育成しました!
さて、ムーファが仲間になった次の日。
私たちは、60層にいた。
ムーファは、今現在魔物に追い回されている。
ダーミラは、今日はちょっと用事があるらしい。神様の仕事も大変だ。
「ちょっと!マジですか!?確かにバターを育ててほしいって言いましたけれど!?
普通弱いところから順にじゃないですか!?なんでいきなり60層!?」
「だって、こっちの方が早いじゃん。はい、『時間加速』」
私は、自分とムーファとバターに時間加速をかける。
ムーファには、「相手が遅くなるバフ」と言ってこれ以上の詮索をさせないようにしている。
なんとなく、直感で悪い人じゃない気はしているのだが、それはサシバナさんだって同じことだった。まだ、信頼できるわけじゃない。
「まぁ、もし、あんなことになっちゃうようなら逃げちゃえばいいわけだし」
多分、仲間一人の特殊能力に依存するような状況がまずいんだと思う。
そうならなければいいんだけど……
「ちょっと!逃げるとか不穏な言葉聞こえましたよ!絶対逃がしませんからね!」
隙だらけの魔物は簡単に倒せるのだろう、敵を倒したムーファとバターが戻ってくる。
私は時間加速を解除した。
「まさか!そんな事、私が言うと思う?」
「いや、昨日逃げてました」
「そうだったっけ?」
「そうですよ!」
どうやら、この話は私に不利らしい。
「そういえば、バター、ちょっと大きくなってない?」
私は、話を変えることにした。
「もう、後で絶対に追求しますからね!……言われてみれば、確かに……」
どう考えても、一回りくらい大きくなっている。
「やっぱ、60層だと成長が早いねー!」
「確かにそうですね」
ふと、私は思ったことを聞く。
「そういえば、ムーファって、どうしてバターを強くしたいの?何か目的があるの?
……あぁ、いや!無理に答えなくてもいいよ!私だって能力のこと言ってないし」
ムーファは、少し考え込むように顎に手を添えると、そっと話し始めた。
「まぁ、なんだかんだ言いながら、バターの育成を手伝ってくれてますし。
ちょっと話しましょうか」
そう言って、「ここら辺に敵はいませんよね?」と私に聞いてきたので、私はうなづいた。
「じゃあ、ちょっと座って話しましょうか。
……うち、貧乏なんです。貧乏なのに、子供の数は多くて。
で、お父さんもお母さんも一生懸命に働いているんですけどやっぱり生活は苦しいままで。
だから、危険だけど、その分見返りも大きいこの仕事に就こうと思ったんです」
「なるほど」
「もちろん、両親は反対したんですが、その反対を押し切って出て行っちゃって。
だから、ちょっと折り合いはと思ってたんですよ
でも、飛び出してきたのに荷物の中に入れてないはずのお金が入ってた時ちょっと涙ぐんじゃいました」
そんなムーファの話を聞きながら、私は、私の両親を思い出していた。
ふと、頭をよぎることがあるのだ。
——本当は両親は私を利用しようとしていたんじゃないかって。
サシバナさんと同じように、私の命なんて顧みず、ただ道具のように消費させるつもりだったんじゃないかって。
ちょっと前まで、そこまで他人の悪意、というか欲望にさらされず生きていた私だ。
でも、あの時、あの追い出す瞬間。
サシバナさんの目の奥に瞬く黒い感情を目にしてしまった瞬間。
私は、怖くなったのだ。
——私がサシバナさんを変えてしまった。
——私が、あのパーティを崩壊させてしまった。
思えば、そんな悩みを誰かと共有したかったのかもしれない。
私の口は自然に動いていた。
「あのね、ムーファ。聞いてくれるかな。私の話」
私は、私の両親の話をした。
優しかった両親、私の頑固さに手を焼いていた両親。そして、私を幽閉すると言っていた両親。
「……」
「……ねぇ、ムーファ。お父さんとお母さんは、いったい何を考えていたのかな?
私を利用しようとしていたのかな?私を食い物にしようとしていたのかな?」
「……」
ムーファは黙りこくったまんまだ。
「ねぇ、ムーファ?」
「……私には、ルエの両親の心情を思い浮かべることはできません。
残念ながら、ルエを利用しようとしていた可能性だって無きにしも非ずでしょう」
その言葉に心臓をつかまれるような感じがした。
でも、ムーファは続けた。
「でも、あなたが大切で、守ろうとしたって可能性だって、あるわけです。
——だから、聞きに行きましょう!私だって一緒についていきます。
ルエが危険な時は、私が守りましょう!」
そう言って、胸をどんと叩くムーファ。
その言葉に、少しだけ救われる思いがした。
「そうだね!そうだよね!じゃあ、二人で強くなって、聞きに行こう!」
「その意気です!」
「じゃあ、まずは、この層の管理人、倒そうか」
「えっ」
途端に、ちょっと後ずさりするムーファ。
「まだ早いんじゃないですか!?もっとこう、経験を積んでいった方が!」
「まぁ、経験も必要だけど、純然たる強さがまずあった方が楽だよ♪」
と言って、私はムーファにびしっと指をさす。
「それにさ、私15歳だよ。経験なんてあるわけないじゃん」
「えっ!それ初耳です!なんで同い年でそんなに強いんですか!?」
「ごねるのが得意だったから」
「意味が分かりません!」
「わからなくても、さっさと行くゾ♪」
「あっ!さては、私のこと、殺そうとしてますね!『管理人を倒してほしくば金目の物をさっさと出せ』ってやるつもりですね!」
「それは、昨日ゴロツキにやられたでしょ。今回のはマジ。大マジ!」
そう言って、歩いていく私に、ついてくるムーファ。
「本当に、ほんっとうに、大丈夫なんですか!?」
「大丈夫大丈夫。……多分」
「もっと私の目を真っすぐ見て行ってくださいよ!?」
そんな私たちの後ろをバターはひらひらとのんきに飛んでいた。
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