十人の子供たちと少年バーンスタイン08
二週間の休憩を経て、オリバーは失った右腕を義手とし、ノアは銃弾が貫いた左足を義手にした。
AHEの恩恵によるバケモノじみた回復力で万全の状態まで回復した四人の子供を広場に集め、ロードは語った。思えば随分と広さを感じる広場になってしまったと思いつつ、彼の話を聞く。
「オリバー君、ノア君、ジャック君、そしてバーンスタイン君。君たち四人は過酷な訓練を乗り越えた子供たちだ。いや、最早子供と呼ぶには強すぎるね。さて、何を離すかと言えば、先日も言った、最終訓練についてだよ。ご存じの通り、ここは英雄を育成する機関だ。しかし近年、戦況は難しくなってきている。両国が終戦を目指して過激化しているんだよ。我らが女王陛下が、非道な実験をするなら結果を出しなさいとおっしゃってね。少し早いかもしれないが、最終訓練を実施することにしたよ」
そこで一息入れたロードは、四人の顔を見渡すと、続けた。
「英雄というのは、一人いればいいんだ。そのために、死ぬ可能性のある訓練を続けて来た。生き残れない子供は、英雄ではないからね。つまり、だよ」
ちっ、と隣でジャックが舌打ちをした。
「つまり、一人になるまで戦えってか、ロード」
子供らしさのない憎悪に満ちた顔でそう言うジャック。対して、ロードは笑顔のままで力強く頷いた。
「うん、そうだよ。訓練は明日だ。今日は、最後の平和な時を過ごしてくれたまえ」
そう言って去って行くロードと研究員たち。
残されたおれたちはいつもより少しだけ豪華な夕飯を食べ始めることしか出来なかった。
誰もが無言で食事を終えて、部屋へと戻っていく。最後まで残ってゆっくり食事を終えたおれは、見張り役の研究員に声をかけた。
「どうぞ」
白い部屋の扉が開かれる。室内で座って待つ声の主は笑いながらおれを迎えた。
「君が面会を求めるなんてね。どうかしたのかい?」
「ロード。お願いがあります。最終訓練を中止にしてください」
「ほう。それは、どうして?」
身振り手振りで座るように言われるが、おれは無視して続けた。
「英雄になるのはおれです。どんな訓練をしようとその事実は変わらない。なら、わざわざ子供を殺すような訓練を実施する意味はないかと」
「うん、そうだね。君は確かに強い。AHEとの接続も良好、精神面も強く、過酷な現状に疑問一つ抱かないでいる。けど、その言葉は半分くらい嘘だね」
「うそ、ですか」
こちらを見抜く深淵のような瞳がおれの琥珀の目を見つめている。寒気がするような不思議な感覚を覚えながらも、逸らすという選択はしなかった。これは試されているのだ。
「君は自分が英雄になると信じている。それは本当のことだろう。だが、訓練を中止して欲しい理由はちょっと違うでしょう?」
そう言われても分からない。ロードの言う通りならば、おれには、おれの知らない感情があるらしい。
「君は目の前でロンド君が死んでしまったことで、知人の死というものが少し怖くなったんだ。死なないで欲しいと思ってしまったんだよ。それは命懸けで何かを守らなくてはならない英雄にとって必要な感情だし、何かを天秤にかけなければならない英雄にとって不要な感情だね」
「怖くはありません。ただ、どうせ英雄になれない彼らが、英雄になるために命を落とすことの矛盾に納得できないんです」
「そう。それは確かに悲しい矛盾だね。でも君は気が付いていないようだ」
「何に、ですか」
ロードは寂し気に笑うと、威厳のない、達観した一人の老人のような表情で言い切った。
「バーンスタイン君。君は、自分が守りたい者が、自分の知らないところで勝手に死ぬのが嫌なだけだよ」
ロードは淡々と、無慈悲に語る。
君はチャーリー君一人では不安だと思いながら加勢しなかったと。
君はレオ君が人知れず死んでいることに気が付かなかったと。
君はルカ君が死にに行くのを止められなかったと。
君はクアナ君が死にたがっていることに気が付けなかったと。
君はメアリー君が致命傷を負っていることに気が付かなかったと。
君はオリヴィア君が一人で戦う姿を見ても駆けつけなかったと。
君はロンド君といながらも敵から離れろと全力で言わなかったと。
「君は、君の数少ない知人たちが、簡単に死んでいくことに驚いたんだ。知らないところで、知らない敵に、君の知らない感情を抱いて、相手のことをよく知るよりも早く。そういう全てに、心が痛んでいるんだよ」
ロードの言葉が、早口で語られているかのように、よく理解出来ないまま右耳から左耳を通り抜けていく。けれどその言葉が持つ攻撃力だけは、的確におれに刺さっていった。
「そのうえで、君は気が付いていないんだ」
致命的な何かを突きつけるように、ロードはゆっくりと言う。
「君は、彼らを殺したいんだよ」
いくら反芻しても、その言葉の持つ意味が分からない。
分からないまま、ロードによって部屋から追い出されてしまった。




