みゆちゃんのクレヨン その5
それからは、ぼくの出番はめっきりへった。でも、ほかの皆は忙しそうだ。
「おい、白。出番が少ないからって気をぬくな。おじょうさまがたが、おまえをごしょもうだ。」
黒がニヤッとして言った。
「みゆちゃん、みゆちゃんのワンピースをピンクでぬるよ。それと、フリルは白。」
「うん、ありがとう、お姉ちゃん。」
「みゆ。こんど、ママがそんなワンピースぬってあげるね。」
「わぁ。ママ、ありがとう。」
「そうだ。りかとみゆ、おそろいにしよう。」
「ママも、私たちとおそろいにしようよ。」
「ママは、無理よ。せめて絵の中でおそろいにして。みゆ。ほら、ママの顔さわってかいてみて。美人にかいてね。」
みゆちゃんは、嬉しそうにママの顔を小さな手でふれた。
「あっ、そうだ、みゆ。おばあちゃんの顔もかいてくれないかしら。」
「うん、いいよ。おばあちゃん、よろこぶね。」
「ママね、おばあちゃんに内緒で絹のブラウス縫っているの。おばあちゃんにみゆの絵と一緒にわたすわ。」
「うわぁ、すてき!!みゆちゃん、わくわくするね!」
りかちゃんが、みゆちゃんをだきしめた。
「あっ、みゆ。それからパパが今度の土曜日に家族全員でレストランに行こうって。みゆとりかが大好きなパスタのお店。」
「みゆちゃん、やったね!うれしいね。」
「うん!」
「あのめったに出かけないおじいちゃんまではり切っていたわ。家族の記念写真もとろうっていうの。そうだ!家族全員がそろった絵も写真のとなりにかざったら、もっと素敵なことになるわ!ねぇ、みゆ。家族みんながいっしょにいる絵もかいてほしいわ。時間はうんとかかっていいいから。りかも手伝ってあげて。」
「もちろん!みゆちゃん、手伝うよ!」
みゆちゃんは、一瞬だまってしまった。
「みゆちゃん?」
りかちゃんが、みゆちゃんをのぞきこむ。
「ママ。お姉ちゃん。」
「うん?なあに?」
みゆちゃんが、ママの顔から手をはなさずに言った。
「みゆ、なんだかね、今とってもしあわせでなみだがでそうなの。」
ちょっぴり胸にこみ上げものがあったけれど、ぼくはにこにこしながら、いっしょうけんめいワンピースのフリルに色をつけた。まぁ、ぼくがどんなにがんばっても、真っ白い画用紙は真っ白いままなのだけれど。でも、そんなことはもうどうでもいいのさ。それに、出番がへっても、そんなこともかまいやしない。こんどから前のようにのんびりしよう。
えっ、なんでかって?えへへへへ。それはね。実はさ。おっ、もう一度、みゆちゃんの口からきけそうだぞ。
「お姉ちゃん。みゆ、白いクレヨンが一番好き。」
ふふ。なんどきいても、にやけちゃうなーー。
「えっ、どうして?私と同じ、ピンクじゃないの?」
「ピンクも好きだよ。でも、白がいいの。だってね、みゆがママにお手紙かいたとき、ママがみゆは心が真っ白だねって言ったから。」
えへへへへ。そういうわけで、みゆちゃんは、僕を特別大事に思ってくれているんだ。大好きなみゆちゃんに一番好きって言われて、ぼくはうれしすぎて、もうなにがなんだか分からない。クレヨン冥利につきるよ。えへへへへ。にやけてたら、黒が後ろから「こいつ。」とどついた。今の僕は、どつかれようが役立たずに逆戻りしようがばかみたいに笑っていられる。
みゆちゃん、心の底からありがとう。ぼくはさ、ずっと何にも役にたてない白いクレヨンだったよ。でもね、今はみゆちゃんに世界一愛されている、宇宙一幸せな白いクレヨンさ。これからもよろしくね!だい、だい、だ~いすきなみゆちゃん!!
おわり
最後まで読んでくださって、ありがとうございました。