38.判断
俺たちは安否を確認するために瑠奈が運ばれた医務室に向かった。
「瑠奈大丈夫か!?」
「如月さん。すみません、体調不良です」
「よかった〜。倒れたって聞いたから深刻だと思ったよ」
「倒れたんじゃなくてめまいでふらついただけですよ。琴莉が大騒ぎしているだけです」
「そうなの?琴莉?」
「あははは」
笑って誤魔化している。慌てるのは分かるが倒れたと聞いたこっちは気が気じゃない。
「心配かけてすみません」
「いいよいいよ。無事なら」
「それにしてもライブが終わったから気が抜けちゃったのかな?」
「ここんところ頑張っていたからな」
「だね〜」
いいライブにしようとレッスンの量が増えていたし、初めてのライブということで緊張感もあったからライブが終わって気が抜けるのはしょうがないことだ。
「それで如月さんこのあとのライブとトークショーはどうする?」
「あーそれがあったか」
ライブはゲストとして出演がありトークショーとはイベント会場の大画面限定でやる配信でゲストやVプロの子と今回のイベントの裏話などをする。
もちろん瑠奈もこのトークショーに参加する予定だったが・・・
「私、出ます!」
「瑠奈大丈夫なの?」
「横になって休んでいたから大丈夫!」
「本当に大丈夫か?」
顔色は悪くないので大丈夫そうに見えるし無理をしている感じでも無さそうだ。
「大丈夫です!」
「でもな〜心配なんだよな」
「お願いします!私やりきりたいんです!」
「そりゃ俺だってやらせたいよ」
このイベントに向けてどれだけ準備をしてきたのかを知っているので最後までやらせたい。
だがもしこれでやらせて倒れたらファンを心配させるだけでなく周りにも迷惑をかけてしまう。
それに防げたトラブルを起こしてしまうと運営は何をやっているんだという事態になってしまう。
その結果、うまくいっていたイベントやライブが最悪な形で終わってしまうかもしれない。
「私も瑠奈とやりきりたい!お願い!如月さん!」
「うーん。ちょっとだけ待ってくれ」
俺だけでは判断できないので医務室の先生に瑠奈の状況を確認することにした。
「先生、瑠奈はどういう状況ですか?」
「倒れた原因は疲れやストレスによるものね。さっき熱を測ったら微熱があったわ」
「やっぱりそうですよね」
「本人は気づいていなくてもふとした時に体にくるのよ」
「このあと配信とかあるんですがやらせても大丈夫そうですか?」
先生は少し考えたあと答えた。
「医者の意見としては休んだ方がいいとしか言えないわね」
「ですよね」
やはり後のことを考えたら今日はもう安静にしていた方がいいだろう。
「分かりました。本人には俺から休むように言ってきます」
「任せたわ」
瑠奈たちは絶対に悲しむだろうが上に立つ者として判断を誤ることはできない。
「瑠奈」
「如月さんどうしたんですか?」
俺は瑠奈にイベントに出れないことを伝えないといけないが言葉が喉に詰まり出てこない。
「如月さん?」
「ごめん」
やっと出た言葉は謝罪だった。
「もしかして瑠奈は出れないの?」
「そうだ。申し訳ないけど瑠奈には安静にしてもらう」
「え?如月さんなんで?」
瑠奈は今にも泣きそうな声で聞いてきた。
「医者に聞いたら安静にした方がいいって止められてしまったんだ。だから俺は医者の意見を聞くことにした」
「どうして?私はまだやれるんです!だから・・・」
そこから言葉は続かず泣いてしまった。
「如月さんはそれでいいの?」
「俺だって本音は最後までみんなでやりきりたいよ」
「だったら!」
「今回は俺たちだけのイベントじゃない。Vプロさんたちと協働でやっているんだ。迷惑はかけられないよ」
「だとしてもみんなでやりきたかった」
そんなこと分かっている。まだ今の状況を知らない凛音たちも同じことを言うだろう。
俺は悔しさと何もできない無力さから手を思いっきり握りしめた。
「とりあえず瑠奈が今日出れないことを各所に伝えてくるよ」
この空気に耐えられなくなり逃げるように部屋を後にした。
「ごめんね。琴莉」
瑠奈は毛布に包まりながら謝った。
「うんうん、瑠奈は悪くないよ。一緒に居たんだから私たちがこうなる前に気づくべきだったんだよ」
なんで前兆があったはずなのに気づけなかったんだろ。いつもは周りの人の変化にすぐ気づけたのに、どうして。
琴莉は直近の自分を思い出してみた。
朝から夕方まで歌やダンスのレッスンをし、帰ってきたら家の事をやって寝る前まで配信。慣れない生活をしていたから自分の事で精一杯になっていた。
昨日のライブも緊張なんてしていないと思っていたが周りを気にする余裕がなくなるくらいには緊張していたんだと今なら分かる。
お互いかける言葉が見つからず何も言わずにただ時間だけが過ぎていった。
俺はまずSNSで瑠奈が体調不良でトークショーに出れなくなったことを投稿した。
ライブの方はゲストとして出演するのでなんとかなるだろう。
その後すぐに俺は大菅さんのもとへ行った。
「大菅さん少しいいですか?」
「先ほどの投稿についてかい?」
「はい。瑠奈が先ほど立ちくらみで医務室に運ばれました」
「体調は大丈夫なのかい?」
「微熱があるそうですがそれ以外は大丈夫そうでした」
「それなら良かった。それにしても思い切ったね。僕に相談があっても良かったんじゃないのかい?」
「申し訳ありません」
大菅さんには相談はしないといけなかったと反省はしている。
「別に責めてはいないよ。君なりの考えがあってその判断をしたんだろ?」
「そうですね。もしものことを考えたらこれが最善だと思いました」
「たぶんだが僕らに迷惑がかかると思っているのかな?」
「はい」
やっぱりこの人には俺の考えはお見通しのようだ。
「如月くん、まず君の判断は確かに正しい。だがもしものことを考えてと君は言ったね?」
「そうです」
「先の事を考えて行動するのは大切だ。でもね、僕の意見で言うと起こるかも分からない事を心配してもしょうがないと思うんだ」
「どういうことでしょうか?」
先を考えて行動することに駄目なことはないのに大菅さんが何を伝えたいかが分からない。
「時には後先考えずに行動するのも大事だということだ」
「それじゃあ周りに迷惑をかけるかもしれません」
「それだ。まず大前提として僕らに迷惑をかけることの何が駄目なんだ?」
「え?」
「別に僕は迷惑をかけてもらっても構わないと思っている。何故だか分かるかい?」
「いえ」
少し考えてみたが理由はさっぱり思いつかない。
「それはね、君は僕からしたらまだ子供だからだ。子供のミスをカバーするのが大人の役目だと考えている」
「だとしても防げるミスなら防ぐべきです」
「だが君の想定していることが確実に起こるわけじゃない。瑠奈君は君から見てステージに立つことすら無理な状況だと思ったかい?」
「いえ」
「じゃあ出演させても良かったんじゃないかい?」
「・・・・・」
これ以上は何も言えなかった。
「いろいろ心配する気持ちも分かるし立場上、大人にならないといけないと思うが感情に任せて行動した方が結果的に成功することがあることを知っておいて欲しい」
「はい」
「みんなでこのイベントをやりきった方がいい思い出になるよ」
「はい」
話を聞いて俺の中で判断が揺らいでいる。だが次の言葉を聞いてどうするかが決まった。
「あとこれも知っておいて欲しい」
大菅さんは一呼吸おいて言った。
「迷惑なんてかけまくってくれ!なにかあれば責任は僕がとる!」
「本当にいいんですか?」
「ああ、ここまで作り上げた仲間だろ?もっと僕らを頼って欲しい」
流石、リープ前の世界でVプロをVtuber界のトップ事務所にした人だ。こういう人が上に立つべき人間だと改めて感じる。
それに俺は大菅さんに認められているのは知っていたがライバル会社同士なのに仲間と言ってもらえるくらいに信用されていることを知ったのでその信用に応えたい。
「それでどうするんだい?まだ時間はあるよ」
「もう一度、瑠奈の体調の確認をしてきます。それで大菅さんにお願いがあります」
「言ってみなさい」
「俺はみんなで最後までやりきりたいです!もし瑠奈が出演して何かあれば」
「その時は僕が責任を取ろう」
大菅さんはこう言ってくれているが俺はなるべく借りを作りたくないタイプだ。
「いえ、一緒に責任を取ってください!」
大菅さんは高らかに笑いだした。
「それでこそ君らしいよ!いいよその時は一緒に責任を取ろう」
「はい!よろしくお願いします!」
時間も迫っている。俺は走って医務室に再び戻った。




