37話
誤字脱字等ありましたら、よろしくお願いします。
坂道を下っていき、街の入り口にあたる門の前に到着する。街の外観はグラムやメイカーとさして変わらず、まだ新しい国に来たという実感が湧かない。
街に入ろうとすると門番に止められ、勇者の証を見せると、快く通してくれた。
「【リエン】へようこそ、勇者様」
どうやらこの街は【リエン】という名前のようだ。ひとまず門を入って通りの向こうに見える転移門を目指す。通りには店が開いていて、いくつか見てみたが、メイカーでも売っている物も多くあった。メイカーと近いから関所が占拠されるまでは交易とかしていたんだろうか?
開放されたばかりでまだ人通りは多くない、転移門を使えるようにした後、特にすることも無かったので各自、自由行動となった。アガサは街を探検してくるといってどこかへ行ってしまい、ユリアさんは新しい素材やアイテムが売られていないか調べると言っていたので俺もそれに着いていくことにした。
最初にマップでこの街の形を確認する。この街も北と南の二つしか門が無く、規模もそこまで大きく無いのできっとこの街は通過地点のような街ではないかと思った。大きな通りも南北の門を繋ぐ一本だけで、重要そうな施設も見受けられなかった。
「では大通りを散策いたしましょうか」
ユリアさんの提案に従って俺たちが入ってきた南門から次のフィールドに行ける北門の方向に向かって歩いてみることにした。
「ユリアさんは毎回こういう事をしてたんですか?」
「はい、新しい素材などを先に手に入れられれば、高く売れることもありますので。ポーションも私とヘムジン様で毎回買い占めてたんですよ?」
「ユリアさんも手伝ってたんですか?」
「ヘムジン様とは第一陣のサービス開始時からの付き合いですので」
微笑を浮かべながら答えてくれるユリアさん、最初の頃からヘムジンさんとつるんでたんだ。
一件一件店を見て回り、見たことのないアイテムなどが売っていないか探す。これ結構根気がいるな、アガサとかだったら二軒目で飽きるだろうな。それをユリアさんはやってたなんて、本当に流石です。
ひと通り見て回って、北門に到着した。新アイテムは売っていなかったが、魚介類っぽい素材を買うことが出来た。養殖が盛んらしいからかな?
ユリアさんは買った素材をメイカーに売りに行くのでその場で別れた。なるべく早く売りにいかないと意味が無いらしい。さて、俺はどうしようか。さっそく新しいフィールドに出てみてもいいかもしれない。それなら一人じゃなくて誰か誘ってみるか?
△ ▲ △ ▲
「おぉ、久しぶり! さっそく寂しくなったのかな?」
数少ないフレンドリストの登録者の中で今暇している人はネコネコさんしか居なかった。それでも一人よりはマシかということで連絡したんだが……
「ワンコール鳴らないうちに出るってどんだけ暇なんですか……?」
「いつキントウ君から連絡が来てもいいように正座待機してたのさ!」
ネコミミをピンと立ててそう言うネコネコさん。正座待機って、ホントどんだけ暇だったんだよ。
メイカーで待ち合わせた時も俺より先にメイカーの転移門前にいたし、俺、リエンの転移門から一瞬で来たんだけどな……
ネコネコさんはまだリエンに行ってないので俺が迎えに行き、ネコネコさんをリエンに連れてくる。どうやら一回行ったことのある人が転移門を開けば行ってない人も通れるようだ。ちょっとこれってズルくない? まあ生産職のプレイヤーにとってはありがたいのかな。
二人でパーティを組んで北門からフィールドに出る。この時間になってだいぶ人も増えてきた。街を無視してフィールドに直行するプレイヤーもいるようだ。
とその前に一つネコネコさんに聞いておきたい事があった。
「そういえばネコネコさんってどんな戦い方をするんですか? 使役系ってことしか分からないんですけど」
「んー、説明するより見てもらった方が早いかな」
というわけで、さっそくフィールドでモンスターを見つける。メイカー周辺でも見かけるスタンドブルが呑気に草を食べている。ネコネコさんはあいつに決めたようだ。
「じゃあ行くよ?」
ネコネコさんは丸腰のままスタンドブルに近づいていく、まだ何も呼び出していないし、どうやって戦うんだ?
スタンドブルまで五mというくらいまで近寄る。まだ何もしていない。と思ったら、突然ネコネコさんの体から赤いオーラのような物がゆらゆらと立ち昇ってきた。そして彼女の腰のあたりから髪の毛と同じ色の尻尾がニョキッと生えてくる。いきなり何が起きたんだ? あれが彼女の戦い方ってやつなんだろうか?
尻尾が生え、赤いオーラのようなものを漂わせているネコネコさんはその状態でスタンドブルに向かって突進し、思いっきり素手で殴りつけた。スタンドブルのHPゲージが一撃で五分の一弱ほど減る。あれ、スタンドブルって硬くて有名なモンスターなんだけどな、なんであんなゲージが減ってるんだろう?
スタンドブルが反撃しようと角を振り回すが、すべてステップで避け、素手でのラッシュを喰らわせる。パンチが当たるごとに相手のHPゲージがガクンと減り、ついにはゼロのなって消えていった。
モンスターを倒したのを確認すると、腰から生えていた尻尾が引っ込み、オーラも消えてしまった。使役系って事はてっきり魔法職みたいな遠距離かと思っていたら、ばりばりのインファイトだった。あれも使役系にカテゴライズされるのか?
「いやー、いい汗かいたわ」
「今の何だったんですか?」
「何って、アレが私の戦い方だよ」
「使役系でインファイト?」
「そうそう、【猫憑き】っていうジョブでね、自分の体に猫の霊を憑依させて戦うの」
再び、尻尾とオーラを出して見せてくれる。尻尾がゆらゆらしているのが可愛い。それにしても、どこまでいってもネコっぽい人だな。
ネコネコさんのプレイスタイルも分かった所で、始めて二人で同時に戦闘をすることになった。ネコネコさんが前衛で俺が後ろから点棒とトランプで援護という形だ。彼女と白の二人がかりでボコボコにする、という案もあったけど、まだ少し気まずかったので今回は止めといた。あと説明も面倒かったし。
三十分ほど門の近くで狩っていたが、リエン周辺はメイカーとほぼ同じモンスターが出現することがわかったので、先に進むことにした。というよりここら辺はネコネコさん一人で十分だったため、もっと強いモンスターの方が楽しめる、というわけだ。
少し進むと、石畳で舗装された道が見えてきた。脇には【リエン街道】と書かれた看板が立っている。この道を進めば新しい街にたどり着けそうだ。
「行きます?」
「もちろん、君の行く所ならどこまでも」
「なんですか、それ」
「君には恩があるからね」
「別にいいですよそんなもの」
まっすぐ続く街道を二人で歩く。左右には鬱蒼とした森が広がっていて、マップを見ると【リエン森林】と表示されている、あの森もフィールドなのか。じゃあ道を外れて森に入ってもいいんだな。まあ今のところ入る気はさらさら無いけど。
しばらく歩くと突然、森の中から人影が飛び出してきた。
「ここいらは俺たちの縄張りだぜ、通りたかったら通行料を払いな!」
「タダでは通さないぜ?」
ボロい服をまとった、ザ・盗賊といった風貌のモンスター? が、ナイフをちらつかせながら脅してきた。こいつらもモンスター扱いでいいのか? あ、モンスターっぽいな。ちゃんと《森賊A》と《森賊B》って名前が出てる。
森賊っていうのは、リエン森林に棲息する山賊みたいなものかな。でもいくらモンスターとはいえ、人の型をしているとやり辛いな……
「ほら、早くしねぇとこっちからうばどびゅえ!」
「さっさと出さごふぁ!」
「ウザいわ!」
森賊が台詞を言い終わらないうちにネコネコさんが片付けてしまった。二人ともアッパーを喰らって頭から石畳に落下して消えていった。あれはあれで、なんか可哀想だな。あのモブキャラ感がそれを引き立たせている。
少し進んでは森賊が現れ、倒したと思って少し進んだらまた飛び出してきて、と強くはないものの、数が多い所為でなかなか街道を進めない、ゴブリン並みの数の大さだぞ、あれ……
「なんか、もう飽きたんだけど」
ネコネコさんの一言で帰ることになった。だが、帰りにも森賊に襲われて彼女が半ギレだったのは言うまでもないことだ。
△ ▲ △ ▲
「なんだこれ……」
結局、試験型転移門でリエンに戻り、ネコネコさんと別れた後、メイカーのギルドに戻ってきたのだが、何故かクランキーズが満員で店の外に待機列まで出来ていたのだ。開店初日まででは無いものの、いつもの三~四倍近い客の数にマスター達はてんてこ舞いだった。
「キントウか! ちょうど良かった、人が足りてない、手伝え!」
「はぁ、またかよ……」
NPCを雇っているにも関わらず余裕が無いようだ、仕方なく前にもらった執事服に着替え、ウェイトレスの仕事を手伝う。
しばらく仕事をしていると、客の一人に声をかけられた。こう言っては何だが、うちに来るような感じではない男性プレイヤーだった。
「あの、この店にこの前の魔王襲撃の時に南門で歌歌ってた子いますよね?」
「え、ああ、アガサのことですか?」
「たぶんその子だと思うけど……いませんか?」
店内をキョロキョロ見回している男性プレイヤー、もしかしてアガサ目当て?
「今はいないですね」
「そうですか、じゃあまた今度来ます」
それだけ言って店を出て行ってしまう。本当にアガサ目当てだったよ、店内をよく見てみるとさっきの男性のように店の中をキョロキョロしているプレイヤーばかりだった。この混み具合の原因ってアガサだったのか!
「ふっふっふ、どうだいこの集客度! 名付けて、『アガサ、アイドル化作戦』だよっ!」
いつの間にか背後にいたヘムジンさんが不穏な笑いと共に現れる。また何か企んでるようだ。
「アガサはもともとアイドルですよ、ジョブ的に」
「それを利用して本格的にアイドルになってもらうんだよ。クランキーズで食べるごとにポイントを出して、一定ポイント溜まるとアガサと握手できる、みたいな?」
「何そのアイドル商法……」
その後何も知らないアガサがひょっこり店に帰ってきて、大騒ぎになってしまった。収拾つけるのに俺とマスター二人がかりで三十分もかかった。こういうのは別の場所でやってもらいたいよな。
「おい、本物のアガサがいるぞ!」
「どこだ? 俺にも会わせてくれ!」
「アガサー! 握手してくれー」
「え、なに、これなに? 何があったの?」
「はーい、アガサと握手したい人はこっちに並んで商品を買ってからにしてくださーい!」
『よし、買った!』
「なんだこれ……」




