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第一話 風と共に――去りぬ者たち【1/2】

「ドランさん!お願いします!」


 洞窟内にセオドアの声がこだまする。


「......任せろ!」


 ドランが鎧の音を鳴らしながら前へと出る。


 地鳴りのような咆哮が、湿った洞窟の奥に響き渡った。


 岩壁が震え、苔むした天井から小さな石片が降ってくる。


「来るよ……!」


 フィオナの声が、静かな緊張を帯びて洞窟に溶けた。


 その横で、ドランが大盾を構えて前に出る。足元に踏み込むようにして、厚い岩床を踏み締める。


「......《鉄壁装甲〈アイアン・コート〉》!」


 ドランの体に、淡い光が走る。鎧が硬質な音を立てて収縮し、スキルによる強化が発動した。


 洞窟の奥、闇の中から現れたのは、全長四メートルを超える毛むくじゃらの巨獣だった。ヴァルゴル――ゴールド級のモンスターである。


 ヴァルゴルの巨大な鉤爪がドランの大楯にぶつかる。


「......っぐ!」


 ヴァルゴルの攻撃を受けたドランは少し後退りするも攻撃は完全に防げていた。


「ノエルさん!」


 セオドアの呼びかけにノエルはウィンクする。


「おっけ〜!風精霊さん、行ってらっしゃい!《精霊契約・一式〈スピリット・アコード〉》!」


 ノエルが掲げた杖から、風の精霊が舞い上がるように出現し、前線に向けて突風を放つ。岩を吹き飛ばすその風が、ヴァルゴルの視界を遮った。


「フィオナ!」


「《烈風穿矢〈れっぷうせんし〉》!」


 フィオナの放った矢が空気を裂き、風に乗ってヴァルゴルの右眼を撃ち抜いた。


 獣が怒声を上げて暴れ狂う。だが、ドランがそれを一身に受け止める。


 洞窟の壁際、戦闘には加わらず背を丸めていた影が立ち上がる。


「貴重素材、回収開始っと……!」


 セリカが腰のポーチを開き、爆風で散った毛皮の破片や、飛び散った爪を素早く回収していく。


 金属の鑿で地面に落ちた一枚の鉤爪をこじると、手慣れた様子で布に包み込んだ。


「もう一本……!セオドア!!!」


 フィオナの声に、セオドアが素早くヴァルゴルへと駆け出す。


「はい!!」


 彼の目が鋭く細められた瞬間、空気の流れが変わる。


 深く腰を落とし、呼吸を整える。


「《心身活性〈ブレイン・ブースト〉》」


 身体が、加速する。


 魔力が筋肉に流れ込み、神経が研ぎ澄まされる。


 一歩。二歩。三歩――


 そして、跳躍。


 洞窟の天井にまで跳躍したセオドアは天井を蹴り、高速で回転しながら、斧を振り上げる。


「はああああああっ!!」


 閃光が走った。


 振り下ろされた一閃の斧が、獣の首元に一直線に食い込む。


 硬い皮膚を裂き、骨ごと断ち割る一撃。


 ヴァルゴルは、咆哮もできぬまま、地響きとともに崩れ落ちた。


 静寂が、洞窟に戻る。


「流石セオドア!」


 フィオナが息を吐きながら、苦笑した。


「ひゅ〜!セオドアくん、かっこよすぎ〜!」


 ノエルはその場でぴょんぴょんと飛び跳ねる。


 セオドアはアトラス商会会のメンバーからプレゼントされた新しい斧ーー勇むもの《ブレイバー》に視線をやる。


(みんなからもらった新しい斧......切れ味、重さ......しっかり手に馴染んでいる......)


 斧の刃に写る自分の顔が少し綻んでいる。


「みなさん怪我はないですか?」


 セオドアの問いかけに、ドランは無言で頷く。フィオナ、ノエルも笑顔で頷く。


「セリカさんも大丈夫ですか?」


 夢中で素材を回収するセリカに声をかける。


「はい!それはもう!完璧です!牙も、爪も、肝もばっちりですよ!」


 素材の宝庫を目にしたセリカは目を輝かせている。


「素材じゃなくてセリカさんについて聞いたんですけどね......」


 相変わらずの素材狂いのセリカにセオドアは苦笑いを浮かべる。


「では素材を回収したらギルドに報告しに戻りましょう」


 セオドアが斧を肩にかけて笑った。


 仲間たちもそれに頷き、作業に取り掛かった。




 ウィンドミルの冒険者ギルド――


 洞窟の依頼から帰還したセオドアたちが、戦利品と報告書を携えてギルドのカウンターへ向かう。


「ミアさん。ブックメーカーただいま戻りました!」


 受付嬢ミアは笑みを浮かべると改まったように姿勢を正す。


「ブックメーカーのみなさんお帰りなさいませ。ご無事で何よりです」


「みんな怪我もなく、完遂よ!」


 フィオナが満面の笑みで報告書と戦利品を提出する。


「ヴァルゴルを無傷で討伐できるのは流石です。では確認させていただきますね」


 ミアは提出された、素材と報告書を確認するとすぐに顔を上げる。


「はい。ヴァルゴルの討伐の証、報告書を確認しました。依頼達成となります!お疲れ様でした」


「やったー!」


 ノエルが手を上げて喜ぶ。


「こちらが今回の依頼達成の報酬になります」


 カウンターには大きな布袋に入った金貨が置かれる。


「きゃー!たんまりね!セオドア!」


「そうですね」


「それとセオドアさんはギルド長がお呼びです


「ギルド長が?」


 セオドアが首を傾げる。ギルドに報告に戻ってすぐ、直接呼び出されるのは珍しい。


「もしかして!」


 フィオナとノエルは嬉しそうに顔を見合わせた。


 通されたのは、二階奥にあるグレッグの私室だった。重たい木扉をノックすると、低い声が返ってくる。


「入れ」


 扉を開けると、グレッグは執務机の奥で腕を組んでいた。報告書と素材リストを机に並べ、顎を引く。


「来たなブックメーカー」


 グレッグはニヤリと笑みを浮かべる。


「ヴァルゴルの討伐報告、確かに受理した。素材、状態ともに申し分ない」


「あったりまえでしょ」


 フィオナが胸を張る。


「あぁ、お前達、ブックメーカーは目覚ましい活躍だ。冒険の書の制作に、新人冒険者への教育、それと反対派との和解......この短期間での数々の依頼の達成......」


「そして中でもセオドア......お前は、ウィンドミルでの最速のシルバーランク昇格であったが......最早、それも今日までだ......」


 セオドアは少し驚いた顔を見せる。


「お前の戦闘力、仲間との連携、そしてこの町に与えた影響――すべてを加味して、俺はお前を、ゴールドランク冒険者への昇格を認める。


「……!」


 セオドアは思わず息を呑んだ。


 フィオナ、ドラン、ノエル、セリカも後ろで目を見開き、互いに顔を見合わせる。フィオナとノエルが身体を震わせる。


「やったー!!!!セオドアおめでとう!!!」


「いぇーい!!!セオドア君おめでとう!!!」


 フィオナとノエルがセオドアに抱きつく。


「ありがとうございます!」


 セオドアは揉みくちゃにされながら照れくさそうに笑みを浮かべる。


 グレッグも暖かい眼差しをセオドアに向ける。


「おめでとう、セオドア。またもや最速でのゴールドランクへの昇格だ。お前には驚かされてばかりだ」


 その言葉に、セオドアは深く頭を下げる。


「……ありがとうございます。僕だけの力じゃありません。


フィオナさん、ノエルさん、ドランさん、セリカさん、マックスさん......仲間がいてくれたから、ここまで来られました」


 ドランが照れくさそうにそっぽを向き、ノエルは嬉しさを隠せずにスキップしていた。フィオナは静かに微笑み、セリカは目を潤ませていた。


 グレッグは少し笑って、手元から新たなギルドバッジを取り出す。ゴールドの地金に、ウィンドミルの紋章が刻まれている。


「シルバーバッジの返還を」


「はい」


 セオドアはマントにつけていた、シルバーバッジを取り外すとグレッグに手渡した。


「確かに。そしてこれがお前の新しいランクを表すバッジだ。つけるがいい」


 セオドアはそれを両手で受け取り、静かに頷いた。セオドアはマントに金色に輝くバッジを取り付ける。


「よし。これより冒険者パーティーブックメーカー所属、セオドアをゴールドランク冒険者とする!バッジに恥じぬようこれからも精進しろ!!」


「はい!!」

第四章 ダンジョンループ編 開幕!


最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

もし少しでも面白いと思っていただけたら、ブックマークや感想をいただけると励みになります。

次回もどうぞよろしくお願いします。

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