第二話 レッドデスキャップの毒【2/2】
朝陽がセオドアの顔に差し込み、鳥の囀りでセオドアは目を覚ました。
機嫌が悪そうなセオドアは飛び起きるわけでもなく、寝床から立つと食料袋に真っ直ぐ向かい、りんごとパンを確認する。
「あ、昨日は食べてないから減ってないのは当たり前か」
冷静にセオドアは昨日の事を考えると昨日ロバートに貰ったトマトをカバンに入れていた事を思い出す。
セオドアはすぐに鞄を確認する。
そこには艶やかなトマトの姿は見られなかった。わかってはいたが再び祭りの日を迎えた事を確信する。
「ロバートさん。トマト食べてあげられず、申し訳ありません」
セオドアはそう謝罪すると、食料袋からりんごと黒パンを机に並べ、昨日は飲めなかった水を水瓶から掬い上げ、ごくごくと喉を鳴らしながら飲み込む。
「結論。今日僕がレッドデスキャップを口にする事はありえない。ヒルクレスト村の住民達が毒を混入させた可能性も無くなったのは少し安心かな。みんな疑ってごめんなさい」
祭りの朝も4日目ともなれば、流石にこの状況でも冷静になってくる。
セオドアはりんごと黒パンを頬張りながら状況の整理を始める。
「僕は何も食べなくても祭りの日の夜にはレッドデスキャップの毒の症状が現れる。
1日の終わりに現れるあのビジョンに現れる男……
あいつがレッドデスキャップを食べる事でなんらかの力が働いて、あの男と同じ症状を同期されている……」
黒パンを食べ終えたセオドアは再び水をごくごくと飲み、残ったりんごに齧り付く。
「何らかの力……まぁ普通に考えて魔法か、呪い……ってところか?」
となれば……相談する相手はやはり……
「やっぱり、エルダさんに相談するしかないかこのヒルクレストで魔法を扱えるのも知識があるのもエルダさんだけだし……」
やる事は決まったとセオドアは用具入れを開け、立て掛けてある斧に目をやる。
(また同じ日が来るのであれば、仕事をしたって仕方がないか……今日は休みにするか……)
セオドアは斧には手をつけずそのまま自宅を後にする。
村に入るとアグネスさんが家の前で噂話をしている前を通る。
「セオドアおはよー!!今日は祭りだよー!!」
そう言って元気に駆け抜けるリリーの後を2、3歩追いかけたセオドアはいつも派手に転ぶリリーが躓いたところを抱え上げて転倒するのを防ぐ。
「わぁ!セオドアありがとうー!!」
「リリー気をつけてな」
リリーを下ろすと再び駆けていく。
セオドアそのまま祭りの準備を取り仕切る村長のジョージの前を通り過ぎるとベンジャミンを見つけた。
「ベンジャミン!おはよう!」
「おぉ!セオドア!おはよう!今日は昼には仕事切り上げるんだろ?……ってあれ?セオドアー、斧忘れてるぞー」
ベンジャミンはセオドアが斧を持っていない事に気がつく。
「あぁ。今日はちょっと野暮用があって、木こりは休もうと思うんだ」
「マジか!あの仕事熱心なセオドアが休むなんて珍しいな。まぁ他の大人達も祭りの準備に駆り出されているし、いいんじゃないか」
「たまにはね。だから石碑を運ぶの手伝うよ」
「マジか、助かる!……って、なんで俺たちが石碑運んでるって知ってんだ?」
ベンジャミン達が運んでいる石碑は今は大きな布を被せているから何を運んでいるかまではわからない状態であった。
セオドアはしまったと言わんばかりに言葉を詰まらせる。
「石工のベンジャミン達が祭りの日にあんな大きいもの運んでるんだから、エルダさんが魔法を付与してくれるって言う石碑だろ?」
「そうそう!よくわかったな!エルダが魔法陣の確認したいからってこんな朝から運ばされてるんだぜ!参るよもうー」
するといつも通り石工のルーカスがベンジャミンに声をかける。
「ベンジャミン!そろそろ運ぶぞ!」
「はい!父さん!あ、セオドアが運ぶの手伝ってくれるってよ!」
セオドアもベンジャミンともにルーカスの元に駆け寄る。
「そうなのか?セオドア?仕事はいいのか?」
「はい。ルーカスさん。今日は祭りの前に野暮用ができまして、休もうかと。丁度村外れに用事があるので、そのついでにお手伝いを」
「そうか。何にせよ助かるよ。ベンジャミンは目を離すとすぐにサボろうとするから、仕事熱心なセオドアがいてくれると助かるよ」
ルーカスはそういうとベンジャミンの背中を叩いて働かせる。
「ひっでー。それじゃあ俺がいつもサボってるみたいじゃないか!」
「いいから手を動かせ」
父であるルーカスはベンジャミンの性格を理解して上手い様に働かせている様だ。
ルーカス達は荷台に石碑を固定し、牛に荷台を引かせながら自分達も荷台を押して運んでいく。
かなりの重労働で村外れにつくと流石のルーカス達も疲れを見せていた。石碑を設置しているとエルダが現れた。
「丁重に扱ってよ!魔法陣にヒビが入ったら魔除けとして機能しなくなるんだから!」
石工達は上から目線のエルダにやれやれと言った様子でため息をつく。
エルダは石工達が慎重に設置しているのを腕組みをして見ている。
「ったくエルダのやろうー!ヒルクレストで唯一の魔法使いだからって人使いが荒いぜ!」
ベンジャミンが愚痴をこぼし、セオドアも「そうだね」と苦笑した。
昨日は石碑への魔法の付与を行った後だったから他の住民達に賞賛されているエルダに近づくのもやっとであった。
しかし、今なら自身の置かれている状況について相談できるかもしれないとセオドアは考えていた。
セオドアはベンジャミン達の作業を一通り手伝うと石碑の前で魔法陣の確認を行うエルダに視線を向けた。
先程のエルダの横柄な態度から声をかけるのが憚れるが、魔法に精通しているのはこの村ではエルダただ一人……
ーーセオドアは意を決してエルダに近づく。
「あの....エルダさん。ちょっと今いいですか?」
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