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第一話 風に導かれる勇者【2/2】


「さてと……」


 エリナは立ち上がると地面に横たわる、ゴブリンの耳を摘んだ。


 ハルトは何をするのだろうと物珍しそうに見ているとエリナはナイフを取り出して、ゴブリンの耳に当てがった。


「え、何を……」


 ハルトがエリナに声をかけようとするとエリナは躊躇する様子もなく、ゴブリンの耳を切り取った。


「えぇええええ!?何してんの!」


 ハルトが声を上げる。


 ハルトの動揺にエリナは不思議そうに首を傾げる。


「何って……ゴブリンの耳を切ってるんじゃない」


「なんで!?食べるの!?」


「食べないわよ!!」


 ハルトの問いにエリナは目くじらを立てる。


「ゴブリンの討伐の証拠なのよ。耳の数だけ、討伐した証になるの」


 エリナがそう説明すると再び、ゴブリンの耳を切りとり始める。


「そ、そうなんだ……」


 ハルトは血の気が引く思いでその様子を見守った。


(異世界って恐ろしい……)



 ――その後、二人は肩を並べて街道を歩いた。


「それで?あなた随分変わった服装だけど……どこかの貴族だったりするの?」


 ハルトの事をまじまじと見ていたエリナが声を上げる。


「え?貴族?」


 ハルトは自分の服装を確認する。


 学校の制服の学ランの上にエルダからマントを羽織っている。


(この世界じゃ、学ランは珍しいか)


「あぁ……いやいや!この服は貰いもので、俺はただの旅人だよ!」


 ハルトがそう説明するとエリナは「ふーん」と物珍しそうな顔で学ランを見る。


「まぁいいわ!ハルトはどこを目指して旅をしているの?」


「……ウィンドミル。王都を目指す前に、まずは一番近い街に行ってみようって思って」


「なら案内するわ! ちょうど私もウィンドミルに戻るところだから」


 エリナは胸を張るように言った。快活な笑顔に、ハルトは救われる思いがした。


 やがて街の石畳が見えてくる。風車の塔を背にした大きな城門が、夕暮れの光を受けて輝いていた。


「ここが、ウィンドミル」


 エリナが誇らしげに言う。


 門を抜ければ、石造りの家々が立ち並び、道端には露店や酒場が軒を連ねていた。行き交う人の多さに、ハルトは圧倒される。


「もう遅いし、宿は先に見つけた方がいいわね」


「宿屋か……」


 言いかけて、ハルトはふと気づいた。


「……あ」


「どうしたの?」


「……金、持ってない」


 しばしの沈黙。エリナが「ぷっ」と吹き出す。


「そりゃ大問題ね!助けてもらったし、さっきのゴブリン退治の報酬を折半しましょ!」


「え?いいの?」


「勿論!ハルトがいなかったら危なかったからね!そうと決まれば報告しに冒険者ギルドに行こうか!」


「冒険者……ギルド……?」


「冒険者の総括をやってくれているのよ。あ、そうだ!旅をしながらでも稼げるし、ハルトも冒険者登録してみたら?」


「俺でもなれるのか?冒険者に?」


「冒険者登録は手ぶらでもできるわよ」


「ならやってみたい!」


「よし!そうと決まれば、ウィンドミル支部に行きましょう。登録すれば日銭を稼ぐ依頼がすぐ受けられるわ」


 そう言って、彼女は躊躇なく歩き出した。




 冒険者ギルド《ウィンドミル支部》。


 分厚い扉をくぐると、ハルトは一瞬息を呑んだ。


 中は天井が高く、壁際には依頼掲示板。広間には剣や槍を背負った者、ローブに身を包んだ魔術師、獣人や仮面の冒険者が談笑していた。


 荒々しい笑い声や怒声が飛び交っているのに、不思議な秩序が漂っている。


「……本物の冒険者だ……」


 思わずつぶやいた声は、喧騒の中に消えた。


「さ、カウンターへ」


 エリナに背中を押され、ハルトは緊張の面持ちで受付へと向かった。


「リサー!」


「あら、エリナさん。お帰りなさいませ。ゴブリン退治はいかがでしたでしょうか?」


「それが危なかったのよ!」


「まぁ!大丈夫でしたか?」


「危ないところをこのハルトに助けてもらったの!討伐の報告のついでにハルトの冒険者登録もお願いできる?」


「構いませんよ」


「冒険者登録ですね?私は受付のリサです」


 対応したのは、明るい栗髪を三つ編みにした女性――リサと名乗った。まだ若そうだが、手際は慣れている。


「ハルトです……よろしくお願いします」


「ハルト様ですね」


「ではこちらの書類の必要項目欄に記載をお願いします」


「えっと……はい。でも……俺、文字が読めないし、書けなくて……」


 ハルトが恐る恐る告げると、リサは少し目を丸くした。


「アルシェール語が読めないってことですか?」


 エリナとリサの視線が一瞬だけ集まる。


「駄目……でした?」


「あぁ、いえいえ!口頭で確認できれば大丈夫ですよ。代筆が必要なら、こちらで」


「なら、私が書くわ!」


 エリナがすぐに声を上げ、用紙と羽根ペンを受け取った。


「えっ、いいのか?」


「もちろん!助けてもらったお礼だと思って」


 エリナはハルトの隣に立った。


「名前は?ハルトだけ?」


「ハルト・カミヤです」


「ハルト・カミヤね」


「年齢は?」


「17歳」


「出身は?」


「出身は……ヒルクレスト村です」


(日本って言っても首を傾げられるだけだし、ヒルクレストしか地名を把握していないから仕方ないよね)


「得意武器は?」


「得意武器って……短剣しか持って無いけど……」


「まぁ、ここは武器を持ってるかどうかの確認だから、短剣って書いとくわ」


 エリナは名前・出身・年齢・得意武器を一つひとつ尋ねながら、丁寧に記入していった。




「はい、できた!」


 用紙をリサに手渡す。


「ありがとうございます。それでは処理いたしますね」


 魔法陣にカードが置かれ、淡い光に包まれて刻印が浮かび上がる。


 やがて――一枚のギルドカードが完成した。


「こちらが、ハルトさんのギルドカードです。ランクはブロンズ。最初は簡単な依頼から始めてくださいね」


 ハルトは受け取ったカードを見つめ、小さく息を呑む。


(これが……冒険者の証……)


「やったじゃない!」


 エリナが肩を叩く。


 ハルトは小さく笑みを返し、カードを胸にしまった。


(これで俺も冒険者だ)



 その様子を、酒杯を傾けながら見つめている男がいた。


 左眉に古い傷を持つ、初老の冒険者。


 無精髭の奥の口元がわずかに歪み、細められた瞳は暗がりの中で鋭く光っていた。


 男は小さく杯を置くと、再び人混みに紛れいった。

9/2プロローグに表紙イラストを追加しました。よかったらご覧下さい♪


最後まで読んでいただき、ありがとうございました!

もし少しでも面白いと思っていただけたら、ブックマークや感想をいただけると励みになります。

次回もどうぞよろしくお願いします。

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