。売っちまった」
もう無い? なんで、どうして? この間質に入れたばかりなのなんでもう無いんだよ?
それより、今は何故より何処に、だ。もう何処へでもいって集めてやるよ!
「じゃあ、せめて何処に売ったのかだけでも教えてください」
「……多分あんたらじゃあそこで欲しいものを集めるのは難しいだろう
」
「大丈夫ですから」
老人は言うか言うまいか悩んでいたが、観念したようで呟くような小さな声でしかしはっきりと聞こえるようにこう言った。
「バックスの裏カジノだよ」




