43話
誤字脱字等ありましたら、よろしくお願いします。
不気味な声と共に正面のログハウスの入り口がキィと軋みながら開き、中から人影が出てくる。入り口付近が影になっている所為ではっきりと容姿は見えないが、声からして若い男性だろうか。
人影は入り口の扉を閉めた所で立ち止まり、俺たちを観察しているようだ。
「ほう、王が寄越した勇者はたったの三人か。ずいぶんとナメられたものだな」
「えっと……あなた誰?」
と俺が聞いたところ、その質問を待っていたかのようにクックックと笑みを零しながらその人影は答えてくれた。
「私か? 私は魔王様に仕える魔族の一人、魔王軍第百二十番隊隊長ザコ様だっ!!」
「「「……ザコ?」」」
そう名乗ったのと同時に影から飛び出てきて俺たちの目の前に着地する。
赤い瞳と浅黒い肌に灰色の髪をした俺と同じくらいの背格好の魔族だった。まあ魔族と言われれば魔族に見えなくもないけど……魔族ってこんなもんなのか? 全然強そうに見えないぞ。
それはさておき、あいつの名前からして弱そうだよな。魔王軍第百二十番隊ってどれくらいかも分からないし。
「ちなみに魔王軍って何番隊まであるんです?」
「百二十番隊だ。もちろん強い者の方が数字は小さいぞ」
ほら、魔王軍最弱みたいだし。アガサなんかもうやる気無くしてるよ、ユリアさんも顔が引きつってるし。
俺たちが揃って呆れ返っていると、何を勘違いしたのか、それを怖がっているように見えたらしいザコ隊長は再びクックックと笑い、声高に宣言してきた。
「姫を救いにやってきた勇者たちよ、このザコ様に恐れおののいて引き返すというのなら見逃してやってもいいぞ? それとも私と戦って無様に負けるかね? ん?」
「うわ、ウザいな……」
「よし殺ろう今すぐに」
「微力ながらお手伝いさせて頂きます」
「そうかそうか、自ら敗北を選ぶか……よろしい、ならば戦争だっ!」
ザコ隊長の掛け声と共に周囲の森の中から大勢の森賊たちがどこぞの戦闘員よろしく飛び出してくる。その数おそらく四十人ほど。ザコ隊長本人はログハウスの前でふんぞり返っている。ウザい。
一体の森賊が飛びかかってきたのを皮切りに一気に乱戦にもつれ込む。
俺は戦闘を白に任せ自分自身は回避だけに集中する。Lucを全て白に渡しているから完全に戦力外だ。この状態で武器を使ってみたらどうなるんだろう? 白は一応右手装備の状態なので左手は空いている。試しにトランプを装備してポーカーを使ってみた。
【ノーペア】【ノーペア】【ノーペア】【ノーペア】【ノーペア】【ノーペア】【ノーペア】【ノーペア】【ノーペア】【ノーペア】
回避の間に試しに十回使ってみたが予想通り全てノーペア。今はLucがゼロだからこんなものか。やはり戦闘は白に任せておとなしく攻撃を避けていよう。
△ ▲ △ ▲
白とアガサ、ユリアさんのおかげで戦闘員の森賊はみるみる数を減らしていき、今最後の一人が倒されようとしている。最初は余裕綽々だったザコ隊長も今では汗ダラダラで呆然としていた。いくら数が多くても一体一隊が弱いんだから、彼女達の敵ではない。
そして最後の森賊が倒され、とうとうザコ将軍一人を残すのみとなった。
「さぁて、早く殺ろうか?」
「お待ちくださいアガサ様。ここはじっくり行くべきかと」
「可哀想だから一思いに殺ってやらないか?」
「ま、待て! 私はまだ負けていないぞ! こうなったら最後の切り札だ、いでよ大森賊!」
再びザコ隊長の号令と共に今度は森の奥からドスンドスンと地響きのような音が近づいてくる。何事かと構えているとログハウスの後ろの森から木々をなぎ倒しながら巨大なゴツい森賊が姿を現した。
「くっくっく、見たか! これが最後の切り札、大森賊だ! パワーは桁違いだが言うことを聞かないから出来れば使いたくなかったんだが、こうなったら仕方ない」
「手に負えない物なんか呼ぶなよ!」
もし暴れて姫ごとログハウスを吹っ飛ばしたりでもしたら姫が死んでクエスト失敗になってしまう。それだけはどうにか回避しないと!
今にも暴れだしそうな大森賊を見上げる。あの丸太よりも太い腕で吹き飛ばされたりしたらひとたまりもないだろう。
「白があいつのターゲットを取って攻撃を回避、ユリアさんは後ろから攻撃、アガサは援護よろしく!」
「仕方ないですね。少ないLucで頑張りますか」
「おっけー!」
「承知しました」
俺もユリアさんと同じくらいの位置で点棒をちまちま投げる。あまり強くは無いけれど、何もしないよりはマシだ。
白が大森賊の後ろに回り込み、右足の踵を殴りつける。その一撃で大森賊はバランスを崩し、尻餅をついて転んでしまう。その隙を逃さず、ユリアさんの放った矢が目にささり、大森賊がうめき声を上げて目を抑えてジタバタする。やはり生物系のモンスターは弱点がわかりやすくていいな。
起き上がり、怒った様子の大森賊がユリアさんに向かって突進しようとするが、白が間に入ってそれを邪魔する。ターゲットが白に移動し、今度は両腕を振りかぶって白に向け叩きつけるが既に白はその場にいない。後ろに回った白はガラ空きの背中を狙って思いっきり蹴りつける。そのままうつ伏せに倒された大森賊目掛けて矢の雨が降り注ぐ。ユリアさんのアビリティだろう。大森賊のHPは確実に減って来ており、残り七割ほどといったところだ。パワーはあるけどスピードが無い分、白に分があるのだろう。
そんなこんなで地道にHPを削っていき、残り三割といったところで大森賊の様子に変化が現れた。なにやら背中を丸めてグッと堪えたかと思ったら、背中から腕が二本新たに生えてきたのだ。
「見たか、これが我々魔王軍の力だ! 行け! 大森賊よ!」
巻き込まれないように木の影に隠れていたザコ隊長が影から野次を飛ばす。本当にあいつザコっぽいよな。
形態変化した大森賊は四本の腕を使って白に猛攻を仕掛けてきた。二本なら避けることができた攻撃も倍の四本になったことで攻撃を躱すのが難しくなっているようだ。白の顔に焦りの表情が浮かんでいる。
今の所は白が大森賊を引き付けてユリアさんが攻撃しているけど、白はいつ倒されてもおかしく無い状況だ。白が倒されるよりも先に倒さないといけない。見ているだけしか出来ないのがもどかしい。何か俺に出来ることが無いかといろいろ探していると、イベントリの中にある一つのアイテムが目に止まった。こ
の前にまたマリオに渡された試作品ポーションだ。今度のは黒というか、紫というかなんとも言えない暗いドロっとした気持ち悪い色をしている。確か何が起こるか分からない【ハプディング】とかいうプリンさんが作った物と混ぜて作ったポーションらしい。
これに賭けて飲んでみるか? もしかしたら今の状況を打破するだけの何かが起こるかもしれない。逆に言えばこの状況を更に悪化させる何かが起こる可能性もある。
どうしよう……もしバッドステータスとかが出たりしたら目も当てられないし……いや、飲んでみるしかない。今の俺に出来ることはこれしかない。ええい、ままよ!
意を決して一気に煽る。ドロっとした嫌な感触が喉を通りすぎていく、うへっ気持ち悪い。
飲み切って改めて自分の体を確認してみるが特に目立って変わった所は無い。あれ、失敗か? 試作品だし。結局、何も変化が無くみんなを手助けをすることが出来なかった。我ながら情けない。意気消沈しているところに、目の前に白が現れた。ここ、後衛だぞ? 何してるんだよ、ユリアさんが襲われるだろ。
「ここで何してるんだよ?」
「えへへっ、ご主人様~!」
突然、笑顔になった白が抱きついてくる。えっ、ちょっとどういうこと!? あまりにも唐突すぎて思考が付いていかない。今俺は戦闘中で戦況が芳しくなくて、何か助けになるかもって思って試作品ポーション飲んだけど何も起こらなくって……あっ!
まさか、ポーションの所為で白がおかしくなったのか? でもなんで白に? 俺の持ち物だからなのか? それより、大森賊大森賊! あいつを早く倒さないと!
「ちょっと、離れろよ!」
「えー、じゃあどうしたらさせてくれる?」
「先に大森賊倒してこい!」
「うん、わかった!」
そう言うと、大森賊まで一回の踏み込みで距離を詰め、そのままの勢いで大森賊の腹を狙って正拳突きを喰らわせる。突然に正拳突きをまともに喰らった大森賊は残りのHPが消し飛び、ポリゴン片となって消えていった。
「まさか、あの大森賊が倒されるなんて……お、おぼえてろよ! いつかこの借りは必ず返してやる!」
先ほどから隠れていたザコ隊長はそれだけ言い残して逃げていった。ザコだなぁ。
「おつかれー、最後の凄かったねぇ」
「お見事でした」
「ああ、俺もびっくりし……」
「ご主人様! 終わったよ~!」
満面の笑みを浮かべた白が突撃して抱きついてくる。もちろん受け止めきることができずに地面をゴロゴロ転がって止まる。アガサとユリアさんは固まっていた。そりゃ、いきなり白が抱きついたら驚くよな。
「おい白! 離れろって!」
「さっきの倒したらさせてくれるっていったもーん」
「言ってねえよ!」
「まあまあご主人様はそこに抱かれているだけでいいから……って。え?」
途端に顔から笑みが消え、いつもの白の表情に戻る。やっと効果が切れたか。
白は自分の今の状況が理解できていないようで、周囲をキョロキョロ見回してから俺に抱きついている自分も見て。
「キャアアアアァァァァァ!」
「ごふっ!」
顔を真っ赤にしながら俺の鳩尾に一発入れて消えてしまった。ダメージは入らないけど衝撃はくるんだよ? 自分の武器に鳩尾殴られるって、どういうことだよ……
「キントウ何してたのカナ?」
「ちょ、ちょっと待て! あれはアガサたちを助けようとした結果なんだ!」
「全然関係ないでしょうが!」
なぜかアガサがキレて追いかけてきたので怖くなって全力で逃げることになった。ユリアさんも見てないで助けてくださいよ!?
結局、モンスターを倒したというのにまた動き回るハメになってしまった。そういえば何か忘れているような気が……




