表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

77/164

第二話 猟奇的なプレゼント【1/2】

幕間。

バルトとの戦いでセオドアの斧は折れたまま。

新たな武器をプレゼントしようとフィオナ達が秘密裏に動き出す。


 陽の差し込む事務所の裏庭で、セオドアは静かに佇んでいた。


 両手で抱えているのは、柄の途中から折れてしまった一本の斧――ヒルクレストで木こりをやっていた時からの相棒。


 死を偽装した時のベンジャミンが棺に一緒に入れてくれたお陰で、幾度もの戦場を共に駆け抜け、ループの旅路を支えてくれた相棒だった。


 柄は焦げ、刃は砕け、もはや武器としては使い物にならない。けれど彼にとって、それはただの武器ではなかった。


「……よく戦ってくれたな......」


 誰に語るでもなく、斧をそっと撫でる。


 最初の討伐、最初の仲間との連携、初めて生き延びた戦場……その全てに、この斧はあった。


 風が吹いた。枯れ草の香りが鼻をかすめる。セオドアは目を閉じた。


「……ありがとう」


 小さく呟いたその声は、風の音に消されていった。


 彼は斧を布で丁寧に包み、事務所の一角にそっと置いた。


 それを物陰から見つめる影があった。


「やっぱり……まだ気にしてたんだ」


 物陰に潜んでいたフィオナは、小さくため息をつくと、静かに踵を返す。その足取りには決意があった。




アトラス商会事務所会議室にて、


「――でね!セオドアの顔。あれ絶対、斧のこと引きずってる!」


「確かに〜折れた斧を毎日磨くように持ち出してるね〜」


 会議室では、フィオナ、ノエル、ドラン、マックス、セリカが話あっていた。


「それで斧が折れてからはセオドア代表は何を使っているんですか?」


「用具入れに入ってた薪割り用の錆びた鉈を使ってるわ」


「達人筆を選ばずと言いますが......仮にも冒険の書に『そなえよつねに』と記した本人がそれでは......」


「そうなのよ。あそこまで強くなってもセオドアはまだ金銭感覚が村人のままというか......」


「何かある前に私からセオドア代表に斧を新調する様に進言しておきます」


「待って、マックス!」


「はい?」


 フィオナはセリカにアイコンタクトを取る。セリカは力強く頷くと机の上に紙を広げた。


 そこには「セオドア用:新斧計画」「素材候補」「重さバランス検証中」などとメモが書き殴られている。


「これはもう――みんなで新しい斧をプレゼントするしかないね!」


 ノエルが胸を張ると、セリカが手を上げた。


「私が素材を選びます!斧には私の秘蔵の星鉄を使った合金で仕上げましょう!あ、星鉄というのは星空の元でしか、光らず見つけるのが大変難しい鉱石でして、なんと魔力を微量ではありますが、吸収し溜め込む特性があるのです!それでーー、」


「セリカ記録係、落ち着いて下さい。斧はオーダーメイドで作るのですか?既製品じゃ駄目なんでしょうか?」


「分かってないわねー、マックス。セオドアはプラチナのバルト互角に戦える様になったのよ。これから戦うモンスターはもっと強くなってくる。既製品じゃ心許ないでしょ?」


「なるほど、確かに冒険の書の情報収集も中級編の次は上級編が待っていますからね。先行投資という訳ですね」


 マックスが納得したところでセリカが興奮した様に素材について説明する。


「それで柄の部分にはグリップを効かせる為にドラゴンスケイルを使用したレザー生地を考えているのですがー、」


「ドラゴンスケイル......調達にはかなり費用が嵩みますよ」


 マックスが難しい表情を浮かべる。そこにフィオナが「ふん!」と鼻を鳴らす。


「忘れないで頂戴!私達は冒険者よ!」


 フィオナが腰に手を当て胸を張る。その後ろでノエルは手をひらひらとしてフィオナを煽てている。


「......なるほど。皆さんで素材を集めれば、あとは鍛冶屋にお支払いする費用で済みますね」


 マックスが補足しつつ、素材リストを作成し始める。


「問題は、本人にバレずにやれるかどうかだな……」


 ドランがぼそりと呟く。


 フィオナはニヤリと笑った。


「抜かりはないわ。セオドアが訓練してる間に、私達で素材採取に出発する!」


「マックスは帰ってきたセオドアに上手いこと言っておいてくれる?」


「......わかりましたよ。ではみなさんお願いしますね」



  翌日早朝。まだセオドアが訓練場へ向かう前、アトラス商会の仲間たちは密かに事務所を出発した。


「……セオドアには、マックスが引き留め役ね」


 フィオナが先頭で地図を広げながら呟くと、ノエルが陽気に返す。


「任せて!“斧素材ゲット大作戦”の始まりだね〜!」



 灼熱の谷に咆哮が響いた。地を這うような低音と共に、谷底から黒き影が姿を現す。


「セリカ!下がってて!」


「言われなくても〜!」


 セリカは自慢の逃げ足で素早く岩陰に隠れる。


「下位種とはいえ……ドラゴンはドラゴンよね……!」


 フィオナが息を呑む。現れたのは全長六メートルを越える灰黒の竜、スモークドラゴン。


 その鱗は焼け焦げた鋼のように鈍く輝き、吐き出す息は焦げ臭い硫黄を含んでいた。


「来るよ!」


 フィオナが叫ぶと同時に、スモークドラゴンが翼を広げて突進する。


「《鉄壁装甲〈アイアン・コート〉》!」


 ドランが前に出て、スキルを発動。


全身が鉄の光を帯び、巨大な爪を受け止める。


ギィィン!という金属音が谷に響いた。


「ノエル、援護お願い!」


「任せて~!《精霊契約・一式〈スピリット・アコード〉》! 風と炎、力を貸して!」


 ノエルの杖が閃き、風精霊がフィオナに、炎精霊がドランに憑依するように力を付与する。


「……ありがとう。今のうちに……《烈風穿矢〈れっぷうせんし〉》!」


 フィオナが弓を引く。魔力が宿った矢が炎をまとい、飛翔する。


 それは直線を描いてドラゴンの左眼に直撃。咆哮と共にドラゴンがのたうち回る。


 だが次の瞬間、怒り狂ったドラゴンが口を大きく開け、黒煙と共に灼熱のブレスを吐き出す。


「ドラン!!」


炎が迫る中、ドランは一歩も退かなかった。


「……っ!」


 重厚な盾が、灼熱の咆哮を受け止める。 ドランが盾を掲げ、ノエルの風精霊がバリアを重ねる。


 炎が二人を包むが――


「今よ!!」


 その影からフィオナが現れ、竜の口内に矢を三連射。喉元で爆ぜた矢が衝撃となって内部からドラゴンの動きを止めた。


「とどめっ……!」


 ノエルが詠唱を終える。


「精霊契約・一式……!風! 炎! 土! 水! ……お願い、全部貸してっ!!」


 ノエルの杖から四属性の精霊が一斉に姿を現し、空気が震える。


 ノエルの掲げた杖に四つの光が交差し、魔法陣が展開される。ドラゴンの足元から巨大な光が立ち昇り、竜の咆哮が絶叫へと変わる。


 そして、地響きと共に、その巨体が崩れ落ちた――


「……はあっ……!」


「やったぁー!」


「……っ、無事……」


 三人は荒く息を吐きながらも、勝利の手応えに拳を握る。


「皆さんお疲れ様ですー!」


 岩陰の後ろで、セリカが手を振る。


 それからはみんなで手分けしてドラゴンの皮を剥いでいく。


ドラン、フィオナは手慣れた様子で皮を剥いでいき、セリカは目の前にある素材の宝庫に目を輝かせながら嬉々としていた。


 ノエルは笑顔で作業を手伝うもドラゴンの臓物にしっかりと嘔吐していた。


「……これが、ドラゴンスケイル……」


 フィオナはドラゴンから剥いだ皮を指でなぞる。吸い付く様であってしっかりとした手触り。


「セオドアの斧のグリップには、これが相応しいわね」




最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

もし少しでも面白いと思っていただけたら、ブックマークや感想をいただけると励みになります。

次回もどうぞよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ