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幕間

ちょっときつめの内容です。

残酷な描写だと思いますので、苦手な人は夢の所は見ない方が良いかもです。


地下祭壇に満ちていた禍々しい魔力が、天使の放つ神聖な光によって静かに浄化されていく。王都を丸ごと吹き飛ばすはずだった中位悪魔の執念は、光の粒子となって虚空に溶け、消えていった。


「……これで、全て終わったな」


レオンハルトお父様が天使の剣を収め、深く息を吐いた。


その隣で、セオドア兄様もまた、ボロボロになりながらも晴れやかな表情で立ち尽くしている。


「公爵よ、そして双子の令嬢たちよ」


使用人の姿をした天使が、静かに私たちを振り返った。その瞳に宿っていた金色の光が、さらに強く輝きを増していく。


「悪魔の残した『置き土産』は完全に消滅させた。認識阻害の結界も、もう二度と復活することはない。……私の役目も、これにて終わりだ」


天使はそう言うと、ふっと視線を和らげた。


「この肉体は元の使用人に返しておこう。目覚めれば、ただの長い夢を見ていたと思うだけだろう。……最後に、一つだけ言っておく」


天使の姿が、次第に透明な光へと変わっていく。


「私のような存在と、二度と会わないことを祈るがいい。我ら天使が地上に関わるということは、即ち、再び悪魔が暗躍するということなのだからな」


「……ああ。心得ている。感謝するぞ、天使よ」


お父様の言葉を最後に、光は一際強く弾け、天井を突き抜けて天へと昇っていった。


後に残されたのは、壁に寄りかかってスヤスヤと眠る、記憶を奪われていた不憫な使用人の女性だけだった。


屋敷へと戻る馬車の中、車内には心地よい静寂が流れていた。


私の隣では、緊張の糸が切れたリリアが、私の肩に頭を預けてすやすやと寝息を立てている。


そんなリリアの寝顔を見つめながら、私はふと、前世(?)の「意味記憶」を掘り返していた。


(……それにしても。偽物として拾われ、冷遇され、最後は絶望して処刑台へ……って。これ、巷で言うところの『悪役令嬢もの』とか『偽聖女もの』のゲームや小説で、よく見るストーリーじゃない?)

この世界の人々にとって、天使や悪魔はお伽話の中だけの存在だ。私だって、実際にこの目で見るまではそう思っていた。でも、この一連の流れを客観的に見てみると……。


(もし私が普通の女の子で、あのまま残飯を出されて絶望し、家族を呪っていたら。……まさかね。そんなテンプレみたいなことが、本当に起きようとしてたなんて。……あぶないあぶない)

屋敷に戻ると、私は——レオンハルトは、一人執務室で公爵家の家系図を広げた。



九年。この羊皮紙から、一人の娘の存在が消えていた。


悪魔の術策に嵌まっていたとはいえ、実の娘をスラムの泥水の中に放置し、あまつさえ「偽物」と呼んで冷遇した。その事実、私の魂に消えない傷を刻んでいる。


私は震える手で羽ペンを取り、リリアの名前のすぐ隣に、万感の思いを込めてその名を書き加えた。


『長女:アイラ・アルジェント』

インクが吸い込まれていくのを、ただ静かに見つめる。これでようやく、私は父親としての、およびアルジェント公爵としての最初の義務を果たした。


その後、私は一人、エレオノーラの肖像画が飾られた部屋を訪れた。


月明かりに照らされた彼女の顔は、かつての絶望の夜とは違い、慈愛に満ちた輝きを放っているように見えた。


「エレオノーラ……許してくれ。私はあの子を、あんな過酷な場所に九年も捨て置いてしまった。……だが、今日ようやく、あの子は正当な『私たちの娘』として家系図に名を刻んだぞ。もう二度と、あの子たちの笑顔を奪わせはしない。たとえ世界を敵に回しても、この私が守り抜くと、お前に誓おう」


肖像画の中の妻は、まるですべてを赦すかのように、穏やかに微笑んでいた。


その日の夜。


ふかふかのベッドの中で、私は深い眠りに落ちていた。


――そこで私は、回避されたはずの「もしも」の光景を、あまりにも鮮明な夢として見る。


それは、太陽の光さえ届かない、絶望に塗りつぶされた灰色の世界。


王都の中央広場には、天を突くほど巨大な処刑台が設置され、その周りを憎悪に狂った数万の群衆が取り囲んでいた。


「偽物め! 公爵家をたばかった罪、万死に値する!」


「薄汚いスラムの泥棒猫が! 聖女様を惑わした罰を受けろ!」


処刑台の上、両手両足を鎖で繋がれたアイラは、もはや声も出ないほど衰弱していた。


この世界のアイラは、何も持たなかった。かつてリリアが行方不明になった際、身代わりとして拾われたが、リリアは王太子ジュリアン率いる騎士団によって「感動的な救出劇」で連れ戻された。


王太子はリリアの救世主となり、その陰でアイラは「聖女の座を狙った邪悪な偽物」という罪を着せられた。お父様も、お兄様も、英雄である王太子と愛娘の絆を信じ切り、アイラを害虫として心底から軽蔑していた。


処刑台の上には、冷徹な瞳で見下ろすレオンハルト、嫌悪を隠さないセオドア、およびリリアを愛おしげに抱き寄せる王太子、ジュリアン・ド・ラ・ヴァリエールが並んでいた。リリアはジュリアンに身を委ね、処刑台のアイラに勝ち誇ったような微笑を向けている。


「……死ぬ前に、お前の大罪に加担した者たちの末路を見せてやろう」


ジュリアンが残酷な笑みを浮かべて合図を送ると、処刑台の下に、ボロボロになったマリー、リック、セナ、ポル、ベル、そして赤ん坊のココまでもが引き立てられた。


「アイラ! アイラちゃん……っ!」


「放せ! アイラねえちゃんを助けろよ!」


泣き叫ぶ子供たちを、騎士たちが無慈悲に押さえつける。


「ジュリアン……やめて、お願い……! あの子たちは何も知らないの……!」


「黙れ、偽物。反逆者の身内もまた、反逆者だ。……執行せよ」


ジュリアンの冷酷な号令と共に、アイラの目の前で、マリーと子供たちが次々と斬首されていく。マリーは最期までアイラを案じ、幼いココは母親代わりの彼女の腕の中で命を散らした。


家族が、自分の目の前で、信じていた実の父と兄の見守る中で惨殺される。その絶望が、アイラの心を完全に叩き潰した。


「……呪ってやる。ジュリアン、リリア、レオンハルト、セオドア……! お前たちも、この腐りきった王国も、全て地獄へ道連れにしてやる……!! 私が受けた痛みを、絶望を、一滴残らず味わい尽くして死ねえええええっ!!」


アイラの絶叫と共に、ジュリアンが号令をかける。


「――放て!!」


処刑の刃が振り下ろされ、アイラの首が飛んだ。


断頭の瞬間、アイラの魂は肉体を離れ、視認できるほどの真っ黒に染まった巨大な塊となって宙に浮かび上がった。極限の憎悪と絶望によって変質したその魂は、周囲のエネルギーを貪欲に吸い込み始める。


そこへ、計画の成功を確信した悪魔が姿を現した。


『――くくく、実に見事な幕切れだ、公爵よ。お前が今殺したのは、お前の実の娘……リリアと対をなす双子の姉だ。私が記憶を封じ、そして「王太子による救出劇」という最高の舞台を用意した。自らの手で、守るべきだった宝物を惨殺した気分はどうだ?』

その言葉を聞いた瞬間、レオンハルト、セオドア、ジュリアンの脳内で『認識阻害』が粉々に砕け散った。


「あ、あああああああああああああああ!!」



自らの手で愛娘を、そしてその恩人たちを惨殺してしまったという事実。血の気が引いた顔で絶叫する父と兄、および王太子の心から、膨大な『後悔』と『絶望』の負のエネルギーが放出され、アイラの真っ黒な魂へと吸い込まれていく。処刑場に集まった群衆の残酷な歓喜もまた、魂を巨大化させる糧となった。


ズゥゥゥン……!

アイラの魂は黒い太陽のように膨れ上がり、空を覆い尽くすほど禍々しい赤黒い魔法陣が展開された。


バリバリと空間が裂ける音が響き、天に巨大な亀裂が走る。そこに出現したのは、無数の嘆きの顔が刻まれた『地獄のヘルゲート』。門は重苦しい音を立ててゆっくりと開き、中からは耐え難い死臭と共に、無数の亡者の魂と、飢えた悪魔の群れが溢れ出した。


「ぎゃあああああああかっ!」


亡者たちは広場の人々へ次々と憑依し、人々は自我を失って隣人と殺し合いを始めた。悪魔たちは逃げ惑う人々を玩具のように引き裂き、王都は一瞬にして血の海と化した。



その惨状に応じ、人間界の各地から黄金の光を纏った天使たちが集結し、悪魔との全面戦争が始まった。しかし、闇の勢力は圧倒的だった。


一人の高位天使が、処刑台の傍らで震えるリリアの内に眠る『白魔法使い』の資質を察知し、その頭を無慈悲に掴んだ。


『地獄の門が全開となる前に、聖なる盾を築かねばならぬ。……器となる娘よ、お前の命を天に捧げ、軍勢を喚べ』

「……嫌、お父様、助けて……っ!」


天使はリリアの悲鳴を無視し、彼女の魔力を強制的に全開放させた。リリアの体を中心に、闇を打ち払うほどの苛烈な聖光が爆発的に広がり、無数の天使の軍団が召喚された。


だが、白魔法使いとして完全に覚醒していなかったリリアは、天使召喚の術に耐え切れず、その体が眩い光の粒子となって指先から崩れ、透き通っていく。


『さようなら……お父様、お兄様……』

最愛の娘たちが共に消滅し、世界が天使と悪魔の戦争で赤く染まる中、レオンハルトとセオドアはただ、永遠に解けることのない後悔のどん底に沈んでいく――。


「――っ! ……っふぅ、っふぅ」


飛び起きると、窓からは柔らかな朝日が差し込んでいた。


心臓が早鐘を打ち、嫌な汗が全身を濡らしている。だがそれ以上に、意識が覚醒する直前に網膜の裏に焼き付いた「あの画面」が頭から離れない。


(……ちょっと待って。何今の、あの最後に出た『BAD END ~リリア不完全覚醒~』っていう半透明のウィンドウ!? 文字盤まで凝っちゃって、完全に乙女ゲームのゲームオーバー画面だったじゃない!)

私は呆然としながら、寝汗を拭った。


あの夢の中の私は、確か十八歳くらいに見えた。ってことは、あの悲劇は数年後の未来に待っていた「マルチエンド」の一つだったというわけだ。


(マルチエンドのゲーム! しかも私が死ぬまで描かれた結構重めなやつ! ……ふ、ふふふ。転生ばんざーい! 美味しいもの食べて、家族と仲良くするだけで世界崩壊ルートを回避できるなんて、最高のヌルゲーじゃない!)

夢の恐怖はどこへやら、私は「生存ルート」を確定させた喜びに一人でガッツポーズを決めた。


コンコン、と扉を叩く音がした。


「お姉様! 起きてますか? 厨房でマリー様が、焼き立てのアップルパイを作って待っていますよ!」


元気なリリアの声。


廊下からは、リックたちの騒がしい笑い声と、マリー姉ちゃんが「廊下を走らないで!」と叱る声が聞こえてくる。


「いま行くよ、リリア! ……あ、バニラアイスもたっぷり乗せてもらおうかな!」


私はベッドを飛び出し、温かな光が満ちる日常へと駆け出した。


アイラ・アルジェントの飽くなきグルメライフと、最強の探偵バディの物語。


悪魔の陰謀を粉砕した双子の姉妹の進撃は、まだ始まったばかりなのだから。


(第一部:悪魔の陰謀編・完)


楽しんで頂けましたでしょうか。

ここまでで本当の意味でプロローグ終わりになります。

次からは恋愛要素をちゃんと入れます。

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