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プロローグ 『旅への一歩』

新しい作品を書かせていただきました。

なお、この話には時々、大量の出血をするシーンがあるのでご注意下さい。

少しでも、この作品を面白いと思ってくれた方がいたら嬉しいです。


「【血塗れの狙撃手(ブラッド・スナイパー)】!!」


 ボクは試験官に、自らのスキルで必中となった矢を放った。


「【反射(リフレクト)】!」


 しかし、力を込めて放った矢は試験官のスキルで軽くはねかえされてしまう。

 残念だ。けど、これはまだまだ想定の内だった。


 しょうがない、よね。どうやらボクには激痛を味わいに行くしか手はなさそうだ。

 ボクは痛みに抗うことを諦める。もうこの他に先へつなげられる手段はこれしか思い浮かばなかった。

 ボクは自分の所持している中で数少ない、己の危機を救うかもしれないあるスキルを発動させる。いや、正確には発動しているかを確認したという方が正しいだろう。


「【出血停死(アンチブラッドデス)】」


 【出血停死(アンチブラッドデス)】はパッシブスキルだけど、再確認しておかないと。だって発動失敗してたらボク、死んじゃうからね。

 さらに、ボクが産まれた頃から付き合わされている【痛み倍化】に精神を蝕まれないようにしないと。

 確認が終わったボクは、早急に次の攻撃の準備を始めた。


 ボクは次の攻撃の準備を終えると今まで持っていた弓を捨て、新しく長槍を手に取った。

 ボクの行動を見て、試験官は少し驚いてた。

 当然だろう。ボクは今までの試合とかでは槍を使ったことがないことも、【痛み倍化】のスキルのおかげで接近戦なんかまともにできやしないことも知っているのだから。

 だからこそ、接近戦もやらなければならない。


 ボクは長槍の持ち手をしっかりと握り、試験官へ駆ける。

 ボクの突撃を見て、試験官も自分の武器をしっかりと持ち直し、構える。

 試験官の武器は剣。ボクは長槍。リーチでは圧倒的にボクが勝っている。けど、経験や技量などでは、明らかに試験官の方が勝っている。


 このままだとボクが敗北することも分かっている。

 ……けど、ボクにはボクの闘い方があるんだよっ!!

 強い意志を込めボクは叫ぶ。


「ハァーーーーーーッ!!」


 試験会場内にボクのまっすぐな雄叫びがあがる。

 しかし、ボクの力を込めた両手突きは、試験官に軽々と避けられてしまった。

 そして、あっという間に試験官に間合いを詰められてしまい、

 ザシュッ。

 軽く胸の辺りを切り裂かれてしまった。それでも軽症で済んだのは、どうやらボクの本能が働いてくれたらしい。

 ほんの少し切り裂かれただけなのに、尋常じゃない痛みが体を襲い、ボクは異様なほどの血を流した。

 痛い。歩くのですら困難になりそうな痛みだ。でも、今までのことを糧にしたボクにはこの程度の痛みはどうだっていい、気にならないことだった。


 試験官はボクが避けれなかった、(いな)避けなかった(・・・・・・)ことに驚き、戸惑いながらもボクに訊いた。


「試験を、続けるか?」


 ボクのスキルを知っている試験官は心配だったのだろう。でも当然ボクはこう返した。


「ハイッ!」


 ボクの元気の良い返事で、一旦仕切り直されてしまった試験が再開した。


「ヤァーーーーーーッ!!」


 ボクは、痛みを恐れないためにも、自らを鼓舞する声を上げた。

 ボクは先ほどよりもスピードを上げ、再度試験官に突撃した。

 そして、ボクの武器が届く間合いに入ると、背中に隠し持っていた矢を右手で持ち、槍を置き、自らの左腕を突き刺した(・・・・・)

 大量に出血する痛々しい左腕が目に入る。けど、その痛みに歯をくいしばって耐え、槍をしっかりと左手に、持ち直した。

 なんとか意識はある、まだいける。


「っ!?」


 ボクの意味不明な自傷行為による出血に、試験管は驚く。だけどボクのスキル【出血停死(アンチブラッドデス)】で、ボクがこの程度では死なないことを思い出したのか、目の前の戦闘に、意識を向けた。

 ボクはそんな試験官の一瞬の隙を見逃さずに、先程よりも速く、距離を詰めた。

 そして、槍を右手に持ちかえ、凪ぎ払った。

 ヒュンッ。

 癖になりそうな、心地よい音がした。

 試験官は体勢を崩しながらもボクの凪ぎ払いをしゃがんで避けた。

 そして、試験官がボクの方に向き直った瞬間。

 

 ボクは左手に貯めていた、自分の血液を試験官へと、投げつけた。

 ベチャッ。

 生々しい音が響き、血は、試験官の顔面に付着した。痛みに耐えた結果、この目潰しは見事に成功した。

 そしてボクは、試験官の首に槍をつきつけた。ボクは試験官を見た。

 試験官は投降の意思を伝えるためか、剣を落として両手を上げ始めた。


 もうすぐ、その手が肩のあたりまで上がる、その瞬間だった。

 試験官は、服の中に隠し持っていたナイフをボクに投擲してきた。

 

 予想できていた動きほど回避が楽なものはない。師匠の言葉を思い出しながら、ボクは投擲されたナイフを最低限の動きで避け、再度、試験官の首に槍をつきつけた。


「……私の負けだ」


 そして今度こそ、試験官が武器を置き、両手を上げた。

 試験会場内にほんの少しだけ静寂が訪れた。

 しかし、それも一瞬のことで、試験官は戦闘のときとは正反対の優しい笑みを浮かべて、ボクに顔を向け、いい放った。


「今回の戦闘、見事だった。……では、これにて『許可試験 最終試験』は終了とする! そして、クラシュード学園中等部第三学年生徒『ネルスト・ウィスタリア』をこの試験、合格とし、許可証の発行を許可する!!」


 この言葉はボクを感動させた。

 やっと、やっと合格できたよ――! 三年間、本当に長かった。

 この学園に頑張って入学して、師匠や友達ができて、スキルや戦闘技能を磨いて、勉強も頑張って……この三年間、本当に充実して過ごせたなぁ。


 少しの間、試験官たちの称賛の言葉を受け、そのまた少し、合格の余韻を味わったボクは、先に合格が決まっていた長年の大親友『ザイク・ドレイム』の元へと向かった。


 試験会場から出たボクの眼に真っ先に入ったのは、茶色の少し短めの髪、笑っていれば、爽やかなイケメンという印象を与える顔を、眉を下げて不安そうにして歪めている、青年のような、少年だった。

 この少年は。


「あ、お、終わったんだね。そ、それで、ご、合格……で、出来た?」


 ボクの親友、『ザイク・ドレイム』だ。

 彼は、()神童だ。

 まあ、今は守ることしかできなくなってしまったけどね。

 じゃあ、合格の報告をしようかな。

 あ。うーん、答えを言わずに焦らせようかな。

 そんないたずら心が芽生えたが、流石に今噓をつくことは遠慮した。

 ボクは笑顔で言った。


「無事に、合格、してきたよっ!」


 ボクの答えを聴いて、安心した表情をみせるザイク。けどやっぱり、眉は下がったままだけど。

 まあ、この下がり眉毛は、癖みたいなモノだから、どうしようもできないのかな?

 ふにゅ~。


「あ、あー。よ、良かったぁ」


 ボクの答えを聴いて、心から嬉しそうに笑うザイク。

 何か純粋すぎて、さっき騙そうと思ったことの罪悪感が少しだけあるな。

 罪悪感を紛らわすために、ボクはザイクに話しかけた。


「あ~。これでやっと冒険に出れるね」


 ザイクはボクの言葉にすぐ、反応してくれた。


「あ、あぁ。三年間待ったかいが、あ、あるね」


 下がり眉のままの笑顔でザイクは答えた。

 それに少し、安心しながら、会話を続けた。


「まあね。あ。でも、ボクとザイクの二人だと、攻撃が全然できないんだよね……」


 それには理由がある。

 まず、ボクは接近戦を挑むと、激痛でまともに戦闘を続けられなくなり、遠距離攻撃でも威力を上げるには血を大量に流さないといけない。

 戦えないこともないけど、戦闘の度におびただしい血を流すのは避けたい。


 そして、望みがある、と思われているザイクだけど、彼も駄目だ。

 ザイクが所持しているスキルの中に、【捨攻特守(マスター・ディフェンサー)】というスキルがあり、効果が『攻撃行為の威力が、最終強化値の99%下がり、守備能力が、最終強化値の85%上がる』となっている。

 だから、ザイクは攻撃がほぼ出来ないと言っても過言じゃない。

 試しに相手に衝撃を与えることは出来るかな? と思って実験したけど、相手に与える衝撃も能力の対象に入るみたいで、相手は涼しい顔をしていた。


 一応ザイクは、ある条件を達したときのみ攻撃力が強化されて、攻撃が出来るようになるのだけど……

 滅多に条件を達成することはないし、条件自体があまり詳しく分かっていないから、使えないも同然だけどね。


 と、いうことで、戦闘は、ボクが後ろから援護して、ザイクが守りながら逃げる、という行動しかできない。

 まあ、でも、無理に闘うこともないしね。

 きっと大丈夫だと思いたい。


「ど、どうしたの……? だ、大丈夫?」


 ボクが急に黙り込んでしまったので、心配になったのか、ザイクが心配そうにボクを見ている。

 心配させちゃったかな。


「大丈夫だよ~。……ごめん、心配させちゃったね」


 ボクは笑顔で言った。


「あ、謝らなくてもいいよ」


 ふにゅ。ザイクは臆病だけど、気がきいて優しいな。ザイクと出会って本当に良かった。


「ふふっ」


「っ? ど、どうしたの?」


 あ。思わず笑い声が漏れちゃった。


「ただの思いだし笑いだよ」


 ボクは心配するな、という意味も籠めて、笑ってそう返した。


 ……うん? ザイク……あ。


「どうしたの? 顔が赤いよ?」


 ザイクの顔は、ほんのり赤に染まっていた。

 ……笑っちゃダメ。笑っちゃ駄目。よし。


「ウィズのぶりっ娘。自分の容姿が良いことを分かってやってる癖に……」


 ザイクは不満そうにそう言った。


「えー。なんのことかなー?」


 ボクは明らかに棒読みで言った。


「ウィ、ウィズは見た目だけ、綺麗なお姉さんなんだから」


 そう、ザイクの言う通りボクの容姿はかなり、良い。

 と、言っても格好いいというわけではない。

 首辺りまでの、艶がある黒髪に、茶がかかった黒の瞳。目は少し大きく、鼻は高い。そして、小さめの唇。

 完璧に大人っぽい美少女であり、自分でも思うけど、可愛い。

 更に、来ている服も皮で編みこまれた軽装の服で、女子っぽさが増している。

 けど、さすがに自分で自分を愛するなんて出来ないけどね。

 ボクは自分至上主義(ナルシスト)ではないからね。


「お褒めいただき光栄ですっ!」


 軽く、返しておいた。

 けど、声は中性的とよく言われる。師匠が言うには、『どちらかというと女子っぽい』らしい。自分ではどんな声をしてるかあまりよく分からないんだよね。

 どうなんだろうか。


「は、話がそれちゃったけど……こ、攻撃とかどうする?」


「う~ん。どうしようもないから、戦闘になってから考えようか」


「だ、大丈夫かなぁ……」


 ザイクが心配してるが、考えたって攻撃が出来るようになる訳じゃないしね。


「あ~。もう合格したから学園の外に出てもいいのか~」


「う、うん。じゃ、じゃあ! 装備とアイテムを揃えようよっ!」


 ザイクはテンション高いね~。まあ、当たり前と言ったら、当たり前だよね。三年間も我慢したんだから。


「じゃあ、商店街にいこうか」


「あ、あぁ!!」


 しばらく歩くと学園の入り口でもあり、出口でもある正門が目の前に建っていた。

 三年間。何度もここを通ったけど、学園の生徒として、この門を通るのはこれで最後、かぁ。

 そう考えると少し、悲しくなるな。

 ……でも、出会いと別れの等式は成り立つからね。

 きっと、旅でも出会いがあるはずだよね。


 お互い、顔を見合わせ思っていることを察したボクらは叫んだ。


「「三年間。本当にありがとうございましたっ!!」」


 学園に向かって、頭を下げた。



 目尻から温かく、少ししょっぱい塩水のような液体が出てくるのを拭い、ボクらは、旅人としての新たな一歩を踏み出した。

次話も閲覧してくださると嬉しいです。


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