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71話

すいません、遅れました。

「それで、あんたらは何の用だい」

「婆さんが昔にキュレの花を見つけたことがあるって聞いたから詳しく聞きに来た」

「あぁ、キュレの花か。懐かしい名前だね」


 婆さんは記憶の中を探るように暫く目を閉じていたが、やがて思い出したのか壁の棚の中にあった一つの本を持ち出してきた。

 机の上に散乱したものをどかし、ドカッとその本を置く。A2くらいのかなり大判のサイズの本だ。かなり古い本らしく、所々の装丁が剥がれている。

 その本を開き、婆さんがペラペラとページをめくる。


「確かここら辺に……あった!」


 婆さんの手招きで隣に並び、目の前に開かれたページを見るとそのページの左上には確かに【キュレの花】と書かれている。

 そこには絵も載っていて、キュレの花について事細かに説明が書かれていた。花は薄い緑のダイヤ型の花びらが四枚集まった形をしていて、茎も緑っぽいこともあって、森の中では注意深く探さないと見逃してしまいそうな色合いをしていた。

 

「この絵って、手書きか?」

「おや、気付いたかい。その本は死んだ爺さんの書いた本だよ」


 キュレの花の絵も手書きみたいだし、説明文も手書き。他のページも見てみたけど、全て手書きだった。表紙には【グリス樹海植物図鑑】と書かれている。

 どのページも一つ一つ丁寧に書かれていて、この本を作った爺さんがいかに植物が好きだったかが窺えた。


 ページを捲っていくと、あと四分の一というところで真っ白のページになり途中で途切れていることに気が付いた。

 図鑑を婆さんに返しながら聞いてみる。


「これ途中で途切れてるけどなんで?」

「それがさ、作ってる最中にポックリ逝っちまったんだよ。だからこれは永遠に未完さ」


 図鑑を撫でながらそう言う婆さんは少し寂しそうな顔をしていた。


 とそこで、システム音が鳴りウィンドウが一つ、現れる。


△ ▲ △ ▲


クエスト:老婆の願い

依頼者:グリスの老婆

報酬:


 老婆の持つ図鑑を代わりに完成させよ。


△ ▲ △ ▲


 これはあれか? 完成させたらお礼に図鑑をもらえるパターンのクエストか?

 例のごとく報酬欄は空白だが、もしかしたら図鑑が手に入るかもしれない。マリオにでもあげたら喜ぶだろうな。どうせこの後樹海を歩き回るんだからついでに受けとくかな。婆さんも喜ぶだろうし。


 受注すると、老婆が驚いたような顔をしてこっちを見ている。目をまん丸に見開いて、大きく開けた口は顎が落ちそうだ。


「あ、あんたらがやってくれるのかい?」

「任せておいてよ」

「爺さんが五十年探しても見つからなかった植物ばかりだよ?」

「ま、任せておいてよ……」


 それは爺さんの探し方がかなり下手だったか、運が壊滅的に悪かったんじゃないかな。




 婆さんからのクエストを受注した際に図鑑も預かって、俺達は再び樹海へと足を運んでいた。途中まで一緒だったビビちゃんは「看病をしないと!」とか言ってグリスを出る際に別れてしまった。地図にビビちゃんの家らしき場所にマークが付いているし、再開できないということは無いだろう。いたらいたで困るんだけれども。


「それで、どんな植物を探せばいいんだ?」

「五種類の植物を集めればいいみたいですね」

「目標の植物を採取すれば自動で図鑑もアップデートされる仕組みみたいです」


 それぞれがクエストの確認をしている中、俺は目標のキュレの花のページを読んでいた。


【キュレの花】

グリス樹海のごく一部にのみ咲く希少な植物。全長五cmほどしかなく、うっかり見逃してしまうことも多々ある。※樹海北部にて発見。


 あとは使った際の効果だとか、どういう調合や調薬をすればどんなアイテムになるのかなどが書かれている。一種のレシピ本でもあるみたいだな。


 この図鑑を書いた爺さんは樹海北部で見つけたらしいので俺達も北部を重点的に探すことにした。

 この花以外に図鑑完成のために探さないといけない花がこの五つだ。


【ヒデの花】

周りの色に擬態して隠れる花。非常に見つけるのが困難。


【エスカペ草】

何かが近づくと自分の根から立ち上がって逃げる植物。


【スルスト】

何かが近づくとそれに向かって突っ込み、自身に生った実で自爆する植物。


【マニプラテ】

モンスターに寄生し、寄生したモンスターを操る植物。


【カルの実】

非常に破裂しやすい実。破裂すると周囲のモンスターを引き寄せる匂いを放つ。


 なんというか、どれも一筋縄じゃいかなそうな植物ばかりだよな。これなら五十年掛かっても終わらなくて当たり前だと思うな。

 とりあえず、エスカペ草とスルストはこっそり近づいて採取するしかないだろうし、ヒデの花は頑張って探すしかないし、マニプラテに関しては寄生したモンスターを探すところからスタートだしな。


 

 採取スキルの持っていない俺が白と二人でユリアさんとサツキさんを守っている間にそのエリアの採取ポイントを探していく、という作業を続けてから約三十分。目当ての植物は一向に見つかる気配は無く、現れるのは樹海に棲むモンスターのみ。

 馬みたいなサイズの鹿(勝手に馬鹿と命名)と人間サイズのトカゲみたいなのと、棍棒を振り回してくるゴリラの三種が今まで確認したモンスターだが、樹海だし北部にはこれだけで他にも種類はいそうだな。





「あっ! ありましたよっ!」

 

 そんな声が聞こえてきたのは探し始めてから一時間ほどが経ってからのことだ。

 見つけたのはサツキさん、見つけた植物はカルの実らしい。

 腰ほどの高さの茎の先に卵サイズの赤い実が一つ生っている。これがつぶれるとモンスターを引き寄せる匂いが出るんだとか。


「じゃ、じゃあ採取しますね」

「絶対落とすなよ? 絶対だぞ!?」

「ははははは、はい。い、行きますぅ!」


 下手すると爆弾なんかよりも性質の悪い代物に思わず採取しようとしているサツキさんにプレッシャーを掛けてしまう。

 そして──


「……はい! できましたっ」

「おー、良かった」

「お疲れ様です」


 サツキさんの手のひらには赤い実がしっかりと握られていた。なんとか無事に採取出来たみたいだ。図鑑を確認すると、しっかり絵付きでレシピも載っている。


「いやー良かった。俺があんなこと言っちゃったし、ドジって失敗するかと思ったよ」

「なんとかできました」


 嬉しそうに両手をブンブン振り回すサツキさん。当然片方の手の中には赤い実が握られているわけで、


ブンブンブンブン、ポイッ

「「「あっ」」」


 勢い余ってサツキさんの手から零れ出たカルの実はサツキさんの頭上に上がって、やがて重力に従って下いた彼女の頭へダイブする。

 ペシャっと音を立てて潰れたカルの実からは鼻の奥を刺激するような強い匂いが漂ってくる。


「す、すいません……」

「落ち着いて、サツキさん。まず俺達から離れるんだ!」

「キントウ様、全方向から多数の反応が」

「ごめんサツキさん! 後は任せた!」

「えっ! 置いてくんですか!?」


 すぐさま身を翻してダッシュでその場から離れる。今ならまだ間に合う! 出来るだけサツキさんから離れないと!

 せっかくドジんなかったと思ったらタイミングをずらしてくるとは、なかなかやるな。


「キントウさぁーん! 待ってくださいぃぃぃ!」ドドドドドドッ!

「こっち来るなっ!」


 半泣きで追いかけてくるドジっ子メイドの後ろにはモンスターの群。ユリアさんもちゃっかり俺の後ろについてるし。


△ ▲ △ ▲


「はぁはぁ、死ぬかと思った」

「それはこっちの台詞ですよぉ」

「元はと言えばサツキさんが手を離したからでしょうが!」

「うぅぅ、すいません……」


 モンスターを引き連れたサツキさんからなんとか逃げ切り、グリスの街に逃げ込んだが、体はもうヘトヘトだ。いくらゲームとはいえ、数キロの距離を全力疾走したら息の一つや二つは上がりそうな物だが、隣で佇むユリアさんは汗一つかいてない様に見える、流石メイドさん。これが北部の奥とかだったら諦めてモンスターの波に大人しく蹂躙されているところだったぞ。

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