鳩の祭り
五月晴れの気持ちのいい朝に、トラクターの音が聞こえてきました。
いつものおじいさんとお婿さんが、田んぼを耕しに来ているようです。
「もうすぐ田植えが始まるのね。」
そうですね、ゆかこさん。
昨日は町の人たちが総出で川掃除をしていました。
また稲の一年が始まるんですね。
「もったいないなぁ。でも美味しくなくなったから、仕方がないですね。」
お婿さんがそう言いながら、三年前の残ったお米を田んぼに返しています。
「トラクターですき込んだら、また次の稲の栄養になるさ。」
どうやら古いお米を、お婿さんが田んぼにばら撒いているようです。
ダダダダダとトラクターの唸る音がして、おじいさんが田んぼの土をうがしていきます。
古いお米も土に混じって田んぼの中に入って行きました。
しかし二人が帰った後の田んぼには、鳩やスズメが大盤振る舞いのご馳走をいただきにやってきました。
「まぁ、あんなにたくさんの鳥たちがやって来たわ。」
鳩たちは一つ所に腰を据えて、夢中でお米を食べています。
「フフッ、どうやらほとんどが鳩のお腹に入りそう。」
おじいさんの目論見は外れそうですね、ゆかこさん。
「そうね。今からじゃどうしようもないわ。後の祭りね…いえ、鳩の祭りね。ククッ。」
ゆかこさんは楽しくなって、蒼い蒼い空に舞い上がりました。
新緑が眩しい山々、豊かな水を抱いた大川の流れ、ゆかこさんが愛している町並みが眼下に広がっています。
ゴールデンウィークが終わって学校が始まったのか、休みのチャイムの合図とともに子ども達が校庭に走り出てきました。
「あっ! ゆかこさんだ!」
「「ゆかこさぁ~ん!!」」
みんなが空を飛んでいるゆかこさんに手を振ってくれます。
「はぁーい!」
ゆかこさんも元気に手を振り返しましたよ。
町の上空を飛んでいると、田んぼのお婿さんのお嫁さんが、大きなお腹をして道を歩いていました。
「あら、おめでたのようね。」
ゆかこさんは降り注ぐ初夏の日差しをギュッと掴んで、お嫁さんのお腹にキラキラと投げかけます。
お嫁さんはびっくりして、空を見上げました。
「これでグングン成長するわよ。」
「ありがとう!」
ゆかこさんは笑って頷いて、まだまだ飛んで行きました。
海まで飛んできたゆかこさんは、船のマストのてっぺんで一休みします。
海風が汗ばんだゆかこさんの身体を撫でてゆきます。
「ふうー、い~気持ち。海がチカチカ瞬いて、私を呼んでるわ。」
ゆかこさんには、わかるんでしょうか?
「ちょっと、旅に出て来るわね!」
おやおや、ゆかこさんはしばらくこの町を離れることに決めたようですよ。
いってらっしゃい、ゆかこさん。
また帰って来たら、この町に立ち寄ってくださいね。
ボ~という汽笛の音と共に、ゆかこさんは旅立ちました。
いつかあなたの住む町にもゆかこさんはやって来るかもしれませんね。
ここまで読んでくださって、ありがとうございました。




