第十五話 君のために何度でも【1/2】
朝の風が草原を撫で、新事務所の庭に小さな土煙を巻き上げる。
フィオナとノエルは腕立て伏せや腹筋を繰り返す。
隣ではドランが巨大な鉄球を振り回しており、その衝撃で地面が小さく揺れる。
「はっ……はっ……っつ……!」
フィオナの額から汗が滴り落ちる。
それでも手は止めなかった。
「まだよ……このままじゃバルトには届かない……!」
フィオナは庭の木陰に座るセオドアを見る。虚な目でただ呆然と座っている。
「やってやる……!」
フィオナは向き直ってトレーニングを再開する。
「まずはプラチナランクのバルトに対抗する為にはスキルを習得しなきゃ......」
フィオナは汗を流しながら腕立てを行う。
しばらくして、元々精霊魔法使いのノエルは肉体の訓練を行なってこなかったからかしばらくするとぐったりしてその場の伸びていた。
「フィオナ〜。強くなるのは異論ないんだけど、やり方合ってるのかな......」
「わかんないわよ。スキルの習得なんてまだ先のことだと思ってたし」
ドランが手を止め、巨大な鉄球を地面に落とした。
「筋力は上がるが......それだけではバルトに通じない......」
「闇雲にやってるだけじゃ駄目って事ね。誰かスキルを習得している人に聞ければいいんだけど......」
「私の“スキル”は教えられるもんではないしね〜」
ノエルが地面に這いつくばりながらそう答える。
「はい?」
フィオナが間の抜けた声でノエルに聞き返す。
「え、私はスキル持ってるよ〜」
ノエルの発言にフィオナは目を丸くさせて固まる。
「はぁ!?あんたそれを先に言いなさいよ!」
「え、知ってると思ってた!」
「知らないわよ!それで?どんなスキルなの?」
「私のスキルは精霊とお話しできる《精霊会話-エレメント・チャット-》ってスキルを持ってるよ〜」
「どうやって習得したのよ?」
「え〜そう言われても、物心ついた時からお話しできたよ?」
ノエルの説明にドランが呟く。
「......生まれつきか」
フィオナは思い出す様に顎に手を当てる。
「ノエルの精霊魔法って他の魔法使いとちょっと違うと思ってたけど、そう言う事なのね」
「他の魔法使いよりかっこいいでしょ!」
ノエルは照れた様に頭をかく。
「呪文がふざけてるからよ」
「あはは〜私の魔法は精霊さんにお願いして魔法を使ってもらっているからね〜。呪文とかはなんでもいいから」
「それで?そのスキルを使ってる時の感覚とかはないの?」
「別に意識した事ないかな〜。魔法をお願いするときは声にブワーって力がこもる感じはあるよ!」
ノエルの抽象的な説明にフィオナは頭を抱える。
「ノエルのは当てにならないわね......誰か他にスキルを習得している人に話を聞ければいいのだけど......」
「誰かに聞ける風潮だったら冒険の書もここまで苦労しないよ〜」
「それもそうなのよね〜」
フィオナは困った様にため息をつく。
するとドランが呼吸を整えて呟いた。
「ギルド長......」
ドランが呟いた。
「グレッグがどうかしたの?」
フィオナはドランの呟きに首を傾げる。
「......元はプラチナランク冒険者だ」
ドランの言葉にフィオナは思い出したかの様に表情をハッとさせる。
「あぁ!あのオヤジ確か元々はプラチナランク冒険者だったわね!グレッグにスキルの習得について聞いてみましょう!」
フィオナの提案にノエルは目を輝かせる。
「そうしよ!そうしよ!ギルド長なら私たちに協力的だし教えてくれるかも!」
「......」
ドランも黙って頷いた。
三人はギルドに到着するなり受付のミアに話しかける。
「ミア!」
フィオナが声をかけるとミアは顔あげて笑みを浮かべる。
「あ、こんにちわ、ブックメーカーの皆さん。今日はセオドアさんはいらっしゃらないんですね?」
ミアの問いかけにフィオナの脳裏に虚なセオドアを思い出す。
「セオドアは......今日はいないわ。依頼じゃないしね」
「そうなんですか。依頼の受注じゃないのならご用件は?」
「ちょっとギルド長に話があって。グレッグはいる?」
「ギルド長ですか。今日はいらっしゃいますので聞いてきましょうか?」
「うん。お願いできる?」
「はい、かしこまりました。少々お待ちください」
ミアは2階にあるギルド長室に向かっていくのを見守るとフィオナの目にある光景が見えた。
ガストンがギルドで販売されている商品棚から冒険の書を取り出し、ビリビリと破いていた。
「あいつ......」
フィオナは拳を強く握り締め、ガストンの方へと向かっていこうと一歩踏み出す。
「フィオナ」
ノエルとドランがフィオナを呼び止める。
「......今の俺たちの敵は奴じゃない」
フィオナはドランの言葉を聞いて、悔しそうにガストンとノエル達へと視線を交互に巡らせる。
「わかったわ......」
ガストンは冒険の書を破り捨て力強く踏みつけた後にフィオナ達に近付く。
「おう、いたのか耳長。掃除しておいてやったぜ」
フィオナは拳を強く握りしめる。
「なんだ。あの坊主もいなけりゃ、文句もいねぇか」
ガストンはフィオナを通り過ぎるとわざとらしくドランに肩をぶつけてギルドから出ていく。
「フィオナ.......」
「.......よく耐えたな」
ドランが肩に手を置く。
「許せない......わよ......けど......今はセオドアをあんな風にしない為に強くならないといけない......あんなやつに構ってられないわ......」
「......そうだな」
ドランが笑みを浮かべて頷く。
ギルドの奥、応接室。
広い机の向こうで、ギルド長グレッグが分厚い書類に目を通していた。
年季の入った鎧の破片が壁に飾られている。彼がかつて前線で戦っていた名残だ。
「……なるほど。スキルの習得、ね」
グレッグは顎に手をやり、三人を見回した。
「悪いが、教えるのは簡単じゃないぞ。そもそも“スキル”ってのは、教わって身につくもんじゃない」
その言葉に、ノエルが小さく肩を落とした。
「それでも私たちは強くならないといけないんです」
「強くなるってつったって、お前らブックメーカーは最近シルバーに上がったばかりだろう?
向上心逞しいのは結構だが、スキルが昇格条件に関わるのはプラチナランクからだ。何をそんなに急いでやがる」
「それでも私たちは今強くならないといけない理由があるんです......!」
グレッグはフィオナの熱意に眉を顰める。
「冒険の書といい......今回はスキルの習得とはね......」
そう言って頭をかくとため息をつく。
「……スキルってのは、“得意”が極まって、“魔力”と結びついたとき、自然と生まれるもんだ」
「得意と……魔力……?」
ノエルが首を傾げる。
「ああ。剣でも魔法でもいい。“自分がこれだけは負けない”と思えるものを、とことんまで磨き上げて、それに魔力を乗せる。そうすりゃ、身体が勝手に覚えるもんさ。……俺がそうだった」
「なるほど……!」
フィオナの目に希望の色が灯る。
「だが注意しろ。スキルは一朝一夕で会得できるもんじゃねぇ。人によっては何年もかかる。発現しないまま引退する奴もいる」
グレッグは机に肘をつき、真剣な目で三人を見つめた。
「フィオナ、なんでお前は弓を扱う?」
グレッグは鋭い眼差しでフィオナに問う。
「それは......子供の頃から森で狩りをやってて一番弓が得意だったから......」
グレッグは頷くと次にドランを鋭い眼差しで見る。
「ドラン、なんでお前はタンク役を買って出ている?」
「......頑丈だから」
ドランは静かに答える。
「ノエル......お前は......」
グレッグの言葉をノエルは期待して見つめる。
「よくわからん。自分で考えろ」
「私もなんか言ってよ!」
ノエルはその場で地団駄を踏む。
「俺は魔法系はさっぱりだからな」
グレッグは「ははは」と高らかに笑い声を上げる。
「まぁそうところだ。お前らの得意ってのは。得意が極まって、尚且つ魔力の操作を組み合わせる。それがスキルの開花に繋がる」
フィオナ、ドランは、迷わず頷いた。
それぞれの顔に、強い決意が宿っていた。
「俺から教えてやれる事はこれくらいだ」
「ありがとうございます!」
「ねぇ、私だけ納得してないんだけど〜!」
「失礼します!」
「ねぇ〜!」
「ノエル」
グレッグがノエルを呼び止める。
「お前に関しては助言はできないが、二人が強くなるのに手を貸す事はできるぞ」
ノエルはムスッとした顔のままグレッグの方に振り返る。
「スキルの習得には魔力操作が必要って言っただろう?お前らの中で魔力を扱えるのはお前だけなんだろ?」
「そうだけど......」
「お前が教えてやれ」
グレッグの言葉にノエルは目を輝かせた。
「うん!」
ノエルは部屋から出ていこうとしていた二人の後を駆け足で追いつく、ギルドを出た三人の背には、迷いがなかった。
「得意に魔力を......」
ドランが呟く。
「魔力の操作は私が教えるからねー!」
ノエルは胸を張って笑顔を見せた。
その笑顔に、フィオナとドランも自然と微笑む。
次の戦いに向けて――
三人は、確かな一歩を踏み出したのだった。
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