第22話 天才の誕生(2)
――三分後。
「ぐふ......ごは......」
「どうした。もうおしまいか?」
肺の中に血が溜まるような感じがする。息をするたびに喉からは血の混じった痰があふれる様に出てきた。痙攣する手足を引きずるように、立ち上がろうとする。
――強い。
汚れの一つもない純白のローブが、アムールとイリスの間には埋まらぬ差があることを証明していた。ナイフで切ろうとすればこかされ、距離を取ろうとすれば、魔法が雨のように飛んでくる。
彼女の使う魔法は、衛兵共が使う蠟燭の火のような弱弱しいものとは訳が違った。
「まだ......終わってねえぞ」
「ほ――やる気だけは十分ね。いいぞ、もっと頑張れ!」
イリスがなめ腐った態度でケタケタ笑いながら、顔を近づける。若干、果物の匂いがする吐息が顔にかかるたびに、アムールの怒りのボルテージは上がっていった。
脚はもはや、機能をしていない。だが、幸いにも腕はどうにか動かすことができる。
――肉体的にも最後のチャンス......やってやるよ。
アムールはイリスの目に入らぬように、拳に魔力を込める。それはまるで、針の穴に糸を通すように、僅かな風塵すらも起こさぬような、微細な魔力操作であった。
やがて、手のひらの上に林檎ひとつ分ほどの魔力が形をなした。それは静かに、しかし確かな殺意を秘めて密度を増していく。アムールはありったけの声を絞り出し、逃げ場のない距離にいるイリスの貌を目掛けて、その輝きを一気に解き放った。
「くたばれ化け物!」
アムールの渾身の一撃はイリスの顔面をとらえ、勝利を祝福するかのように炸裂する――ことはなかった。
「ざ~んねん。勝利も希望もありませんでした~」
アムールの魔力放出は炸裂する前に、イリスの顔の前で四散していった。
「君が魔力を溜めていることに気付いてないと思った? そんな訳ないじゃん!」
「く......そ......」
アムールは掲げていた腕を下ろし、地面を握りしめる様に爪を立てた。
「さて、そろそろ帰らないとお弟子にも怒られちゃうし、終わりにしますか」
「なんだと......まだおわ――」
言葉を発しきる前に、アムールの脳に微弱な電撃が走る。
――こんな奴に......こんなふざけたやつに負けるのか......。
やがて、意識が遠のき、視界は真黒く染まっていった。
***
――聞こえる。
俺を憎む声が。
――感じる。
俺を疎む視線を。
――許さねえ。
俺を疎む奴を、俺を嗤う奴を、俺は絶対に許さない。
邪魔する奴は全員、ぶっ殺してやる。
何人だろうと。絶対にぶっ殺してやる。
『でも、お前は負けたよな?』
――は?
『口ではあれやこれやと言っているが、手も足も出せずに負けたよな?』
――......。
『敗者は勝者に従わないとね』
――そうか......俺は。
『負けたんだ』
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遅れてしまい申し訳ありません。




