一話
「なんか、冒険したくなってきたねぇディ?」
ルイがこっちを見ながら俺に聞いてきた。珍しく帽子を取ってフードを被っている。
ルイは普段は藍色の帽子を好んで被っている。目深く被るからたまに顔が見えないが。それの所為か、帽子をとってもフードなどを被るようになった。
ルイは魔法使いのぬいぐるみ。俺はディベア。
俺達は魔道人形と言う魔力で動く人形だ。人形の中に『魔石』があり、魔石にはかなりの魔力が宿っている。その魔力がニンゲンで言う脳の働きをしている。
このには多くの世界がある。一番有名なのが人間界。その他にも魔獣界、天使界などがある。俺たちの世界は人形界。多分人間界と一番密接している世界だ。
魔石にも種類があるんだが、説明が面倒だから省く。
ルイは魔法を主に使う魔法系。俺は人形の中で唯一魔法が使えない格闘系だ。
今、俺たちは芝生の上に寝転がっている。何も無い平凡な日々が続き暇をもてあましている。
ニンゲンとは違って年を取ることは無い。成長をする奴としないやつもいる。アディ(俺の弟)は成長するな。
そういえば、まだ会ったばかりの頃はフードだったな。俺が帽子をあげたんだっけか。
「聞いている?」
「あ、あぁ。だけど冒険するにしたって目的がねぇとつまらないじゃねぇか」
俺は起き上がってルイを見た。
今日は風が気持ちいいな。
……冒険か。いいかもしれねぇな。
「あ、そっか。んー……」
ルイも起き上がり腕を組んで一生懸命考えている。首を捻って考えている。
ちょっと前にすげぇ戦いをした奴には見えねぇな。
そういえば、俺も最近大会以外で身体を動かして居ねぇな。今度アディの相手でもするか。
「んー……」
「まだ考えているのかよ!」
「だって、思いつかないんだもん。唯一出てきたのは僕達の存在探しかな」
「いや、面倒だしつまらなさそうだから却下」
そういうとルイはぷくっと頬を膨らませた。
ん?まてよ。そういや……
「最近、力を悪い方に使う魔道人形が多いらしいな。異世界への干渉を試みるとかも」
「え!?じゃあ、倒しに行こうよ!」
立ち上がって大きめの声で言った。
異世界への干渉――それは俺たち魔道人形の間では最大のタブーとしてきた。理由はハッキリしていないが、異世界と繋がると俺たちが滅びるだとか、世界が壊れるだとかだったな。
噂だが異世界への干渉を試みる奴がいるとか。
「場所がわからねぇだろ。第一、噂だ」
そう、噂。ただ単に誰かか面白半分で流したかもしれ無い。わざわざそんなののために動くだなんて面倒だ。
もしそれが本当だとしてもそいつ等の居る場所が分からなければ動けない。
俺がそういってもルイは聞く耳持たず、準備だと抜かしやがる。
「行きたきゃ一人で行け。俺は面倒だ」
「おやおや、それでは私が行きましょうか?」
「「ナイト!」」
傍の木から出てきたのはナイトだった。
ナイトは俺の大の親友。まぁ、キザで馬鹿だけどな。
ルイを見て一目惚れでもしたのか、お嬢様と呼んでいる。
ナイトは武器を主に扱う武器系の魔道人形だ。人型のぬいぐるみ。
ん?なんか服がちがくねぇか?
今までは鎧だったのにそれを全て脱ぎ捨て腰のベルトから下には前がない長い青色の布で中はズボン。ブーツはいつもどおり。上は青いマントに青い前掛けみたいな奴。下は白いただの服みたいだな。
「あれ、服変えたの?」
「えぇ。重いですからね鎧は。で、二人とも面白い話をしていますね」
こっちにゆっくりと向かいながらルイと会話をしている。
「ただの噂だ」
「そうでもなさそうですよ。……ほら、空を見てみればわかりますよ」
言われて二人で空を見ると普通に晴れていた。何もねぇじゃねぇか。
そう思った瞬間ピリッと空間に少しひびが入ったような気がした。そこをよくよく見ると薄い長い何かがある。遠すぎて見えない。
地上から出ているのか?
「何あれ……」
「異世界への干渉を試みた人形が居るのですよ。あれがこの世界の空全体に広がったら終わりでしょうね。よほどの魔力もしくは犠牲が必要ですねきっと。魔力に関してはお嬢様以上……。犠牲は魔石でしょうね」
「な……!?」
ナイトが鋭い目をして説明した。
んだよ。噂じゃあねぇんだな。身体がうずうずしてやがる。戦いたいんだな。強い奴と戦いたいんだな俺。
「くくくっ」
「ど、どうしたの!?」
「おもしれぇ。倒してやろうじゃねぇか」
きっと俺は今獣の目をしているんだろうな。いい獲物を見つけた肉食動物だ。
「ディ、相手はかなりの使い手ですよ」
「僕も行く!」
「お嬢様、危ないで、す……!?」
ナイトの首に向かって俺は手を出した。それ以上言うなという意味で。
「ナイト、あの薄い線みたいなのは文字だろう?魔法関係の。あれが分かるのは俺たちの中ではルイだけだ。連れて行く。お前の力もほしい」
そういって俺は手を下げた。ナイトはため息をついてやれやれと言った。そして同行することを決めた。
おもしろそうじゃねぇか。