第十一話 共同探索【2/2】
ブックメーカーとクロー・リングの一団はダンジョンを潜り、第一階層へと足を踏み入れた。
「そう言えば今日は行進しないの〜?」
ノエルの問いに狐獣人のヴァンベッタが答える。
「あれは朝一だけよ。情報市で売る情報の調達の為に人海戦術回して、効率よくダンジョンへと潜っていくためのね。今日はもうとっくに終わってるわ」
ヴァンベッタの説明にノエルが「へぇ〜」と声を漏らす。
「でもあの大人数じゃモンスターに気付かれてずっと戦闘になるんじゃないの?」
フィオナが不思議そうにヴァンベッタに質問する。
「あの行進は私たち攻略組の力を温存する為にも編成もされているから、戦闘になるたびに幾重にも隊が分かれてモンスターを足止めしたり、囮となってくれるのよ」
ヴァンベッタの説明にセオドアは感嘆の声を漏らす。
「なるほど。確かに、一体一体モンスターに出会う度に全体が足を止めていては進行も遅くなると言うわけですね」
「ただの迷惑行為じゃなかったのね」
そうこうしていると犬獣人のグウェンが合図を出す。
「静かに......ここからは音で気付かれる」
一同は頷くと慎重に歩み始めた。
すると、モンスターに出会わぬまま、第一階層のフロアボスのエリアまで辿りついていた。
「すごい......いくら慎重に進んだとは言え、この大人数が気づかれないだなんて」
「あぁ。うちのグウェンの索敵能力は神がかってるからな!モンスターを避けてルート選択してんだよ!」
ザガンが誇らしそうに笑みを浮かべる。
「さて、第一階層のフロアボスは誰がいく?」
ザガンが笑みを浮かべながら、クルムとグウェン、ヴァンベッタに視線を向ける。
「私が行こう」
兎獣人のクルムが槍を構えながら前に出た。
「わかった、頼むぜ」
ザガンは欠伸しながらクルムを見送る。
「え、加勢しないんですか?」
セオドアは驚いてザガンに質問する。
「しねぇよ。クルム一人で十分だ」
「大丈夫って言ったって、あのグラバルの巨体を彼一人で......」
「大丈夫だ。グラバルは音に敏感だが、あいつの槍は音速を超える。クルムの槍が貫通して初めて気がつくだろううな、あのコウモリネコ」
クルムはグラバルからかなり離れた距離で槍を構える。
「あんな離れた位置から?」
「あれがあいつの間合いだ」
クルムは槍を構えると脚に魔力を纏わせる。
「ラピッド・ジャンプ!!」
クルムはスキルを発動させた途端に姿をかき消した。
姿をかき消したかと思われたクルムは気がつくと既にグラバルの胴体を槍で貫いていた。
その光景をセオドアが捉えたところで、遅れて衝撃波が広がる。
「すごい......!」
クルムの槍に貫かれた、グラバルは口から血を撒き散らしながら、その場へと倒れ込む。
「一撃......」
ドランが驚いた様に呟いた。
「クルムさんは兎獣人の長所である脚力に加えて更に脚力を上昇させるスキルを併用する事で音速の突きを実現させている......」
セオドアは目の前で起こった事を整理する様に口に出す。そんなセオドアをベルザは横目に見る。
「流石の観察眼だな。セオドア君」
「あ、いえ。もう癖みたいなもので......」
「そう謙遜しなくとも、あの冒険の書を書いているのも納得できる」
ベルザの言葉にセオドアは照れた様に頬を掻く。
「なんかこそばゆいですね......」
討伐を確認したザガンが声を発した。
「よし、じゃあ先に進もうか」
クローリングの一同はグラバルの素材を剥ぎ取る事なく、進み始める。
「素材は剥ぎ取らないの〜?」
不思議に思ったノエルが声を上げた。
「あぁ、普段なら行進で下の奴らに任せているが、今回の目的は第三階層の攻略だからな。倒したモンスターの素材をいちいち剥ぎ取ってたら第三階層に着く頃には大荷物になっちまうから、勿体無いが剥ぎ取らねぇよ」
ザガンの説明にブックメーカーのメンバーは顔を見合わせる。
「では少し待って頂いてもよろしいですか?グラバルの喉袋だけでも、こちらで剥ぎ取らせて貰いたいです」
ザガンは不思議そうな表情を浮かべる。
「喉袋?買取額はそんなに高くないだろ?」
「いえ、この素材を使って試したい事がありまして」
セオドアの言葉にベルザが興味が湧いた様に声をかける。
「ほぅ。聞かせて貰っても?」
「はい。この喉袋を使って、第二階層のフロアボス、ラド・モーラの戦闘に活かせるかもしれないんです」
セオドアの話にベルザ以外のクローリングのメンバーは顔を見合わせる。ザガンは笑みを見せた。
「へぇ、そりゃ楽しみだ!じゃあ第二階層のフロアボスはブックメーカーに任せるとしようか」
「えぇ、もちろんです」
第二階層にたどり着いた、一同はセオドア達が冒険者の手帳を見つけた水路近くへと案内していた。
ベルザが先導するセオドア達の足元に注目した。
「君たちの履いているそれは......?」
ベルザの問いにセオドア達は自身の足元を確認する。足にはセリカが作成したかんじきを履かせていた。
「あぁ、これは湿地用のかんじきですね」
「かんじき......それにはどう言った効果が?」
ベルザが問いかける。
「泥に接地する面積を広くしているので、泥や沼に沈まずに歩く事ができるんです」
セオドアの説明にヴァンベッタが感嘆の声を漏らす。
「へぇー。それは助かるね!どこに売ってるの?」
「これはウチのパーティーメンバーが独自に作成したものなんで売ってないんです」
セオドアの返答にヴァンベッタは明らかに肩を落とした。
「あら売ってないの?残念だわ〜」
「あんたらの商会で売り出せば儲かるんじゃないか?この第二階層は沼地が広がってるから、ダンジョンに入る冒険者は欲しいだろ。俺たちも含めてだけどよ」
ザガンの言葉にフィオナは目を丸くさせる。
「その手があったか!」
フィオナが目を輝かせる。
儲かる話に食いついたフィオナに少し苦笑しながらもセオドアは頷いた。
「そうですね。帰ったらセリカさんとマックスさんに提案してみましょう」
一同はセオドア達の案内の元、手帳を見つけた水路まで辿り着いていた。
「あの手帳はこの水路の中に?」
「はい。この水路の水底に沈んだ木箱に入っていました」
ベルザは水路の側で屈み、中を覗き込む。すると水面からマッドフィッシュが飛び出した。
ベルザは顔色を変える事なく、飛び出してきたマッドフィッシュを鷲掴む。
マッドフィッシュはガチガチと歯をならせながら、ベルザに迫るが、ベルザは無言でマッドフィッシュを締める。
その様子を見て、ザガンが面倒そうにため息をつく。
「ここの水路はマッドフィッシュのナワバリじゃねぇか。弱いが数がいるから探索するにしても骨が折れるぞ」
その様子を見て、セオドアとドランはアイコンタクトを取り、頷いた。
「それは僕たちに任せてください」
セオドアは装備からいくつかの皮袋を取り出した。
「それは?」
「これはウチのパーティーメンバーが作成した、簡易の音爆弾です」
「音爆弾......?」
ザガンが懐疑的な目で皮袋を見つめる。
セオドアから皮袋を受け取ったドランは息を吹き込んでいき、大きく膨らませる。
「これから大きな音が出ますので、獣人の方は耳を塞いでおく事をお勧めします」
「耳を塞ぐ?ただの皮袋の風船じゃないか」
セオドア達は大きく膨れ上がった皮袋をあたりにあった石に括り付けて、水路の中に放り込む。
「まぁ見ていてください」
セオドアはクローリングのメンバーに笑みを見せると準備を整えた。
「フィオナさんお願いします」
水路のそばに立ったフィオナはセオドアの指示で水路に沈んだ皮袋に照準を合わせる。
「烈風穿矢!!」
フィオナのスキルで強化された矢は水の抵抗力に威力を削がれる事もなく、皮袋に直撃する。
ーザバァン!!
大きな衝撃とともに水面に水柱が立ちのぼる。
「ぬぅわ!!?」
衝撃と音に驚いたクローリングの獣人達は耳を抑える。そんな中でもベルザはブルルッと牛の耳を震わせるだけで表情は冷静であった。
「まだまだいくわよー!!」
簡易音爆弾を全て爆発させると水面にはマッドフィッシュの身体がプカリと浮かんできた。
「マッドフィッシュが......気を失ってるのか?」
ザガンは驚いた様に声を漏らした。
「水の中は振動が伝わりやすいので水棲モンスターにはかなり効果的なんです」
セオドアの説明にクローリングのメンバー達は感嘆の声を上げる。
ベルザは水面に顔を寄せて、マッドフィッシュを一掃できている事を確認する。
「見事な発想だ。セオドア君の発案か?」
「仲間が水路に落ちた時にアドリブで見つけた方法ですけどね」
ベルザの問いにセオドアは恥ずかしそうに笑みを浮かべて答えた。
「いや、実に見事だ。これならモンスターが湧くまでに落ち着いて水路探索が行える」
ベルザが振り返るとクローリングのメンバーに視線を向けた。
「よし。ザガンとクルムで水底の調査を頼む。グウェンは周りの警戒を続けてくれ。私たちはザガン達が上がってきた時の為に火を起こしておく」
「了解」
ベルザの指示に一同は行動に移り始めた。
しばらくして調査を終えたザガンとクルムが水路から上がると身震いして、身体についた水気を振り払う。
「ザガン、クルム。お疲れ様。どうだった?」
ベルザの問いにザガンとクルムは横に顔を振った。
「ベルザさん、目ぼしいものは何もありませんでした。何体かの冒険者の骨やそいつらのものと思われる装備が沈んでいましたが古く錆びついていて触っただけでも崩れましたよ。あの装備じゃ第五階層に挑んだって装備じゃない。普通に第二階層攻略中に命を落とした冒険者のものでしょう」
「そうか。あの手帳につながる様な情報はなしか。わかったご苦労だったな。焚き火にあたって、身体を温めてくれ」
「助かります」
ザガンとクルムは焚き火の方へと歩みを進めた。
ベルザはザガン達の報告に静かに目を伏せた。
「残念でしたね......」
セオドアベルザへと声をかける。
「こればかりは仕方がない。第五階層攻略につながる情報はそう簡単には手に入らないって事だな」
「......ベルザさんは第五階層に何度も挑んでいるのですよね?」
「あぁ。第五階層の踏破が私の宿願だからな」
「あの手帳に記されていた“ブルー”という、“知性のあるモンスター”の様な存在には遭遇していないのですか?」
「あぁ。私は遭遇した事がない。フロアボスには幾度か挑んでいるのだがな」
「ベルザさん程の冒険者が敵わないフロアボスとは一体どんなモンスターなんですか?」
「あれは暴力の権化の様な存在だ。巨大な身の丈、姿形は黒く毛皮に赤い瞳をもつミノタウルスだ」
「ミノタウルス......僕は遭遇した事がありませんが、外の世界で生息するミノタウルスはプラチナランクのモンスターですね」
「あぁ。だが第五階層のフロアボスのミノタウルスは外に生息しているミノタウルスとは比べ物にならない。別次元の強さと言っていい。奴の恐ろしいところは凄まじい凶暴性と狂気性だ」
「狂気性?」
「奴の出す瘴気は精神を錯乱させる作用がある。瘴気を吸い込むと自身が体験した恐怖やトラウマを幻覚として現れる様になる」
「恐怖やトラウマ......精神攻撃をもった凶暴なミノタウルス......」
「私は奴と決着をつけなければいけない」
ベルザは拳を静かに握りしめた。
セオドアはその様子を見てヴェロニカギルド長の言葉を思い出す。
『前回の攻略の際にベルザ以外のトップメンバーは全滅した』
(ベルザさんは......仲間達の仇を打つために......)
セオドアはベルザにかける言葉もなく下を向く。
「今回の調査に協力してくれてありがとう。セオドア君。次は私たちが君たちの第三階層攻略を手伝おう」
「調査では何も手がかりがなかったのに僕らは攻略を手伝って頂いてもいいのでしょうか?」
「気にするな。協力の見返りを提示したのはこちらだ。それを反故にするなどクロー・リングの名折れだ。約束は果たさせてもらうよ」
「わかりました。よろしくお願いします」
水底の調査をしていた、ザガンとクルムの水気が乾いたのを確認すると一同は再びダンジョンの深層へと足を進めた。




