まだまだ育成をしました!
「まだ早いんじゃ……」と管理人戦を躊躇するムーファを連れて、やってきたのは60層管理人の部屋の前。
「さぁ、行こうか」
「いや、でも……」
扉の前に来てもまだ、覚悟が決まらない様子。
そんなムーファに、私は問いかける。
「ねえ、強い敵と戦うときに大切なものって何か分かる?」
「……強さ、ですかね?」
私はその返答にうんうんうなづく。
「確かにそうだね、強ささえあればたいていの局面は乗り越えられる。私もそう思うよ。
でもそれだけじゃ、本当に強い敵を倒すのは難しいんだよ」
私は、当主になるための授業の中で、学んだ大切なことをムーファに教える。
「一番大切なのはね。相手がどんななのか、情報を知っておくことだよ」
「情報?」
そう。うちは男爵家だけど、当主の授業には、一流の戦士などが講師として呼ばれる。
その理由は、当主には、みんなを守るために戦わなくちゃいけないことがあるからだそうだ。
そんな訓練の中で、相手のことを知ってるか知らないかで、改善できる行動は多いことを知った。
「ここの管理人は、基本的に目についた敵に突進しかしてこない。ただ、近くに大勢がまとまっていたり、自分の動きが封じられてたりすると、腕をぶん回すんだけどね」
私は、ここの戦いを数度繰り返すうちにわかった事について、ムーファと共有する。
……と言っても、ギルドでも、こいつの情報に関しては調べあげられていたため、一応そっちで確認もとってみたから大丈夫。
「……そうなんですか!?だったら、……」
そう言って、ムーファは考える。
「攻撃を高いところに飛ばせたバターに任せつつ、私たちは、なるべくミノタウロスから距離をとって突進を躱せばいいだけじゃ……?」
「そういう事。いくら管理人と言っても、こういった情報があるのと無いのとじゃ、大違いでしょ?」
「そうですね」
うんうんうなづくムーファ。
「それじゃ、わかったところで、ここの攻略に行きますか!」
「……はい!」
私の言葉でようやく納得したムーファは、少しの間の後、返事をした。
「それじゃ、出発―!」
「おー!」
私は扉を勢いよく開く。
開いた扉の先では、ミノタウロスが、堂々と真ん中に鎮座していた。
「たのもー――!」
私のその声に反応したのか、それとも、普通に私たちが部屋に入ってきたからなのか、ミノタウロスも大きな雄たけびを上げる。
「来るよ!」
「わかりました!」
その声とともに勢い良く迫ってくるミノタウロスを横っ飛びに避ける私たち。
バターはすでに上空に避難済みだ。
ミノタウロスはきょろきょろと見まわし、やがて私を見つけると、「ぶもぉぉお!」と叫んで突進してきた。
「おいしょ!」
私は、ミノタウロスの動きを見極めて、なるべく最小限の動きでかわす。
こんなことにいちいち時間操作を使っていたら、いつか本当に赤ちゃんになる。
サシバナさんの件以来、全く傷を負わず、ただでさえ少しずつ年齢が若返り始めているっていうのに!
今、だいたい12~3歳ぐらいになっている。
ギルドでも「アレー?まだ子供ですかー?」とかうっかりフードが外れてしまったときに言われてしまい、成人であることの証明が大変だった!これ以上若くなるのはきつい!
ミノタウロスの突進をガンガン躱す。
バターは、強くなった氷の魔法で応戦してくれている。
この調子なら、問題なくすぐに倒せるだろう。
躱し続ける私を追いかけるのを無駄だと悟ったのだろうか。
ミノタウロスは、今度はムーファに狙いを変える。
「そっち行った!気を付けて!」
「はい!わかりました!あっ!」
ムーファは先ほどの私の動きを真似しようとして、うっかり転んでしまう。
「ムーファ!」
幸か不幸か、ムーファがミノタウロスに激突するような事態にはならず、ミノタウロスはムーファの足を踏んだ。
「~~っ!!」
ムーファは、声にならない声を上げた。
そしてその突進の直後、バターの強烈な魔法がミノタウロスの頭をクリーンヒット!
無事にミノタウロスを倒せた。
私とバターはムーファに駆け寄る。
「大丈夫!?ムーファ!」
「大丈夫ですよ、これ位。——痛っ!」
ムーファは少し足を抑えている。
「多分、ミノタウロスが足を踏んだときに、骨が……」
ケガを見ると、ミノタウロスの重量にやられたのだろう、骨はぼきぼきに折れ、足はひどく変形していた。これじゃ、治るのかどうかさえ分からない。
——瞬間、私はひと月前の事をフラッシュバックした。
あの日、私が治してしまったが為にパーティはめちゃくちゃになった。
このまま、治していいのだろうか?
治してしまったら、また、あの時と一緒になってしまうんじゃないだろうか?
でも、その迷いは一瞬だった。
目の前に困っている人がいるのなら、悩む必要はないはずだ。
「ちょっと待ってね……『時間遡行』」
私は小声で時間操作を発動させる。
みるみるうちにムーファの足は元通りになる。
私は、14歳ぐらいまで年を取った。
「え?治って……?」
ムーファは不思議がっていたが、すぐに立ち上がり、
「ありがとうございます、ルエ!」
と笑顔でお礼を言った。
私は、若干ぎこちない笑顔で、「いいよ」と答えた。
でも、ムーファは、何も聞かずにミノタウロスの方へと駆け寄る。
「ルエ!すごいですよ!ミノタウロス!これ、いくらになるんですか!?」
と言うか、私の目にはムーファの目にお金があるようにも見える。
これから、何もないといいんだけどなぁ。
私は、そんな不安とともに、「それはねーー!」とムーファの質問に答えていった。
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