45話
誤字脱字等ありましたら、よろしくお願いします。
そのメールはある日、突然やってきた。
セイレスの門を開放し、厄介だった市場の経営もへムジンさんが代理でやってくれることになり、さてこれから新しく開放されたエリアの三つの道のどこから行こうかと戦闘班三の人で話し合っていた時の事だ。
「ボクは北の道から行ってみたいな。西と東は人が多そうだし」
「人が多い方が攻略も捗るだろ?」
「でもでも、先に他の人が通った場所を通るより、ボクたちが先に通ってみたいじゃん?」
こんなことが先ほどから続いている所為でどの道を行くかなかなか決まらないのだ。ユリアさんは、「お二人にお任せ致します」とか言ってるし、なんかもう何処でもよくなってきたな……
そんな時、ふいにメールを知らせるシステム音が鳴った。俺だけじゃなく、二人にも同時に届いたようだ。
そういえば、この前にもこんなことあったよなぁ、と市場の時のことを思い出しながらメールを開いてみれば案の定、運営からのプレイヤー一斉メールだった。
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From:『俺と勇者とときどき魔王』運営より
件名:サービス利用者数、累計百万人突破記念企画のお知らせ
『俺と勇者とときどき魔王』をご利用頂き誠にありがとうございます。
本サービスの利用者数が累計百万人を突破したことを記念して特別なイベントを企画しております。
詳細は後日、公式サイトで発表いたしますので奮ってご参加下さい。
今後も『俺と勇者とときどき魔王』をお楽しみ下さい。
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へぇ、累計で百万人もこのゲームをやっている人がいるのか。今はゲームの在庫も安定してきているだろうし、ネットでの評判も良いみたいだから百万人くらいはプレイヤーはいるんだろう。
それにしても、特別な企画ってなんだろう? もしかしてメイカーの闘技場でプレイヤー対プレイヤー戦とかだろうか? もしくはまた魔王軍と街の防衛戦だろうか?
などと考えていると、メールを読み終えた二人がそれぞれ感想をもらす。
「イベントかぁ、面白いのだといいなー」
「これを期にへムジン商会の名前が広がればいいですね」
俺は既に結構知れ渡っていると思いますよ?
それから数日後、公式サイトにイベントの詳細が発表された。
イベントの期間は一週間後にあるアップデートの終了からの約二週間。その間はプレイヤー全員が特殊エリアに転送され、強制参加らしい。
そして、肝心の詳しいイベントの内容なのだが……
「夏だ! 海だ! 魔王の罠だ! 絶海の孤島で生き延びろ!」
「なんじゃそりゃ……」
「えー、キントウ楽しみじゃないの? 海だよ海」
「いや、まあそうだけどさ、魔王の罠ってはっきり書いてあるじゃん」
今回のイベントとは、俺たち勇者が魔王の罠によって絶海の孤島に転送されてしまった、どうにかして生き延びろ! みたいなストーリらしい。もちろんイベント期間が終了すれば元に戻される。
イベント中にはランキングもあるそうで、モンスター討伐など、期間中の行動によってポイントが溜まっていく仕組みらしい。
ランキング上位者には報酬も出るということで、掲示板上では大変盛り上がっているとか。
「このランキングですが、個人とギルドの二つがあるみたいですね」
「そう、ここでギルドランキング上位に入って更に有名になるよ!」
「へムジンさん、いたんですか……」
いつの間にか俺の後ろに立っていたへムジンさんのやる気に満ちた顔を見て、イベントでも何か儲ける方法を考えているんだなと直感で感じた。
それにしても海か、リアルも梅雨が終わってそろそろ夏に入ってくるころだし、運営もこの時期を狙っていたんだろうか。
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それからの一週間は攻略の手も一時的に止まり、どのギルドも来たるイベントに備えて情報収集と準備に力を注いでいた。準備って何をすればいいのか分からないが。
俺たちのギルドも例外ではなく、戦闘班の活動は休止になり、ユリアさんは情報収集、アガサはクランキーズの手伝いーー店は休まず続けるらしい、客から情報が引き出せるかも? というのがへムジンさんの予想だ。
特に仕事も無く、手持ち無沙汰となった俺は基本的にマリオの店に入り浸ることが多くなっていた。マリオはポーションをせっせと作っている。今のところのギルド一番の収入源がこのポーション屋なのは言うまでもない。
ただ、レイさんの作るコスプレ服の値段がどのくらいなのかは知らないが、ネコネコさんが言うには割と需要はあるとかないとか。
「よく同じものばかり作っていて飽きないよな」
「同じ種類のポーションでも違いはあるのよ?」
マリオから手渡された二つのポーションを見比べる。アイテム名は両方とも【グリーンポーション】。現在、最前線で主流のポーションだ。
いくら見ても違いとやらがわからないので、肩をくすめてみせると「アイテムの説明をよく見なさい」と言われた。
まず、一つ目のグリーンポーションを見てみる。
【グリーンポーション】
飲むとHP総量の五十二%回復する
うん、普通だ。いつも使っているのと変わらない。続いてもう一つのグリーンポーションも見てみる。
【グリーンポーション】
飲むとHP総量の五十%回復する
よく見ると、一つ目は五十二%だったのに、二つ目は五十%になっている。
どういうことだ? とマリオを見ると、ポーションを作る手を一旦休めて説明してくれた。
「ポーションを作るとき、作成の結果にバラつきが出るのよ。だから一律五十%じゃなくて、五十五%だったり、ひどい時には四十%だったりするの」
「なるほどね、生産職じゃないと気が付かないな」
「戦闘職のプレイヤーはあまり気にしないのよね。その一%で結果が変わることもあるのに……」
その後、この前に貰った試作品ポーションの結果をマリオに報告した。特に白が暴走したハプディングポーションについては本当に何が起こるか分からないということを念入りに伝えておいた。
ところが、その白のことを聞いたマリオが面白がって持っていたハプディングポーションを飲んでしまい、白のようにはならなかったが、三十分ほど体がまったく動かせなくなり、このポーションは封印することになった。
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やがて一週間が過ぎ、今はアップデートも終わろうかという時間だ。既にいつでもログイン出来る状態の俺は今か今かと待ち構えていた。
「孤島とやらはどんな場所なんだろうな」
そして十分後、アップデートが完了したという通知を確認していつものようにログインをする。徐々に意識が暗闇の中に落ちていった。
コージとネコネコさんのギルドもランキング上位を狙ってがっつりイベントに参加するそうなので、どこかで会うかもしれないな。
ログインが完了し、目が覚めて真っ先に視界に移ったのは一番最初にアバター設定したときのような真っ白い空間だった。これからイベントが始まるのかと少しの間待っていると、正面にウィンドウが現れ、俺たち勇者が魔王の仕掛けた罠にかかって絶海の孤島に転送されるまでの経緯が映像説明された。ここら辺は既に公式サイトの情報で知っていたので適当に流す。
説明の映像が終わったところで何処からか、アバター設定の時にもいた神様の声が聞こえてきた。
「あらすじは分かったかな? 次回ログイン時からは省略されるからね。それじゃあ、頑張って」
聞き終わったところで再び俺の意識は暗闇に落ちていった。
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意識が戻ってくる。まだ目を開いていないのでここが何処なのかははっきりしないが、波の音が聞こえてくるのでおそらくは海岸の近くだろう。
それにしても、暑い。とてつもなく暑い。焼けるような日光が降り注いでいるのが肌で感じられる。ゲームの中で日焼けってするんだろうか? そもそも紫外線とかあるんだろうか?
どうでもいいことを考えるのを止め、ゆっくりと目を開く。
目の前に雲一つない青い空が見えた。視界の端にチラチラ見え隠れするのは椰子の葉っぱだろうか。
上半身だけ起こして辺りを確認する。どうやら俺は砂浜の上にいるらしい。それがわかると、途端に尻が暑くなって慌てて起き上がる。
俺の他にもログインしてきたプレイヤー達が何人も砂浜に寝っ転がっていて、何も知らない人が見たらさぞ驚く光景だろう。
とりあえずギルドのメンバーと合流しないと。フレンドリストの中からログイン状態になっていたへムジンさんにコールする。
ワンコールで出てくれた。流石ヘムジンさん、早いですねぇ。
『キントウ君? もうログインしたんだね、今何処にいるかな?』
「ちょっと待ってください」
マップを開いてみるとこれもイベント仕様になっていて、島の全体像がわかった。
島は角のとれた正方形の四隅に岬というか半島が一つずつ付いていて、歪な風車みたいな形をしている。俺の現在地点は島の南の海岸らしい。
「南の海岸です」
『良かった、同じ場所からスタートだね。スタート地点は北と南の海岸だから別々だったらどうしようかと思っていたんだ』
それから間もなくして、ヘムジンさんと合流することができた。ヘムジンさんは先にユリアさんとマスターと合流していたそうで、二人も一緒にいた。これであとはアガサとマリオとレイさんか。プリンさんはリアルの事情でここ最近はログイン出来ないとヘムジンさんから教えて貰った。そういえば見ていなかったな。
「これからどうします?」
「まずは残りのメンバーと合流したいね」
「その後ですよ。ぶっちゃけ、この島で何すればいいんですかね?」
「まあ、楽しめばいいんじゃないかな? 島の奥にはダンジョンもあるみたいだし、ここでしか手に入らない食材とかもあるらしいし」
いたって余裕そうなヘムジンさんとユリアさんとは対照的にマスターは既にグロッキー状態だ。暑いのが苦手らしい。
「なんでこんなクソ暑いんだよ……溶けそうだぞ」
「海の中は涼しいんじゃないの?」
「そうか! それじゃ、一足先に泳いでくるぞ!」
言い終わらないうちに海に向かって猛ダッシュで駆けていき、見事な放物線を描いて海に飛び込んだマスターだが、岸から数メートルも行かない地点で手足をバタつかせてブクブクと沈んでいった。
まさか、あの人泳げないの?
波打ち際に流されてきたマスターを介抱しているうちに残りのメンバーも集まり、これで全員集合となった。同じギルドのメンバーは同じ開始地点に設定されているのかもしれないな。
「くっそ、なんで泳げないんだ!」
「マスターってカナズチ?」
「いや、中学の頃は県予選までいったことがあるぞ」
それならどうしてマスターは泳げなかったんだろうか。
その疑問はアガサとレイさんによって割とあっさり解決した。
「見て見て! 水着だよ、似合う?」
水着を来たアガサが現れたのだ。しかもスク水の、胸にはしっかりと『あがさ』と書かれている。
アガサの元気なイメージとスク水は良く似合っていたが、あまりにいきなりだったので思わず反応が遅れた。
「ど、どうしたんだ?」
「レイに貰ったんだ、どう似合う?」
「うん似合ってる」
「へへへー、でしょ? それではアガサ、突撃します!」
そう言い残してアガサもマスターと同じように海に飛び込んでスイスイと泳ぎ始めた。気持ちよさそうだ。後ろにいたレイさんの方を見ると、両手に男性用のトランクスタイプの水着を持っていた。
「ふたりともこれだけを装備するのね」
言われたとおりに海パンだけを装備する。その後にスキル取得のウィンドウから【水泳】という名前のスキルを取るようにと指示された。やっぱりあったんだ、水泳のスキル。
スキルを取ってみてからおそるおそる海に入ると……ちゃんと泳ぐことが出来た。スキル枠を一つ使っちゃったけど、まあいいか。まだ余っているし。
「どうやら、水着カテゴリーの防具を装備して【水泳】のスキルと取らないと海で泳げないみたいだね」
「そうなのね、水着でコスプレといったらスク水なのね」
しばらく泳いだあと、陸に戻り、装備を元に戻した。装備を変えると濡れた体が一瞬で乾くので拭く必要が無いのは楽だな。
「やっぱり、海に来たんだから泳がないとねっ!」
「海水の味までリアルだったな」
「あれ、ヘムジンさんは?」
しばらくの間にどこかへ行ってしまったヘムジンさん達を三人で探しながら砂浜を歩いていると、人だかりが一つ出来ていた。
その周りにはアガサと同じようなスク水のプレイヤーや、俺とマスターが穿いていた物と同じ海パンのプレイヤーもちらほらと見かけられる。
もしかして……
既に答えは分かっていたようなものなのだが、一応確認の為に行ってみると、予想通りヘムジンさんがレイさんの作った水着を売っていた。いつの間にそんな在庫があったんだよ?
「海って言ったら水着でしょ? 予めレイに作ってもらってたんだ。初日から大儲けだよ!」
流石ですへムジンさん。もう儲けているんですね。




