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大罪と美徳  作者: 秋雨
第2章 煉獄に響く鎮魂歌
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第44話

知識の撤退後。

怜奈やクエイクをとらえていたフィールドが解除され、ユウと同様に解放。


血が抜けて、貧血気味のユウが月を見つけると……。


「……すまねえ。借りが出来ちまったな」

「報酬ならダーリン頂戴」

「本人に言ってくれそれは。で、なんで宇佐美まで? 巻き込まれたら……」


「……生きてる、よね?」


昴にやられ、ボロボロになり意識を失い横たわる光一。

その額を撫で、光一がまだ生きていると言う事に対する安心を、かみしめていた。


――脳裏に、兄の死を思い返しながら。


「……つらい思い、させちまったか」


炎熱能力で治癒を行いつつ、ユウはそんな痛々しい姿に頭を押さえ、そう呟いた。


「朝霧さんは組織の長として、下すべき決断を下しただけです。責められるべきはむしろ、ワタクシの……」

「はいはいそれまで。そう思うんなら、早くこの戦いの決着をつけてしまいなさい」

「……そうだな」

「はい……憂いがなくなった以上、ワタクシならいつでも」

「怜奈様!」


会話を遮る様に、執事服の男装少女が駆け寄ってきた。

蓮華は息を切らし、怜奈の前に。


「蓮華ちゃん。よかった、無事だったのね」

「はい……申し訳ありません。私が不甲斐ないばかりに、こんな事になってしまい」

「良いのよそれは。それで、話は?」

「はい。憤怒側も慈愛側も、事情の説明と証拠の提示を行いました。皆、何とかわかってくれたようです」

「なら、境目に場所を変えるぞ。クエイク、黛を乗せてあの3姉妹を連れて来てくれ」

『Yes!』



――所変わって。


「……さて、覚悟はいいか?」

「わかっています……どうぞ、朝霧さんの望むがままに」


両陣営の契約者達に囲まれ、対峙するユウと怜奈。

ユウが“焔群”をにぎり、怜奈はその場に座り目を閉じる。


「え? 何? どうして?」

「“一部がそそのかされて勝手に暴れました”って証拠はあっても、契約者が暴れて死傷者を出した、と言う事実はそれ以上に重いのよ。主にナワバリの住人にはね」

「……それはわかってる。でも」

「じゃあナワバリの住人たちには、“勝手をしたいから怯えて暮せ”って言ってみる?」

「……」

「否定したいなら勝手にしなさい。背負う事を知らないなら、少なくとも勝手に恥を晒す事と同義だから」


そう言われ、宇佐美は口をつぐむしかなかった。

ユウを止める事も出来なければ、現状をどうにかできる訳でもない。


そんな自分が何をしたとしても、それは結局自分を貶める以外の何物でもない。


「怜奈様!」

「怜奈様ぁっ!」

「やめて、やるなら私達に!」

「……ごめんね皆、こんな主で」


拘束されている渦中の3姉妹が、泣いて止めようと足掻く中。

ユウは居合の構えをとり、一歩踏み出し――


バキィッ!!


「えっ?」


鞘がついたままの刀で、怜奈の頬を殴った。


「くだらねえ猿芝居してんじゃねえぞ」

「……朝霧、さん?」

「アンタの命とった所で、どうせまた戦争が起こる。俺が要求するのは、アンタの身柄の引き渡しと今回の首謀者達を裁く権利。そして慈愛の組織の内情調査だ」


どよどよと、周囲がざわめき立つ。


「憂いは断つ。その前提で俺に出来うる要求をさせてもらう」

「――わかりました。慈愛の契約者、水鏡怜奈。今この時をもって、貴方にこの身を委ねます。蓮華ちゃん、組織の事はお願い」

「……かしこまりました」


ユウが踵を返すと同時に、怜奈を始め慈愛の面々が殺到。

怜奈を心配する者、殴られた個所の手当てをと騒ぐもの。


そんな中で……


「……すまない。感謝する」

「感謝? バカ言え、妙な事をすればアンタ達の頭は殺すんだぞ?」

「それでも私達にとって、怜奈様はかけがえのない大切な存在なんだ。死んでしまうより、生きている方がまだ良い」


蓮華だけは、真っ先にユウに頭を下げ、感謝の意を告げると下がって行く。

ユウはそれを見届け……。


「ま、そう言う訳だ。まあ事情は説明するけど……」

「わかってます。それだけの事をやったのは事実ですから」

「よし、帰るぞ!」

「「「おおおーーーーっ!!」」」


ブレイカーには生命維持装置がある。

これは契約者の身体が致命傷寸前以上のダメージを受けた場合、即座に仮死状態にした上で特殊なフィールドで包み、生命を維持する機能である。


以上の契約者は滅多に死ぬ事がないが、それでも心臓や脳といった即死では助かる事はない。


「治療は?」

「終わってます。ですが……」

「そうか……今はやる事があるから無理だが、後で面を見せてくれ」

「了解です」


「……ねえ、月」

「何?」

「怜奈さん、これからどうなるのかな?」

「少なくとも、歓迎されない事は確かね」

「――ちょっと、行ってくる」

「……悩みなさい、宇佐美。ユウにダーリンが貴女を守るために命を張る理由も、先代勇気が何を見据えてユウと手を取り合った理由も、理解しなきゃならないんだから」


宇佐美が怜奈のもとへ走り去って行くのを見届けた月は、意識を失った光一の手当ての続きを。

今の月の胸中には“知識”への怒りもあり、無茶をした光一を叱りたい気持ちもあるが……。


「――また、こうして会えた。何度体験しても慣れないな、この安心感は」


こうして、憤怒と慈愛の戦争は終結した。


「……俺は一体何やってんだろ? 宇宙の時と言い、全然変わってねえ」

「……ごめんね蓮華ちゃん、皆」

「……兄さん。あたし、どうすればいいのかな?」


悲壮、後悔、無力感。

それらが混ざりあう空気に、包まれたまま。



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