第8話 女子達(+男1名)の立ち話 +神様たちの企み
種族転換して男のような外見になったとしても、女子は女子でした。というか女子の登場人物たちを動かすのは難しいね。TSして女子になった男子なら動かしやすいんだけど。
御有辺井高校、文芸部が部室として使用している放課後の教室。今日のそこは少し静かだった。
「阿良子、今日はTS研究会の男どもはいないの?」
教室に入ってきた文芸部部長の庵手絹子は教室内を見渡すと、既にそろっている他の部員たちのうち、同学年である二年生の小荒阿良子に問いかけた。
「あ、部長、なんでもTS研究会の男子たちは、今日も【会の活動】でスーパー銭湯に取材活動をしに行ってるそうですよ」
阿良子はスマホにBluetoothキーボードを接続して小説を書いていたのだが、顔を絹子に向けるとそう答えた。そして机の端に置いてあるグミを少し手に取ると口の中に放り込み、もぐもぐとしている。なんでも小説を書くような頭を使う際には、脳の栄養とした甘いものが必須であり、グミのように噛み応えがあるものも脳を刺激して良いのだそうだ。
以前はややぽっちゃり系のかわいい感じだったのだが、今では筋肉質でがっしりした体つきになっている。背丈も伸びてるし。というわけでそんな外見の彼女がもぐもぐとグミを食べているのはちょっと違和感があるのだが、それもまあ新時代の光景ということで徐々に慣れていくことだろう。
「まったく、ここ最近の男どもは取材、取材と言ってスーパー銭湯に入り浸っているみたいだけど、いったいどんな小説作品を書くつもりなのよ。文芸部の部長であるボクにも、『完成するまでは部長にも見せることはできません』って言うのよ」
プンプンと怒る庵手部長。前の美人さんの姿で怒られるのも、なにかこう来るものがあったのだが、今の高身長なイケメン風の姿で怒られるのもまた良い。そう思う人も中にはいるだろう。
「やっぱり裸の男同士でイチャイチャするような18禁すれすれのアブナイ作品じゃないんですか? 私にはそうとしか思えないですけどね。やつら自分におっぱいとか育児嚢が出来たものだから、舞い上がってるんですよ。今はTS研究会とか名乗ってますけど、もともとはTS研究会ですからね」
阿良子の言葉に絹子は『ふう』とため息をつくしかなかった。おそらく阿良子の意見に絹子も同意なのであろう。
そして今は無くなってしまった自分のおっぱいを懐かしむように平らになった胸をそっと撫でた。(ああ、神賀君の小さなおっぱいを触ってみたい。それから育児嚢の中に手を突っ込んでぐりぐりしたい)等と思いながら。まあ今の姿は男女で逆な姿となっているが、結局のところ男と女であることは変わりないので、変態さんではなく、純粋に性欲が強いだけである。さすが高校生。しかしその中でも庵手部長はひときわ性欲が強いほうであった。『神賀会長、早く逃げてーッ!』である。
「書いた作品はコピー本にして学校のみんなも閲覧できるようにするっていうのが文芸部の活動内容だって、分かってるのかしら。あまりにもアブナイ作品ばかり書いてたら、学校から目を付けられちゃうじゃない」
「……で、庵手部長。本音のところをどうぞ」
「もともと男同士のイチャラブな小説って大好物だったんだけど、今の有袋人類化した男たちが書く男同士のイチャラブ小説ってどんなものなのか早く読んでみたい♪」
鼻の穴をふくらませて、フンスと息を吹きながらそう言い切る庵手部長は、ハッキリ言って既に腐っていた。腐ってはいるが性的嗜好は普通に男が好きである。まあ今の男たちの姿、以前の女性のような外見の男たちも好きである。単純に言えば庵手部長、とにかく性的な意味で好き者であった。なんでもバッチ来いと言ってもよい。但し一番のお気に入りは先ほども言ったように神賀会長である。そこは一途であった。イケメンになってもそこは乙女なのだ。
「あの、庵手部長。僕、TS研究会の尾歩都君からあのメンバーが書いている小説のプロットとか、執筆終了したところまでをちょっと読ませてもらいましたけど、BL小説というよりは行為までしちゃう百合小説って感じでしたよ」
クーラーでちょうど良い温度になっているはずの教室なのに、寒がりの武宇羅美須美に暖を取るための湯たんぽ代わりに抱きかかえられている御厨修武が、庵手部長に重要情報を教えるのだった。
ちなみに御厨は、ちょっと小柄でムチムチのエロかわいい系の男の子であったが、種族転換して有袋人類になった今は、さらにそれらの要素が強調されることになっていた。つまりより小柄に、よりムチエロになっていたのであった。ちなみに体は小さいのにおっぱいは大きかった。しかもやわやわである。さぞかし抱き心地は良いことであろう。なお、彼は商業小説を読んでいた。ライトノベルである。そういうのが好きなのだ。
「ちょ、御厨君ッ! どうして君がそんなことを知ってるの?」
「どうしてって、『普段はそういう小説を読まない人間に読んでもらって、その反応を知りたい』ということらしいですよ。それに男同士の絡み合いの小説とは言っても、以前からあるBL小説と違って、読者対象が女性では無くて男性向けだからじゃないでしょうか?」
「ん、私もそう思う」
御厨の言葉に静かに同意するのは武宇羅である。
「ちょっと、もしかして美須美さんも、その小説の内容を知ってるの?」
「あたしと御厨君は一心同体。御厨君が見聞きするものは常にあたしも見聞きしている」
というか美須美は御厨がTS研究会が提供した書きかけの小説とかプロットとかを読んでいるときも、御厨を離さず抱きかかえていただけである。で、ついでに小説とかも読んだと。
「ま、いいわ。で、御厨君。結局読んでみてどうだった? 面白かった? ていうか萌えた?」
やはり鼻から興奮した息を吹きながら、庵手部長は御厨に質問する。
「うーん、正直、僕には合わないというか、ちょっと同性同士の恋愛ものというか、単にイチャラブしているのは趣味じゃないですね。恋愛するなら男女のペアじゃないとちょっと受け付けないです」
「ふうん。じゃあ、例えば今の有袋人類化した体で、以前の男の子のようになった今の女子と恋したりできるの?」
「いや、普通にできますけど。ていうか僕の恋愛対象って、美須美さんですよ」
庵手部長がからかう隙もなく、どストレートな答えが返ってきた。
「御厨君、あたしも御厨君が好き。もっと、抱きしめてもいい?」
そして御厨を抱きかかえている美須美がそう返すと、当然のように御厨は『もちろんだよ』と答えている。
「ああ、そう。まあ、ふたりとも学内では一線を越えないでね。色々とヤバイから」
庵手部長はため息をつく。
「……そういえば庵手部長。ちょっと聞きたいことがあるんですけど」
話がひと段落したのを狙っていたのか、小説を書いていた手を止めて、阿良子が庵手部長に聞いてきた。
「何? 小説の話?」
「まあ小説の話と言えば小説の話なんですけど、今、種族転換する前に書いていたBL作品の登場人物を有袋人類に変換して書き直しているんですけど、それについて確認したいことがあるんです」
「ほほう。それは何?」
庵手部長は好物な話題に飛びついた。
「今の男の人って、前よりも股間の棒が短くなったのと位置がちょっとずれてしまったということで、お尻を使っての愛し合いが出来なくなっていると聞いたんですけど、部長はそれについて詳しい情報を知っていますか?」
阿良子の質問は、けっこうお下品であった。もしもここに文芸部の顧問が居たら、とても嘆かれてしまうだろう。いや、話題に飛びついてきたりするかも?
「確かにそういう話は聞いたわね。でも個人差があるんじゃないかしら。ネット情報だと『有袋人類の男同士でも行為が出来る』ようなことが書いてあったし。まあ、具体的にどこを使ってヤったのかは書かれていなかったんだけど」
「でも庵手部長、今の男の人たちって、下手するとお腹の袋、育児嚢が一番の性感帯ですよ。わざわざお尻を使ったりするんでしょうか?」
そのまましばし文字に書き起こせない会話が続くが、やがて結論らしきものへと話題が収束してきた。
「まあ、ボクとしては、意外とこの話題の結論って、TS研究会の連中が書く小説の中身を見てみれば分かるかもと思わなくもないね」
「うーん、そうでしょうか。あっ、そうだ。手っ取り早く御厨君のを勃たせてもらってサイズを測ったりしてみてはどうでしょうか? それで実際に後ろの穴に使えるかどうかが分かるかと」
小荒阿良子、まともそうでいてまともでなかった。
「おお、ナイスアイディアーーッ!」
庵手部長、まともそうでなくて、実はもっとまともじゃなかった。
「「御厨君、ちょっとお願いがあるんだけど」」
とてもいい笑顔をした庵手部長と阿良子は、美須美に抱かれている御厨に問いかけた。
「ダメ。御厨君はあたしの」
すると御厨が返事をする前に、彼を抱き抱えている美須美が答えた。彼女は御厨と同じく一年生なのだが、こと御厨のことになると先輩に対しても譲らない。
「いやいや、美須美さん。別にこの場で御厨君のアレを勃たせて長さを測ったりしようだなんて思ってないから。美須美さんと御厨君が二人っきりの時にでも、ちょっとイチャイチャラブラブして御厨君のを刺激してさ、大きくなったところでサイズを測ったり、可能なら御厨君のアレで美須美さんのバックから【ピー】なことが可能かどうか実験してもらえればいいのよ」
「そうそう、これは今後も私たちがBL小説を書く上での大事な、事実確認のための取材活動なのよ。お願い。美須美さん。御厨君」
鼻息荒い庵手部長に阿良子。こんな先輩たちしかいないのか。
「分かった。それならやる」
「美須美ちゃん。僕の意思は? イチャイチャラブラブするところまでは良いけど、そっから先はちょっとまずいんじゃないの? また僕のお腹の袋を見て、美須美ちゃん興奮しすぎたりしない? 無理やり襲われるのは僕、もういやだよ」
即答する美須美に対して、御厨はあまり乗り気ではないようだ。しかし女子たちは、『イチャイチャラブラブまでは良いのかよ』という突っ込みを心の中で行うのだった。かわいいなと。
「御厨君、部活動において先輩たちの言うことは絶対。聞かなくちゃダメ」
「そんな。ここ、文芸部だよ。体育系の運動部じゃないんだよ」
「もう、聞き分けのない御厨君にはお仕置きです」
などと言いながら美須美は御厨の耳裏にそっと息を吹きかけたり、御厨の脇から入れた両手をその御厨の腹の前で組んでいたのだが、その手を解いて御厨の育児嚢の周りをそっと刺激し始めたりと、『さっきまで言ってたのと、やってることが違うんですけどーーッ』という状態になってくる。
「ま、部室でやるなら、バレないようにね。ボクにも立場というものがあるし」
「何だったらトイレに行ってみるのもいいかもね。私がトイレの中を偵察したり、入口を見はったりしてもいいよ」
まことに文芸部の先輩たちは趣味にかける手間は惜しまないようだ。
はてさて、その後、武宇羅美須美と御厨修武のふたりのカップルはどうなったのか? 結論として、御厨のアレは平均サイズである固くなった状態での6.8cmよりもやや小さな6㎝ちょうどであり、その長さでは美須美のバックからは上手くできなかったのだという。
おい、こら、文芸部。何やっとんじゃい。という突っ込みを残しつつ、突っ込めなかったお話はこれで終わりにしたいと思います。
そしてどこかの異世界? もしくは思念空間……。
『まことに今回の父神様がやらかした件、なんとかせねばなりませんね』
『まさに姉上の言うとおり。確かに少子高齢化を何とかするという点では肉体を有袋人類へと変化させる種族転換は有効かもしれませんが……』
『その後の人口の急激な増加にどう対処する? 住む土地も食料の生産をする場所も、資源も何もかも足りなくなるぞ。それから最悪の場合、日本人は人類では無いということで世界から攻撃を受けるかもしれない』
『かといって父神様のなされたことをもとに戻すことはもうできません。私たちの権能において出来る力を持って対処するしかありません』
『では姉上、いかが成されるおつもりか?』
『何、簡単です。引きこもってしまえばいいのですよ。私たち三神の力を合わせればよいのです。いいですか……』
こうして日本人のあずかり知らぬところで、何やら神様らしき存在による企みが進行していたのであった。
さて、最後に出てきた神様の力を使えば、日本政府が憂慮していることに対して短期間で対処できるよ。やったね。
なお、私は神様たちの名前を出す気はありません。何となく怖いから。




