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桜咲く国の姫君【改訂版・ギルフォードルート】~神様の気まぐれで異世界に召された少女は隣国王子に溺愛される~  作者: 咲来青
第4章 ルドウィン国の王子

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第20話 パニック!

 王子に名前を呼ばれたとたん、何故だか急激に恥ずかしさが襲ってきて――。

 気が付くと、私は大声で宣言していた。


「わっ、私、もう部屋に戻りますっ!」


 急いでその場を離れようとすると、王子は焦ったように私の腕をつかむ。


「ちょ――っ、ちょっと待ってくれ! どうしたんだい、急に?」


「べ、べつにどうもしませんけど……。でも、もうここにいたくないんです! 離してくださいっ」


 王子の顔を見ないまま、その手を振り払おうとした。

 だけど、王子の力は思った以上に強く、振り払うことはできなかった。


「待ってくれ!――すまない。そこまで君を不快な気持ちにさせていたなんて……。許してくれるまで何度でも謝る。だからもう少しだけ……君の話を聞かせてくれないだろうか?」


 王子は私の両肩をつかみ、真摯な眼差しで懇願する。

 その眼差しが妙にまぶしくて、私は慌てて顔をそらした。



 ……なんで!?


 さっきまで普通に見てたはずなのに……なんでなの!?

 なんでいきなり、王子の顔が直視できなくなってるのーーーッ!?



 心臓が息苦しいほど速く、大きく鳴り響き――急速な変化についていけなくて、私は完全にパニック状態だった。


「サクラ、どうしてこちらを向いてくれないんだ!……もう、顔も見たくないということなのか?」



 違います!

 そんなんじゃありません!



 伝えたかったけど、言葉が出てこなかった。

 私は答える代わりに、大きく首を横に振った。


「本当に? 怒っているわけではないんだね?」


 ブンブンと、今度は縦に首を振る。


「……よかった。安心したよ。君を傷付けるようなことをしてしまったのかと思った」


 王子は微かに笑みを浮かべ、私の肩からそっと手を離した。


「できることなら、もう少し話していたかったんだが……。今日はいろいろなことが起こって、君も疲れただろう? あまり無理を言うのも悪いしね。楽しみはまた明日に回すとして……戻ろうか」


 その言葉に、私は無言でうなずいた。


「うん。ではいこう」


 王子の右手が自然と私の肩に回され、優しく抱き寄せられる。瞬間、私はビクッと身をすくめ、ギュウ~ッとキツくまぶたを閉じた。


「――ん? どうかしたかい?」


 ぶん ぶん ぶん ぶん!

 右に左に、大きく頭を振る。……強く振り過ぎてクラクラした。


 頭上では、王子がクスッと笑ったような気配がして――。


「明日は、また神様のところへいくんだろう? 君の落とし物も、無事見つかるといいが……。そして、リアについての手がかりも」


 王子の口から姫様の名前が出たとたんに、ハッとなる。

 塔にいる間中、彼女のことを少しも思い出さなかったことが、なんとなく後ろめたくて……。

 私は王子の言葉に無言でうなずいた。



 王子は『足下に気をつけて』と言って肩を抱くと、私の左手をそっと握り、階段をゆっくりと下りていく。

 上る時は、あんなに意地を張って王子の申し出を拒否していたのに、今は、王子に守られるようにして大人しく階段を下りている。



 こんな階段、一人で下りられるのに。

 王子の手なんか借りなくたって、ちゃんと下りられるのに。


 なのに、どうして……?





 ――いつの間にか、ぼんやりしてしまっていたらしい。


「どうかしたかい、サクラ? 部屋の前に着いたよ?」


 王子の声で、私はようやく我に返った。


「……えっ?」


 驚いて顔を上げると、王子の心配そうな顔が目に入った。


「あ――! す、すみませんっ!」


 まだ王子の腕の中だと気付いた私は、慌てて体を離した。


「ごめんなさいっ! ほんっとすみませんっ! ボーっとしてましたっ!」


「……いや。そんなに謝られるようなことではないが……」


 少しの間、王子はポカンとした顔で私を見つめていたけど、すぐに優しく微笑むと、


「では、また明日。今日はゆっくりと体を休めるといい」


 穏やかな声で語りかけ、部屋のドアを開けて中に入るよう促した。


「……は、はい。では、おやすみなさい」


 そう言って、王子の前を通り過ぎようとした瞬間。


「――あ、ちょっと待って」


「え?」


 いきなり王子の顔が近付いてきて――。


「――っ!」


 あっと思った瞬間には、おでこにキスされていた。


「……おやすみ」


 ニッコリ笑った後、王子はそっとドアを閉めた。


 私は固まって……しばらくその場から動けなかった。




 私が固まっていた間。

 セバスチャンは慌てて部屋の外に出ていき、王子が泊まるための部屋へと案内するため、アンナさんと一緒に王子の後を追ったらしい。


 エレンさんは部屋に留まり、固まっている私に恐る恐る声をかけたらしいけど。返事がないとわかると、オロオロと私の側を歩き回り、セバスチャンたちが戻るのをじっと待っていたそうだ。


 私は数分後にようやく動き出し、エレンさんに、


「私、もう寝る。……おやすみなさい」


 とだけ言ってベッドにもぐり込み、着替えもしないまま寝てしまったらしい。



 ――この間の記憶は、一切ない。

 たぶん、さっきのことは夢なんだと思い込みたかったんだろう。



 今時、おでこにキスくらいで……と呆れられるかもしれないけど。


 私にとっては、あれがファーストキスだったの!

 場所がおでこだろうが頬だろうが唇だろうが、関係ないんだから!



 ルドウィン国第一王子、ギルフォード。

 やっぱり、彼は要注意人物だ。


(……これからは、もっと距離を置いて接することにしよう)


 私は強く心に誓った。

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