魔女編13
果てしなく広大な天国での滞在も、およそ一月が経過していた。
緑豊かな湖畔のコテージで、アイラとリリアは至福の休息を満喫している。
「うーん、天国の食材って本当にどれも絶品ね」
アイラが天界特産の果実を使ったタルトを頬張りながら、幸せそうに頬を緩ませた。
「ええ、お姉様」
リリアもエドワードが淹れてくれた紅茶を飲みながら、優雅に微笑む。
穏やかな風が吹き抜ける中、ふとアイラはテラスの片隅に視線を向けた。
そこには、空中に浮かぶ水鏡のような魔導具をじっと覗き込んでいるエレオノーラの姿があった。
「お母様、それは何を見ているんですか?」
アイラが尋ねると、エレオノーラはゆっくりと振り返って優しく微笑んだ。
「これ? これはね、下界の様子を映し出す魔導具なのよ」
「えっ、天国から地上の様子が見られるんですか!?」
アイラとリリアは驚き、揃って水鏡のそばへと駆け寄った。
水鏡の表面には、見慣れたヴァリエール王国の王都の風景が小さく映し出されている。
「ええ、そうなの」
エレオノーラは少しだけ寂しそうな顔をして、水鏡から目を伏せた。
「でもね、私たちには見る事しかできないの。どんなにあなたたちがピンチの時でも、直接干渉して手を差し伸べることは決して許されないのよ」
「それは……確かに、歯がゆいですね」
リリアが同情するように眉を下げる。
「本当にそうよ」
エレオノーラは深くため息をつき、ひどく悔しそうな表情を浮かべた。
「特にアイラの事を見た時は、もどかしさで気が狂いそうだったわ」
「私、ですか?」
「ええ」
エレオノーラは、かつての出来事を思い出したのか、ギリッと奥歯を噛み締めた。
「レオンハルトが、可愛いアイラを身代わりとして過酷なスラムから連れてきた時のこと。そして、セオドアが公爵家でのアイラへの冷遇を知りながら、あえて放置していた時のこと。あの時はもう、天国の規定を破って下界へ殴り込みに行こうかと思ったくらいよ」
エレオノーラの背後に、まるで般若のような黒々とした怒りのオーラが立ち上り、周囲の空気がピリッと凍りついた。
「だ、だからね」
エレオノーラはフンッと鼻を鳴らし、少しだけスッキリした顔になった。
「あの二人が寿命を全うして、魂としてこの天国へやって来た時は、感動の再会なんかそっちのけで、しょっぱなから二人に全力の往復ビンタを見舞ってやったわ」
「ビ、ビンタですか……」
アイラとリリアは顔を引きつらせた。
「お父様とお兄様、さぞかし驚かれたでしょうね」
「当然の報いよ」
エレオノーラはふふっと笑い、再び慈愛に満ちた母親の顔に戻った。
「でも、歯がゆい思いばかりじゃなかったわ。あなたたちの周りには、素晴らしい仲間がたくさんいたから」
エレオノーラは優しくアイラとリリアの手を握りしめる。
「ミーアちゃんとザックくんが寿命を迎えてここへ来た時は、私、本当に心の底から感謝したのよ」
「えっ、ミーアとザックが……?」
「ええ」
エレオノーラは涙ぐんで大きく頷いた。
「彼ら、下界であなたたちの子供たちを、生涯をかけて立派に守り抜いてくれたんだもの」
自分たちの未来の子供をそこまで大切にしてくれた仲間への感謝に、アイラとリリアの胸が熱いもので満たされた。
その感動的な空気を切り裂くように、ふいに背後の空間がぐにゃりと揺らいだ。
「やっほー! 可愛い子孫たち、しっかり休んでるかしら?」
空間の裂け目から姿を現したのは、神話の時代の魔女であるエレノワールだった。
「エレノワールお姉様!」
そして、彼女の後ろからは、見慣れた薄紅色の髪をした少女がひょっこりと顔を出した。
「アイラ様、リリア様! お久しぶりです!」
「ミーア!」
全盛期の美しい姿をしたミーアが、満面の笑みで二人に駆け寄ってくる。
「ミーア、どうしてここに? 魂のクールタイム中だったんじゃ……」
アイラが驚いて尋ねると、ミーアは照れくさそうに頭を掻いた。
「実は、エレノワール様とのレンタル期間が終了しまして、一度天界に戻ってきたんです」
すると、エレノワールが自慢げにミーアの肩を抱き寄せた。
「そうなのよ。この子、魔導具技師として本当に優秀でね。他の魔女たちからも、彼女の技術に一目置かれているのよ。だから、私のツテで天界からミーアの魂を買い取って、魔女の世界に永住させようかと思って、今日はその手続きに来たの」
「えっ!?」
アイラとリリアは目を丸くして、素っ頓狂な声を上げた。
「魂って……買えるんですか!?」
二人の驚きに、近くの木陰で本を読んでいたノアが眼鏡を押し上げながら解説に加わった。
「ええ、可能ですよ。天界の魂の管理は厳密ですが、例外は存在します。定期的に天界から厄介な仕事を依頼されている高名な大魔女には、その報酬として特定の魂を買い取る特権が認められているんです」
「……天界すらも資本主義で回っていたのね」
アイラが呆然と呟く。
「つまり、私やお姉様も大魔女になれば、そうした特権が得られるということですか?」
リリアが目を輝かせて尋ねると、エレノワールはパチンとウインクをして頷いた。
「そういうこと! あなたたちも魔女の修行を頑張って、天界から直接依頼が来るくらいの大魔女になれば、好きな魂を引き抜けるようになるわよ」
その言葉を聞いて、アイラとリリアは顔を見合わせた。
彼女たちの心に、新たな、そして強烈な目標が芽生えた瞬間だった。
「……リリア」
「はい、お姉様」
「私たち、美味しいご飯を食べるためだけじゃなく、大切な人たちとずっと一緒にいるためにも、もっともっと修行に邁進しないとね」
「ええ、その通りですわ!」
二人は固く手を握り合い、天国の青空に向かって力強く誓うのだった。
これからの魔女としての道が、さらに険しくも希望に満ちたものになることを予感しながら。
天国での新たな目標を見定めたアイラとリリアは、早速次のステップへ進むための行動を開始した。
「シュシュエル様、ジュリアン様とエドワード様の魂を、魔女の世界へレンタルするための申請をお願いします」
アイラが天国のオフィスで尋ねると、シュシュエルは厳格な表情を崩さずに頷いた。
「よかろう。魂の貸し出しには天界の審査と安定化のプロセスが必要だが、お前たちは一度使い魔としてレンタルされた実績があるからな。手続きは数日程度で終わるだろう。……その代わり、手続きが終わった暁には、魔女の世界で作る極上の供物を期待しているぞ」
「ふふっ、もちろんですわ。最高に美味しいご飯を作って待っていますね」
コテージに戻ったアイラとリリアは、愛する夫たちに数日間の別れを告げることにした。
「君の胃袋は一生私が面倒を見るさ。……そう約束したからね。地上だろうと異次元だろうと、君の行く場所が私の居場所だ。数日なんて、瞬きするようなものだよ」
ジュリアンはアイラの頬を優しく撫で、完璧な美青年としての極上に甘い微笑みを浮かべた。
「リリア嬢……君という人は。私を再び君の側に置いてくれるのだね。必ず迎えに来ておくれ、私はたとえ数日でも、君を待つ時間はひどく長く感じてしまうからね」
エドワードもまた、生真面目な顔でリリアを強く抱きしめて一途な愛を囁いた。
家族や立派に成長した子供たちに別れを告げた二人は、手続きが終わるまでの間、エレノワールと共に空間の扉を抜け、自らの家がある魔女の世界へと先に帰還した。
「魔女世界に帰ったら、特訓にしましょう。あなたたちには、いっちばん厳しい特訓を用意しているわ。大魔女になって愛しい夫と永遠に傍に居られるようにしましょう」
魔女の世界に戻るなり、エレノワールは気さくで妖艶な笑顔で、二人に過酷なスパルタ教育を施し始めた。
そして数日後、部屋の床に描かれた魔法陣が淡い光を放ち始めた。
「あら、無事に審査が通って、二人の魂が送られてきたみたいね」
アイラが指を鳴らすと、十年前に魂のクールタイムが始まる直前に作った『人間の姿をした人形の器』が二体、魔法陣の上に転送されてきた。
アイラとミーアの最高傑作であるその器は、生前のジュリアンとエドワードの完璧な美貌を寸分違わず再現しているだけでなく、かつて二人が使い魔として憑依していた『ライオンと猫のぬいぐるみ』の姿に自由に変身できるという、謎のハイスペック機能を搭載している代物だ。
魔法陣の光が人形の胸に吸い込まれると、長い睫毛が震え、二人の青年がゆっくりと目を開けた。
「……おお、無事に君の元へ辿り着けたようだな、私の愛しいアイラ。天界で君を待つ数日は、ひどく長く感じたよ」
「ふふっ、ジュリアン様、お待ちしておりました。魔女の世界ではあれから数百年の修行を積んだのですよ。時間の流れが違うとはいえ、こうして無事にお会いできてよかったです。さあ、美味しいご飯を一緒に食べましょう」
アイラが抱きつくと、ジュリアンは彼女の腰を強く抱き寄せ、その銀髪に深く口付けをした。
「リリア嬢! ああ、数日とはいえ、君に会えなくて寂しかった……!」
エドワードもまた、周りが見えなくなるほどの一途さで愛おしそうにリリアを抱きしめた。
「エドワード様、私もお会いしたかったですわ」
感動の再会を果たした四人の周囲には、まるで目に見えない花が咲き乱れているかのような、甘々で幸せな空気が満ち溢れていた。
夫たちとの再会を果たしたアイラとリリアは、その後もエレノワールからの特訓を続けた。
これまでよりも、世界の理をより深く理解し、緻密で高度な魔力制御を身につけるための修行の日々。
血を吐くような過酷な修行も、愛する夫と永遠に共にいるという執念と、最高に美味しいご飯を追求する情熱で、二人は文句一つ言わずに乗り切っていった。
そして、外界の時間の流れから切り離された魔女の世界で、あっという間に数百年の月日が流れた。
「ふぅ、随分と魔力の扱いが板についてきたわね」
修行を終え、優雅にお茶を飲みながらくつろぐアイラの姿は、以前の十二歳の少女のものではなかった。
長きにわたる修行によって魔力の質が根本から底上げされた結果、魔女としての肉体年齢のベースが成長し、二十歳前後の大人の女性へと変化していたのである。
光り輝く銀糸の髪と宝石のような青玉の瞳はそのままに、どこかエレオノーラやエレノワールの面影を感じさせる、思わず見惚れるような絶世の美女へと成長していた。
「ええ、お姉様。私も、ようやく体が強大な魔力に追いついてきた感覚がありますわ」
隣に座るリリアもまた、ふんわりとした優しげな雰囲気を残しつつ、大人の淑女としての美しさと色気を身に纏っている。
そこへ、お茶請けのスイーツを持ったジュリアンとエドワードがやってきた。
「相変わらず、私の妻は世界で一番美しいな。……権力を使ってでも、不埒な輩が寄り付かないように全力で守らねばならないな。と言っても、もう国も身分も関係ないか」
ジュリアンは、大人の女性へと成長したアイラに惚れ直し、腹黒王太子らしい独占欲を滲ませながら悪戯っぽく、そして甘く囁く。
「リリア嬢も、本当に見違えるほどお美しくなられて……。リリア嬢、君の背中は私が絶対に守るからね」
エドワードも顔を赤らめながら、成長したリリアに見惚れて生真面目に誓いを立てていた。
「さて、修行も一段落したことだし、数百年の間に地上がどう変わったか、久しぶりに下界の様子でも見に行きましょうか」
アイラが提案すると、リリアもジュリアンたちも笑顔で賛同した。
「数百年も経てば、世界は大きく変わっているだろうね。どこか行きたい場所はあるのかい?」
ジュリアンが尋ねると、アイラはニヤリと笑って空間跳躍の杖を取り出した。
「ええ。一番北の果て、人間とドワーフが一緒に暮らしている『エベレンズピーク』よ。あそこのご飯は、本当に絶品だったもの」
かつてアイラがソロキャンプで数年間滞在し、看板娘として働きながらドワーフとの交流を繋いだ極寒の地。
数百年の時を経て、あの温かい国がどのように発展しているのか、アイラは純粋に見てみたかったのだ。
「よし、それじゃあ出発よ!」
アイラが空間跳躍の魔法を展開すると、四人の姿は魔女の世界から掻き消えた。
視界が開けると、そこには見渡す限りの雪景色と、天を突くようにそびえ立つ巨大な霊峰があった。
「うわぁ、相変わらずすっごく寒いわね!」
アイラが全員に防寒の結界を張りながら眼下を見下ろすと、かつての荒々しい酒場が中心だった小さな村は、立派な石造りの建物が並ぶ巨大な要塞都市へと劇的な発展を遂げていた。
至る所からドワーフの打つ鍛冶の音が響き、人間とドワーフが肩を並べて歩き、巨大な魔物の素材を運んでいる活気ある光景が広がっている。
「ふふっ、なんだかさらに面白くて美味しい街になっているみたいね。ジュリアン様、あそこのご飯を一緒に食べましょう」
「ああ、君と一緒ならどこへでも行こう」
大人の美女へと成長したアイラとリリアは、愛する夫たちと腕を組みながら、最北の地であるエベレンズピークの大地へと、数百年ぶりの第一歩を踏み出すのであった。
吹き荒れる吹雪と身を切るような寒さは数百年という時を経ても変わっていなかったが、眼下に広がる街の活気は以前とは比べ物にならないほどに膨れ上がっていた。
アイラは、人間とドワーフが肩を組み、巨大な魔物の素材を荷馬車で運んでいく光景を眺めながら、満足げに深く頷いた。
「よかった、あのお爺ちゃん竜の親戚みたいな魔物がまだ定期的に出没しているおかげで、この街の団結力と活気は失われていないみたいね」
アイラが物騒な理由で街の平和を評価すると、隣に立つジュリアンが面白そうに目を細めた。
「なるほど、常に外敵という脅威が存在するからこそ、内部での無益な争いが起きず、純粋な協力関係が築かれているというわけか。……君が数百年前にこの地で学んだという『平和が人間をダメにする』という真理の、素晴らしい成功例だな」
完璧な美青年であり腹黒王太子でもあるジュリアンは、為政者としての視点からこの街の特異な構造を高く評価した。
「ふふっ、そんな難しい話よりも、早くあのご飯を食べに行きましょうよ。私、お腹が空いちゃったわ」
「ええ、お姉様。私も、お姉様が看板娘をしていたというお店の絶品料理、すごく気になりますわ」
リリアが目を輝かせると、エドワードも優しく微笑んで深く頷いた。
「リリア嬢が食べたいのなら、私がいくらでもご馳走しよう。……ただ、この雪道は滑りやすいから、絶対に離れないようにしっかりと私の腕に掴まっていておくれ」
エドワードは生真面目で過保護なほどにリリアを気遣い、しっかりと彼女の腰を抱き寄せる。
相変わらず周囲が見えなくなるほどに甘々でピンク色な雰囲気の妹夫婦を微笑ましく見守りながら、アイラはかつて自分が入り浸っていた酒場兼食堂のあった場所へと足を踏み出した。
街の中心部へ進むと、そこには周囲の立派な石造りの建物とは少し趣の異なる、古き良き木造の温かみを残した大きな食堂が建っていた。
「……あっ」
アイラは、その懐かしい建物の外観を見た瞬間、思わず足を止めて息を呑んだ。
「どうしたんだい、アイラ?」
「ジュリアン様……あの食堂、私が働いていた昔のままの姿で、まだ残っていたのよ……」
数百年も経てば、建て替えられたり別の店になっていたりするのが当たり前である。
しかし、その食堂は幾度も丁寧な修繕を繰り返された痕跡を残しながら、アイラの記憶にある当時の温かい姿のまま、今もそこに存在していたのだ。
感慨深い思いで胸を熱くしながら、アイラはそっと食堂の重厚な木の扉を押し開けた。
「いらっしゃいませー! 冷えた体には、熱々の香草焼きと煮込み料理がおすすめですよー!」
扉を開けると、活気ある声と共に、スパイシーで食欲をそそるあの懐かしい香りがアイラの鼻腔をくすぐった。
店内には屈強な戦士やドワーフたちがひしめき合い、豪快に酒を煽って笑い合っている。
昔アイラと一緒に働いていた看板娘のお姉さんや、当時の常連客たちの姿は当然ながらどこにもない。
それでも、この店に流れる温かくて騒がしい空気は、何一つ変わっていなかった。
「奥のテーブルが空いているみたいよ、行きましょう」
アイラが夫たちを案内して席に着こうとしたその時、ふとカウンターの上に並んでいるメニューの木札の横に、妙なものが飾られているのを発見した。
それは、丁寧に磨かれた立派な額縁に入れられた、一枚の美しい姿絵であった。
「ん? あの絵に描かれている少女は……君によく似ているな?」
ジュリアンが不思議そうに絵を見上げると、アイラは顔を真っ赤にして固まった。
そこに描かれていたのは、銀髪に青玉の瞳を持った、十二歳の頃の愛らしいアイラ自身の姿だったのだ。
しかも絵の下には、達筆な字で『伝説の看板娘にして、本物の魔女アイラ。いつか帰還するその日まで、この笑顔を永遠に』と、ひどく大仰な説明書きまで添えられているではないか。
「……お、お客様、もしかして、その絵の魔女様をご存知なのですか?」
料理を運んできた現在の若い店主が、アイラたちの様子を見て驚いたように声をかけてきた。
アイラが嬉恥ずかしさに返答に窮していると、ジュリアンが腹黒くも楽しげな笑みを浮かべて店主に尋ねた。
「ええ、よく知っているよ。何せ彼女は私の愛する妻だからね。……ところで、なぜあんな絵を飾っているんだい?」
「妻!? まさか、あなたが伝説に語り継がれている『魔女様を騙して嫁にしたとんでもないロリコン野郎』ですか!?」
店主の驚愕の叫びに、酒場中の客が一斉にジュリアンへと鋭い視線を向けた。
「ロ、ロリコン野郎……?」
流石の完璧なジュリアンも、数百年越しの予想外すぎる不名誉な称号に、その甘い笑顔を僅かに引きつらせた。
「違うの、ちょっと待って! 私が、そのアイラ本人よ! ちゃんと修行をして、大人の姿に成長したの!」
アイラが慌てて立ち上がり、強大な魔力と共に、かつてこの店で振る舞っていた『絶品香草焼き』の完璧なレシピと調理手順を早口でまくし立てた。
地球の知識と未知のスパイスを融合させたその秘伝のレシピをすらすらと暗唱できるのは、歴代の店主と、それを作った魔女アイラ本人しかいない。
「ほ、本当にアイラ様なんですね……! 先祖の書き残した日誌の通りだ……いつか必ず、魔女様はひょっこりと帰ってくると!」
店主は感極まったように叫び、そのまま店の奥へと駆け込んでいった。
戻ってきた店主の話によると、あの額縁の絵は、当時の店主や常連客たちが、いつか帰ってきたアイラをびっくりさせようと用意し、代々大切に受け継いできたものらしい。
「皆、アイラ様が帰ってきた時に『変わらないな』と安心してほしくて、この店も当時のままの姿で残し続けてきたんです」
その言葉を聞いて、アイラの胸の奥がじんわりと温かくなり、嬉しくて、そして少しだけ恥ずかしいような、くすぐったい気分になった。
「なるほど……君は、この街の人々に本当に愛されていたんだね。ロリコン呼ばわりされたのは心外だが、私の妻がこれほどまでに慕われているのは誇らしいよ」
ジュリアンが優しく微笑みながらアイラの肩を抱き寄せると、酒場の客たちもようやく警戒を解き、「なんだ、ロリコンじゃなくてちゃんと成長するのを待ってた一途な男だったのか!」と勝手に納得してドッと笑い声を上げた。
「エドワード様、お姉様はどこに行っても伝説を作ってしまいますのね。ふふっ、さすが私のお姉様ですわ」
「ああ、リリア嬢の言う通りだ。だが、私にとっては君こそが世界で一番の伝説の女神だよ」
「もう、エドワード様ったら……」
アイラの感動的な再会の横で、リリアとエドワードは平常運転で甘い世界を作り出していた。
その夜、食堂は貸し切りとなり、エベレンズピークの街を挙げての『魔女アイラの帰還を祝う盛大な宴』が開催された。
並べられたのは、数百年前と変わらない熱々でスパイシーな極上の料理と、ドワーフたちが持ち込んだ強い酒の数々である。
「さあさあ、伝説の魔女様! 成長したってことは、今日こそこの強い酒が飲めるんだろ!?」
「ええ、もちろんよ! 今日はジュリアン様も一緒だから、いくらでも飲んでやるわ!」
アイラは満面の笑みでジョッキを受け取り、愛する夫と妹夫婦と共に、絶品の北国料理を思う存分に堪能した。
周囲で笑い合う戦士たちやドワーフたちの中に、アイラがかつて親しく言葉を交わした知っている顔はもう一つもない。
彼らは皆、定命の者としてとうの昔に寿命を迎えてこの世を去ってしまったからだ。
しかし、彼らが残した思いや、この街の温かくて活気に満ちた空気は、数百年という途方もない時間を経ても何一つ変わっていなかった。
「……こんな場所が、この地上にもちゃんと残っているのね」
アイラは、隣で楽しそうに酒を飲むジュリアンの横顔を見つめながら、心からの安堵と喜びに満たされていた。
永遠を生きる魔女にとって、人間たちとの別れは避けられない運命である。
だが、彼らが築き上げた温かい居場所は、こうして時代を超えて大切に受け継がれていくのだ。
「本当に、最高のソロキャンプの思い出の場所ね。ジュリアン様、また何百年かしたら、一緒にここへ飲みに来ましょうね」
「ああ、約束しよう。君と一緒なら、私は何度でもこの雪山に足を運ぶさ」
ジュリアンが極上に甘い微笑みで応えると、アイラは幸せそうに彼に寄り添い、再び熱々の香草焼きを頬張るのであった。
外の厳しい吹雪とは裏腹に、食堂の中はいつまでも温かく、賑やかな笑い声に満ち溢れていた。
盛大な宴から一夜が明け、エベレンズピークの街は朝から活気に満ち溢れていた。
アイラたちは、大きく発展した街の別の地域も見てみようと、のんびりと連れ立って歩いていた。
「数百年の間に、こんなに立派な防壁や魔導具の工房までできているのね」
アイラが感心しながら周囲を見渡していると、広場に武装した屈強な戦士やドワーフたちが大勢集まっているのを見つけた。
彼らは巨大な荷馬車や討伐用の機材を運び出し、何やら物々しい編成を組んでいる最中だった。
「おおっ、昨日の魔女様とその旦那衆じゃねえか!」
集団の中の一人がアイラたちに気づき、人懐っこい笑顔を浮かべて気さくに声を掛けてきた。
「ちょうどこれから、あの雪山の奥に巣食う魔物の討伐隊を出すところなんだ。どうだい、魔女様たちも一緒に一狩り行きますか?」
まるですぐそこの森へピクニックにでも誘うかのような、あまりにも気軽な誘いであった。
「ふふっ、いいわね。食後の運動にはちょうどいいかもしれないわ」
「ええ、お姉様。私も少し体を動かしたいと思っていましたの」
二人が余裕の笑みを浮かべて頷くと、声を掛けてきた隊員の男は嬉しそうに破顔した。
「さすがは伝説の魔女様だ!……で、そっちの優男の旦那衆は戦えるのかい?」
男は、完璧な美貌と優雅な身のこなしを持つジュリアンとエドワードを値踏みするように見つめ、ニヤリと笑って自慢の武器を取り出した。
「俺たちドワーフの技術は数百年で劇的に進化しててな。昔から使われている頑丈な鋼の武器だけじゃないぜ」
男が合図をすると、荷馬車の中から厳重に保管されたいくつもの奇妙な柄が持ち出された。
「見て驚け!これが最新の魔導技術と鍛冶の技を融合させた『魔剣』と『光の剣』だ!」
ドワーフが柄のスイッチを押すと、ブォンという低い起動音と共に、柄からまばゆい光の刃が形成された。
「……ほう」
それを見た瞬間、ジュリアンの翠緑の瞳が少年のようにキラリと輝いた。
「純粋な魔力を高圧縮して刃の形状に固定しているのか。重量の概念を無視しつつ、凄まじい切断力を誇りそうだな。……これは、素晴らしい」
普段は腹黒く計算高い王太子であるジュリアンだが、男のロマンを激しく刺激するドワーフのチート武器を前にして、わかりやすくテンションを上げていた。
「ジュリアン様、もしかしてその光の剣、使ってみたいんですか?」
アイラがくすくすと笑いながら尋ねると、ジュリアンは極上に甘い笑顔でコクリと頷いた。
「ああ。アイラの前で、私のカッコいいところを見せる絶好の機会だからね。実戦でどれほど使えるか、ぜひ試させてもらおう」
隣では、エドワードもまた真剣な眼差しで青い光を放つ魔剣の柄を握りしめていた。
「素晴らしいバランスだ。これなら、どんな魔物が相手でもリリア嬢の背中を完璧に守り抜くことができるだろう」
生真面目なエドワードは、チート武器の性能をすべて『愛するリリアを守るため』の力として真剣に評価しているようだった。
「おおっ、旦那衆もなかなか見る目があるじゃねえか!よし、その武器は貸してやるから、存分に暴れてくれ!」
「助かるよ。妻たちの前で、少し張り切らせてもらおう」
こうして、最新の光の剣と魔剣を装備してやる気満々の完璧美青年二人と、それを微笑ましく見守る絶世の魔女二人を含めた、目を奪うほどの美貌と規格外の戦闘力を併せ持つ、異例づくめの討伐隊が出陣するのであった。
厳しい吹雪が吹き荒れる雪山の奥地へ向かって、彼らの楽しげな足音が力強く響き渡っていく。
厳しい吹雪が吹き荒れる雪山の奥地で、討伐隊は目的の魔物の群れと遭遇した。
真っ白い毛皮に覆われた凶暴な雪猿の群れが、咆哮を上げて一斉に襲いかかってくる。
先陣を切って飛び出したのは、最前線を張る歴戦の北の戦士たちではなく、貸し与えられたチート武器を手にした二人の完璧な美青年であった。
「さあ、見せてくれ。数百年の時を経て進化したという、ドワーフの技術の結晶を」
ジュリアンが手にした柄のスイッチを押すと、ブォンという低い音と共に青白い光の刃が形成された。
彼は王族としての優雅な身のこなしで雪原を滑るように駆け抜け、襲い来る雪猿の群れの中へと単身で飛び込んでいく。
「はっ!」
鋭い呼気と共に光の刃が一閃されると、強靭な雪猿の肉体がバターのように容易く両断された。
「素晴らしい切れ味だ。純粋な魔力の刃ゆえに、一切の抵抗を感じさせないな。……これなら、アイラの前で泥臭い姿を見せずに済む」
ジュリアンは腹黒く計算高い笑みを浮かべながら、その圧倒的な知力と剣術センスで最小限の動きだけを選び、次々と魔物たちを芸術的な手際で切り伏せていく。
一方、エドワードもまた、ドワーフ製の魔剣を構えて堅牢な壁のように立ち塞がっていた。
「リリア嬢には、指一本たりとも触れさせはしない!」
エドワードが生真面目な顔で魔剣に魔力を流し込むと、刀身から溢れ出した青い炎が周囲の魔物を容赦なく焼き尽くした。
彼は愛するリリアの射線を絶対に塞がないよう計算し尽くされた位置取りで、どんな強力な一撃も決して退かずに重厚な剣撃で弾き返している。
「な、なんだあの旦那衆は……! ただの優男じゃなかったのか!?」
屈強な北の戦士たちとドワーフたちは、あまりにも顔面偏差値が高い青年二人が見せる凄まじい戦闘力に目を丸くして驚愕した。
しかし、彼らもまた日々命懸けでこの雪山を生き抜いてきた歴戦の猛者たちである。
「がはははっ! 優男に良い所を全部持ってかれてたまるか! 俺たちも続くぞ!」
「おおっ! ドワーフの作った武具の本当の恐ろしさを、あの旦那衆にも見せつけてやれ!」
北の戦士たちとドワーフたちは、ジュリアンとエドワードの活躍に強いライバル心を刺激され、熱狂的な雄叫びを上げて魔物の群れへと突撃していった。
最前線で激しい死闘が繰り広げられる中、少し離れた後方では、二人の絶世の魔女が優雅に戦況を見守っていた。
「ふふっ、ジュリアン様ったら、本当に格好良いわね。でも、少し魔物の数が多いかしら」
アイラが余裕の笑みを浮かべながら指先を軽く振ると、雪猿の群れの一部が空間の歪みに飲み込まれ、前線の男たちが戦いやすい最適な数へと瞬時に調整された。
「ええ、お姉様。エドワード様の剣さばきも素敵ですわ」
リリアもまた、ふんわりと微笑みながら白魔法の杖を掲げた。
「皆様、怪我には気をつけてくださいね。【広域聖域】、そして【聖なる加護】」
リリアが放った温かい光が前線の戦士たちを包み込むと、彼らの疲労は一瞬で吹き飛び、身体能力が爆発的に向上した。
「うおおおっ!? なんだこの力は! 体が羽みたいに軽いぞ!」
「これが伝説の魔女様の支援魔法か! これならどんな魔物が来ても負ける気がしねえ!」
アイラとリリアが魔女の世界での数百年に及ぶ特訓で培った戦術は、かつての力任せな魔法ぶっぱから、より緻密で洗練されたものへと進化していた。
自分たちが前に出て一瞬で殲滅するのではなく、愛する夫や戦士たちが気持ちよく戦えるように完璧な盤面をコントロールするという、真の強者だけが持つ余裕の戦い方である。
やがて、群れを束ねるボスとして、雪山の奥から途方もなく巨大な氷の鱗を持つ魔物が姿を現した。
「あれは……昔、私が討伐した氷竜の同種族かしら? 相変わらず立派な図体ね」
アイラが目を細めると、巨大な氷竜は吹雪を巻き起こしながら、圧倒的な質量で戦士たちを押し潰そうと突進してきた。
「昔は私一人であれを倒すのに少し苦労したけれど……今は愛するジュリアン様たちもいるし、何より私たちの魔力も段違いだわ。なんだか、すごく簡単に倒せちゃいそうね」
「ええ、お姉様。今の私たちと旦那様たちなら、造作もないことですわ」
「アイラ、援護を頼む!」
「ええ、任せてちょうだい!」
ジュリアンの声に応え、アイラは的確なタイミングで氷竜の足元に空間断裂の罠を仕掛け、その巨体のバランスを大きく崩させた。
「今だ! 一斉に叩き込め!」
まとめ役の戦士が号令をかけると、ドワーフの重砲が火を噴き、戦士たちの魔装具が一斉に氷竜の鱗を砕いた。
「リリア嬢、行くよ!」
「はい、エドワード様! 聖なる光よ、あの者の刃に力を!」
リリアの白魔法によって強化された魔剣を高く掲げ、エドワードが氷竜の胸に深く青い炎の刃を突き立てる。
「これでトドメだ!」
最後に、ジュリアンが手にした光の剣の出力を最大まで引き上げ、眩い閃光と共に目にも留まらぬ速さで一閃し、氷竜の太い首を易々と切り落とした。
地響きと共に氷竜の巨体が倒れ伏し、雪山の奥地に静寂が戻る。
数百年前にアイラが一人で倒したのと同格の強大な竜種を、今度は最北の男たちとジュリアン、エドワードの連携によって見事に討ち果たしたのである。
「やったぞ! 俺たちの勝利だ!」
戦士たちとドワーフたちが歓声を上げて武器を突き上げると、ジュリアンとエドワードも光の剣と魔剣の出力を落とし、互いに健闘を称え合うように頷き合った。
「ジュリアン様、お疲れ様です! すごく格好良かったですわ!」
「エドワード様、お怪我はありませんか?」
アイラとリリアが駆け寄ると、ジュリアンは甘い笑顔でアイラを抱き寄せ、エドワードは少し照れくさそうにリリアの手を握った。
「ああ。君の完璧な支援があったからね。……それにしても、あのような巨大な竜種の肉は、さぞかし美味い料理になるのだろうな」
ジュリアンが氷竜の巨体を見上げて腹黒く笑うと、アイラは青玉の瞳をキラキラと輝かせて大きく頷いた。
「ええ! 私の知っている最高のレシピで、極上の香草焼きとステーキにしてあげるわ!」
かくして、目を奪うほどの美貌と規格外の戦闘力を持つ美青年たちと最北の戦士たちによる熱い討伐戦は、魔女たちの余裕の支援によって大勝利を収め、今夜の盛大な宴会を約束する最高の結果で幕を閉じるのであった。
討伐隊は歓声と共に、巨大な氷竜の素材を街へと持ち帰った。
広場ではドワーフたちが手際よく巨体を解体し、一番美味しいとされる霜降りの部位の肉が、アイラの待つ食堂へと次々に運び込まれていく。
「さあ、最高の香草焼きとステーキを作るわよ!」
アイラは腕まくりをすると、現在の看板娘や料理人たちと共に厨房に立ち、数百年の魔女修行の合間に研究を重ねてきた完璧なレシピを存分に振る舞った。
食堂の厨房からは、数百年前にアイラが考案したスパイシーな香りにさらに深いコクが加わった、暴力的なまでに食欲をそそる匂いが漂い始める。
手際よく火加減を調整し、未知のスパイスを絶妙な配合で振りかけるアイラの姿は、まさに伝説の看板娘の面目躍如であった。
「ジュリアン様、お待たせしました! 氷竜の極上ステーキよ!」
「ああ、素晴らしい香りだ。君の手料理をこうして下界で味わえるなんて、数百年待った甲斐があったというものだよ」
ジュリアンは完璧な笑みを浮かべ、切り分けた肉を口に運んで至福の表情を浮かべた。
「肉の旨味が凝縮されていて、それでいて脂がしつこくない。さすがは私の愛する妻だ、世界一の料理人だよ」
「ふふっ、ジュリアン様にそう言ってもらえるのが一番嬉しいわ」
隣の席では、エドワードが真剣な顔つきでステーキを小さく切り分けていた。
「リリア嬢、熱いから気をつけておくれ。私が少し冷ましてから、君の口に運ぼう」
「もう、エドワード様ったら過保護ですわ。でも、ありがとうございます」
リリアとエドワードは周りの喧騒を完全に無視し、二人だけの甘いピンク色の空間で極上の肉を味わっている。
この夜、エベレンズピークの街では昨晩に引き続き、二日連続となる盛大な宴が開催された。
テーブルにはアイラが手掛けた絶品料理が所狭しと並べられ、ドワーフの強い酒が樽ごと次々と空けられていく。
元気いっぱいに働く現在の看板娘たちと、大人の女性へと成長し、絶世の美貌を誇るアイラとリリアの姿に、北の戦士たちの熱気も最高潮に達していた。
「おいおい、あの旦那衆、あんな美しい魔女様を二人も独占するなんてズルいぞ!」
「がははっ! お前も今日の討伐で見たあの光の剣の凄まじい剣術を身につけたら、魔女様にお近づきになれるかもしれねえぜ!」
酒に酔った男たちの冗談交じりのヤジに対し、ジュリアンはアイラの腰を強く抱き寄せ、腹黒く冷ややかな、しかし極上に甘い笑みで牽制した。
「悪いが、私の妻は世界で一番美しいからね。他の虫が寄り付く隙など、一ミリたりとも与えるつもりはないよ。……もし手を出そうとするなら、あの氷竜の首と同じ運命を辿ることになるが、それでも構わないかい?」
「ひぃっ! じょ、冗談ですよ旦那!」
ジュリアンの冗談とも本気ともつかない圧に、戦士たちは笑いながらも少しだけ背筋を凍らせてグラスを掲げた。
「エドワード様、お酒がとっても美味しいですわね」
「リリア嬢が注いでくれたからね。だが、君のその美しい笑顔の方が、私にとってはどんな強い酒よりも深く酔ってしまいそうだ」
「エドワード様ったら、もう……」
美味しい料理と旨い酒、そして愛する家族の温かい笑い声に包まれながら、最北の地の夜はどこまでも楽しく更けていった。
翌朝、澄み切った青空の下、旅立つアイラたち一行を街の人々が総出で見送りに集まっていた。
「魔女様! またいつでも帰ってきてくれよな! この街は、いつまで経ってもあんたの第二の故郷なんだからな!」
「旦那衆も、また一緒に一狩り行こうぜ!」
戦士やドワーフたちが手を振ると、アイラも満面の笑みで大きく手を振り返した。
「ええ、もちろんよ! また美味しいご飯を食べに、絶対に帰ってくるわね!」
ジュリアンとエドワードも、彼らの温かい歓待に感謝を示すように優雅に頭を下げる。
数百年の時を超えても変わらない温かい場所に見送られながら、一行はエベレンズピークの街を後にした。
「さて、久しぶりの下界の旅だが、次はどこへ向かおうか?」
ジュリアンが雪道を歩きながら尋ねると、アイラは少し考えてから空間跳躍の杖を空へと向けた。
「そうね。とりあえず、この寒い雪山を抜けて南下してみましょうか。数百年経っていれば、きっとまだ見ぬ新しい食材や面白い国がたくさんあるはずよ。南の砂漠にある幻のスパイスとか……想像するだけでワクワクするわ」
「ええ、お姉様。どこへ行っても、私たちなら絶対に楽しい旅になりますわ」
リリアがふんわりと微笑み、エドワードもそれに優しく頷く。
「ああ。君たちと一緒なら、地の果てまでも付き合おう」
こうして、顔面偏差値が高すぎる美青年たちと絶世の魔女二人による、目的地のない気ままな南下の旅が始まるのであった。




