2:誰の子供?
整理しよう。
ここにいるのはカロンで、カロンじゃない。
逆にエレナであって、エレナじゃない。
……オーケー、理解できないことがわかった。
「お前はカロンでいいんだよな? どうみてもエレナだけど」
「やっぱりこの身体、エレナさんのなんですね……そうです、カロンです」
だが、エレナの性格的に悪ふざけの線も捨てきれない。
こうなったらカロンにだけわかる質問を――。
「あ、先輩が子供の頃に仮面かぶって両手に剣を持ってポーズ決めた話をします?」
「おいやめろカロン」
間違いない、こいつはカロンだ。
だとすると向こうにいるカロンは――。
「なあ、エレナの身体なんだから回復魔法って使えるか?」
「あはは。ボクに適性がなかった魔法をいきなり使えっていわれても無理ですよー」
「だよな。じゃあお前は、万年魔力切れの神官ってところか」
「……え?」
唖然とするカロンは放置して、次はカロン(?)を起こしに行く。
俺の予想が正しければこいつは――。
「おい起きろ。お前の身体はもう起きてるぞ?」
「…………」
「あっ、あっちにショタの集う広場が」
「――っ! どこよ、今すぐ案内しなさいっ!!」
バッ! と飛び起きたカロン(?)から距離を取り、とりあえずエレナを指さす。
「あれ、ロイドじゃない。向こうがどうかした………え? なんで私がいるの?」
「身体を見て見な」
「嘘……ないっ! ないわっ! それにこの違和感、ああっ! なんで、なんでついてるのっ!」
何故か恍惚としているエレナを、ポンと叩く。
「よかったな。お前の大好きなショタになれたぞ」
「えっ! ということは、あっちの私はカロンくん? キャーッ!」
「ボクをショタっていうのやめてくださいよ……」
エレナが騒ぐのはいつも通りだが、それがカロンの少年であり少女の見た目でクネクネされると……うん。
「せ、先輩はボクのあんな姿をみないでください!」
「あれはエレナだから、気にしなくてもいいぞ」
「ボクが気にするんですっ!」
後ろからバッと目隠しをされたが、背中に押しつけられたモノの感覚に意識を持ってかれる。
確かにエレナもスキンシップ(意味深)はしてきたが、ここまで強くはなかった。
それに全力で抱き着いているのか、アワアワ動くたびに彼女の銀髪が靡いて鼻先をくすぐってくる。
「わ、わかったから離れろって! まだバリッシュとライナーが目覚めてない!」
「えっ! 早く二人も起こしましょう!」
ようやく離れてくれたが、背中の感触がなくなるときに名残惜しい気分になったのは何故だろう。
エレナにやられたときは、そんなことなかったのにな……。
今は残る二人だ。
バリッシュは不明だが、この二人のことを考えると、ライナーもあの少女と……。
いや、そもそもあの少女はどこから来たんだ?
考えに耽っていると、今度は聞き覚えのない声が響いた。
「おい! これはどうなっているんだ! なんだこのからだは!」
「お、落ち着いてくださいライナーさん」
「エレナか。これはのろいなのか?」
「さ、さぁ……それとボク、カロンです」
俺たちが受けたのは、確かに攻撃だった。
しかし、それが呪いかどうかはわからない。
本職のエレナだったらわかったかもしれないが、カロンは生粋の魔法使い。
いくら天才だといっても、神官としては初心者にもほどがある。
「おれをからかっているのか? おい、ロイドからもなにか――」
「そいつはカロンだ。エレナは向こうにいる」
苦笑するカロンと視線を向けると、エレナはまだ自身の身体をぺたぺたと触っていた。
「は? でも待て。ロイドはまじめだからな。だとすると……カロン、なのか?」
「あ、はい。見た目はエレナさんですけど、カロンです」
なんとか納得してもらい、鎧からライナーを救出する。
中から出てきた少女は……裸だった。
「ふぅ、ありがとな。まさか鎧があんなにおもいとは」
「ふ、服を着てください! ほら、これ!」
「お? おう。ん……なんだこれは。でかすぎるだろう」
カロンが渡したのは、鎧に残っていたライナーのシャツだ。
いまのライナーが着るとダボダボのワンピースのようになっている。
「それがライナーの着ていたシャツだ。しかし、どうして裸だったんだ?」
「体格がかわればそんなもんだろ」
「? どういうことだ」
「どうやらおれは、子供になっちまったみたいだしな」
「先輩、もしかしたら」
聞けば、この身体は娘でもなんでもなく、自分にも覚えがないとのこと。
しかし髪の色、瞳の色が変化していないということは、ただ肉体が変化した可能性が高い。
カロンとエレナは入れ替わってしまったが、ライナーは女の子に変身してしまった。
だとすると、バリッシュは……?
その後、何時間ねばってもバリッシュは起きなかった。