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ハズレ職『ゴーレム使い』は現代ダンジョンで成り上がる ~ゴーレム工房から始まる世界一のダンジョン企業~  作者: さきら


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第83話 手応え

あの日の緊急案件は、梓と凛が現場へ直行し、その日のうちに片付いた。


そこから二週間。


求人を出したときは、応募が一件でも来れば上出来だと思っていた。


「本日で三人目です」


柚木が端末の予定表を見ながら言った。


「思ったより来るな」


「ダイブTubeの影響でしょうね」


美咲が応募一覧をのぞき込む。


「『あのゴーレム工房で働きたい』と書いている方が多いです」


「……あの、って何だよ」


「有名になった、ということです」


創は返事に詰まった。


午後。


面接を終えた若者が、入口で深く頭を下げた。


「本日は、ありがとうございました!」


「こちらこそ。結果は後日連絡します」


「よろしくお願いします!」


若者が去り、扉が閉まる。


梓はしばらく入口のほうを見ていた。


「……あの子、いいかも」


「何で?」


「構造図を見せたときの目。あれは作る側の目だった」


「梓さんも、説明してるとき楽しそうでしたよ」


柚木が言うと、梓は顔をしかめた。


「余計なこと言うな」


数日後。


整備要員として二人が工房に加わった。


「本日からよろしくお願いします!」


緊張で背筋を伸ばした男女に、創は手を差し出した。


「こちらこそ。分からないことは遠慮なく聞いてくれ」


「整備のことは梓に聞け。俺より詳しい」


「え、私が?」


「他に誰がいるんだよ」


梓は一度、新人たちを見た。


それから工具箱を足元へ引き寄せる。


「……まあいい。最初に言っとくけど、分からないまま触るのだけは禁止。壊したら怒る」


「はい!」


「でも、失敗はしていい。ちゃんと呼べばいいから」


初日。


さっそく一人が、駆動部の固定具を逆向きに取り付けた。


「あ、それ違う――いや、待て。何でそっちにした?」


「図面の矢印が、こっちを向いているように見えて……」


梓は図面を受け取り、数秒黙った。


「……これ、紛らわしいな。ごめん。図面のほうを直す」


「えっ」


「間違えた原因が分かれば、次からは減るでしょ」


新人は驚いたように梓を見たあと、大きく頷いた。


少し離れた場所で見ていた創は、思わず笑ってしまう。


「梓が人に教えてる」


「何だよ、その言い方」


『マスターにも、似たような時期がありました』


ノアが即座に割り込んだ。


「俺にも?」


『初期の実験のときです。工具の持ち方が危なっかしく、私は三度警告しました』


「細かいな」


『全記録を保持しています』


「その記録、消していいぞ」


『拒否します。成長の証ですので』


新人の一人が、ノアと創を交互に見た。


「あの……創さんとAIさんって、いつもこんな感じなんですか?」


「社長、じゃなくていいんですか?」


もう一人が控えめに尋ねる。


「社長はやめてくれ。落ち着かない」


「では、創さんで」


「それで頼む」


「はい、創さん!」


その呼び方が工房に響く。


創は、ほんの少しだけ照れくさかった。


それと同時に、何かが変わったような気もした。


夕方には、問い合わせ対応の新人も一人、柚木の下につくことになった。


「電話応対のマニュアルを作っています」


柚木は画面に並んだ項目を示した。


「今までは私たちの感覚で返していました。でも、人が増えるなら基準が必要です」


「もう作ってるのか。早いな」


「曖昧なまま渡すほうが怖いですから」


美咲が画面をのぞき込む。


「断る場合の例文も入ってますね」


「創さんの言い方を参考にしました。理由だけ伝えて終わりではなくて、次にどうすればいいかまで伝えているので」


「そんな大したことしてた覚えはないけど」


「無意識でできることほど、引き継ぐのが難しいんですよ」


そう言われると、創は何も返せなかった。


夜。


新人たちが帰ったあとの工房には、使い終えた工具の金属臭と、まだ消えていない作業灯の熱が残っていた。


「今日はどうだった?」


創が聞くと、梓は椅子に深く座った。


「疲れた。でも、悪くない」


「教えるの、向いてるんじゃないですか?」


「それはまだ分かんない。ただ、手が増えたらできることは増える」


柚木も端末を閉じる。


「問い合わせの返事を待たせる時間は、かなり減らせそうです」


「数字にも余裕が出始めています」


美咲が続けた。


「急な依頼が来ても、以前ほど綱渡りにはならないはずです」


凛は壁際で腕を組んだまま、入口のほうへ目を向けていた。


「悪くない連中だ」


「褒めてるんですか?」


「少なくとも、危なっかしい真似はしなさそうだ」


「それ、凛さんなりにはかなりの高評価ですね」


美咲が笑うと、凛は答えなかった。


創は工房を見回した。


整然と並んだ工具。


その脇には、新人が貼ったらしい付箋が残っていた。


『固定具の向き、要確認』


たったそれだけの文字が、なぜか嬉しかった。


一人で始めた場所に、誰かが覚えるための印を残している。


それは、この工房が自分一人の場所ではなくなった証のように思えた。


「……手応えはあるな」


「そこで満足するなよ」


凛の声が飛ぶ。


「分かってます」


創は付箋を見たまま笑った。


「ここから、ちゃんと大きくしていきます」


窓の外では、夜の街に工房の灯りが浮かんでいた。


増えた作業台のぶんだけ、その明かりは前より少し広くなっていた。

第83話をお読みいただき、ありがとうございます。


梓が「教える側」に立つ回でした。機械には強くても、人に教えるのは初めて。それでも、図面の不備を素直に認める姿が書けて、個人的にとても気に入っています。


新人が貼った付箋に創が嬉しくなる場面は、工房が少しずつ「一人の場所」ではなくなっていく象徴のつもりです。


次話もよろしくお願いします。

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