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【012 ふたりの初陣(四) ~ツヴァンソ攻める~】


【012 ふたりの初陣(四) ~ツヴァンソ攻める~】



〔本編〕

 時は少しさかのぼり、その日の朝。

 まさに初日の戦いが始まる時間である。

 ツヴァンソは、小隊の後列に配置されている。

 ツヴァンソが配属されている小隊も、クーロの小隊と同様、前列の五人が列を成し、その五人の左右に別の小隊前列五人が同じように並んでいる。

 そして、その五人の列の後ろにさらに列があり、そこに四人配置され、劣勢になった前列のフォローに回る役割を担い、さらにその後ろに小隊長がいて、前後列九人にその都度、指示を飛ばす。

 まさしくクーロの配属されていた小隊と担っている役割も、全く同じであった。

 今回の戦いの場合、数の上で劣勢のマデギリーク軍が、聖王国中央軍がこの場に到着するまで、ここで敵ミケルクスド國軍を食い止めるという役割を担っている。

 そのため軍全体が、野戦ではありながら、防御中心の陣形となっていた。

 敵との最前線になる第一陣は、槍兵を横一列に配列し、敵騎馬隊の突撃を食い止めるという役割を担っている。

 この第一陣に、クーロとツヴァンソのいる小隊も組み入れられているので、おのずと小隊の役割が同じなのは当然であった。

 とにかく、第一陣の前列は騎馬隊の突撃を抑えるのが目的なので、ほぼ九割方が、騎馬兵が苦手とする槍兵であった。

 クーロも槍兵ランスポーンなので、前列に配置されたと考えてよいであろう。

 一方、ツヴァンソは剣兵ソードポーンなので、前列のフォローに回る後列に配置されたのであろう。

 ツヴァンソの剣の実力は、既に一緒に訓練している者たちの間ではよく知られていたが、それでも彼女は今回が初陣であり、実戦経験は全くないので、クーロ同様、役割があまり重要でない箇所に配置されたのであろう。

 ツヴァンソの小隊では、前列の両端と中央の三人がいくさ経験の多いベテランであった。

 そのため、よほどの強敵が現れない限り、後列がフォローすることはなく、ツヴァンソが活躍する機会はない配置であった。

 実際に戦いが始まって一時間が経過したが、ツヴァンソの配属されている小隊の前列は、全く隙が見られないほど完璧であった。

 実際、この一時間で二度だけ、前列のベテランでない二人のところが一瞬危うくなりかけたが、それもほんの一瞬のことで、前列の中央と両端の兵が、それをたちまちフォローし、すぐ修正した。

 この様子では、ツヴァンソたち後列が、戦闘に参加する機会は全く訪れないように思えた。

 しかし彼女は、そのような状況下において、このまま黙って初日を終わらせる気は毛頭なかったのであった。


「やぁぁ~!!」

 ツヴァンソはいきなり大声を上げ、唐突に走り出した。

 戦いが始まって一時間と十分が過ぎた頃である。

 いきなりであったため、隣にいたツヴァンソの付き人ムロイも、疾風の如く走り出した彼女を、静止することは出来ず、慌てて彼女の後を追った。

 ツヴァンソは、刃渡り一メートルはある長剣を抜き、肩にそのまま担ぎ、一気に自らの小隊の前列に迫る。

 前列の五人は、自分たちの後方から突然、叫び声が上がったので、何事かと思わず後ろを振り向く。

 それでも、振り向くのに首を後ろにねじったのは戦いに慣れていない二人だけで、中央と左右のベテラン兵は、前面の敵への意識はそのままで、首を少しだけねじり、目だけで後方を見た。

 いずれにせよ、そんな彼ら五人の目に、自分たちに向かって走ってくる後方配置のツヴァンソの姿が、大きく映し出される。

 ツヴァンソは、そんな驚く彼らに全く異に介さず、そのまま前列中央の兵士の左肩に自分の左足をかけ、そこから大きく上方へ跳ね上がった。

「やぁぁぁ~!!!」

 さらに大声で叫ぶツヴァンソ。

 彼女は空中で、肩に担いだ長剣を思いっきり振り下ろす。

 重量が二十キログラムはあるツヴァンソ専用のその長剣は、並の兵士にとっては重過ぎて自由に振り回せる代物ではないが、膂力りょりょくに優れている彼女にとってその重さは、全然障害とならず、むしろその二十キログラムの重量にツヴァンソの人並外れた力が加われば、一般の盾や剣などでは絶対に防ぎきることができないほどの破壊力を発揮する。

 実際、実戦で初めてのツヴァンソのこの一撃も、跳び上がったツヴァンソを見下ろす位置にいた敵の騎兵は、持っている盾でその一撃を受け止めようとしたが、その兵は盾もろとも真二つに切り裂かれたのであった。

 ツヴァンソは、初陣の最初の一撃で、見事敵兵を一人葬ったのであった。


 最初の一撃で、敵を真二つにしたツヴァンソであったが、それでとどまらなかった。

 ツヴァンソは、敵兵を倒したことによって、乗り手を失った敵のホースにそのまま跳び乗り、ホースの首筋に、剣を握っていない左腕を巻き付け、力任せにホースの首をじる。

 首を力いっぱいじられたホースは、それに耐えられず、結果、きびすを百八十度方向転換させることになり、ツヴァンソは、百八十度方向転換したホースで、そのまま敵中に乗り入れた。

 敵であるミケルクスド國兵としても、ソルトルムンク聖王国兵が、槍兵を横に並べた守りの陣形に徹していたこともあり、まさかその敵の一人が、自分たちの騎馬を奪い、攻撃を仕掛けてくるとは全く想定しておらず、大いに驚き、浮足立った。

 敵がいきなり攻めてきたこと自体も驚愕きょうがくに値するが、自分たちの目の前で、味方の肩を使って大きく跳び上がり、こちらの騎兵を巨大な剣で真っ二つにし、さらにその騎兵が乗っていたホースを奪って、攻めに転ずるというツヴァンソの、尋常ならざる行動とその驚異的な身体能力に、その一部始終を見ていたミケルクスド國兵からすれば、人ならざる物の怪もののけたぐいか何かに見えたのかもしれない。

 とにかくその後、またたく間に二人の騎兵がツヴァンソによって切り捨てられ、そのうちの一人が命を落とす。

 しかし、驚いたのはなにも敵であるミケルクスド國兵だけではなかった。

 ツヴァンソ側であるソルトルムンク聖王国兵の驚きも、敵のそれと変わるものではなかった。

 ツヴァンソが攻めに転じたことにより、そこの敵兵は慌てて退却したが、そこをそのままにしておくわけには行かない。

 ツヴァンソの突出は、彼女の独走なので、それ以外の聖王国の陣は変わらず守りの横陣を敷いている。

 そのためこのまま放っておいては、ツヴァンソが敵中に一人取り残される事態となるのは明白であった。

「ツヴァンソ様に続け!!」

 ツヴァンソが所属していた小隊の長グラロスが叫ぶ。

 そのグラロスの声に応じ、グラロス含む九人の小隊の隊員たちも、そのまま攻めに転じた。


 ツヴァンソのこの単独攻撃は、無謀な行動であったのは間違いない。

 しかし、並の兵士が同じ行動をすれば、その場所から防御陣が崩れる大失態ものの行動だったのに対し、それがツヴァンソという並外れた戦闘能力の者が行ったことにより、意味合いが全く異なった。

 ツヴァンソの鬼神の如き攻めで、ツヴァンソに相対した前面の敵は一気に崩れ、そこにグラロス小隊九人の攻めが続いたことにより、さらに敵は浮足立つこととなったのである。




〔参考 用語集〕

(人名)

 クーロ(マデギリークの養子)

 グラロス(ツヴァンソの所属している小隊の長)

 ツヴァンソ(マデギリークの養女。クーロの妹)

 マデギリーク(クーロとツヴァンソの養父。将軍)

 ムロイ(ツヴァンソの付き人)


(国名)

 ヴェルト大陸(この物語の舞台となる大陸)

 ソルトルムンク聖王国(ヴェルト八國の一つ。大陸中央部に位置する)

 ミケルクスド國(ヴェルト八國の一つ。西の国)


(兵種名)

 ランスポーン(第一段階の槍兵)

 ソードポーン(第一段階の剣兵)


(その他)

 小隊長(小隊は十人規模の隊で、それを率いる隊長)

 ホース(馬のこと。現存する馬より巨大だと思われる)

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