そのころ現実では
境彌が己の罪を清算している時
日本、東京都内のQT制作会社ではQTVRMMOのテストプレイヤーに問題が起きないようにするため何人ものスタッフが目を光らせていた。
The quest for truth VRMMOの制作責任者である越田進はスタッフの中でも一番緊張した面持ちをしている。
まだ手探り感の否めないMMO型ゲームのVR化を日本で初めてリリースするのだ。
成功すればQTは伝説となるが失敗すれば会社がつぶれる危険性すらある。
お客に少しでも危害が及ぶ問題は存在しないはずだがこの世に絶対はない。
こうして緊張感を持って成り行きを見守っているのはもちろん自分たちが見落としていたバグが無いかどうかという理由が一番大きいが、それ以外にも一つ心配事があったからだ。
ゲームがほぼ完成し、正式に発表する直前一人の社員が会社を辞めた。
名前は前田芳郎。大変優秀なプログラマーで今回のゲーム作成では称号に対するステータス調整を担当していた男だ。
人物としては、まだ忌避される対象だった頃のオタクと言えばわかりやすいだろう。
基本人の目を見て話さないが、自分の興味のある話題になるとまるで自分が第一人者であるかのように饒舌になる人間だった。
彼はQT発売後に入社してきた人物で自分はQTの大ファンでありプレイヤーの中で5本の指に入る、と豪語していた。
昔彼のアカウントを聞いて調べてみたがはっきり言って中の上であり一つドロップ率の低い強武器を持っている程度であった。
PKをある程度している人間に与えられる[イエロープレイヤー]の称号、そして[初心者狩り]の称号を持っていた点から分かる通りそういう人間なのであった。
有名ギルド『天駈』の中間の地位にいたらしい。
しかし、ある時初心者狩り中にとあるプレイヤーの罠にはまり例の自分の自慢の装備を奪われてからは遊ばなくなったらしい。
その時の前田は3日仕事を休み、職場に戻ってからは「あまりにもマナーの悪い行いをした者にはアカウント停止処分をすべきだ」という巫山戯た提案をしたこともあった。
なるべくルールに縛られない自由な世界を売りにしているのは奴も分かっているだろうに。
というか、それなら前田もアカウント停止になる可能性がある行いをしていたのに。
VRに移植する事が決まってからは「復讐してやる」と言っていたのを聞いていた者がいた。
もちろん装備を奪った者に対しての言葉だろう。復讐というのはゲーム内で相手のキャラクターになにかしらの呪い系の称号を押し付ける事だろうと私は思っていた。
私はゲームの全体を統括している人間であって細かいゲームの設定などは理解していない。
このゲームはマナーの悪いプレイヤーに現実のペナルティは科さないようになっているので前田の言っていた復讐も後で自分に見に覚えの無いマイナスの称号が見つかったプレイヤーから苦情が来て、それを解除してやれば済む問題だろうと思っている。
そもそも参加者はランダムで選んでいるので500万人以上が遊ぶこのゲームで前田の復讐対象が選ばれている可能性は非常に低い。
今回は純粋にゲームをたくさんプレイしてもらうことが目的なのでPC版のキャラからのステータス変化もないし、世界も追加はあるが基本的にPC版と同じだ。
15分近くかかりほとんどのプレイヤーがゲームにダイブした所で一人のスタッフから焦った声が聞こえた。
曰く、一人のプレイヤーの反応が突然消えてしまった、と。




