31話
誤字脱字、感想等ありましたらよろしくお願いします。
『出来たから受け取りに来いよ?』
それだけ言って一方的に切られるコール。
今日は戦闘班が全員集まり、クランキーズも比較的落ちついていたので新ルートの探索にでも行こうかと思っていた矢先のことである。完全に新ルートへ直行する流れだったのに早々に出鼻を挫かれてしまった。
やや不機嫌な雰囲気を漂わせた状態でダルクさんの店に寄る。特に後ろにいるアガサから湧き出てくる負のオーラ的な物が背中にのしかかってきて気まずい、一番乗り気だったのがアガサだったからなぁ。悪いのは空気読まないダルクさんだけど、俺の注文だしな……埋め合わせは飯の時にちゃんとしよう。
「えっと……何かあったのか?」
「せっかく新しいエリアに行こうと思ってたのに空気読まない武器屋のせいで向かうのが遅くなって萎えてたとこ」
「そ、そうなのか、それは悪かったな……」
「まあ、頼んだのは俺だからダルクさんは悪くないよ」
アガサが不機嫌さ丸出しで答える。ダルクさんは注文の品を作っただけなんだし、出来たら連絡してくれって言ったのも俺だからダルクさんにどうこう言うのはお門違いなんだけどな。また今度来た時にまた謝ろう。
アガサの鋭い視線に若干ビビりながら新しい武器を渡してくれた。
「じゃあ、これが注文の品だ。タイミングが悪くてすまなかったな」
「いえ、ダルクさんは悪くないですよ」
「そう言ってくれると助かる。良かったらこの場で見せてくれないか?」
「もちろんいいですよ」
装備画面から武器を変更する。その瞬間、俺の隣に白い光を放って一体の人形が現れる。そういえば人形ってこと以外どんなものか知らないな。一体どんな人形なんだろう?
「うわっ! 何この綺麗な女の子……」
「これは……想像以上だな……」
「そうですね。ですが、まずは何か着る物を用意してはどうでしょうか?」
その場にいる皆が感想を漏らす。これは……本当に人形なのか? ていうか、女型だったのか。
雪の様な真っ白の肌に腰まで届かんばかりの真っ黒な髪。
身長は俺の肩くらい、やや幼さの残った和風っぽい顔で着物を着れば和服の女の子にしか見えないだろう。つい先ほどまで怒っていたアガサでさえも眼を見開いてこんな物を作ってたんですか? とでも言いたそうに人形とダルクさんを交互に見ている。
唯一の問題といえばユリアさんが指摘した通り、服を何も身に着けていないでいることである。まあ人形だから問題ないといえば問題ないのだが、如何せん普通の人そっくりなものだから見てるほうが恥ずかしくなる。
急いで装備を解除し、イベントリに戻す。幸いこの辺りは人通りが少ないので他の人には見られずに済んだ。
「服、どうしようか?」
「レイ様なら何かお持ちなのではないでしょうか」
「ならギルドに寄ってから行くか。使ってみたいし」
「えー、まだ行かないの〜?」
ダルクさんにお礼を言い、ぶつぶつと文句を呟いているアガサを連れてギルドに戻ることになった。レイさんっていつも地下にいるけど、普段は何をしているんだろうか?
△ ▲ △ ▲
時間的に客の少ないクランキーズに戻るとマスターが上の階から降りてくるところだった。眠たそうにあくびを噛み殺しながら眼をこすっている。
「よ、マスター。お疲れ」
「あれ、お前たちフィールド行ったんじゃないのか?」
「うんまあ、ちょっと事情でね……レイさんいるよね?」
「いつもならもう地下にいるんじゃないか」
「わかった、仕事がんばって」
「今は客は居ないけどな」
今日も地下にいるとのことなのでさっそく階段を降り、狭い廊下を進む。地下だけなんでこんな作りなんだろ?他の階より部屋も多いし。
廊下の左右に並んでいる扉の一つをノックする。中から「どうぞなのね」と返事が返ってきたのでドアを開け中に入る。
前に来た時よりも物が増え、狭く感じる部屋の奥にレイさんはいた。何かの作業中のようで機械の前に座って作業をしている。あちらこちらに置かれた機械の間を縫うように進み、レイさんのもとまで行く。先に用件は連絡してあり、来るまでには作っておいてくれるということなのできっと今作業しているのがそれなのだろう。
「こんにちは、もうできてます?」
「あと少しで完成なのね……ほい、できた」
「ありがとうございます。じゃあさっそく着せてみますか」
もらった服をイベントリにしまい、人形のステータス画面を開く。プレイヤーたちと同じように装備を変えられるようだ。アイテム名がすべて【名称未設定】になっているのは急いでいたからだろうか、着せてからのお楽しみってことかな。
地下じゃなんなので一階にあがって見ることにした。珍しくレイさんも一緒に上に来るみたいだ。上にマスターがいることを伝えるとニヤニヤしだしたけどなんだろう?
ちょうど客が一人もいなかったので戦闘班+レイさん、マスターの五人で俺の新武器(自律人形)のお披露目をすることになった。マスターも女の子の自律人形と聞いて興味津々のようだ。
「じゃあ装備しますよ」
「どんな服なんだろうな」
「きっと気に入るのね」
先ほどと同じように装備欄で装備すると、光と共に隣に再び人形が現れる。さっきとは違い、服を着ているのだが……
「これはまた……」
「ちょー似合ってるね……」
「うん、予想通りなのね」
ユリアさん、アガサ、レイさんの女性組が唖然としながら感想をこぼす。
全体的に髪と肌に合わせた黒を基調とし所々に白が入った和服なのだが、裾が短くてミニスカ和服っぽくなっている。ニーソックスと裾の間にできた絶対領域から覗く白い肌が艶かしい。ミニスカ和服にニーソって……似合ってるけどレイさんの趣味なのか?
ふと、先ほどから黙っているマスターを見ると、口をあんぐり開けて呆然としていた。あれ、なんでフリーズしてるの?
「マスターどうかした?」
「……これは……」
「ん? 何か言った」
「この娘は俺の嫁だぁぁぁぁぁぁ!」
『はぁあ!?』
突然叫んだかと思ったら俺の隣にいる人形の方に飛んできて様々な角度から人形を舐めるように眺めだすマスター。いきなりの奇行についていけない俺たち。レイさんだけは知っていたようで、クックックと笑っている。
「どうしたんだよ?」
「おい、キントウ。これがお前の新しい武器なのか?」
「いやまあそうだけど」
「言い値の十倍出すから俺に譲ってくれ」
「無理だって。第一、マスターには起動できないし」
「それでも構わん、毎日眺めているだけでも満足だ」
「それは流石にキモいだろ……」
どうやらマスターの好みどストライクだったようだ。それでもこの反応は俺でも引くぞ。アガサなんか汚物を見るような目で見てるし、ユリアさんの顔も若干引きつってるぞ……
レイさんを除く俺たちが固まっているなか、ふと思い出したようにマスターが訪ねてきた。
「この娘の名前はなんていうんだ?」
「そういえば、知らないな……あ、自分で付けられるみたい」
「それならせめて俺に付けさせてくれ!!」
「ま、まあいいけど……」
勢いに押されて了承してしまう。ああ、マスターは変人商会の中では比較的まともな部類だと思っていたのに、やはりこのギルドには変人しかいないのだろうか……
数分悩んだ後、遂に決まったようでマスターが発表する。
「よし、決まったぞ! 俺の嫁の名前は……白だ!」
「いや、マスターの嫁じゃないから」
白か、まあ確かに白いよな、肌。俺はいいと思うけど? ていうかもうさっさとフィールド行きたい。よく考えたら最初に行くって決めてからそれなりに時間経ってるし。これ以上アガサを待たせたらどうなることやら……
「うん、白ね、じゃそれでけってーい! よし! フィールド行こう!」
「まあ待て、先に白たんを起動するんだ」
もう用は無いとばかりに出口に向かうアガサの襟を捕まえるマスター。白たんって……もう暴走してるな。きっとやるまで行かせてもらえないだろうし、仕方ない。少しだけ起動してさっさと行こう。
「じゃあ、やるよ」
「おう早くしろよ?」
白に触れるとウィンドウが現れる。そこに俺のLucを入力すれば起動するみたいだ。ちょっとの間だし全部でいいか。
とりあえず俺のLucを全部与える。これで起動するだろう。
「う……ん……」
「うぉ!キター!」
「マスターうるさい」
僅かに声を漏らす白。なんというか、可愛い声だなという感想しか浮かんでこない。
白は目を開けると部屋の中をぐるりと一周見回してから俺たちの顔を一人ずつ見ていく。最後に俺の顔を見て一言。
「あなたが私の所有者ですか?」
「ああ、そうだけど」
「そうですか……」
それだけ言うと、また黙り込んでしまった。どうしたんだ?
俺たちが戸惑っていると、突然、白は部屋の中を歩き出した。体の調子を確かめるように時折、ジャンプなども織り交ぜて店内を動き回る。黒と白の着物の白が動き回る様子はまるで黒い蝶が舞っているようでその場にいる全員が見惚れてしまう。
一分ほど動き回って満足したのか再び俺の前に戻ってくる白。
「俺が所有者のキントウだ。お前の名前は白だからな。よろしく」
「たったこれだけしかLuc持ってないくせに所有者面するな、です」
「……え?」
「大体なんですか、たった百ちょっとって。前の所有者は普通に四桁くれてましたよ? それなのに、ようやく久しぶりに動けると思ったらたった百ちょっとって……これだけで何と戦えっていうんですか? そこら辺の雑魚ですか? ええいいでしょう、雑魚の相手をしてあげますよ、所有者の命令ならね。それにしてもたったこれだけって……」
外見にそぐわない発言に誰も対応できず、固まってしまう。そんな中でもずっと文句を言っている白。こんなキャラだったんですね、知りませんでしたよ。ジャンゴさんはよくこんなのと付き合っていけましたね、俺には無理かも。
一瞬、マスターの提示した言い値の十倍という言葉が脳裏に浮かぶが、頭を振って忘れる。それを見ていた白が呆れたように見上げてくる。
「何、頭振ってるんですか? ただでさえ少ない運がさらに減りますよ?」
「いや、意味わかんないし……」
なんなんだよこいつ。アイテムのくせしてどんだけ力入れてるんだよ運営よ。これゲームだよな? 武器に馬鹿にされるとか、VR怖いわー。科学の進歩怖いわー。
俺のLucの量が足りないのが気に入らないのか、まだ文句を垂れ流し続けている白。おーい、皆。そろそろ反応してくれませんかね? 俺一人じゃ無理そうだわ。あと、マスターはそのにやけた顔をどうにかしろ、かなり気持ち悪い。
「大体なんですか、この部屋は。ルーレット台もスロットも何も置いてないじゃないですか。こんなところで何してるんですか、さっさとカジノで金稼いでくるんじゃないんですか? まったく、先代は毎日私にLucを与えても余裕でカジノに通ってましたよ? それなのにあなたときたら私に与えたらLucがすっからかんじゃないですか、それでどうやって闘うんです? これだからLucが中途半端は人は……」
放っておくとこのままずっと言い続けそうだったので装備から外す。すると、喋っている途中だが光を放って消えた。はぁ、まさかあんなのだったなんて……
「ずいぶんと元気な娘でございましたね」
「なんなのあの子。ずっと文句しか言ってなかったじゃん!」
「あれは私も予想できなかったのね……」
「ハァハァ、白たん、かぁいい……」
『えええ……』
全員が見事にハモった。マスター、それはもう変人じゃなくて変態の域だぞ……




