第139話 ウーパー?
多少の湾曲はあったが、ここまでの道のりは一直線だ。
何かを目的に掘り進めていたのか。
ほぼほぼ真横。
地質調査ならば縦に掘り進めていてもいいはずだが。
「あ、ヒスイさん」
「はい?」
「突き当りの足元、魔法陣が書かれてます」
行き止まりのすぐ下に、確かに魔法陣が書かれている。
流れからするとあれが帰りの魔法陣だろうか。
ならばと思い、魔法陣の一歩手前まで進む。
魔法陣を読み取ったスグサさんが頭の中で「これだ」と断定。
発動条件は入り口と一緒。
これで帰る方法は見つかった。
「なにも、なかった?」
「現時点ではそうなりますね」
「じゃ、じゃあ、じじたちは……」
意気消沈。
その言葉の通り、決した意が水底に沈んでいったように声を落とす。
何かあると信じて協力してくれたのだろう。
裏切ってしまったような形になってしまって、何割かは心苦しくはある。
しかし残りの何割かは諦めてはいない。
何を目的に掘り進んでいるのか。
それが知りたい。
魔法陣を素通りし、突き当りの土に触れる。
土には詳しくないので、何も変哲もないようにしか見えない。
しかし私の視界には、土の先の景色が映る。
「……ナオさん」
「は、はい」
「ウーパールーパーってご存じですか」
「は?」
聞き取れなかったかな。
ウーパールーパーは何とも言えない顔をした水生生物。
癒し系に分類されるのだろうか。
爬虫類系の見た目に顔からエラ? が生えている。
サンショウウオだかサラマンダーとか言われていたと思う。
水生生物なのに。
なぜそんなことを言い出したかと言うと、いるからだ。
土の向こうに。
それも沢山。
ついでに水もある。
振り向いたら後ろに寄ってきていたナオさんに、一つ確認したいことがある。
「療養院の水ってどこから調達していますか?」
「敷地内の井戸から……汲んでます。か、加熱処理をしてから、使ってます」
「じゃあ……なんと表現したらいいか迷うな。なんていうんだろうあの顔」
「か、かお?」
んー。
見てもらえたら楽なのに。
どうにかこの壁を通過できないかな。
―― 通りたいか?
……なんか、「力が欲しいか?」みたいに聞かれてる。
ここは素直にしておこう。
通りたいです。
―― 風で周囲を削る。それをそのまま押し出す。通り終えたら戻す。
ああ、なるほど。そうします。
「少し下がっていてください」
「え、うん……」
ランタンを腕にかけ両手を前面に出し、風の魔法を使う。
丁度いい魔法は思いつかなかったので、コントロール重視で初級魔法にした。
丁度通路と同じぐらいでくり抜く様に。
初級魔法でいいのだから、本当、魔法って使い方だな。
コントロールも練習しておいてよかった。
土が崩れないように、風で囲む。
そしてところてんの要領で、少しずつ押し出していく。
「ええぇ……」
後ろから声が聞こえるが、集中しているので反応はできない。
なにせ電車三両分ぐらいの長さのところてんだもの。
じわじわと、一歩一歩踏みしめながら、推し進めていく。
地下だから熱くはないのに汗がしたたり落ちる。
『透視』で、押し出している方を見る。
なんと。
まさか。
ウーパールーパーたちはまったく見向きもしていなかった。
いや、見てはいるのだが「なんだあれ。まあいいか」みたいにほぼ反応がない。
中身もウーパールーパーか。
……これは一応褒めてる。
逃げないでくれてありがとう、とても嬉しいよ。
ようやく車両一本分を歩き終えたが、休息はむしろコントロールを損ないそうなのでこのまま突き進む。
そんな真剣な雰囲気を察してか、ナオさんはただ静かに、後ろをついてきている。
話しかけないでくれて本当有難い。
「あ」
「え」
「いえ、もう空きますので、先に隙間から通ってください」
「えっ、あ……うん」
先に行きたくはないかもしれないが、今回ばかりは譲れない。
いや譲る。
宣言して、最後の一ずらし。
小柄なナオさんがやっと通れるほどの隙間を開けて、即座にナオさんが体を滑り込ませる。
まさに意を決してという勢いだった。
隙間の先は崖のようになっていて、下へ下へと空間が広がっている。
といっても
そんなに深くはなく、腕のランタンで落ちた先が見える程度だ。
ナオさんが降り切って、真下から移動したのを確認し、自分は風を纏って浮遊する。
浮遊したうえで、くり抜いた土のところてんを慎重に押し込めていく。
出すより入れる方が簡単な気がする。
「……よし」
あー、疲れた。
入れ切ってすぐさま魔法を切りたかったが、自分が落ちてしまうので寸の所で思いとどまる。
ナオさんの所にゆっくり降りて、へたり込んだ。
「だ、大丈夫……?」
「はい。少し疲れただけです」
「少し?」
「いえ大分」
これをやったら一般的には「少し」に入らないのか。
スグサさんと訓練している時はもっと疲れていたけど。
やはり。
スグサさんが示す基準は当てにならない。
それは置いておいて。時間に余裕はないのだ。
確認は早々にしてしまいたい。
腕にかけていたランタンを持ち直し、体勢も立て直す。
水の音がする場所に近づいて行けば、こちらを見上げる癒し系の生物がこちらを見上げている。




