(17)うさぎとの再会
やっとうさぎさんとの再会です。
17
海を見た次の日。シェスタが城の裏庭をアステリアと歩いていると、黒い影がぴょんと跳ぶのが見えた。
「うさぎさん?」
シェスタの声が聞こえたのか、黒いうさぎが前足を上げて耳をピンと上げた。神殿にいたうさぎだ。ひょっとして自分と一緒に魔王城に連れてこられていたのだろうか。
「おいで……。」
シェスタが手を広げると、うさぎはシェスタを覚えていたのか躊躇う様子もなくとびついてきた。ぎゅっと抱きしめ、黒いすべすべとした毛を撫でて堪能する。その手触りは前と変わらない。嬉しくてシェスタはちょっぴり涙が出た。その様子をうさぎは目を丸くして見つめている。
「お嬢様。そのうさぎは……?」
いぶかしげにアステリアが尋ねてくる。
「神殿にいたの。大好きな、お友達。飼っても……いい?」
シェスタの部屋は広いから、うさぎを飼っても問題はない。ただ、部屋が汚れたらアステリアが困るかもしれない。そう思ったシェスタが上目遣いでアステリアにお願いすると、アステリアはやれやれといったようにため息をついた。
「まあ、このうさぎさんは、普通のうさぎではないようですからね。」
アステリアの言葉を聞いたのかうさぎの耳がぴくりと動いた。威嚇するようにアステリアに向けて口を開ける。
「ダメだとは言ってないじゃないですか。」
「いいの?ありがとう。」
アステリアの気持ちが変わらないうちにと、シェスタは自分の部屋へとうさぎを連れて戻った。
「何を、用意したら、いいかなあ。」
うさぎを抱いたままシェスタはオロオロとする。
「そうですねえ。座り心地の良いクッションを床に置きましょうか。食べ物はどうします?」
アステリアはソファの上にあったクッションから一つ選ぶと、床に置いた。そこにシェスタはうさぎを下ろす。うさぎはクッションの上に大人しく座り込んだ。
「この子、生の野菜が好き。切れ端しか、上げられ、なかったけど。」
「生の野菜ですね。調理場に話して用意させます。ちょっと離れてもようございますか?」
「大丈夫。」
じっとうさぎを見つめたままのシェスタに苦笑しながら、アステリアは部屋を出ていった。
「うさぎさん……。良かった。」
魔王城の皆はシェスタに優しくしてくれる。だから毎日楽しかったのだけど、ウサギに会って、どこかホッとした自分がいた。違う場所に来て、シェスタは知らない間に緊張していたのだ。嫌われたらまた神殿に戻されてしまうかもしれないから。
黒い毛を撫でると、うさぎはぴょんとシェスタの膝に乗ってきた。しばらく会ってなかったけれど、特に怪我や汚れはないようだ。でも、部屋で飼うのであれば、一度洗ってあげた方がいいかもしれない。
「後で、洗って…あげるね。」
シェスタの言葉に一瞬ウサギがビクッとしたが、そのままシェスタが撫で続けると、うさぎは大人しく、膝の上で体の力を抜いてぐったりとしている。
「名前……つけなきゃ。」
飼うのであればいつまでも「うさぎさん」ではいけないだろう。シェスタはじっとうさぎを見つけた。黒い毛に黒い目。「くろちゃん」は、ちょっと簡単すぎるだろうか。そういえば、男の子か女の子かどっちなんだろう。
シェスタが前足を持ち上げて確認しようとすると、うさぎは暴れ出し、逃げ出した。そのままソファの後ろに隠れてしまう。
「失礼します。あら、どうされました?」
ソファの下を覗き込むようにしていたシェスタにアステリアが声をかけると、シェスタは慌てて立ち上がった。
「うさぎさん、逃げたから……。」
「あまり構いすぎると嫌がられてしまうかもしれませんね。しばらく
そっとしておいてあげましょう。」
「名前……つけたいの。」
シェスタの言葉に、アステリアは大きく頷いた。
「いい考えでございますね。何か思いつきましたか?」
「男の子?女の子?」
その一言で、アステリアはなぜウサギが逃げたのか分かったようだった。
「あのうさぎさんは、男の子ですよ。先ほどチラリと確認しましたからね。」
さすがはアステリアだ。シェスタは素直に感心した。
「男の子……黒……。」
シェスタが考え込む。
「そうですねえ。黒といえば、魔王様の色ですから、お名前を借りてはいかがでしょうかね。」
アステリアの提案にシェスタは瞬きをする。いい考えだと思うのだが、それこそ魔王様に怒られはしないだろうか。
「魔王様……怒らない?」
「怒りはしないと思いますよ。ねえ?」
アステリアはなぜかうさぎに尋ねている。うさぎは聞こえないふりをしているのか、ソファの向こうに寝そべったままだ。
魔王様の名前は確かレギウス様だった。レギー?ちょっと言いにくそうだ。
「……ギー。ギーにする。」
うさぎの耳がぴくっと動いた。
「ギーでいい?」
うさぎはそのまま寝そべっている。
「嫌がっていないようですから、いいと思いますよ。」
「良かった。アステ。お湯を、くれる?」
シェスタのお願いにアステリアは首を捻る。
「ギーの飲み物はお水で大丈夫だと思いますよ。」
「違う。体を…洗ってあげるの。」
「……それは私がやりますから、大丈夫ですよ。なんなら今から洗ってまいりましょう。申し訳ありませんが、お嬢様は本を読んでお待ちくださいね。」
そう言うとアステリアはギーの方へ行き、有無を言わさず抱き上げた。その迫力に押されたのか、ギーも大人しくしている。
「ごめんなさい。」
仕事を増やしてしまった。そう思って思わず謝ってしまうシェスタに、アステリアはにっと笑った。
「お気になさらないでくださいよ、お嬢様。お嬢様にそんな真似をさせるわけにはいきませんからね。」
部屋を出たアステリアがうさぎを離すと、うさぎは魔王の姿に戻った。
「魔王様。お嬢様の部屋に居座るつもりですね。何をされるおつもりなんです?」
シェスタに何かしようものなら、自分が黙っていないと言わんばかりの様子に、思わずレギウスは後ずさった。
「シェスタの護衛だ。ニルダから話を聞いたからな。」
シェスタが言ったことが本当になってしまうのであれば、どこかへ行きたいと口に出してしまった途端、城を出てしまう可能性がある。それを追いかけられるのはレギウスだけだ。
「そうですか。ところで、洗うのはどうしましょうか。」
腕まくりをして迫ってくるアステリアが恐ろしい。
「……自分でできる!」
そう言ってレギウスは自分の部屋へと慌てて戻った。
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