第十話 黒の輪郭【2/2】
セオドアの説明がひと通り終わったところで、しばらく沈黙が続いたが、その静寂を破ったのはマックスだった。
「……では、一度現状を整理しましょう」
マックスは椅子に深く腰をかけ直し、指を組んで前に出す。
「今回のループにおける第一の課題――それは“黒装束の集団による奇襲の阻止”にあると考えます」
セオドアが深く頷く。フィオナも背筋を伸ばし、ノエルやドラン、セリカも静かに耳を傾けた。
「まず、現時点で我々が把握している事実は以下の通りです」
マックスは指を一本ずつ立てていく。
「一、前回のループにおいて、実地研修の最中に突如としてクラッグハウンドの群れによる奇襲。討伐後すぐに黒装束の集団が襲撃を仕掛けてきた」
「二、その集団の行動は明らかに“計画的”であり、モンスターの誘導を含めた戦術行動が取られていた」
「三、攻撃手段としては杭による中・遠距離の一斉掃射、および精鋭による近接戦闘能力を併せ持っている」
「……以上を踏まえ、今回我々が掲げる第一目標は――」
マックスは一拍置いて、はっきりと言った。
「黒装束の集団の正体を突き止め、彼らの襲撃計画を阻止することとします」
皆の視線が、自然とセオドアへ向いた。セオドアは静かに頷く。
「はい。それができなければ……また、誰かが死ぬことになるかもしれません」
「……その通りです」
マックスはその言葉をしっかりと受け止めてから、もう一つの重要な話題へと移った。
「そして、もう一つ。今回のループで得られた“ビジョン”についてです」
室内の空気が再び緊張を帯びる。
「前回のビジョンでは“ハルトが殺される未来”が明確に見えており、それがセオドア代表の死と連動していた。ですが――」
「今回は、セオドアさん自身の死によってループが発生しました」
セオドアが大きく頷く。
「……そうです。つまり、僕が死んだ“後に”ハルトが死ぬ未来を見た。この場合、死の同期が前回のように“同時”なのか、“連動しているだけ”なのか……判断が難しい」
フィオナが真剣な表情で問いかける。
「……じゃあ、今回の死の同期はいつ起こるのかわからないということ........」
「はい........」
セオドアは俯きながら答える。
「では現状、ハルトが殺され、その死の同期がいつセオドア代表に現れるかは読めません。よって、ビジョンで見た死の回避は保留とします」
「……わかりました」
セオドアも納得の表情で頷いた。
マックスは椅子から立ち上がり、会議室を一望するように見渡す。
「第一目標は黒装束の正体と行動の阻止。
――今できるのは、地に足をつけた準備と、あらゆる可能性の想定です」
皆、口を閉じ、静かにその言葉を受け止めた。
沈黙を切り裂くように、マックスが再び口を開いた。
「……では、次は“黒装束の集団”の正体について、推測を立てましょう」
全員の視線がマックスに集まる。
「まず、奴らが“なぜあの場に待ち伏せできたのか”……これは前回の実地研修が事前にギルドに貼り出されていた告知によるものでしょう」
「確かにギルド掲示板で告知の張り紙を出していました。研修内容や場所を明記していました」
セオドアが補足するとマックスが頷く。
「つまり、奴らはその情報を元に“セオドア代表たちが二手に分かれる”ことを事前に把握し、戦力が少数なくなったその時に奇襲をかけた.......非常に理にかなった計画ですね」
「だったらやっぱり、ギルド内部に情報を探ってる連中がいるってことだよね」
フィオナが険しい表情を浮かべる。
マックスは深く頷くと、さらに語気を強めた。
「では、正体は誰か――ですが。既に皆さんもお気付きでしょう。反対派の一部が武装化し、組織的な行動に出たと見ています」
「ガストン……ね」
フィオナが低く呟いた。
セオドアも頷いた。
「はい。前回ループでは暴力沙汰以降、姿を消していました。ギルド内での立場が悪くなったこともあり、反対派を束ねて別行動に移った可能性は十分にあります」
「そこまでして……」
セリカが苦しげに呟く。
「恨みに囚われた人間の行動は、時として理屈を超えますからね」
マックスは静かに言った後、指を一本立てて話を続けた。
「次に、襲撃時の構成について。セオドア代表の証言から、敵はクラッグハウンドの群れを誘導していました。そしてその後、空から杭のような呪具を降らせる攻撃があったと......間違いありませんね」
「ええ。あの時香の様な匂いを感じました。あの数とタイミングは、偶然じゃない」
フィオナが頷く。
「ということは――クラッグハウンドを扱える人物.......テイマー、つまり魔獣使いが居たって事ね」
ドランが低く唸った。
「そして……杭を使った遠距離の一斉攻撃。あれは弓などではなく、魔法だと思います」
「では黒装束の集団にはテイマーと杭の魔法使いが混在していると見ていいでしょう」
セオドアが深く頷いた。
「次にやるべきは、その条件に該当するギルドの反対派を洗い出すことです」
「ええ。ギルドの登録記録から、反対派の中で“テイマー”あるいは、杭の魔法使いを抽出し、個別に調査する価値があります」
「私とノエルで、ギルドでそれに該当する冒険者がいないかミアに聞いたりしてみるわ」
フィオナが名乗りを上げる。
「二人で行動して大丈夫でしょうか?」
「襲撃は2週間以上先なんでしょ?安心しなさいよ」
「でも......」
「次は死なない。あなたを一人にはさせないから安心して」
「......俺も同行しよう」
ドランも名乗りを上げた。
「わかりました。気をつけて下さいね......」
「ではセリカ記録係にはモンスターを操る香について調査をお願いします。
素材に詳しい貴方ならクラックハウンドを操っていた香の正体を特定するのはそ難しい事ではないでしょう?」
マックスが素材のことに関して話を振るとセリカは目を輝かせる。
「勿論!いやいやいや!クラックハウンドを操る可能性のある植物に関してはいくつか心当たりがあります!まずはイヌノオ草や......」
長々と素材の知識を披露し始めたセリカにマックスは首を降って遮った。
「セリカ記録係。特定できたらお声掛けを。その素材を販売している商会や販売履歴を私の方で探ってみるので」
「わかりました!」
そう言ってセリカは待ちきれないとばかりに自身の図鑑へと駆け出した。
「あとは……まぁ、最悪、情報が掴めなかった場合はあえて囮として再度研修計画を流すという手もあります」
「さすがにそれは……」
フィオナが身を乗り出して止めかけたが、マックスは片手を上げて制した。
「今はまだ準備不足です。ただし、最終的には“おびき寄せる”必要もあるでしょう。事前に潰せるに越したことはありませんが」
会議室の空気は張り詰めていた。
だが、もはや皆に迷いはなかった。
セオドアはゆっくりと頷いた。
「では各自仕事に取り掛かって下さい」
マックスの指示の元アトラス商会のメンバーは各自の仕事に就き始めた。
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