65話
誤字脱字等ありましたら、よろしくお願いします。
「やっと封印が解けたと思えば、解いたのが勇者達とはな……」
そう呟き、俺達を見る目は燃えるような赤い瞳をしていて黒ローブの奥、青白い肌の上に浮かび上がる赤い眼差しは底の見えない奈落のようで、思わず二、三歩後ずさる。
なんだんだこいつ、これがボス? なんか雰囲気からしてタダ者じゃない感じがするんですケド。
クリスタルの中から目覚めた黒ローブにプレイヤー達がたじろく中、一人が勇敢にも前に出る。ミチルだ。
「ねえねえ、あんたはここのボス?」
「ふむ、この島の主という意味でならそうなのだろう」
「じゃあ倒していいね!」
そう言うが早いか、ミチルは腰のレイピアを抜き、目にも留まらぬ速さで黒ローブに詰め寄る。ちょっと待てよ! なんか重要っぽい事言ってなかったか!? この島の主だとか何とか。
ミチルが黒ローブを攻撃したのと同時にシステム音が鳴り、アナウンスが流れてくる。
【ダンジョンボス、封印されし魔王軍第五番隊隊長ニクとの戦闘が開始されました】
魔王軍って……あのザコ隊長と同じ所属ってこと?
ていうか、黒ローブもといニク隊長って魔族なのか? ザコ隊長は浅黒い肌だったけど、ニクは青白い肌だし、でも瞳が赤いのは同じだな。
とかなんとか考えているうちにもミチル対ニク隊長のバトルは続いており、若干置いてけぼりだった他のプレイヤーもダイモンさんを始めとして戦闘に参加していっている。
魔王軍って数字が若い方が強いなんて言ってたけど、五番隊っていったらいくら一人とはいえ、かなりの強さなんじゃないかな。それに今回のボス(ニク)は人間サイズだから大人数だと、やり辛いはずだ。
「凄い! こんな敵初めてだよ!」
「ふむ、お前はなかなかやるようだな。それに比べこちらは……」
ニク隊長を挟むようにミチルが右から攻め、他のプレイヤー達が左から攻める。ミチルの刺突を魔法の盾みたいなので受け止めたニク隊長は左手をプレイヤー達に向け、すくい上げるような仕草をする。
その瞬間、プレイヤー達の足元が爆発し、攻撃に気を取られていたプレイヤーはまともにダメージを受けてしまう。
「ふむ、こちらにも少しは骨のある奴が居たか」
ニク隊長の視線の先、爆発で煙が舞う中、一つだけ立っている人影があった。ダイモンさんだ。
「あ、あぶねー。死ぬところだったぞ」
「か、回復魔法! 急いで!」
クーデルさんの指示で後衛の魔法使いによってギリギリレッドゾーンに踏みとどまっていたダイモンさんのHPが回復する。他のプレイヤーは半数が今の爆発で死に戻り、残りも辛うじてHPが残っている状態だ。
何あのチート性能、五番隊隊長強すぎだろ、あれの上に四人もいるとか考えられん……
ダメージを負ったプレイヤーが回復のため後ろに下がり、現在戦闘続行が可能なのが、何故かほぼ互角にやりあっているミチル、今の爆発に耐えたダイモンさん、そして離れて見ていた俺だけという状況。
「キントウ、早く手伝ってよ」
「少年よ、行けるか?」
「え、ええ、あ、はい」
「後衛部隊は三人をサポートします。攻撃は控えて支援中心でお願いします!」
「キントウ頑張ってー!」
いつの間にやら、俺がニク隊長と戦うハメに。
いや、俺見ているだけで十分なんだけど。後ろにいるアガサから声援も飛んできて、引くに引けない状況に陥ってしまう。
背中から突き刺さる回復中の前衛と後衛から期待の視線が痛い。え、本当にやるの?
「ふふふ、三人で来るか、少しは俺を楽しませてみろ」
ミチルとダイモンさんの猛攻を魔法の盾で受け止めながらニク隊長は楽しそうに笑みを溢す。
どうやっても俺が戦うことは決定事項みたいなので、諦めてさっさとニク隊長を倒すことにする。仕方ない、白に任せて俺は避けることだけに専念しよう。
見た感じ魔法使い系みたいだし、あの魔法の盾さえ抜いてしまえば案外本体はモロいかもしれないしな。Lucポーションを多用すれば時間短縮になるだろう。
「それじゃ、行くか……白、任せた!」
「はいはい、キントウは安全なところに居て下さいね」
「出た! 黒髪和服少女!」
なんか後ろから声が聞こえたけど気にしない。
白を呼び出してLucポーションを数本あおる。これでいくらかはマシになるだろう。
「ん? なんだ嬢ちゃん、キントウじゃないのか?」
「私はキントウの護衛です、キントウの安全を確保するために戦っているだけです」
「護衛って……まあいい! あいつを倒すってんなら目的は同じだっ、と今のは危なかったな」
俺が参戦すると思っていたダイモンさんはいきなり白が現れて戸惑っていたようだか、黒ローブの放った火の玉をギリギリのタイミングで回避する。 ミチルは見慣れているのか特に変わった様子はない。
俺はミチル達と後衛の中間くらいの遠すぎず近すぎずの場所で成り行きを見守っている。ホントに白がいる間はお荷物だよな俺。
白が来てから戦うことも少なくなってきたし、勝負師の使い所が無くなってきたな。早くLucを上げて白を出しても戦えるようにならないとな。
△ ▲ △ ▲
魔王軍第五番隊隊長ニクとの戦闘が始まってから三十分が過ぎようとしている。これまでに発見したニク隊長の攻撃パターンは五つ。
一つ目は両手のひらから飛ばす火の玉。これは隊長の手を見ていれば回避が可能だ。
二つ目は水を地面から柱のように伸ばして攻撃する水柱。こちらも水が飛び出す位置には予備動作として水溜りのような物が出来るから足元を確認していれば避けられる。
三つ目は怨霊みたいな奴を飛ばしてくる攻撃。たぶん闇属性魔法だと思う。手から飛ばしてきて、思わず避けたらそのまま後ろにいた回復中の前衛プレイヤーの所まで飛んでいき、纏わり付いたと思ったらHPを吸い取られて死んでしまった。闇属性怖い……
四つ目が一番最初に大勢のプレイヤーがやられた爆発。あれ以来、使ってこないけど、はっきり言って回避は難しそう。ダイモンさんみたいに耐えるしかないかも。
最後の五つ目が攻撃ではないけど、自分を囲うように土の壁を召喚する魔法。この壁が硬くて、壊さないと隊長を攻撃できない。しかも壁の向こうから火の玉とか普通に飛んでくるから割と面倒くさい魔法だ。そういえばこのゲーム土属性無いよな、なんか意味でもあるんだろうか。
「はぁはぁはぁ、あの盾がウザいんだけど。ダメージが軽減されてる?」
「嬢ちゃん、大丈夫か? 君回復魔法が効かないのか?」
「武器に回復魔法が効くわけないでしょう」
「ふむ、思っていたよりもピンチのようだな」
肩で息をするミチル達とは反対にニク隊長はまだまだ余裕のご様子。といっても隊長のHPももうすぐレッドゾーンにさしかかろうとしているが。
「ここまで追い詰められたのはいつ以来だろうか。まあ、最近は封印されていたから相当昔の話だが」
なにやら独り言を呟き始めたニク隊長。その赤い瞳が一層明るくなる。
「思えば、私が封印されたのは何年前だっただろうか? 魔王様のお気に入りの壷を割ってしまった罰としてこの絶海の孤島の地下にダンジョンまで作ってこの私を封印されてしまい、解かれたと思えば、目の前には勇者達がいて──」
一人で回想モードに突入する隊長。
このダンジョン魔王製だったんだ。道理でやけに人工的だと思ったよ、それよりもあんた、封印されていた理由がダサすぎる!
なんだよ大事にしていた壷って! 魔王も壷壊されたくらいでわざわざ孤島にダンジョン作ってまで封印するなよ! 短気にも程があるだろ!?
とまあツッコミどころは満載なのだが、今はボスとの戦闘中。相手のHPはあとわずか、こちらも後衛のMPが尽きかけていて、ミチル達の疲労も少なくない。
……白を戻してポーカーで決めてしまおうか? あれくらいのHPならある程度エンを積めば削れると思うんだけどなぁ。
でもそれをやっちゃうと漁夫の利みたいになっちゃうし、最初からやれよみたいな空気になりそうだしな。
どうするか悩んでいると、ニク隊長と戦っているミチルの声が飛んでくる。
「キントウ、あのトランプのやつやってよ! 強いやつ」
はい来たー。ミチルからポーカーの要請が来ましたよ。みんな疲れているだろうし、やるか。さっきまで俺だけ戦闘に参加せずに見ていただけだしね。
「白、一回戻すよ、お疲れ」」
「キントウも頑張って」
装備欄を白からトランプに変えると今まで戦っていた白が光と共に消える。後ろから「あぁ……」とか残念そうな声が聞こえたけど気にしない。
Lucのステータスが戻り、いつでもポーカーを使える状態になった俺はニク隊長の近くまで寄りアビリティ【ポーカー】を発動させる。
……この賭け金って経費で落ちませんかね? 落ちませんよね。かなりの額になるんですよネ……
「ふむ、何か嫌な予感がするな」
魔族の勘か何かがポーカーが危険だと察したのか、右手の魔法の盾で二人を防ぎつつ、左手を俺に向けてくる。マズイ! たぶんあの爆発だ!
「散れ」
「させません!」
俺に向けた左手をすくい上げようとした瞬間、ニク隊長の左手を一本の矢が貫く。お陰で手の動きが止まり、爆発も起きなかった。
「キントウ様は私がお守り致します」
「ユリアさんありがとう。いけっ!」
ユリアさんの援護射撃のお陰で生まれた隙を逃さずポーカーを使う。目の高さに五枚のトランプが浮かび上がってくる。
【♠9、♠10、♠J、♠Q、♠K】【ストレートフラッシュ】
出た役はストレートフラッシュ、賭け金の五十倍にまで膨れ上がった威力を持つ必殺の光球はまっすぐ隊長の下まで飛んでいく。
「ふむ、勝負だ!」
右手一本でミチル達の攻撃を耐えつつ、再び突き出された左手の前には三枚の魔法の盾が浮かび上がる。
正面からぶつかった光球は一枚目の盾を簡単に突破し、続いて二枚目も難なく破り去る。しかし最後の三枚目で動きが止まってしまった。
「ふむ、当たれば死ぬな。だが耐えてみせる」
「頼む、抜いてくれ!」
魔法の盾と光球は互いに一歩も譲らず、動かない。このまま光球が消えるのが先か、盾が壊れるのが先か。
「こっちも忘れんなよ!」
「一気に行くよっ!」
反対側からは二人の全力の攻撃が続いている。流石にキツイのかニク隊長の表情からは焦りの色が見える。
そして──
パリィィィン!!
「ば、馬鹿な!」
「やったー!」
三枚目の盾を破った光球は隊長の胸に当たり、消える。同時に隊長のHPも消し飛んだ。
「わ、私を倒したとしてもまだ四つも上の部隊があるぞ……」
【ダンジョンボス、封印されし魔王軍第五番隊隊長ニクを撃破しました】
テンプレ風な台詞と共に消えていくニク隊長と撃破のアナウンスが流れる中、少しの間誰もが黙っていたが──
「やっったぁぁぁ!」
「終わった~」
「つ、疲れた……」
「お疲れ様でした」
それぞれが称えあい、握手とかしたりしていた。ダイモンさんもミチルも残りHPは少なかったし、後衛の皆もMPがすっからかんだ。それに対して俺は最後にアビリティ使っただけで、しかも撃破しちゃって……なんというか申し訳ない。
「いやー、少年よ助かったぞ」
「やっぱりキントウは凄いね!」
「キントウ君のお陰で勝利することが出来ました。お疲れ様です」
ダイモンさん、ミチル、クーデルさんの順に声をかけられる。本当に申し訳にない気持ちでいっぱいになってくるんですけど……
△ ▲ △ ▲
その後は討伐報酬を分配したりして地上に戻った時は既に十一時前だった。ちなみに俺はいつも通りのLucの良さで【怨霊の黒衣】とかいう隊長が着ていた黒ローブを手に入れてしまった。
その場で解散となり、それぞれが自分のギルドへと帰っていく。
俺もユリアさんとアガサと合流してギルドテントへと戻った。
「いやーお疲れ、キントウ君頑張ったみたいじゃん」
ギルドに戻ってすぐヘムジンさんにそんなことを言われた。なんで知ってるのこの人?
「掲示板でもう出回ってるよ。それに白ちゃんのこともイベント期間中にずいぶんと有名になってるみたいだし」
「……マジですか?」
見せてもらった掲示板には【あの変人商会に新たなアイドルか!?】とか【ボス戦で戦っていた黒髪和服少女が強すぎる件について】などいくつかスレッドが立っている。
「Oh……」
「うわぁ、ついさっきなのに画像付きで出回ってるよ」
「キントウ様のスレッドもありますが」
「……マジで?」
もう見たくなかったけど、何かかれてるか気になったので一応見ておく。
ダイモンさんやミチルなどトッププレイヤー達のスレッドの中に混じって俺のスレッドが表示されていた。
【変人商会のキントウとかいうプレイヤーがチートな件についてその1】
俺は何も見ずにウィンドウを閉じた。何も見たくない。
そしてそのままログアウトした。




