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【5/22 紙版1巻発売予定!】魔術師は死んでいた。  作者: 彩白 莱灯
解放

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第144話 延命

「今から話すことは、他言無用でお願いします」

「ヒスイっちがこんな時間にこんなトコロに呼ぶぐらいだから、結構深刻な内容?」

「そうですね。話が広まってしまうと大事になると思います」



 念押しして、二人の顔が引き締まる。

 普通の学校生活をしていたならば見られなかったかもしれない。

 未だに伏せたままのナオさんの顔を見ないままだけど、話をしよう。



「この場にはホローテという魔物がいたのですが――」





 話し始めて何分、何十分と経っただろうか。

 日の光どころか月明かりもないこの空間では、時間感覚など狂うしかない。

 一体どれぐらい経過して、何文字話したかわからないが、話し終えたことだけは確かだった。

 一人どころか三人とも黙ってしまい、目線は皆、手元を通り越して足元を向いている。

 何か質問は、問おうとして、やめる。

 たぶん、おそらく。自分たちの中で話をかみ砕いて咀嚼している最中だろうから。

 それを嚥下できるかはさておき。



「……じじは」



 誰が最初に話し出すか。

 一番可能性はないと思っていた、ナオさんだった。



「どうなるの?」



 そしてその言葉は、私が一番答えたくなかった内容だった。



「私の考えです。が、クザ先生や識者も同意しています」

「うん」

「おそらくは、数日以内に」

「っ」



 途端に立ち上がり、胸元を掴んで、立たされる。

 突然のことに体は動かず、布越しの目が、髪の隙間から覗く激情の目を捉えた。



「せっかく! 原因が分かったのに、結局それじゃあ意味ないじゃないか!」

「ナオっ、やめて!」

「ナオっち!」



 二人がナオさんの腕を掴むけれど、私の胸元を掴む腕の方が強く、全く離れてくれない。

 やや息苦しいけど、喋れないほどではない。



「すみません」

「……っ」



 今まで、私の表情が変わらないことはわかっていた。

 だけど別段、困ると思っていたことはない。

 しかしこういう時。

 本気で謝っているつもりでも表情が全く変わっていないとしたら、なんて不誠実なのだろう。

 締めあげる力が一瞬強まり、ゆっくり抜けた。

 再度頭を下げ、その姿はまさに意気消沈。

 後ろの二人も困惑の表情を浮かべる。



「こんなことなら、このままの方がよかったんじゃないの……?」



 ああ、それは。



「ダメかな」

「……え?」



 あ……まあ、いいか。



「ナオさんには言いましたよね。「人の人生に茶々を入れている」と」

「……うん」

「本来は今もあったかわからない命を、勝手に長引かせているのです。それはご本人の望みでない限り、ご本人には辛いものです。食べたいのに食べれない、歩きたいのに歩けない、寝たいのに寝れない。その状況で、生きていてほしいですか? 生きていると言えますか?」



 延命治療。

 この世界にはないかもしれない。

 もしそうなら、そういうものを考えたこともないかもしれない。


 胃瘻(いろう)

 人工呼吸。

 人工透析。


 私の居た世界にはそういう延命治療があった。

 それらの使用には必ずご本人や家族の許可がいるし、長い目で見なければならない。

 ご本人の自由を失いながら、命をつないでいるという状況を作っている。

 もちろんそれが悪いとは言っていない。

 ご本人も辛いが、家族も辛い面はもちろんある。

 経済的にも、

 精神的にも。

 そして見過ごせないのが、尊厳。

 『人間ならば』という考えがどうしても脳裏にちらつく。

 そうなれば、口から食べない胃瘻(いろう)

 強制的な呼吸を強いる人工呼吸器。

 排尿が無く水分も制限される透析は、その『人間ならば』という考えを持っているかぎり苦痛しか与えないだろう。

 じじさんの状況は、つまりそういうことだ。



「生きていてほしいという気持ちを向けるのは、相手にとっては嬉しいことでしょう。それだけの人望を与えられるのはすごいことです」

「じじ……」

「ナオさんの知っているじじさんは、何を望むでしょうか」



 持論だが、家族や周囲の人が望んだとしても、最後はご本人の気持ちを考えなければならない。

 私がスグサさんの体に召喚されてから、より強くそう思う。

 幸いにして、この体になっても食事も呼吸も排泄もできる。

 だからこそ、生きていると思い続けられるのかもしれない。

 棒立ちで何も喋らなくなってしまったナオさんに、掛ける言葉が見つからない。

 私もセンさんも、ライラさんも、ナオさんを見つめて動けず、ただただ時間だけが過ぎていく。

 流れる水の音が響く。

 この水はもうホローテの性質は持たずに療養院に使われているだろう。

 この場にホローテがいなければ、この場の水を使っていなければ、じじさんや他の寝たきりの人たちは、本来の寿命を全うしていただろう。

 そしてナオさんたちも、今のような悩みを抱えることはなかっただろう。



「ナオ」



 少し高めの声が、水の音に重なる。

 同時に、体が強張る。



「怒ってる。魔力、すごいよ」



 ライラさんが、ナオさんの肩を掴む。

 鳥肌が立った。

 目の前に佇むナオさんの体から魔力が溢れ、流れる水がぱちゃぱちゃと音を立てる。

 ナオさんは水属性の魔法が使える。

 ナオさんの魔力と親和性の高い水が反応している。

 跳ねた水が宙に浮き、集まっていく。

 形を成す。

 それはもう、見上げるほどに高い位置に、視界に収まりきらないほどに大きく。



「ナオ!」



 ライラさんの呼びかけに、ナオさんは答えない。

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