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育成完了しました!

それから、およそ一か月が経過した。私たちは60層周辺で狩りをしていた。

バターの成長はとても早く、一週間が経過する頃には単独で60層周辺のモンスターを倒せるようになっていたし、ムーファもそれに伴って強くなっていった。

今では、二人でミノタウロスを危なげなく討伐できるほどに力をつけたのだった。



私たちは、とある約束をしていた。

育成の期間は、一か月ほどにしておこうと。

一か月もあれば、ムーファもある程度戦えるようになっていると思うので、そこで別れて、別々のパーティを組もうということになっていた。



それは、私がその時パーティを誰かと組もうとは思えなかったということに起因している。

自分の能力を誰かに話した結果、また、サシバナさんと同じ結果になるんじゃないか、という恐怖がぬぐえなかった。



今日は、その最終日。

私たちは、ミノタウロスを倒しに60層の管理人の部屋まで来ている。


「……本当にいいの?」


ダーミラが、そっと私にささやく。


「まだ考えてる。ムーファは、信頼できると思うし、きっと強い。だけど……」


ダーミラは、フッと私に笑いかける。


「……きっとお姉ちゃんなら大丈夫。自分に後悔のない選択をしてね」


扉が開く、そこにはいつものようにミノタウロスがいた。


「じゃあ、行きますよー!」


そう言ってムーファはぶつぶつと呪文を唱える。

言い終わった瞬間、彼女の足元には氷の靴ができていた。

彼女は地面を蹴る。

すると、まるで氷の上をすべるかのように軽やかにムーファは動き出す。

ムーファはミノタウロスに急接近し、周囲をぐるぐると回って、ミノタウロスを翻弄する。

ミノタウロスは、うっとうしいムーファをどうにかしたいようで腕を振り回すが、ムーファは呆気なくそれを躱す。

そして、その間にバターは巨大な氷柱を作り出し、ミノタウロスに向けて発射する。

ムーファは、ギリギリのところで躱す。

当然避け切れないミノタウロスに氷柱が貫通し、ミノタウロスは動かなくなる。


「よしっ!」


ムーファは最後に鮮やかな連続回転を見せ、私のところへと戻ってくる。


「お疲れ様!ものすごく強くなったね!」

「はい!最初はこんなの私じゃ無理!って思ってたんですけど、きちんと自分のできることと相手のできることを照らし合わせながら作戦を練ったら意外と大丈夫でしたね!」


ムーファはピースサインを決めてくる。

しかし、すぐに少し残念そうに手を下げる。


「……今日でお別れの一か月ですよね。長いようであっという間でした」

「そうだね……」


雰囲気が少し気まずくなり、何か言わなくちゃ、と焦りを覚える。

でも、今になっても、まだ、決心がつかずにいる。


……どうしよう?


そう思っていたら、「すみません!」とムーファが声を発した。

私は、「何?」と聞き返す。


「あの、その、こんなことをルエに頼むのはちょっと申し訳がないのですが……」


そして、ムーファがその続きを言おうとした、その時。


「やっと見つけた!」


懐かしくも、少し怖い声が部屋の中に響き渡る。

私は、声の主を見る。


……え?嘘?


そこには、あの頃の身綺麗さからは、全く想像もつかないくらいにぼろぼろになった、サシバナさんがいたのだ。右足も無ければ、全身傷だらけだ。

その姿に思わずムーファも、


「大丈夫ですか!?」


と聞いてしまう。

が、その当人は笑顔になって、


「大丈夫、大丈夫。ようやく会えたんだから」


と言う。私は背筋がぞっとした。


「いやあ、まさか、若返っているなんてね!そんなことできるんだったら、僕に教えてくれなきゃダメじゃないか!こんなことなら、パーティの解消もしなかったのに……」


私は、恐る恐るサシバナさんに聞く。


「どうして、私が生きているってわかったんですか?」


——そう、トゲモリさんも、クサリネさんも、絶対に漏らさないと約束したはず。

だったら、誰が……。


「あぁ、それかい?この前、ギルドで成人かどうかとかいう騒ぎがあっただろう?

その時の話を偶然酒場で聞いてしまってね。特徴が君にそっくりだったんだよ」


どうやら、情報源は、二人からではないらしいことに少しだけほっとする。

でも、どうやって私だと確信を……?


「慌ててギルドの受付にパーティ申請に向かったよ。『ルエって子と、パーティを組みたいんだけど、時間がうまく合わなくてね。ギルド側で通達ってできます?』って。そしたら、受付の人が色々調べてくれてね。『ルエさんは現在ムーファさんとパーティを組んでいるので、ムーファさんとも協議の上パーティに加入となりますが、よろしいですか?』って答えてくれたよ」


私は背筋がさらにぞわっとなった。

……そこまでする執念に恐怖を感じる。


「僕は、『なるほど、じゃあ、ちょっとパーティ人数の上限に引っ掛かりそうなので勧誘はやめておきます。ありがとうね』と言って離れたよ。まさか、生きて別の人とパーティ組んでるなんてね。あとは、情報集めさ。情報屋とか、酒場で情報収集とかしてさ、ようやく、君がここでミノタウロス狩りをしているっていう手がかりを得たのさ」


私はサシバナさんに問いかける。


「私に、何か、用ですか?」


と。サシバナさんは、笑顔で答える。


「僕を治してよ。そして、僕と一緒に戦おう!君がいれば、どんな敵だって倒せる!」

「あのヒーラーさんはどうしたんですか!?」

「あいつ?あぁ、あいつは役に立たなかったよ。僕がただ右足を切り落とされただけなのに、『治療できない!』とか言うからさ。すぐに辞めさせちゃった。ほかのやつだって、『私には無理』だの『もっとけがを抑えて!』だの言ってくるんだよ?『ふざけるな!』って言いたくなるよね」


私とムーファは、一歩後ずさる。


「その点、君は何も文句を言わずに治してくれた!僕のどんなケガだって、あっという間さ!失って、初めて気づくものだねえ。大切なものっていうのは」


私は、声の限り訴える。


「私、寿命を削って治してたんですよ!?それなのに、まだ治させようとするんですか!?」


そう言った私に笑顔できょとんとするサシバナさん。


「え?もう若返ってるじゃん!だから、まだ大丈夫!いけるって!」


……どうしようもなく、怖い。

少し足が震え始めた私を見たムーファはサシバナさんに言う。


「ちょっと!聞くだけ聞いていれば、どうしてそんなひどいことが言えるんですか!

命削ってるって言われて、ああそうですかと流すあなたの精神が大丈夫じゃないですよ!」


サシバナさんは、笑顔を崩さずに言う。


「どうして?それなら一緒のパーティにいる君こそ、彼女の能力を搾取しているんじゃないのかい?聞けば、君、自分の魔物を成長させることを目的に彼女を使ってるんじゃない。僕だったら、もっと有意義なことに彼女を使うな~」


……サシバナさんってこんな人だったっけ?

人を『使う』としか形容しないような。

ムーファも、それを聞いて、よりいっそう怒っているみたいだ。


「確かに!ルエには、私の魔物を成長させるために協力してもらいました。ですが!そもそも、パーティっていうのは助け合いが大切でしょう!?私は確かに何もルエに貢献できてません!でも、あなたはそれ以下です!あなた、自分の事だけで、ルエに貢献する気なんて全くないでしょう!?」


サシバナさんはきょとんとした顔で、答える。


「何を言ってるんだい?僕が活躍するだろ?ルエは嬉しい。たとえそれが原因でルエが死んだとしても、きっとあの世から、僕を祝福してくれるさ!」

「はぁ!?何それ!意味が分かりません!さ、ルエ行きましょう!」


ムーファが私の手を引く。


「待てよ!さっき聞いていたんだが、君とルエは今日でパーティ解散するんだろ?

それなら、君に僕を止める資格はないはずだ!」


そうして伸ばしてきた手をムーファはバチンと払う。


「何言ってるんですか!私とルエは、これからもずーっとパーティです!絶対に受けた恩を返すまでは解散なんてしないんですから!」


……え。嘘。

私は、戸惑いとかよりも強く嬉しさを覚えた。

——あ。そうなんだ。

きっと、これが私の答えなんだ。


部屋を後にする私たち。

サシバナさんは、呆然としたのか追いかけてこない。


しばらく歩くと、ムーファは、くるっと私の方を向いて、頭を下げる。


「ごめん!まだパーティをやめない、みたいなことを言ってしまって。

あの人をしっかりと拒否するために、つい口から出たことだったんです。

……でも、あれが私の本心でもあるんです。

もちろん、秘密を言ったりする必要はありません!どうか、パーティを続けていただけませんか、ルエ?」


そう言って、頭を下げるムーファ。

——もう私の答えは決まっている。


「いいよ、ムーファ。私も、続けたいって思ってたとこ。

それに、話すよ。私の秘密。ムーファなら、信頼できる」


そういって、私は、私の持つ秘密を洗いざらい話し始めた。


ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

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