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【230 第一次西部攻略戦(二十六) ~蛇の腹の口~】


【230 第一次西部攻略戦(二十六) ~蛇の腹の口~】



〔本編〕

 しかしながら、敵の電撃侵攻によって穴が開いた防衛圏を無理やり修復しようとするのは下策であり、それは兵や領民は多大なる被害を強いることになる。

 それは、せっかく防衛圏構築のためにクーロが築き上げた二地方の領民たちとの信頼関係を根底からくつがえすことにもなりかねない。

 それならば、あえてまだ堕ちていない拠点から兵を全て引き上げさせ、二地方の領民には、敵が近づいてきた際には一切抵抗はせず素直に全面降伏するよう、領民の中に紛れ込んでいる諜報兵たちを通じて伝えた。

 むろんその降伏自体が、敵を最終的には破るための策の一環である偽りの降伏であること、それを全ての領民に正直に言い添えたのであった。クーロと領民の間に絶大な信頼関係なしには出来得ない一手であった。


 これにより電撃侵攻開始の翌日にあたる七日以降、モスタクバル軍はさしたる大きな抵抗も受けず、二地方の各拠点を次々と制圧し、結果、翌日の八日までに二地方の二十の拠点が落ちたのであった。

 モスタクバル将軍はこの戦果に大いに気を良くし、効率性に最も重きを置く侵攻へと切り替えた。一万の軍を五つに分け、それぞれ連絡はとりあいながらも基本単独侵攻をさせたのがそれであった。

 モスタクバル軍は一万という二地方侵攻の割には少ない兵数であった。そのため抵抗せずに降伏した拠点の兵や領民に関しては、一人も罰せず現状のままという寛大な処置で対応した。

 しかし二地方の領民の立場からすれば、敵による侵略に何ら変わりはないので、その寛大な処置ということでクーロを裏切る、つまりミケルクスド國側に本当に寝返る者は誰一人としていなかったのである。

 クーロの構築した地方民との絶大な信頼をベースとした防衛網が、目には見えないが見事に機能していたわけであった。

 つまりモスタクバル将軍の目には、今回のアラウダ、ヘリドニ二地方への電撃侵攻で、西部攻略戦における“双頭の蛇の陣”の胴の部分を完全に食い破ったと映ったかもしれない。しかしクーロの目にはモスタクバル将軍の軍は、双頭の蛇の胴の内側――つまりは蛇の腹の中に獲物がおさまったと映ったであろう。

 そういう意味からいえば、双頭の蛇には二つの頭の口以外に、お腹にも三つ目の口があったということになる。


 さて、クーロの今回のアラウダ、ヘリドニ二地方における敵モスタクバル軍への対応の八割方が成功した。しかし何か一つでも綻びが生ずれば、一気に瓦解するようなギリギリの状況であることに変わりなかった。

 例えれば、蛇の腹の中にモスタクバル軍という獲物をおさめたことは間違いないことではあるが、このモスタクバル軍という獲物はまだ生きている上、腹の中とはいえ少しでも対処を誤れば、腹の中で暴れ出し、場合によっては蛇の腹を食い破って出てきかねないほど危険な猛獣といえた。


 これに対し、クーロは二つの事を徹底させた。

 一つは、クーロのこの二地方での評判が非常に悪いという印象を徹底的にモスタクバルの兵たちに植え付けるといったことであった。

 各地に点在させている諜報兵を通じて、クーロがこの二地方に派遣された際に、必要以上に二地方への人的並びに物的な負担を強い、その理不尽過ぎる要求によってアラウダ、ヘリドニ二地方においては、上は地方領主から下は領民に仕える下僕に至る全ての民からクーロが嫌われていると、モスタクバルの兵たちに訴えるように再三再四言い続けさせたのであった。

 実際に五千もの兵を二地方から徴兵し、自軍を一万に増やしたという事実が、その領民の偽りの悪感情に信憑性を持たせたのであった。

 アラウダ、ヘリドニ二地方の領民や地方兵は、クーロ軍を追い出すため、侵攻してきたのが敵國の軍であるにもかかわらず、積極的に協力を申し出る者が続出したのであった。

 これが領民たちによって、あまりにも徹底されて行われたため、モスタクバル将軍とその兵たちは、完全にそのクーロの評判を信じきってしまい、敵国に侵攻しているにもかかわらず、今回の作戦が既に成功したと思うぐらい油断してしまったのであった。

 敵国の民がそこまで徹底して、派遣されてきた味方の指揮官と軍を嫌っているという事実は、裏を返してそれが嘘であった場合、その嘘を領民が総出で徹底して行えるだけクーロが絶大な信頼を築き上げているというカラクリの奥深さに気付けるか否かというところであるが、残念ながらモスタクバル軍にそこまで洞察できるような者は軍の性格上極めて少数であり、その少数にしてもその意見を上官が受け入れるような環境は、この軍には全く見出せなかったのであった。

 敵がどのような姑息な策を弄しようとも、それを純粋な力――個々の力や軍の力で強引に突破する、あるいはねじ伏せるといった特徴の軍だったからである。

 しかしそのような特徴の軍であっても、ミケルクスド國の最高峰の軍の一つとして成り立っていられるほど、モスタクバル将軍とその軍の力が絶大であったのは厳然たる事実ではあった。

 そのため、クーロはもう一つのことも徹底させたのであった。それは、基本モスタクバルの兵には攻撃を仕掛けないということであった。

 今回モスタクバル軍一万は完全に、アラウダ、ヘリドニ二地方の只中に六つに分散した形で点在する状況となったが、普通ならそれら分散している軍を各個撃破出来る状況にも関わらず、モスタクバル軍への一切の攻撃を禁じたのであった。

 ただ、モスタクバル軍への一切の攻撃を禁じたとは言っても、モスタクバル軍から攻撃を仕掛けた場合は、当然、その攻撃には応じる。

 しかしそれも最低限の戦闘行為であって、モスタクバル軍が攻撃を止めた場合は、それ以上こちらから仕掛けるようなことはないよう徹底させたのであった。

 モスタクバル軍から仕掛ける攻撃というのは、今の場合であれば、アラウダ城、ヘリドニ城を攻略しようと攻めてきているモスタクバル軍の第二軍並びに第三軍の攻撃、そして二城の中間地点にある砦を囲んでいる第一軍の半数である千人による攻撃がそれであった。




〔参考一 用語集〕

(人名)

 クーロ(マデギリークの養子。大官)

 モスタクバル(ミケルクスド國三将軍の一人)


(国名)

 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)

 ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)

 ミケルクスド國(ヴェルト八國の一つ。西の国)


(地名)

 アラウダ城(アラウダ地方の主城)

 アラウダ地方(ソルトルムンク聖王国の一地方)

 ヘリドニ城(ヘリドニ地方の主城)

 ヘリドニ地方(ソルトルムンク聖王国の一地方)


(その他)

 三将軍(ミケルクスド國で最も優れた三人の大将軍のこと)


〔参考二 大陸全図〕

挿絵(By みてみん)

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