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桜咲く国の姫君【改訂版・ギルフォードルート】~神様の気まぐれで異世界に召された少女は隣国王子に溺愛される~  作者: 咲来青
第5章 神様 ~御神木の桜~

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第2話 朝食は王子と共に

「ど……っ! どうして王子がここにっ!?」


 朝食の席に王子が姿を表し、驚いた私はガタタッと席を立って後ずさった。


「どうしてって……。一人で朝食をとるよりは、二人の方が楽しいだろう? 私の分もここに運んでもらったんだよ」


「運んでもらったって……そんな、断りもなくっ」



 こっちにもこっちの都合というものが……!



「え? 迷惑だったかい?」


「めっ……いわく、ってワケじゃ、ない……です、けど……」


「そう? ならよかった」


 満足げな笑みを浮かべると、王子は私の正面の椅子を引いて腰を下ろしてしまった。



 ……うぅ。

 この人って、どうしてこう……。



「それよりサクラ。今日は、神様のところへいくという話だっただろう? いつ頃出かけるんだい?」


「へ?……あ、ああ……。できれば、早めに出かけたいとは思ってますけど……」


「そうか。では、朝食が済んだら出かけることにしよう。昨日のように遅い時間では、危険過ぎるからね」


「……は、はあ……」



 う~ん……。

 やっぱり、なんだかんだで王子のペースだなぁ。



 私は複雑な気持ちになって、じとっと王子の顔を見つめる。

 陽の光の下で改めて見ても、王子はまぎれもなく美形だった。


 ビターチョコレートのような濃い茶色の髪。凛々しく整った眉、くっきり二重のまぶた。


 瞳の色は、光の当たり方で変わって見えるみたい。昨日はイエローブラウンに見えたけど、今はライトブラウンにライトグリーンが混ざったような、微妙な色合い。


 そして、高く通った鼻筋と、引き締まっていて形の良い唇……。



 ……ん? 唇?



「~~~っ!」


 昨夜の『おやすみのキス』の記憶が蘇り、私の顔と体は沸騰したかのように熱くなった。



 ――バカ!

 何考えてるのよ、朝っぱらから!?



 ……あんなの、この世界ではきっと常識なのよ!

 特別な意味があるワケじゃない!


 日本人から見た、欧米の人たちの挨拶のキスのような……文化や習慣の違い。ただそれだけ!

 絶対絶対、特別な意味なんてないんだからっ!



 私が気持ちをかき乱されている間も、王子は涼しい顔で給仕の様子を眺めている。

 そしてふと、何か思いついたように私に顔を向けると。


「そうだ。神様と言えば、私もひとつ思い出したことがあるんだ」


「……思い出したこと?」


「そう。君は、神様が〝力を使う時だけ〟花を咲かせる……という話を、聞いたことがあるかい?」


「――へ?……え、ええ、まあ……。ありますけど」



 ……って……ん?


 あ……あぁーーーっ、そうだ!

 すーっかり忘れてた!



「そうだよ、エレンさん!」


「――っ! は、はい? いかがなさいましたか、サクラ様?」


 私がいきなり大声を上げたものだから、給仕をしていたエレンさんはビクッと肩を震わせた。

 王子もキョトンとした顔で私を見つめている。


「あ……。ご、ごめんねエレンさん。いきなり大声出して」


「い、いえ……」


「王子の話を聞いて、私も思い出したの。カイルさんがルドウィンに向かう前に聞いたっていう……エレンさんの、神様のいる辺りが白っぽく光ったって話」


「え? あれをエレンも見たのかい?」


 王子は目を見開いて、エレンさんに視線を移した。


「『エレンも』?……って、じゃあ王子も!?」


 私は両手をテーブルにつき、ガタッと立ち上がった。


「そうなんだ。昨日、サクラから、リアの行方についての推察を聞いて、私もいろいろ考えてみたんだが……。リアがサクラと入れ替わりで、サクラのいた世界にいってしまったのだとしたら……そんな奇跡が起こせるのは、やはり神様しかいないと思ってね」


「ですよねっ? 神様の力しかないですよねっ?」


「ああ。そうとしか考えられない。……そこで思い出したんだ。昨日の明け方……いや、それより少し前だったかな。国境の丘の上から、城の方角を眺めていた時……ほんの一瞬だったが、森の辺りが白く光ったように見えてね」



 昨日の明け方頃!?

 ――エレンさんと一緒だ!



「そう、明け方! エレンさんが見たのも、そのくらいの時刻だったんでしょ?」


「え?……あ、はい! そうです。私も見ました。神様がいらっしゃる辺りが、一瞬、白っぽく染まったんです」



 ああ……やっぱりそうなんだ。

 やっぱり姫様は、神様の力で……。


 ……ん? でも、待って?

 白っぽく染まったってのが、神様が力を使った時――つまり、花を咲かせた時ってことだったら、花びらはどこにいったの?


 花が咲いて、すぐ散っても……花びらは周りに落ちるはずだよね?

 でも、昨日行った時には……神様の周りに、花びらは一枚も落ちてなかった。



 ……どういうこと?

 花びらも消滅しちゃったの?


 それとも――……。



「――サクラ?」


 ハッとして顔を上げると、王子が心配そうに私を見つめていた。


「どうしたんだい? 深刻な顔で黙り込んで……」


「あ……。いえ、あの……。ちょっと気になることが……」


「気になること?」


「……ええ。昨日、王子とエレンさんが見たのが、神様が咲かせた花だったとしたら……。そして、すぐ散ってしまったんだとしたら。神様の下とか、その周辺には……花びらが落ちてるはずですよね?」


「ああ、そうか。そう言えば……花びらはどこにも落ちていなかった。……とすると、あの白い光のようなものは……いったい、何だったんだ?」


 王子は考え込むように腕を組み、私はストンと腰を下ろして頬杖をついた。



 神様は力を使う時にだけ、花を咲かせる。

 だから、王子とエレンさんが見たものが神様の咲かせた花だったとしたら。

 姫様が消えた時間帯とも重なるし……まさにその瞬間、姫様は私がいた世界に飛ばされた――ってことで、まず間違いないと思う。


 ……でも。

 花が咲いた後、花びらがどこにも見当たらないなんて、おかしいよね?



 花は咲いた。なのに、花びらはどこかへ消えた?

 それとも、花は咲かなかった。だから花びらもない。……そういうこと?


 でも、だとしたら……王子とエレンさんが見た白っぽいものの正体は……何?



 王子も私もすっかり考え込んでしまい、沈黙が長く続いた。 

 すると、セバスチャンが。


「サクラ様、ギルフォード様。お気持ちはお察しいたしますが、そろそろお召し上がりくださいませんと。……ご朝食が冷めてしまいますぞ?」



 ――あ、そっか。

 まだ朝食中だったんだっけ。



 取りあえず、食べ終わってから考えようということになり、私と王子は慌ててフォークとナイフを手に取った。

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