第十二話 闇祀の殿【1/2】
一同は第二階層のフロアボス、ラド・モーラが出現するエリアへと辿り着いていた。
「ここはあんたらブックメーカーに任せていいんだよな?」
ザガンがセオドアの方へと振り返る。
「はい。グラバルの素材を使います」
セオドア達は顔を見合わせて、音爆弾を作成する。
「それって......また音爆弾か?」
「はい。さっきは簡易のものでの音爆弾でしたが、今回はグラバルの喉袋を使用した音爆弾です。威力はマッドフィッシュに使った時の3倍くらいはあると思います」
「へー、じゃあ戦闘は任せたぜ。セオドア。なんかあったらフィオナは俺が守る」
ザガンの言葉にフィオナが怪訝な表情を浮かべる。
「いつから私があんたに守られてんのよ」
セオドアは作成した皮袋をドランに手渡す。
「では、昨日の帰りに回収したものと今日クルムさんが討伐した分で二つあります。ラド・モーラが周りの水路を泳いでいるところにこの音爆弾をぶつけてみましょう」
セオドアの言葉にブックメーカーの一同は力強く頷いた。
「了解」
セオドア達がラド・モーラのエリアに入るとエリアを囲んでいる水路にラド・モーラの大きな背鰭が水面を移動し始める。
「ドランさんそちら側の水路に音爆弾を設置してください。僕は反対側の水路に仕掛けます。
フィオナさんは柱の上に登ってラド・モーラの位置を伝えてください。
ノエルさんは中心で待機。作戦が成功したらどちら側にも加勢できる位置をキープして下さい」
「了解!」
「お願いします!」
セオドアの指示の元、一同は行動を開始する。
ドランは音爆弾を水路へと投げ込む。反対側のセオドアも同様に音爆弾を水路へと投げ込んだ。
柱の上に到達したフィオナながら弓を構えながらラド・モーラの位置を伝える。
「ドランの方に進んでる!」
「音爆弾に近付いたら、起爆をお願いします!」
「了解!......そこ!烈風穿矢!!!」
フィオナが放った矢はラド・モーラの迫る音爆弾へと直撃し、大きな水柱を立てて爆発する。
ラド・モーラは苦痛の叫びを上げながら、跳ね上がり、体制を崩したまま地面へと叩きつけられる。
「ノエルさん!!攻撃をお願いします!!」
「ガッテン!!スピリット・アコード!!」
ノエルの周りに四つの色とりどりの光が舞ったかと思うと魔法が形成され、大きな光の柱をラド・モーラに直撃させる。
ラド・モーラはノエルの精霊魔法を嫌がる様に跳ね、エリアの中心から水路へと逃げ込もうと進み始める。
「セオドア!!音爆弾の方に誘導して!!」
「了解です!ブレイン・ブースト!!」
セオドアの身体から炎の様な魔力が巻き上がり、セオドアの移動速度を加速させる。
ラド・モーラが水路へと逃げ込もうとして宙を舞ったところを狙い、渾身の一撃を横っ腹にぶつける。
ラド・モーラの巨体はセオドアの攻撃を受けて侵攻方向が大きく変えられる。
ラド・モーラが着水したすぐそばには、音爆弾が浮かんでいた。
「フィオナさん!!」
「いくわよ!!烈風穿矢!!!」
再びフィオナの矢が水中に設置した音爆弾を貫き、大きな水柱を立てる。
すると辺りに走っていた緊張感が徐々に消えていった。
ラド・モーラは力無く、水面に浮かび上がり、腹をむけていた。
「音爆弾作戦成功ね!!」
柱の上からフィオナが呼びかける。
「ほぅ。ラド・モーラに攻撃できるのは奴が水面から出てこちらを攻撃する時のみ。音爆弾でダメージを与えつつ、地上に引きずり出すとは見事な作戦だ」
ベルザが戦闘を終えたセオドア達に声をかける。
「あぁ、あいつが地上に出てきて攻撃する時は波に足が取られるから距離も詰めにくい筈だが、これなら一方的に攻撃する事ができるな」
ザガンは感心した様に頷いた。
「私たちの方が長くダンジョンに潜っているが私たちの方が学びが多いとは面目ないな」
「いえいえ!そんな!」
セオドアは謙遜する様に手を横に振る。
ヴァンベッタはノエルに近寄る。
「あなたもただのゆるキャラかと思ってたけど、四属性同時に操るなんて見直したわ」
「えへ!私すごいですか!?」
ノエルはヴァンベッタの称賛に満更でもない表情を浮かべる。
一同は落ち着くと第三階層に向けて歩みを進めた。
第三階層《闇祀の殿》は、これまでの湿気とは打って変わって乾いた冷気に満ちていた。
広がるのは石造りの回廊。かつて神殿であったかのような柱廊に、朽ちた祭壇、黒ずんだ骨が無造作に転がっている。
「……空気が淀んでる」
フィオナが眉をしかめる。
通路の左右には祭壇が並び、血のような赤黒い染みが床に広がっていた。
「うぷっ」
ノエルは吐き気を催して、口を膨らませる。
犬獣人のグウェンが耳をピンと立てる。
「来るぞ」
そして、それらの陰から、骨と皮だけになった異形の影が──カタカタと音を立てながら這い出してきた。
「スケルトン接近!」
ザガンの警告と同時に、クロー・リングの殲滅班が動く。鋭い連携と統率で、ベルザがタンクとして敵を引きつけつつ、片手に持ったメイスでスケルトンを粉砕する。
ザガンとクルムは武器を使う事なく、足技でスケルトンを粉砕していく。
砕けたスケルトンの残骸をヴァンベッタが火を放って処理していく。
「すごい……一糸乱れぬ動き......」
セオドアが呟くと、ベルザが静かに応えた。
「スケルトンは斬撃や刺突といった攻撃は通りにくく、骨をばらしてもすぐに再生する。粉々にして燃やすのが効果的だ」
「聖属性魔法が使える聖職者がいれば、もっと簡単な筈だけどね」
ベルザはそう言って微笑み、ヴァンベッタが付け加えた。
「なるほど」
死肉のついたアンデッドがザガンに近づくとザガンは双剣を素早く抜き、頭を飛ばす。
「んで、アンデッドは頭以外は粉微塵にしない限りは起き上がるから、頭を潰すか首を刎ねるのが効果的だ」
ザガンは双剣についた血を振り払うと笑みを浮かべた。
「フィオナ!どうだ!惚れたか!?」
ザガンがフィオナの反応を見る様に振り返る。
「アンデッドの首刎ねるの見せて惚れる女はいないわよ」
フィオナの返答に「がーん」といった様子でザガンは口をあんぐりとあけた。
「当たり前だろ」とグウェンがザガンの肩を叩く。
戦闘の合間、クロー・リングは慎重に各部屋を探索し、アンデッドの出現箇所と構造を逐一記録していった。セオドアもその地図を参考に、新たな図を描き直す。
やがて一行は、第三階層の中腹、比較的広い石造りの空間にたどり着いた。ここに、一時のキャンプを設営することが決めた。
「よし。今日はここで野営を張るとしよう」
ベルザの言葉に一同は安堵した様に息を吐く。
「地上はすでに日も落ちている頃ですね」
「疲れてるから休むのは賛成だけど、この階層で野営するのは不気味ね〜......」
「アンデッド対策の結界は張るから安心して」
ヴァンベッタがフィオナとノエルに親指を立てて見せた。
「ヴァンベッタ姉さんありがとう〜」
フィオナとノエルは嬉しそうにヴァンベッタにお礼を言う。第三層に降りてくるまでにすでにクロー・リングのメンバーと打ち解けてきている様子にセオドアは胸を撫で下ろした。
「第四階層には毒の瘴気。第五階層には精神に害のある瘴気があるから休むにしても、睡眠を取れる事ができる最後の階層だ」
「あぁ、第五階層への遠征時はここを拠点として活動する。アンデッド対策は熟知しているつもりだ。安心はしてほしいが油断はしない様に頼む」
「そうなんですね。第四階層からはかなり過酷と聞いています」
「あぁ。和気藹々とできるのもこの階層までってこったな」
「今回はブックメーカーの第三階層の攻略が目的だ。明日フロアボスを討伐したら、帰還するとしよう」
ベルザとザガンの説明にセオドアは頭を下げる。
「ありがとうございます」
「あぁ。朝まで交代で見張りを出して、休息を取るとしよう」
やがて各々が眠りにつく時間となり、順番に見張りを立てて休息に入っていく。




