33話
誤字脱字、感想等ありましたらよろしくお願いします。
「ジャンゴさん、凄すぎる……」
本を読み終わって思わず呟いてしまった。図書館にあった本は【ジャンゴの手記2】という名前で彼の二十二歳から二十六歳までに彼のまわりで起きたことが記されていた。
その中に白についても書かれていて、当時白は賭けの景品だったそうだ。しかも最初からあの性格でジャンゴも出会って最初は苦労したと書いている。そりゃ、初対面なのにバカにされるっていうのもなかなか無いことだよな。
他にも面白いエピソードなどがいろいろと書いてあって気が付けば図書館に来てから既に三時間を過ぎようとしていた。本をテーブルの上に置いて地下書庫から受付に戻る。その際に男性職員に質問をしておく。
「ジャンゴに関する本ってあれだけですか?」
「はい、そのはずですけど」
「そうですか、ありがとうございました」
「暇があれば探しておきますよ」
今日俺が読んだ本は【ジャンゴの手記2】。つまり【ジャンゴ手記1】がどこかにあるはずで、もしかしたら王都の図書館には無いのかもしれない。なんとなく、最初から呼んでみたくなり、途中だけしか読めなくてもどかしくなる。今呼んでた手記2だって終わり方からして続きがありそうだし、これはもしかしてあれか? この世界にある図書館に散らばっているとかなのか? だったら面倒くさいな。まあ目標の一つとして考えておこう。
△ ▲ △ ▲
それから数日経って、ゴブリンたちが占拠する関所のボスが居座る金庫室に到達したという情報が掲示板に載った。今回最初に到達したのはクーデルさんのパーティーだそうだ。数回の偵察をした後、二・三日後には本番のボス戦になるそうだ。
へムジンさんから届いたボス戦についてのメールを閉じ、ふぅと息を漏らす。
今日は土曜日。そう、土曜日だ。土曜なのである。大切なことなので三回言った。土曜ということはつまり、アガサに飯を奢る日なのだ。
時刻は午前十一時を過ぎた頃。休日ということもあって俺が今いる転移門前の広場には結構な人がいる。その中で俺はベンチに座って先ほど届いたメールを読んでいたというわけなのである。
指定された時間は午前十一時三十分、つまりあと三十分間待たなくてはならない。
今日は暇だった所為で朝から街中をブラブラしたり、ω姐さんの店に遊びに行ったりした後、この広場に来たのだが、まだ待たなくてはならないのか。
どこかで人間を殺す一番の毒は退屈である、とかいうのを聞いたことがある。あれ、きっと正しいわ。今、現在進行形で暇すぎて死にそうだもん。
フィールドに出るとしても中途半端、店に戻れば誰かしら居るだろうけど、店自体に居られる時間が少なくなる。さて、どうしたものかと広場を歩いていくプレイヤー達をボーッと見ていると、その中で一人だけおかしな動きをしている人が視界に入ってきた。
肩まで伸ばした明るい茶色の髪と俺と同じくらいの身長が印象的な女性がゾンビのように今にも死にそうな状態でフラフラと歩いている。彼女も退屈だったのか? 俺も最期にはああなるのか。あ、倒れた。
広場の中で行き倒れた女性プレイヤーなど無視して通りすぎていくプレイヤー達。どうしよう、何かしたほうがいいのかな。でも、もし面倒ごとに巻き込まれたら厄介だしな……仕方ない、何か変だったら速攻で逃げよう。最悪、放っておいても運営がなんとかしてくれるだろ。
うつ伏せで石畳の上に倒れている女性に恐る恐る近づいていく。本当に大丈夫だよな? いきなり襲ってきたりしないだろうな?
「あのー、大丈夫ですか?」
「…………」
へんじがない、ただのしかばねのようだ。
……よし、次呼びかけてみて反応が無かったら逃げよう。これは俺の手に負えるものじゃない。
「あのー! 大丈夫ですかぁ!」
「……た、たべもの……」
「食べ物?」
「な、何か食い物を……」
食べ物と言われ、イベントリの中を漁ってみる。すると、この前マリオにもらった新作のポーションを見つけた。なんでも『実験でポーションとジュースを混ぜてHPと空腹を同時に回復出来るものを作ってみた』そうだ。
怖くて飲めなかったのをずっと放置してきたものだ。これでいいかな、あの人には悪いけど実験のためだ、こっちはデータが取れて、あっちは空腹が紛れてお互いに損は無い……はず。
「じゃあ、はいどうぞ……って!」
「さんきゅ!!」
差し出した途端、バッと俺の手から奪ってなんの躊躇いもなくゴクゴクと飲み干してしまう。次の瞬間、ビクンッと一瞬体が跳ねたと思ったら、再び沈黙してしまった。……もしかして、死んだ?
「ええっと、生きてます?」
「ふっふっふ……」
「え?」
「ふっかぁぁっつ!!」
恐る恐る声をかけてみると、突然飛び起きてその場で叫ぶ女性。いきなりの出来事に広場にいたプレイヤーが全員凍りついたように彼女に釘付けになっている。
その後、同じく唖然としている俺の手を取り、ブンブンと大げさに振り出す。
「いやー、君のおかげで助かったよ。ついては何かお礼をしたいんだが」
「え、ああ、どういたしまして? なら少し質問があるんですけど?」
「質問? もしかして私のスリーサイズかい? 仕方ないな、君になら教えても構わないよ」
「いえ、そうじゃなくて。なんでこんな所で倒れたんですか?」
「なに、昨日の朝からずっとフィールドに出ていてね、飲まず食わずだったもんで、リアルでもゲームでも空腹だったってわけさ。それでついにここで力尽きたと」
照れたように頬を掻きながら行き倒れの原因を教えてくれる彼女。
昨日の朝からって、どんだけ篭もってたんだよ……
そして次にもう一つ、始めて見かけてから今までずっと気になっていた事を聞いてみる。むしろ、こっちの方がメインの質問だったりする。
「それじゃあもう一ついいですか?」
「もしかして私のリアルの住所かい? 仕方ないな~」
「違いますって! その耳についてなんですけど……」
俺が彼女を見かけてからずっと気になっていたこと、それは彼女の頭上についている髪の毛と同じ明るい茶色のネコミミについてだ。
このゲームはプレイヤーである俺たちが勇者となって魔王を倒しにいく、というのがおおまかなストーリーだ。故に他のゲームで見るように種族といったものが人間しかなく、ネコミミのついた獣族のような種族はない。つまり、彼女の頭に付いているネコミミが偽物なのか、彼女がNPCか何かなのか、ということになる。しかし見た感じNPCには見えないからきっとプレイヤーなんだろうけど……
「ん、これかい?」
そういって頭上の耳をピコピコッと動かして見せる。へぇ、動かせるんだ、ちょっと可愛い……
「これはあまり言わない方がいいんだけど、君のためなら仕方ない。これはレイっていうプレイヤーが作っている装備アイテムでね、いわゆるネタ装備的なやつさ」
「あー、レイさんの作った物ですか……」
マリオの白衣を思い出しながら納得する。あの人ならこういうコスプレっぽい装備作りそうだしな。
俺がレイさんのことを知っていた事に驚いた様子の彼女が聞いてくる。
「君レイのこと知ってるのかい?」
「そりゃあ、もう。ギルドの先輩なんで」
「じゃ、じゃあ、君はあの変人商会のメンバーなのか!?」
さらに驚いた様子の女性を見て内心俺も驚く。ヘムジン商会に所属しているってそんなに驚かれることなのか?むしろその反応に俺が驚くんだが。恐るべしヘムジン商会……
その後「君、凄いねー」みたいなよくわかんない賞賛をひとしきり受けた後、フレンド登録を求められた。
ちょっとずつだがフレンドが増えてきてなんか嬉しい。
「キントウ君っていうのか。私のことなら何時でも呼んでいいからな? もちろん一人で寂しいときに呼ぶのも構わないぞ?」
「ははは……ありがとうございます」
新しく追加されたフレンドリストの情報を見てみる。へぇ、ネコネコさんっていうのか。面白い名前だな……
あれ、つい最近どこかで聞いたような……そうだ! コージのギルドのギルマスだ! こんな人だったんだ、名前からして語尾に「にゃー」とか付けるのかと思っていたけど違ったな。
「ネコネコさんって【魔物の宴】っていうギルドのギルマスしたりしてません?」
「あれ、知ってるのかい?」
「コージっていうプレイヤーがいると思うんですけど、友人なんです。それでこの前、ネコネコさんの話を聞いたんで」
「あー、そうだったのか」
なるほどなるほど、と頷くネコネコさん。ときおりネコミミがピクピクッと動いていて可愛い。レイさんに頼んでマリオ用に作ってもらおうかな、あいつなんか似合いそうだ。
ふと、時計を見てみると二十九分だった。ネコネコさんと話しているうちに時間が経っていたみたいだな。思いがけない暇つぶしになったものだ。
「じゃあ、俺は用事があるのでこれで」
「そう? じゃあまた今度遊ぼうか」
「その前にちゃんと休んでくださいよ?」
「分かってるって」
ひらひらと手を振りながら去っていくネコネコさん。そして入れ替わるようにして通りの向こうからアガサが歩いてくるのが見えた。




