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【225 第一次西部攻略戦(二十一) ~怒涛の強襲~】


【225 第一次西部攻略戦(二十一) ~怒涛の強襲~】



〔本編〕

「将軍! お前を王都から出撃させるつもりはない。聖王国兵がここに押し寄せて来た際、お前がいなければ、ここの守りが手薄になる」

 モスタクバル将軍突然の登場に、一瞬茫然ぼうぜんとしていたツァイトオラクル王であったが、モスタクバル将軍が王都を離れ、聖王国へ攻め込むという言葉に、はっと我に返り、将軍の出撃を止めようとした。

「ツァイトオラクル王! 事態を分かっているのか!!」そのような王に対し、鋭い視線を向け、モスタクバル将軍が吠える。

 さすがのツァイトオラクル王も言の葉を失う。

「北のバッサートか、南のバロンか、どちらかでも敗れれば、どれだけ王都イーゲル・ファンタムに兵を置いておこうが、ミケルクスド國は存亡の危機に陥る。それに俺は、仮に敵兵がここに攻めてくる事態となった場合、ここ王都と王を守るつもりはない!」

「何だと!」モスタクバル将軍のこの発言に、ツァイトオラクル王は顔を真っ青にして、一言だけ言の葉を発したが、それ以上の言の葉は発せなかった。

 モスタクバル将軍の鋭い眼光と彼の迫力に、さしものツァイトオラクル王も委縮してしまったようであった。マルダーも気持ちの上では王と同様、モスタクバルの迫力に委縮していた。

 その上、あれだけ我儘で独善的であり、誰もがツァイトオラクル王の機嫌を損ねないよう細心の注意を払う中、このモスタクバル将軍の傲岸不遜ぶりには、呆れて開いた口が塞がらない。ミケルクスド國における三将軍の存在の大きさを改めて思い知らされたようであった。

「心配するな。俺が聖王国の王都マルシャース・グールに攻め込み、一気に情勢をひっくり返してきてやる! 俺がマルシャース・グールを堕とした暁には、王がそこに移住したらどうだ。ツァイトオラクル王は初代のヴェルトの征服王として歴史に燦然と名が刻まれるぞ。ハッハッハッ……。マルダー、俺の軍一万を持っていく! いいな!!」

 マルダーはハッと我に返り、うやうやしくモスタクバル将軍の前に頭を垂れる。

「モスタクバル将軍、頼みますぞ。もう、将軍だけが頼みの綱です」モスタクバル将軍は、声をかけたマルダーに一瞥もくれることなく、そのまま玉座を後にした。

 ただマルダーからすれば、力ずくとはいえ王に出撃を認めさせたモスタクバル将軍の迫力に、存分に肝を冷やしながらも事態が打開出来たことに、ホッと胸をなでおろしたのであった。


 龍王暦二一〇年八月六日。ミケルクスド國三将軍の一人モスタクバル将軍の軍勢が、突如ソルトルムンク聖王国領ヘリドニ、アラウダの二地方へ侵攻を開始する。

 この二地方のうち最もミケルクスド國との国境に近い三つの砦が、それぞれ千を率いるモスタクバルの軍勢に攻められ、わずか数時間で陥落した。

 この三つの砦を堕とした三軍は、モスタクバル将軍率いる一万の軍勢の先遣部隊に過ぎず、その後続として七千の軍勢が続く。七千の軍勢は三千の先遣部隊と合流し、一万となったモスタクバル軍は、今度は軍を各々二千の五軍に分け、陥落させた三つの砦よりさらに二地方の深部に当たる五つの拠点を攻め、それらもわずか数時間で陥落させた。

 これらの砦や拠点には、ヘリドニ、アラウダ二地方の地方軍が駐屯していたが、彼らの数は各々百に満たず、ほぼほぼ抵抗らしい抵抗はできようもなかった。

 モスタクバル将軍の侵攻から三日目の八月八日、ヘリドニ、アラウダの二つの地方の計二十に及ぶ拠点が陥落した。わずか三日間の出来事である。

 ヘリドニ城とアラウダ城の中間地点付近の砦に駐屯してたクーロの耳にそれらの報が入る。

 ヘリドニ、アラウダ二地方の領民並びに兵士たちと非常に良好の関係を築くことに成功したクーロの元には、それらの領民たちから、そういった報告が直接もたらされた。

 モスタクバル将軍の侵攻の一報がクーロの耳に届いたのは、モスタクバル将軍の先遣部隊がヘリドニ、アラウダ二地方の三つの拠点を陥落してからわずか二時間後であった。

 これなどは、魔術などによる伝達以外ではあり得ないほど驚異的な早さであった。

 しかしその報告からさらに六時間後の報告で、敵の指揮官がミケルクスド國三将軍の一人、モスタクバル将軍と判明する。クーロの考えていた中で最悪の事態が起こった。

 さらにクーロの想定を遥かに超えるモスタクバル将軍の燎原の火の如き猛攻に対し、クーロは対策を思いつくことが出来ず、途方に暮れたのであった。


 クーロからすれば、ミケルクスド國最高峰の大将軍――いわゆる『三将軍』によるヘリドニ、アラウダ二地方への侵攻でない限り、十分撃退できる自信を持っていた。

 完全にこの二地方の領民の心を掴んだクーロにとって、どのような指揮官がミケルクスド國から派遣されても、完全に防ぎ得るほどの体制を整えたつもりであった。

 しかしさすがに三将軍が指揮官として攻めてきた場合のみ、ここでの完全防御は難しいと感じていたクーロであっても、それが少し楽観的思考であったと思い知らされる。むろん、クーロが楽観的思考に陥ったのも相応の理由はある。

 ミケルクスド國北方を三将軍の一人バッサート将軍、そして南方を同じく三将軍の一人バロン将軍を派遣させているミケルクスド國にとって、虎の子である三将軍の最後の一人、モスタクバル将軍を王都から派遣させるとは、少なくともミケルクスド國の現王ツァイトオラクルに限って、万に一つも無いと思っていたからであった。

 さすがのクーロにも思いにも至らぬ事実が二つあり、一つが、この三将軍を全て動員させるという大胆な策を練ったのが、今は王都の牢獄に繋がれている前宰相『王都の虎』の異名を持つセミケルンであり、その策を現宰相のマルダーがセミケルンの獄中にわざわざ訪れ聞いたという事実。そしてもう一つが、その策をマルダーから聞かされたモスタクバル将軍が直接、王都イーゲル・ファンタムにまで乗り込み、半ば強引に自らの派兵を、ツァイトオラクル王に認めさせたという事実であった。

 いずれにせよ聖王国領に侵攻したモスタクバル将軍の軍勢は、怒涛の如き強襲でヘリドニ、アラウダ二地方を侵食していく。

 そのクーロの想定を遥かに超える速さで展開してくるモスタクバルの強襲に、今のクーロがここに踏み止まって、そのモスタクバル将軍の軍を防ぐ手立ては一切持ち合わせていなかった。

 クーロがヘリドニ、アラウダ二地方の領民を完全掌握しての奇跡的に早い情報掌握体制は、十二分に発揮されている。

 しかしモスタクバル将軍の軍勢による侵攻速度は凄まじく、クーロが何らかの手立てをしようと指示を飛ばすより先に、大量の敵侵攻報告だけがクーロの元に集まってくる。

 その大量の敵侵攻報告は大波となってクーロを飲み込み、クーロ自身がその波で溺死するのではないかという錯覚に陥るほどであった。

 それでも、クーロとしては出来るだけ平静を保ちながら、それらのことに全力で対処するしか手はなかった。




〔参考一 用語集〕

(人名)

 クーロ(マデギリークの養子。大官)

 セミケルン(ミケルクスド國の元宰相)

 ツァイトオラクル王(ミケルクスド國現王)

 バッサート(ミケルクスド國三将軍の一人)

 バロン(ミケルクスド國三将軍の一人)

 マルダー(ミケルクスド國の宰相。ツァイトオラクル王のお気に入りの家臣)

 モスタクバル(ミケルクスド國三将軍の一人)


(国名)

 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)

 ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)

 ミケルクスド國(ヴェルト八國の一つ。西の国)


(地名)

 アラウダ地方(ソルトルムンク聖王国の一地方)

 イーゲル・ファンタム(ミケルクスド國の首都であり王城)

 ヘリドニ地方(ソルトルムンク聖王国の一地方)

 マルシャース・グール(ソルトルムンク聖王国の首都であり王城)


(その他)

 三将軍(ミケルクスド國で最も優れた三人の大将軍のこと)


〔参考二 大陸全図〕

挿絵(By みてみん)

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