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マッチョエルフ英雄譚~千年間ひたすら筋トレをして究極のマッチョボディーになったエルフの伝説(サーガ)~  作者: よしぞう


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最終話 肉体神マッチョーダ顕現

 エルフであるガルドは、百年たったぐらいでは外見はまったく変わらない。


「アニキッ!! アニキッ!!」


 革製のブーメランパンツ一丁の彼の周囲には、何百人ものマッチョたちが集まり、彼を呼んでいる。


 ここは大陸中央にある筋肉王国。その王都に建てられた、肉体神マッチョーダの神殿だった。


 もっとも、神殿とは名ばかりで、その実態はほとんど筋トレジムである。


 ずらりと並べられたトレーニングマシンの中央には、ムキムキの肉体神マッチョーダの巨大な像が立っていた。


 ガルドは定期的にこの神殿を訪れては、信者たちとともに汗を流していた。


「フンッ!!」


 ガルドがフロント・ラットスプレッドのポーズを決めると、マッチョたちが歓声を上げる。


「いい血管が出てるよ!!」


「ケツのキレがドラゴンブレス!!」


「上腕二頭筋ナイス! アイスノース山脈!!」


「背中に羽がついているよ!! 羽ばたいてるよ!!」


 中には、ガルドを拝んで涙を流しているマッチョまでいた。


 まあ、はっきり言って異様な光景である。


 そのとき、カッ!! と巨大なマッチョーダの神像が光り輝いた。


「な、なんだ?!」


 ガルドとマッチョたちが驚く。


 すると、その光が一か所に集まり、ゆっくりと降りてきた。


「ま、まさか……」


 やがて光は人の形を取り、実体化した。


「神の顕現だと……」


 それは、神々がこの世界を去り、天上界へ移り住んで以来、一度も起こったことのない奇跡だった。


 当然、長寿で知られるエルフたちですら、実際に見た者はいない。


 しかし、その神の奇跡が今、目の前で起ころうとしていた。


 光が消えると、そこにはパーフェクトボディーの男が立っていた。


 ゴールドのブーメランパンツ一丁。


 ここでは何の違和感もない姿だが、別の場所に顕現していたら、人々は悲鳴を上げて逃げ回り、「変態だ!!」と叫んで石を投げつけていたかもしれない。


「我が名は、肉体の神マッチョーダ」


 全身から神々しい波動が放たれる。


 その力に圧倒されたマッチョたちは、まるで操られているかのように、その場で跪いていった。


「何と恐れ多い……」


「ありがたや、ありがたや……」


 マッチョたちに拝まれながら、マッチョーダはガルドに向き合った。


「エルフの勇者、ガルド・リンドウェルよ」


「あなたが肉体神マッチョーダ様ですか?」


「いかにも。お前のおかげで、こうして顕現することができた。礼を言うぞ」


 そう言うと、マッチョーダは右手を差し出した。


 神に直接触れたことのある人間など、存在しない。


 高次元の存在である神に触れたら、どのような影響があるのか、想像もつかなかった。


 もしかしたら、ガルド自身も神になるかもしれない。


「…………」


 しかし、ガルドは無言で、差し出された右手を見つめていた。


「どうした、ガルド? 我の美しい肉体の虜になったか? 無理もない。何しろ、パァーフェクトボディーだからな」


 ああ、美しさは罪だ。


 マッチョーダは、そう言わんばかりに肩をすくめた。


 しかし、ガルドの口から出た言葉は、まったく予想外のものだった。


「鍛え方が足りない」


「へっ?」


「大胸筋の厚みが足りん」


「な、何を……」


「広背筋も、まだまだ伸びしろがある。そして、脚だ」


「へっ?」


「今日はレッグデーを休んだな。よくいるんだ。上半身ばかり鍛えて、それだけで満足する奴が」


 ちなみに、レッグデーとは脚を中心に鍛える日のことで、上半身と下半身を別の日に鍛える分割法、いわゆるスプリットトレーニングでよく使われる言葉である。


「い、いや、我は肉体の神なのだが……」


 想像していたものとはまったく違うガルドの反応に、マッチョーダは戸惑った。


「その程度の筋肉で、肉体神を名乗るとは、おこがましい」


「ええっ?!」


 ガシッ!


 ガルドがマッチョーダの肩をつかんだ。


 もはや、神に触れたらどうなるかなど、関係なかった。


「まずはスクワットだ」


「ま、待ってくれ」


「さあ、千回やるぞ」


「せ、千回?!」


 こうなると、ガルドを止められる者など誰もいない。


 有無を言わせず、二人はスクワットを始めた。


 正確には、一人と一柱である。


「ハァ、ハァ、ハァ……。ひ、久しぶりの顕現だから、結構きつい……」


 それでも、さすがは肉体神である。


 千回のスクワットを見事にやり遂げた。


「では、次は腕立て伏せだ」


「ええっ!!」


「では、千回いくぞ」


「ヒィイイイイ!!」


 腕立て伏せが終わると、次は懸垂千回。


 さらにサイドレイズ、ラットプルダウン、ベンチプレスと続いていった。


「も、もう無理……」


 それでも、さすがは肉体神である。


 すべてのトレーニングをやり遂げると、床の上に倒れ込んだ。


 その目の前には、同じトレーニングをこなしたというのに、まったくダメージを受けていないガルドが立っていた。


「さすがは肉体神マッチョーダ。このトレーニングをやり遂げた人間はいない」


 それはそうだろう。


「あ、当たり前だ! 我は肉体神であるぞ!」


「そうだな。では、あと二セットやろう」


「へっ?」


「筋トレは三セットが基本だ」


「ガルド、お前はどうなのだ?」


「もちろん、毎日三セット欠かさずやっている。あと、気分が乗ったら五セットすることもあるな」


 それを聞いた肉体神マッチョーダは、力なく微笑んだ。


 すると、その身体が光り始めた。


「……た、助けて神様。」


 そう言うと、マッチョーダは目を閉じた。


「ああっ! 肉体神様が?!」


 それまで黙って二人の筋トレを眺めていたマッチョたちが、驚きの声を上げる。


「光の粒子になって消えていく!」


「肉体神様ぁ~!!」


 まさに昇天である。


「ふむ、逃げたか。まあ、筋トレは無理やりするものではないからな」


 今さら、そんなことを言い出すガルド。


 こうして、ガルドの伝説に新たな一ページが加えられることになった。


 エルフの勇者ガルドは、神をも超越した、と。


挿絵(By みてみん)





【おまけ】 ホグホーク王国グランファルム領 領都グラン


 ガルドが旅立ってから、数年がたった。


 その間に、領都グランは大きく変わっていた。


 城壁の上に等間隔で並べられた肉体神マッチョーダの像が話題となり、マッチョたちの聖地として、大陸中から筋肉質な観光客が集まるようになったのだ。


 大柄な彼らが続々と歩いてくるため、街道は踏み固められ、さらに野盗なども寄りつかなくなった。


 別にマッチョだからといって、戦闘に慣れているわけでも、強いわけでもない。


 それなのに、なぜか襲いにくいらしい。


 彼らは城壁の上を巡りながら、肉体神の像に貢ぎ物を置いていく。


 これが領都にとって、馬鹿にならない臨時収入になっていた。


 神殿の神像に貢ぎ物をすれば、それは当然、すべて神殿のものとなる。


 しかし、城壁の上にある像は、ガルドが勝手に作って並べていったものだ。


 そのため、そこに置かれた貢ぎ物は、街の収入となるのである。


 こうしてグランファルム領は、エルフとの交易に加え、観光地としても栄えていった。





 そんなある日、領主の館に数人の男たちが集まっていた。


 彼らは、領主の娘エアリース・バルモントのお婿さん候補たちだった。


 娘が年頃になったため、領主バリアントは、近隣の貴族や大手商人たちの家から婿養子を迎えることに決めたのだった。


 領主の館の広間には椅子が並べられ、そこにエアリースがちょこんと座っていた。


「次の方、どうぞ」


 彼女がそう言うと、正面の扉が開き、お婿さん候補が一人ずつ入ってくる。


 そして、アピールタイムが始まり、それが終わると次の候補者と交代するという段取りだった。


「ミナス領領主の次男、アブジュウキ・ミナスです。どうぞお見知りおきを」


 若くて逞しい体格の男がそう言うと、ムキッとポージングを決めた。


「イデア商会の商会長の三男、リクシー・アマンデルでございます。おおっ、なんとお美しいお方だ!」


 長身で逞しい体格の男がそう言うと、フンッとポージングを決めた。


 同じような調子で、五人の若くて逞しい男たちが彼女に筋肉アピールをした。


 ふぅ……。


 五人目が退室すると、エアリースは無表情のまま溜息をついた。


 彼女の背後には侍女が控えており、時折、飲み物を差し出したりしている。


「ねえ……」


 エアリースが、侍女にかすれた声で話しかけた。


「はい、お嬢様」


「何で、皆、裸でパンツ一枚だけなの?」


「心中、お察しいたします」


「何で、皆、ムキムキなの?」


「本当に、心よりお察しいたします」


 エアリースは、部屋の隅に立っている父親をキッと睨みつけた。


「お父様、私、決めました」


「な、何をだ?」


「私は神官になります。もちろん、肉体神を祀っていない神殿の!! そこで生涯、万能神ナーデミーアーレに祈りを捧げ続けます。『どうか、この世界で、マッチョだけに感染する疫病が大流行しますように』と!!」


「ま、待ちなさい、エアリース! 落ち着いてくれ!」


「もう限界です! 魔王に支配されるのも、筋肉に支配されるのも、私にとってはどちらも同じです!!」


「ま、まだ婿候補は残っているからな。な、怒るのは、その人に会ってからにしなさい」


「嫌です! どうせマッチョで、ポーズをとって、ニカッと笑うんでしょ! もう耐えられません!!」


「お、落ち着きなさい。さ、さあ、次の人! 入って、入って、早く!!」


 バリアントがそう言うと、扉が開き、最後の婿候補が入室してきた。


 その姿を見た瞬間、顔を真っ赤にして足をバタバタと暴れさせていたエアリースが、ピタリと動きを止めた。


 身長は小柄で、女性であるエアリースより少し高い程度。


 体つきは細く、顔には大きめの眼鏡をかけていた。


「あ、あの……。初めまして。僕は……」


「はい、合格!!」


「ええっ?!!」


「さあ、婚約しましょう! いいえ、今すぐ結婚してもいいわ!!」


「ま、待ちなさい! せめて、彼の自己紹介を最後まで聞いてからにしなさい!」


 慌ててバリアントがそう言うが、エアリースは聞く耳を持たなかった。


「この機を逃したら、もう二度とマッチョたちから逃れることはできないわ!!」


 ちなみに、この小柄で痩せた男性は、王都の大学院に通う大学院生だった。


 親は王都で商家を営んでいたが、彼は四男だったため、店を継ぐことはできなかった。


 そんな折、偶然耳にしたエアリースの婿探しに、ダメ元で名乗りを上げたのである。


「あ、あの……。僕が言うのも何ですが、本当にいいんですか?」


「当たり前です!!」


 それから半年後、二人は本当に結婚し、エアリースは領主の地位を継ぐことになった。


 そして、その伴侶となった彼は、グランファルム領の経済をさらに発展させていくのだった。


 ちなみに、エアリース・バルモントは、彼と結婚するにあたって、一つだけ条件を出していた。


「いいですか? あなたが何をしても、私は怒りはしますが、最終的には許します。しかし、筋トレだけは絶対に許しません。少しでも筋トレをしたら、即離婚です」


 そう言って、神殿で誓約書まで書かせたのだった。

マッチョエルフ英雄譚は最終話となります。

つたない文書にお付き合いいただきありがとうございました。

他にもいろいろ投稿していますので、そちらも目を通していただけるととてもうれしいです。

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