3:先見えぬ不安
帰り道は熾烈を極めた。
道中は雑魚ばかりで楽勝かと思えば、まともな戦力がいないのだ。
「おいエレナ! カロンの身体でも無属性魔法は使えるんじゃないか!」
「とはいっても、初級のマジックミサイルのみよ。魔力は有り余ってるから連打しちゃおうかしら」
「頼む、戦力が足りないっ!」
そして俺には、守るべきメンバーが三人。
「……わるい。このからだじゃ自分であるくことしかできねぇ」
「仕方ないですよ。ボクなんか、ライナーさんの鎧を運ぶことしかできませんし」
「ちっ、バリッシュはここに置く。カロン、頼んだぞ!」
「はいっ!」
かつては前衛3、後衛2だったパーティも形無しだ。
後衛どころか戦闘ができないメンバーが3人。
エレナがマジックミサイルを連発できるおかげで、なんとか助かっている感じだ。
せっかく生き残ったのに、ここで死ぬとか冗談じゃねぇぞ!
「はぁ……はぁ……」
「お疲れ様です、先輩」
「ああ……ありがとうエレナ……あ、悪い」
「いえ」
カロンが労わってくれるが、見た目がエレナなのでどうしても身構えてしまう。
しかし、バッグから回復薬を出す姿はカロンだ。
「あとどれくらい残っている?」
「半分くらいですね。ボ……エレナさんのおかげでなんとかなってますが」
「カロンが魔力タンクで助かったな」
マジックミサイルが使えるエレナとは違い、今のカロンは何も使えない。
そもそも神官という職業が何年も修行して術を身に着けるのに、身体だけが神官のカロンが急に使えるわけがなかった。
「ボクもせめてヒールくらいは――」
「大丈夫だ、お前は俺が絶対に守ってやる」
「……はいっ!」
出口までは、あと半分といったところだろう。
バリッシュはまだ起きない。
皆が不安な今、唯一変わりのない俺がしっかりせねば。
「おいお二人さん。イチャイチャするのはかまわねぇが、むこうでもちぬしがお怒りだぞ」
「え?」
ライガーの声に振り向けば、そこには今にもマジックミサイルを撃ってきそうなエレナがいた。
なんかニヤついているのは気のせいだろうか。
「うふふっ、カロンくん? 私の身体で楽しむってことは、私も好きにしていいのかしら? カロンくん、チャーム能力あるよね?」
「えっ! ちょっと待ってください! まさかボクの身体でいつもの男あさりをするつもりじゃ……っ!」
「私はね、両方イケるのよ。カロンくん可愛いから、夜が楽しみだわあ」
身体を巡ってギャーギャー騒ぐ二人は放置し、少しの間身体を休ませる。
……皆、元に戻るんだよな?
「なあロイド。おれらって街にもどったらどうする?」
「どうするって……」
ギルドに報告。解呪を試す。その後は?
しばらくこのままだとしても、冒険者は厳しいだろう。
「ダメなら構わないが、よければおれもなかまにいれてくれ」
「え?」
「みてのとおり、このからだじゃ何もできない。おれには身寄りもないしな。このそうびを売ったとしても、生きていくのはきびしそうだ」
傭兵という職業柄、身一つで旅して流れてという生き方だった彼。
そんなライナーが稼ぎ口を失ったら? 誰かに庇護されない限り、未来はないだろう。
「なにもできなくて申し訳ないが、たのむ。おれの金はすべてわたす。足りないだろうが――」
「安心しろ」
小さくなったライナーの頭を、わしゃわしゃと撫でてやる。
サラサラな髪の毛はいつまでも触っていたくなるが、ライナーを抱き上げるために中断した。
「何もできなかったのは俺も同じだ。そんな俺を、ライナーは笑い飛ばしてくれだろ? 今度は俺に任せろ」
「……ああ、まかせたぞ。リーダー」
「はは。リーダーはそこで寝ているバリッシュだ」
こんな時バリッシュなら、どんな判断を下すだろうか。
一つだけわかっているのは、見捨てるという選択肢はない。
そうだったら俺が真っ先に捨てられていたはずだしな。
あれから数日は経っただろうか。
こまめに休憩していたおかげで、街まで随分と時間がかかってしまった。
「よ、ようやく着きましたね」
「ああ。皆、無事か?」
「瀕死のロイドに言われてもね。しっかし、カロンくんも体力ないね。私の身体、もう少し体力あるはずだけど」
「逆にエレナさんはどうして平気なんですか! この身体バランスも取りづらいし、歩くたびにむ、胸がプルプル揺れて、その……っ!」
「あら可愛い」
報告は明日にして、まずは休息となったわけだが。
「どうして俺とバリッシュなんだ?」
部屋は二つ。
いつもならエレナとその他だったが、今回は違う。
「だって今はみんな女の子よ? ロイドもこっちに来たいならいいけど」
「まずエレナおめー男じゃないか」
カロンの身体は間違いなく男だ。
女顔ではあったが、一緒に風呂へ入った仲だし間違いない。
「カロンくんは問題ないでしょ? それに、私の身体にレクチャーしないといけないから♪」
「ひゃんっ! ちょ、エレナさんっ!」
ふたたび漫才をはじめた二人は放置だ。
「ライナーはそっちでいいのか?」
「……ああ。ひじょうに不本意だが、エレナはたよりになる。女性としてべんきょうになるからな」
……色々あったなぁ。
身体が違えば勝手も違う。さすが女性というか、エレナは大活躍だった。
もし俺たちがこのままなら、エレナという存在は絶対に手放せない。
「わかった。エレナにいたずらされそうになったら、迷わず蹴り上げろ」
「いいのか? カロンの身体だろ」
「構わん。やれ」
それだけ伝え、三人と別れる。
こっちの部屋には、まだ目を覚まさぬバリッシュが一人。
「なあリーダー、俺はどうしたらいいのかな」
安らかに眠るバリッシュの反応はない。
だいぶ疲れが溜まっていたのか、俺もいつしか眠りについていた。




