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偽物令嬢にされて冷遇に文句を言ったら改善されたので本物の令嬢を探してあげました【連載版】  作者: ウナ
魔女編

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魔女編10

テンポが悪いので、書き直してみました。

砂漠の王国から次の国への引きまでという感じです。

前回までの展開も修正して、続きをここに書きました。

乾いた熱風が、果てしなく広がる砂漠の王国の空気を揺らしている。


アイラが新たに足を踏み入れたのは、大陸の南方に位置する砂漠の王国、ドレビアン王国であった。


彼女は現在、魔女としての本来の十二歳ほどの姿を隠し、変装魔法によって二十歳前後の美しい銀髪の旅の魔法使いの姿で、気ままなソロキャンプの旅を続けている。


旅の途中で、この国には美しい海に隣接する街があるという魅力的な情報を手に入れていた。


しかし、その海の街へ向かう前に、ドレビアン王国の王都に立ち寄ったのが運の尽きであった。


王都の市場には、アイラの前世の記憶にある『カレー』に酷似した、多種多様なスパイスをふんだんに使った煮込み料理や串焼きの屋台がズラリと並んでいたのである。


鼻腔をくすぐる強烈で芳醇な香辛料の香りに抗えるはずもなく、アイラはついつい海の街へ行く目的を完全に忘れ、王都の料理を心のゆくままに堪能してしまっていた。


両手にスパイシーな肉の串焼きを持ち、口の周りにソースをつけながら路地裏を歩いていたアイラは、ふと周囲の空気が変わったことに気がついた。


人気のない薄暗い路地で、殺気を隠そうともしない数人の男たちが彼女を取り囲んでいたのである。


彼らの目的は、どう見ても金品の強奪ではなく、若い女性であるアイラ自身の誘拐であった。


アイラは、ここで暴れて騒ぎを起こすよりも、彼らのアジトを突き止める方が面白いと考え、背後から忍び寄ってきた男の鈍器による一撃をわざと受けた。


もちろん、気絶させられる直前のほんの一瞬の隙を突き、自身の体を魔力分身ドッペル・アバターと入れ替えることを忘れない。


本体のアイラは【透明化インビジブル】の魔法をかけ、気絶したふりをして運ばれていく自身の分身の影にひっそりと潜り込んだ。


男たちは、王都の裏路地に建つ寂れた廃倉庫へと分身を運び込んだ。


アジトを特定できたのは良いが、この後どうしようかと、アイラは分身の影の中で少しだけ思案した。


とりあえず内部の状況を把握するため、アイラは分身の影から音もなく抜け出し、建物の外へと空間転移で移動した。


外から透視魔法で倉庫の中を探ると、そこにはアイラと同じような二十歳前後の若い女性が、十数名も檻のような部屋に捕らわれているのが確認できた。


これだけの数の若い女性を集めているとなれば、奴隷売買や人身売買など、彼らの目的は大体想像できる。


この犯罪組織を潰すのは容易いが、王国側のどの機関に知らせるのが一番手っ取り早いだろうかと、アイラは路地裏で途方に暮れていた。


その時、通りの向こうから激しい言い争う声がアイラの耳に届いた。


視線を向けると、一人の身なりの良い若者が、怯える少女を背後に庇いながら、三人の柄の悪い連中に囲まれているところだった。


男たちは下卑た笑いを浮かべ、若者を力ずくで排除してでも少女を連れ去ろうと、強引な手段に打って出ようとしている。


アイラは、あれを助ければ王国側の有益な情報収集ができるかもしれないと判断し、彼らの元へと静かに歩み寄った。


アイラは黒魔法使いの杖を軽く振り、瞬時に魔法を発動させた。


「【昏睡スリープ】」


その一言と共に、三人の柄の悪い男たちは白目を剥いて、文字通り糸の切れた操り人形のように石畳の上に崩れ落ちた。


アイラは、都合よく付近の木箱の横に落ちていた荷解き用の太いロープを拾い上げ、手際よく男たちを簀巻きにして縛り上げる。


「た、助けていただき、ありがとうございます」


若者が警戒を解き、背後の少女を労りながらアイラに向かって深く頭を下げた。


アイラが彼らに事情を尋ねると、驚くべきことに彼らは変装して市井に紛れ込んでいた王族であった。


助けた若者はドレビアン王国の第三王子であるドラウンであり、彼が庇っていた少女は第二王女のシスティーナだという。


ドラウン王子は、最近王都で多発している若い女性の行方不明事件を憂い、密かに身分を隠して調査を行っていたのだ。


しかし、兄がこっそり城を抜け出して何をしているのかという好奇心から、妹のシスティーナ王女が隠れて付いてきてしまい、運悪く先ほどの誘拐犯の末端に目をつけられて襲われ、今に至るらしい。


アイラにとって、これは非常に好都合な展開であった。


「実は私、その行方不明になっている女性たちが捕らわれているアジトを見つけたのです」


アイラがそう告げると、ドラウン王子は驚愕に目を見開き、システィーナ王女も小さく息を呑んだ。


「しかし、こういった組織には、王国側の警備隊や貴族と手を組んでいる悪徳な人間が絡んでいるかもしれません。ですから、信用できる精鋭の騎士だけを集めて、アジトを壊滅していただきたいのです」


アイラはドラウン王子に事情を説明し、王族の権力を使って確実に組織を潰す作戦を提案した。


ドラウン王子も彼女の推測に深く同意し、協力を約束してくれた。


アイラは一度二人を連れて廃倉庫の場所を教え、その後、空間転移の魔法を使って彼らを王宮の安全な場所へと素早く送り届けた。


もちろん、アイラはただ善意だけで動くようなお人好しではないため、裏切られた時の用心として、ドラウン王子の影には密かに魔力分身を潜ませてある。


ドラウン王子が裏切るとは思えないが、彼が信頼して集めた騎士の中に『もしも』の裏切り者がいるかもしれないからだ。


ドラウン王子たちを見送った後、アイラは単身で女性たちが捕まっているアジトの牢屋の内部へと直接転移した。


突突として空間から現れた美しい銀髪の女性に怯える女性たちに対し、アイラは静かに事情を話し、もうすぐ王国の救出部隊が来るから安心するようにと伝えた。


そして、空腹と恐怖で震えている彼女たちのために、アイラは空間収納アイテムボックスから先ほど市場で買い込んでいた絶品のスパイス料理や、甘いお菓子を取り出して振る舞った。


誘拐犯の見張り役は牢屋の外にいるが、彼らの目には今まで通り、女性たちが怯えた表情で隅で震え、泣いているような幻術を見せてある。


しかし実際の牢屋の中では、女性たちはアイラの持ってきた美味しい食料を食べながら、外からの救出が絶対に来るという安心感ですっかりリラックスし、ピクニックのような穏やかな空気が流れていた。


やがて、ドラウン王子の影に付けていた分身から、精鋭の救出部隊がアジトの入口まで到着したという情報がアイラの元に届く。


アイラは、突入の合図や騎士たちの足音を、牢屋の中にいる女性たちの耳にだけ正確に届ける音響魔法を使うのであった。


騎士たちのアジトへの突入を確認したアイラは、誘拐犯に見せていた幻術を解き、静かに助けを待つことにした。


もう突入の状況を音で届ける必要がなくなったため、音響魔法も止める。


扉が蹴破られる激しい音と共に、完全武装した騎士たちが流れ込むようにアジトへと踏み込んできた。


彼らは抵抗する誘拐犯たちを次々と制圧し、牢屋の鍵を壊して、閉じ込められていた女性たちを安全な場所へと保護していく。


遅れて牢のある部屋に入ってきたドラウン王子は、部屋の隅で女性たちを落ち着かせていたアイラを見つけると、真っ直ぐに歩み寄ってきた。


「貴女の協力のおかげで、一人の犠牲者も出すことなく作戦は成功しました。心から感謝いたします」


ドラウン王子は、王族としての威厳を保ちながらも、深く頭を下げてお礼を述べた。


「そして、これは厚かましいお願いかもしれませんが、今回の事件の裏にいる黒幕を探し出すために、引き続き貴女の力を貸してはもらえないだろうか」


彼は、アイラの只者ではない魔法の腕と情報収集能力を見込み、真剣な表情で調査の協力を依頼してきた。


「ええ、構いませんよ。その代わり、報酬としてドレビアン王国の宮廷料理フルコースをご馳走していただきますけれど」


アイラが食い気満々の笑顔で条件を提示すると、ドラウン王子は「本当にそれだけで良いのか?」という拍子抜けしたような顔になった。


しかし、彼にとってその条件は安すぎるほどのものだったため、二つ返事で快諾された。


こうして、宮廷料理という魅惑の報酬に釣られたアイラと、ドラウン王子による誘拐事件の本格的な裏調査へと、物語は進んでいくのだった。


先ずは、牢から救出された女性の証言を元に調査を始めることになった。


彼女は、捕まっている間に、誘拐犯たちと親しげに談笑している王国の警備隊の人間を見たというのだ。


そこで、その証言をした女性に、警備隊の詰所へ赴いて裏切り者の人間を特定してもらうよう依頼することにした。


「私とドラウン王子、そして信頼できる騎士が二名が一緒に付いて行きますから、絶対に安全です。安心してください」


アイラが優しく説得すると、女性は少し怯えながらも、自分たちを救ってくれた恩人のためならと、快く引き受けてくれた。


彼女の協力のおかげで、裏切り者の警備隊員はすぐさま特定され、騒ぎになる前に極秘裏に逮捕された。


王宮の地下牢で厳しい尋問が開始されたが、数時間後、ドラウン王子が疲労困憊した顔でアイラの元へ報告にやってきた。


「なかなか口を割らないのです。どうやら、ただの汚職警備隊員ではなく、闇ギルドから潜入したプロの工作員のようです」


その報告を聞いたアイラは、ならば私の出番ねと、ニシシと悪党のような笑みを浮かべた。


アイラは、かつて魔女世界のお姉様の一人から教えてもらった、極めて特殊な尋問魔法を使ってみることにした。


この魔法は、対象の脳に直接干渉し、その人間が心の底から最も恐れる弱点を突かれ続けるという悪夢を、永遠に見せ続ける精神魔法である。


あまりにもえげつない内容のため、魔女の先輩からも「夢見の魔法などで絶対に他人の精神を覗き見ないこと」と厳重に注意されているほどの、恐ろしい代物なのだ。


アイラが地下牢に赴き、警備隊員の額に指を当てて魔法を発動させた。


結果として、彼が誇っていた闇ギルドのプロ意識とやらは、たったの三秒で完全に崩壊した。


現実での三秒は、精神世界において三日三晩、絶え間ない究極の責め苦を受け続けたのと同じ時間を意味するのだ。


昔の騎士たちは、拷問の訓練としてこの魔法を自らに使い、六十年もの間耐え抜いた猛者がいたというから、それに比べれば随分と根性がないと言えるレベルだろう。


泡を吹いて泣き叫びながら自白した内容によると、彼に裏の依頼を出したのは闇ギルドのお偉いさんであり、この男はただの下っ端の連絡係に過ぎなかった。


下っ端なのだから、すぐに口を割るほど根性がないのも納得である。


「というわけで、次は闇ギルドの本部に突入ね!」


アイラは、黒幕に一歩近づいたことで宮廷料理がさらに現実味を帯びてきたと喜び、意気揚々と次の作戦を口にした。


しかし、ここで一つの壁にぶつかった。


闇ギルドの本部が王都の何処にあるのか、下っ端の警備隊員すら正確な場所を知らされていなかったのだ。


「こういう時は、後ろ暗い事で知られる貴族をマークするのが一番効率が良いのよ」


アイラは、人間の欲望と犯罪組織の構造を熟知した探偵のような顔つきで提案した。


後ろ暗いと言われていても、実は清廉潔白で濡れ衣を着せられている貴族も稀に居るが、大抵の噂は事実に基づいているものだ。


ドラウン王子に貴族たちの身辺を調査させると、即座に四つの貴族の家門が候補に挙がった。


アドルフ伯爵、セニョルド子爵、オルフ子爵、バームス男爵の四名である。


この四つの貴族は、日頃から派手な浪費を繰り返し、貴族会でも悪徳貴族として名が連なっている要注意人物たちだった。


アイラは彼らの屋敷にそれぞれ【透明化】した魔力分身を放ち、徹底的な監視と調査の網を張って様子を見ることにした。


分身を放つこと一週間、遂に決定的な尻尾、いや闇ギルドの首領の正体を特定し、確たる証拠を揃えることに成功した。


その正体は、最も身分の低いバームス男爵であった。


彼は表の顔はうだつの上がらない男爵を演じていたが、裏では闇ギルドのマスターであり、さらには自らも手を下す最高の暗殺者でもあったのだ。


しかし、いかに彼が裏社会で最高の暗殺者であろうと、最強の魔女であるアイラには遠く及ばなかった。


バームス男爵は、アイラの分身が自分の影の中にすっぽりと忍び込んでいることにすら全く気づかず、数々の悪事の証拠をあっさりと確保されてしまったのである。


決定的な証拠を突きつけられたバームス男爵は、王国の騎士団によって屋敷ごと電撃的に包囲され、逮捕された。


そして、王宮の冷たい獄中で、彼もまたアイラのえげつない尋問魔法の哀れな餌食となるのだった。


バームス男爵が涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら吐き出した自白により、ついに事件の全貌が明らかになった。


全てを裏で操っていた真の黒幕は、王国の重鎮であるケテルビヌス侯爵だった。


実行役として闇ギルドを動かしていたのがセニョルド子爵であり、誘拐された女性たちの取引相手は、侯爵に連なる王国の腐敗した貴族たちであった。


彼らの目的は、誘拐した女性たちを裏の奴隷オークションにかけ、そこから得られる莫大な富を一部の権力者たちで独占することだったのだ。


「本当に、権力を持った人間の行き着く先は、どこの国でも似たようなものね」


アイラは呆れたようにため息を吐きながら、次なる行動への準備を始めた。


ケテルビヌス侯爵家とセニョルド子爵家の両家を完全に追い詰めるため、さらなる決定的な証拠を抑えるべく、アイラは新たな分身をそれぞれの屋敷へと放つのであった。


分身を放って調査を続けた結果、ケテルビヌス侯爵とセニョルド子爵が黒幕だと思われていたが、その判断は少しばかり早計だったことが判明する。


ケテルビヌス侯爵のバックには、さらに上位の存在である王族が密かに控えていたのである。


アイラの分身から伝わってきた視界には、第二王子であるアブドルが、深夜にケテルビヌス侯爵と密会している決定的な場面が映し出されていた。


それに加え、実行役と思われていたセニョルド子爵も、非常に狡猾な手口で他の貴族たちに命令を下していた。


彼は自らが元締めであるかのように振る舞うことで、真の黒幕であるケテルビヌス侯爵へ矛先が向かないよう、綿密に考えられた防波堤の役割を果たしていたのだ。


他の貴族と言っても、実際に誘拐などの汚れ仕事を請け負っているのは下位の男爵家などのようであり、セニョルド子爵がその寄り親として振る舞うなど、組織図も実に巧妙に練られている。


さらに複雑なことに、セニョルド子爵の本来の寄り親はスフィン伯爵であり、そのスフィン伯爵はカルーゲルス侯爵の寄り子という派閥構成であった。


つまり、セニョルド子爵は表向き敵対派閥の出身であるかのように見せかけながら、実はケテルビヌス侯爵の優秀なスパイとしての役割も負っていたということになる。


この国の王家そのものが深く絡んでいるとなると、それを覆すだけの強力で決定的な証拠が必要不可欠となる。


どれほど確固たる証拠があろうとも、上位貴族の有力な証人が居なければ、別の王族からの横槍が入り、いとも簡単に事実を覆されてしまうのが貴族社会の常だ。


どうしたものかと、アイラは少しだけ思案した。


これは、アイラ一人で勝手に暴れ回るよりも、依頼主であるドラウン王子に直接相談して決めるのが一番効率が良いだろう。


このドロドロとした闇を完全に払拭するには、最高権力者である国王陛下に直接出てきてもらうしかないという結論は変わらない。


そこへ至るまでの確実な道筋をどう立てるかが、この大事件を解決するための最も重要な鍵となるのだ。


後日、ドラウン王子に相談するための、反論の余地もない完全な証拠の束をアイラはきっちりと揃え終わった。


集められた密会の映像記録などの証拠を見て、自身の王家が深く関わっている事実を知ったドラウン王子は、顔を紙のように真っ白に蒼白させ、やがて兄に対する激しい怒りでその顔を赤く染め上げた。


彼にとってアブドル王子は、いつも優秀で温和な顔を見せる、尊敬すべき立派な兄であったのだ。


その温和な仮面の下に、自国の民を売り捌くような恐ろしい裏の顔があったとは、尊敬していただけに裏切られたという絶望感も計り知れないのだろう。


この証拠を持って、直ちにアドルフ国王陛下に直接判断を仰ごうという事で、二人の意見は完全に一致した。


王族が主犯格となれば、もはや第三王子一人が内密に片付けられるような規模の事件ではないのだ。


二人が国王陛下に会いに行くために王宮の長い廊下を歩いている途中、運悪く、アブドル王子と真正面から出くわした。


彼らは自分たちの悪事がすでに完全に暴かれ、気づかれているなどとは夢にも思っていないのだろう。


アイラとドラウン王子は、胸の奥で煮えくり返るような怒りを必死に隠して簡単な挨拶だけを交わし、足早に国王のいる謁見室へと急いだ。


国王の私室である謁見の間に到着し、ドラウン王子から事の顛末と全ての証拠を提示された時の空気は、かつてないほどに重く沈んでいた。


実の息子が国を揺るがす大罪の黒幕であったというショックが大きすぎたのか、アドルフ国王陛下はヨロヨロと崩れ落ちるように玉座にもたれかかった。


しかし、これは王家の暗部を直々に動かすほどの重大な事件となり、国王陛下が自ら指揮を執って大粛清を行うことが決定されたのであった。


アイラは事件の全貌を暴き、決定的な証拠まで揃えたが、相手が自国の王家そのものとなれば話は別である。


これ以上、他国の旅人である彼女をドロドロとした王家の内情に深く関わらせるわけにはいかないという、アドルフ国王陛下の極めて妥当な判断が下された。


アイラの協力もこれにて終わりという事になり、彼女は王宮の表舞台から身を引くこととなった。


そして、これまでの多大な貢献だけでも十分に国を救ったという国王陛下の特別な計らいにより、当初の約束通り、アイラにドレビアン王国の宮廷料理フルコースが振る舞われることになったのだ。


スパイスを巧みに使った極上の宮廷料理を心ゆくまで堪能し、アイラは満面の笑みでお腹を満たした。


しかし、自称名探偵であるアイラの好奇心が、これで大人しく引き下がるはずがなかった。


この大事件の今後の顛末だけはどうしても知りたいと考えたアイラは、誰にも内緒で密かに魔力分身を作り出し、アドルフ国王陛下の影へと静かに潜り込ませたのである。


こうして王都でのひと騒動に保険をかけたアイラは、当初の目的であった海に隣接する港街、ザビデへと向かって旅立つのであった。


港街ザビデは、潮の香りと活気に満ちた、王都とは全く違う空気が流れる美しい街であった。


市場には、王都では見られないような新鮮な魚介類を使用した料理がズラリと並んでいる。


もちろん、この国特有の多種多様な香辛料もふんだんに使われており、海鮮の旨味とスパイスが絶妙に絡み合ったシーフードカレーのような料理の屋台があちこちから湯気を立てていた。


強烈に食欲をそそる香ばしいスパイスの香りと、爽やかな磯の香りが混ざり合い、アイラの鼻腔を絶え間なくくすぐってくる。


アイラは、王都で魔法を派手に使って消費したカロリーは、あの豪勢な宮廷のフルコースで十分に補給したはずだった。


しかし、この港街の魅惑的な匂いを嗅いでいるだけで、勝手に魔力が消費されてお腹が極限まで減っていくような、理不尽な感覚を覚えたのである。


「これはもう、食べるしかないわね」


アイラは、銀色の髪を風に揺らしながら、一人で怒涛の食べ歩きを開始した。


新鮮なエビや貝のスパイシーな串焼き、魚介の旨味が溶け込んだ熱々のカレーなど、港街ならではの美食をこれでもかと胃袋に収めていく。


すっかり夜になり、海が見える景色の良い宿をとって、アイラは満足のいく一日を締めくくった。


ふかふかのベッドに横たわりながら、このドレビアン王国は本当に美味しいものがたくさんある素晴らしい国だと、アイラは心から感心する。


いつか、天国で魂のクールタイムを過ごしている最愛の夫ジュリアンが使い魔として帰ってきたら、妹のリリアとエドワードの四人で、この国へダブルデートの美味しい食事ツアーに来たいものだと、彼女は幸せな未来を想像して目を細めるのであった。


翌朝、波の音で気持ちよく目覚めたアイラは、宿のバルコニーで海風に吹かれながら、次は何処の国へ行こうかと思案していた。


その時、アドルフ国王陛下の影に付けていた分身から、アイラの脳内に緊急の知らせが飛び込んできた。


なんと、アドルフ国王陛下が何者かによって暗殺されそうになったところを、分身が間一髪で阻止したというのだ。


幸いなことに、分身は姿を見られることなく物理的な干渉のみで暗殺者を排除したため、引き続き気配を消して国王の身を見守っているという。


アイラは報告を受けて少しだけ思案し、すぐさま新たな魔力分身を二つ作り出した。


そして、その分身たちを空間転移させ、今回の事件解決の依頼主である第三王子ドラウンと、その妹である第二王女システィーナの影にもそれぞれ密かに取り憑かせたのである。


このドロドロとした王位継承や派閥争いにおいて、最悪の場合、この三人の王族さえ死ななければ、他の腐敗した王族がどうなろうと知ったことではないというのが、アイラのドライな判断であった。


もしも事態がどうにもならないほど悪化し、彼らの命に危険が及ぶようなことがあれば、その時はアイラ自身が乗り込んで、悪党どもに物理的に消えてもらえば良いだけのことだ。


そうすれば、この国の美味しいご飯と平和は確実に保障されるだろうと、アイラは極めて魔女らしい結論を導き出したのである。


さて、王国のゴタゴタに対する完璧な保険もかけたことだし、気を取り直して次の目的地を決めよう。


アイラは、大陸の知識を頭の中で巡らせ、パラパラと記憶を探った。


そういえば、他の国に比べて妙に瘴気が濃いと言われている国が、大陸のどこかにあったはずだ。


悪魔が住み着いているわけではないらしいが、魔女世界の奔放なお姉様たちが、たまに人間の男連れで遊びに行くという、少しばかりいわくつきの国である。


一体そこには何があるのか、そしてどんな美味しいものが隠されているのだろうかと、アイラの知的好奇心と食欲が強く刺激された。


「面白そうだし、次はその国に行ってみることにしましょうか」


アイラは、波止場で海鳥が鳴くのを聞きながら、新たなる未知の国へと向かう決意を固めるのであった。

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